したり映画帖コミュの２０１４年３月下半期②

３月２５日（火）
『クローズＺＥＲＯ』０７
伝説のプロデューサー、山本又一郎が名を連ねる。
小栗旬の所属事務所社長として企画にも首を突っこんでいると思われる。
監督は三池崇。
田舎の中坊男子が大喜びするようなヤンキーネタ。
これは三池の得意分野。
殴る蹴るの喧嘩シーンはさすがと思わせる出来栄え。
喫煙の演出が不可欠となるので主要役者は全員成人男性。
リアル高校生はひとりもいない。
任侠もののように学生服をコスチューム・プレイとして活用。
ストーリーも切った張ったで、中坊たちの血を滾らせる。
ダサい演歌のような情緒的ロックが鳴り響くライヴハウスを拠点にして悪ぶる主人公は、実は地域を取り仕切る暴力団の組長の息子。
その父親もなしえなかった地域高校の番を張るというのが主人公の夢。
それを阻むもうひとりの雄が貧民出身という魅力的な設定。
恐らく監督は、やべきょうすけ演じる傍流の主人公、冴えないチンピラに感情移入している。
それが主人公のヤンキーエリートぶりとバランスを保つ。
個人的には、貧民出身側に花を持たせたいと思う。
ヤンキーエリートが勝ち続ける構成は「ドラゴンボール」と同じじゃないか。（４４点）

３月２６日（水）
『魔法使いの弟子』１０
フランス代表のサッカー選手リベリーかとも見間違える禿馬ニコラス・ケイジが、スーパーマン役のオファーを受けて衣装を試着したが、当時監督として予定されていたティム・バートンがその姿を見て大笑いした事が気に入らず、スーパーマン役を蹴って企画は頓挫したというエピソード有名すぎて今では伝説として語られる。
そのケイジが魔法使いとして本作では活躍する。
年上の男から人生を学ぶビルグンドゥスもの。
監督がジョン・タートルトープと聞いて作品の出来に関して大まかな予想が外れる事はないと確信できる。
その予想とは、大きな破局はなく、破綻もなく、よって、転調・変調もなく、面白くもないという保守的な塊という事だ。
という事で可でもなく不可に限りなく近い作品が完成した。
主人公の青年がプラズマ発生装置を作動させるシーンは、後半の魔法使いたちが操る雷光とイメージが重なる点は良かった。
以上。（３７点）

３月２７日（木）
『プラチナデータ』１２
今や飛ぶ鳥を落とす勢いの大友啓史監督作品。
いけすかない青年としてニノが登場するが、一人二役の二重人格として優しいニノも登場し萎えさせる。
劇伴のセンスは相当酷く、アクションシーンにフラメンコ調の音楽で意匠を見せる。
ジャニーズ「嵐」の秘蔵っ子らしくかなり多忙なスケジュールのようでヘルメットを被って、スタントがニノ役を演じて水増しして誤魔化す。
逃走中、追跡者豊川悦司刑事と瞬間目が合うシーンが一番よかった。
ニノの二重人格演技は冴えない。
オマエはアタルか。
もう一人の人格は精薄演技なのだ。
全体的にＴＶドラマのような印象。
杏の殺害シーンとシャッター越しの会話は映画的に演出される。（４１点）

３月２８日（金）
『宇宙兄弟』１２
ＮＡＳＡやＪＡＸＡの全面協力の元、センスのいいオープニング。
相当バジェットが掛かっている。
男兄弟の夢を宇宙飛行士に設定する素敵さは原作の持ち味だ。
ＣＧをほとんど使用していないと思われる月面シーンは大掛かりなセット撮影で目を瞠る。
監督は森義隆というよく知らないドキュメンタリー畑の人らしい。
だからなのか、冒頭のオープニングも含めた記録映像の扱いに冴えを見せている。
中盤以降のＪＡＸＡの試験シーンにも調査や取材の丹念さが活きる。
終盤の月面で危機となった弟を思って上空を見あげるシーンに『スペース・カウボーイ』が重なって感動してしまった。
企画やテーマにも骨があって、予算を注いだ大作だったはずなのに、これがウケなかったのは昨今の日本の寂しい現状なのか。（６８点）

３月２９日（土）
『パープル・ハート』４４
日本でも当時著名だったロシア系アメリカ人のアカデミー賞監督ルイス・マイルストンの作品であるのに未公開なのは、出来栄えが悪いからではなく、単純に反日国策映画だったからだろう。
ようやく陽の目に会えたのはパブリック・ドメインの成せる業だ。
感謝。
スタンダード、モノクロ作品。
冒頭からサイレント映画の演出、ドイツ表現主義のような光と影の演出を巧みに操り、戦争の異常状況の不安や不穏を描く。
年季の入った手際だ。
日本帝国軍に囚われた米国軍人が貫き通した誇りを描いた法廷もの。
ときおり、視点は外出するもほとんどは収監所の檻の中か、裁判所で展開する密室劇。
タイトルの『パープルハート』とは、栄誉勲章といった意味。
劇伴もほとんどなく密室劇の緊張感を漲らせる。
流麗なキャメラワークと音響による悲鳴等の間接的な拷問描写は当時のアメリカ映画のその表現レヴェルの高さを思い知らされる。
当時日本帝国民がアメリカ映画をきちんと観ていたら、交戦する事なぞ考えにも及ばなかっただろう。但し、戦時下当時日系アメリカ人もスパイ容疑で収容所送りの政策を執ったアメリカ本国が、本作の日本人役を全員中国人や朝鮮人たちに演じさせている汚点はアメリカ史上の恥部として刻印される。
だから役名「山吉」を「ヤマギチ」とするのは細部ながら日本人としては納得いかない。
いくら、勝利の合唱やダンスで兵士たちの勇敢さを鼓舞して見せても拭えない暗部はフィルムに存在する。
フィルムが記録するのだ。（７２点）

３月３０日（日）
『ラブリー・ボーン』
スタッフ・ロールのクレジットの流れに、普段なら鑑賞後の感慨を噛みしめたりするのだが、それが終わってもまだスタッフ・ロールが続いていた。
それぐらいスタッフが多い、ヴィジュアル・エフェクト関係者がゴマンと携わっているのだ。
確かに作品全体は『大霊界』のように死後の世界を、監督ピーター・ジャクソン得意のイマジネーションとやらを駆使して描いてみせる。
その実現の為にこれ程のＶＦＸスタッフが必要なのだ。
でも、映画が面白くなるのは、犯人探しとなる人間ドラマの部分である。
もちろん何某かの視点は劇作では必要となるが、本作のように死後の世界から犠牲者となった少女の視点という新機軸を視覚的に描くという意図は現代の映画としては仕方のない事だけれど、その視覚の派手さが死者の感情を相殺してしまう。
遺された被害者家族の心情の醸成も阻んでしまうように思う。
映画というメディアは本質的に、見世物小屋的要素を含有してしまうものだから視覚優位に変容してゆく。
それに抵抗するかしないかが、シネフィルと呼ばれるオタク人種の分水嶺となってしまうのだ。
クレジットに感慨耽っている場合じゃない。（５５点）

３月３１日（月）
『ブラックスワン』
前作『レスラー』同様、スーパー１６で撮影されたらしいがクォリティに遜色はない。
対象がプロレスからバレエに変更されただけだ。
劇作の構成はパターン化されている。
ストーリーは至ってシンプルである。
手持ちキャメラで対象に迫るという方式は万能性を秘めているが、容易に手を出すものではない。
対象さえ変えればいくらでも違う作品が、往年を過ぎたしがないレスラーのささくれた生活を描こうが、デビュー上演を控えたバレエダンサーの不安や焦燥を描こうが、可能になってしまう。
それは監督本人にとって今後の課題となるので、ここでは先例としてジョン・カサヴェテスという大監督がいたという事だけ紹介するに留める。（６８点）

『センター・オブ・ジ・アース』
ファミリー向け３Ｄ作品。
『ザスーラ』や『ハンガーゲーム』の少年が出演している。
先行する作品としてジュール・ヴェルヌの「地底探検」を下敷きに、ドラマ内で原作が実存する点が面白い。
ファミリー向けであるにも拘わらず、濡れ鼠となった女優が薄手のシャツからしっかりビーチクを浮き立たせているその女優魂に好感を覚える。
ラストの地底からの脱出方法も一度噴火口にボートが引かかって宙吊りになるところが良かった。（４０点）