したり映画帖コミュの２０１４年４月下半期①

４月１６日（水）
『ボーン・コレクター』９９
故トニー・スコットのように「見る者」＝「見られる者」という主題を描くのが大好きなニュージーランド出身のフィリップ・ノイス監督が、まさにテーマに見合った原作をトニーと奪い合ったというのは、こちらの妄想で、究極の安楽椅子探偵ものを破綻なく描いてアンジェリーナ・ジョリーの初主演作として花を添えたのが本作である。
Ｗ主演として演技巧者のデンゼル・ワシントンが寝たきりの安楽椅子探偵を上半身のみで演じる。
映画は原作にほぼ忠実に犠牲者の骨の一部を抉り取るという犯人の猟奇性が、『セヴン』『羊たちの沈黙』以降の作品としてのウリとなる。
先述の主題を変換すれば「操作する者」＝「操作される者」となってフィリップ・ノイスの作品にも導入される。
『羊たちの沈黙』のＡ・ホプキンスとＪ・フォスターの関係性がそうであるように本作でも、アレンジ・ヴァージョンとして、自由を奪われた寝たきりのベテラン元刑事とその右腕となって自在に現場で捜査する女新人刑事という探偵役を設定する。
なので、レクター博士のような意地悪で残酷な捜査指示が出る訳でもなく、至って正しく真っ当な倫理を外さない想定内の捜査となる事が、既存作品に亀裂を生じさせられず、『羊たち―』越えを達成できずに収まりのいい作品に終始してしまった。
監督ジョナサン・デミというより原作者トマス・ハリスの資質だと思える、『羊たち―』のアメリカの病を抉り取って見せるというジャーナリスティックな感覚が、本作ではただのエンターテイメントとしてのみ消費された事が本作の陳腐さを露見させたのだろう。（６５点）

４月１８日（土）
『続・荒野の七人』
監督が変わるとこうまで違うか、と唸らされる。
あの『マイホーム・コマンドー』のベテラン、バート・ケネディの初期の頃の監督作品。
揃えた役者は前作『荒野の七人』よりスケール・ダウンするも、その分演出が際立つ。
冴え渡る。
前作の凡庸ぶりがひと際目立つ。
ユル・ブリナーのみ前作と同じ設定で、仲間を牢獄の囚人から選んでゆく。
笠原和夫の映画化されなかった集団時代劇と同じ発想だ！
オリジナル『七人の侍』の好きになれない点の一つに、そのお利巧ぶりであり、三船演じる農民出身の千代丸に観客を同化させながら道化役として終わらせる黒澤ら脚本陣の選民意識だったのだが、本作はその陥穽からすでに逃れている。
本作の七人は、アウトローでいて存在が常識の外にいるのだ。『七人の侍』のように心情の基盤を義憤や武士道に置いていないところが爽やかだ。
敵役のボスに『ワイルドバンチ』のエミリオ・フェルナンデス。
凶暴さを、息子を亡くした事を遠因として悪人ながら陰翳をつける。
今ならアルベルト・モリーナなどが適役か。
フェルナンド・レイが出演して神父役となっているが、データでは牧師役と表記されていて、日本語訳の間違いだと思われる。
ほぼ１００パーセントがカソリックのメキシコでプロテスタントを意味する牧師はありえない。
ウォーレン・オーツの笑顔で見せる白い歯並びが印象的。
西部劇では珍しい雨のシーンを用意して平板になりがちな舞台の変化を導入する。
更に、ただの平原地帯だった前作の村の描写を、小高い丘に囲まれた盆地に設定して、演出の工夫を随所に見せる。
ブリナーが「来るとも、間違いない」と台詞を吐いた途端、場面が変わってすぐ敵の襲撃が始まる。
この経済的話法の運びぶり。
七人のうちの一人が銃撃の座ったままの姿勢で死んでいるシーンは感動。
ジョニー・トーの『ヒーロー・ネヴァー・ダイ』みたいだ。
最後は、ユル・ブリナーともう一人のみ生き残るというジャンル映画として前作の定型を押さえながらも、細部の工夫や舞台の変化で繊細さを見せてゆく。
allcinemaの本作への評価の低さに大異論。
本当にちゃんと観ているのか？
紛れもない傑作だ！（９５点）

４月１９日（日）
『３人のアンヌ』１２
我らがホン・サンス作品。
中毒症状発症中。
個人的に、現代世界最高峰の監督と認識する。
今回は珍しく女性が主人公で、フランスの国際的女優イザベル・ユペールを主役に迎える。
何の変哲もない紙にボールペンの手書きで書かれたタイトルで、国際女優が主演でもまったく肩肘張らない姿勢で作品に影響はない。
気のいいライフガードのあんちゃんに『次の日は他人』に主演し『ハハハ』の鬱病詩人役のユ・ジュンサンが好演し笑いを誘う。
一人三役で年増ババアのユペールが魅力を振りまく。
チョコマカと小走りに急ぐ姿はババアとは思えぬ少女的な可憐さ。
焼酎の小瓶をラッパ飲みするババアも可愛すぎ。
ババアが年齢を超越してゆく。
コテージ管理人の若い娘役に『教授と私、その映画』のヒロイン、妊婦役に『ハハハ』の寺院案内をする女、ユペールの元秘書であり坊さんの愛人女性にもオバさん役でよくホン・サンス作品で見かける女優だ。
常連の揃い踏みとなり小津安二郎のような世界となる。
何も説明しないというか、過剰な民主主義的倫理観を忌避するホン・サンス的世界にあって、同じ役者が似たような物語を演じると、作品同士が交錯して各々の作品が際立つ事がなくなる。
目立たなくなる。各作品の個性がどんどん薄れてゆく。
それすらホン・サンスが理想とする世界のように思えるのは、相当に中毒症状が悪化しているのだろうか。
その中毒患者には、妄想シーン、もしくは回想シーンらしき場面での導入＝帰還の出し入れのぶっきら棒さも魅力に見えてきてならないのだ。（９８点）

４月２０日（月）
『ロングキス・グッドナイト』９６
その制作時の時代背景もあるが、ジャンルとしてのスパイものを先行するテクスト――前景――があるとして無邪気に信じている作りに、フィンランド出身監督の田舎者ぶりの泥臭さを微笑ましさで見続けようとするのは、現代において有効と言えるのか、それとも不毛でしかないのか。
『ボーン―』シリーズや『００７』の新シリーズのように現代では、本作のような作りは流行らない。
無邪気に無知の振りを装う事が禁じられている時代なのである。
現代を生きる人間にはリアリティという撒餌が必要なのだ。
「西部劇」「ミュージカル」「スパイもの」といったフィクショナルなジャンルは崩壊の一途を辿る。
シネフィルや評論家は受け身でしかありえないのか？（５７点）

４月２１日（火）
『スターシップ・トゥルーパーズ２』
名作の誉れ高い「１」とは比較にならない程の低予算で制作されたであろう本作は、規模の縮小にあってアイディアや工夫でもって、予想をうっちゃって、思ってもみない拾い物としてこちらの記憶に刻印を残す。
その低予算に挑む姿は、『ゴースト・オブ・マーズ』のように美く勇ましい。
傑作と声を大にするような出来映えでないのが、何とも奥床しい。
ＣＧは使用されてはいるが、予算による調整で夜間シーンが本作を支配する。
更に、室内劇とするところが泣ける。
大掛かりなＣＧによる世界観の成立は無理な注文なのだから、そこはシナリオの細工でもって物語を成立させる。
讃辞としてＢ級映画なのである。
女軍曹が活躍する段に至っては、焼き殺される女兵士がしゃれこうべ状態になっても叫び続けるのはご愛嬌。
揚げ足取るのは野暮ってもんだ。
中盤で割り込んでくる『エイリアン』や『遊星からの物体Ｘ』のような寄生生物によるグロテスクな恐怖も描くが、途中で飽きたように本来の戦争映画の姿に戻ってゆく。
ラストはオマケのように前作のブラックな体面をなぞって終幕する。（６９点）

『パルプ・フィクション』９４
流暢に英語が判る人なら作品の面白さは数倍増なんだろうな。
『レザボア・ドッグス』でデビュー以来待望されたタランティーノの２作目。
英語を母国語とする作品の為、哀しい哉、台詞のニュアンスの面白さにこちらは対応できない。
判るのは、当時流行の三部構成の物語を編集によって、目新しくないものもそれらしく見せる手腕は、芸として磨きがかかってトラヴォルタやパム・グリアーといった往年のスターを上手くリサイクルするその手練手管にもある種の説得力を持つ。
ある時代からタランティーノは変化してきたように思う。
多分、『ジャッキー・ブラウン』あたりからだ。
それまでは映画史を頼りに、発想を得ていたと感じる。
『ロングキス・グッドナイト』でも触れた「先行するテクスト」を意識した作りが特徴的だったのだが、現在は、今のところ新作の『ジャンゴ／繋がれざる者』等にはその特徴が薄れているのである。
タランティーノも成長したのかな。（７５点）

４月２２日（火）
『新網走番外地　大森林の決斗』７０
ダンプ運転手役演じる健さんが、捕まって事件の経緯を口上のように説明するコミカルな出だしからしてイイ。
初期の降旗康男は冴え渡っている。
裁判所内で暴れるシーンは下らなさ満載で（山城新吾まで出ている！）、今なら許されないだろうと、こちらが気を遣ってしまうぐらいだ。
こうゆう粗っぽい作品で健さんも鍛えられたんだなあ。
刑務所入りたての健さんに「まだ娑婆の匂いがする」と玉川良一が香しそうに鼻を鳴らす。
買った喧嘩には「ウェィトが違うじゃないか」とイチャモンを吹っ掛けるお茶目な健さんに、大衆がファンになるのも頷ける。
網走ビールと呼んでリンチの材料として小便を飲ませる場面は勉強になった。
必ずオカマがいるのは、ただの賑やかしだけではなく、塀の向こうのリアルな何かを描いているように思う。
囚人移送するトラックに付けてパンした先に花一輪、玉川良一の送別の浪曲に乗せて、脇にコメディ俳優を配し、スター役者を際立たせるためのスタジオシステム時代の贅沢な技法の素晴らしさ、ノスタルジー。
ライヴァルとなる宍戸錠との車のドア越しの切り返し、マサカリを手に対峙する姿は日本の風景とは思えない。
健さんの観客層、ガテン系職人たちを讃辞し、高度経済成長の名残を記録する。袖を千切って手当する星由里子がかわいすぎ。
北海道の大平原に健さんのイメージは、山田洋次に引き継がれる。ラストは脱走で討ち入り、リリカルに線路とプラットホームが詩的リアリズムで描かれる。
あれは霧ではなく、蒸気なんだよな。
殺し方は、マカロニウエスタンの影響からか結構血塗れなのはご愛嬌。（７０点）

『エネミー・オブＵＳＡ』０９
グレッグ・マルクス監督作品。暗殺されそうな気配を理屈もなく察知する女スパイの離れ業に唖然。
嘘でも何で予知したか描かないとね。（３４点）

４月２４日（木）
『ファイナル・デッドコースター』０６
新機軸を生み出したパニック＋オカルトのピタゴラスイッチアクションホラー。
ジェームズ・ウォン監督がふたたびメガフォンを取った。
先ずは大事故が起こって生き残った人々が原因不明の奇怪な事故に巻き込まれて一人一人死んでゆくというのが、いつもの大まかなパターン。
子供の頃に誰もが一度は想像した事のあるジェットコースター脱線事故が今回のメイン。
日焼けサロンにて横並びにカプセルに入っていたふたりが焼死して葬儀の棺も横並びというのはやりすぎのギャグか。オッパイポロリ部隊で女子高校生のはずなのに一人は完全豊胸なのもご愛嬌か。（５６点）