したり映画帖コミュの２０１４年１月下半期②

１月２４日（金）
『少年とイルカ』１１
チャールズ・マーティン・スミス監督。
冒頭からＣＧのイルカが登場し興醒めする。
主人公の少年が何となく登場する点もかなりこの作品への興味を減退させてしまう。
物語は義足ならぬ疑似尾びれをつけたイルカの健気な姿を、実話を元に描くというもの。なのにラストもイルカがＣＧで白けさせる。
実物を使ったシーンも多用されているのにラストのダイナミックな動きをＣＧで再現させてしまうというつまらなさ。
人間ドラマの部分も描き足りない。
主人公の少年と仲良しになる義務教育を受けていない少女なぞ描きようによってはかなり面白くなったろうに。ちなみに監督は『アメリカン・グラフティ』や『スターマン』に出ていた役者。（３０点）

『気まぐれな唇』０２
ホン・サンス作品。
以前観たときはあまり印象に残らなかったが、改めて今見直して傑作だとようやく理解できた。
感動した。
筆者自身の成長か。１６ミリで撮っていると思っていたらメイキングを観ると３５ミリだった。
恐らく照明を相当焚いていないと思われる。
徹底した自然主義なのだ。
飾り気ないストーリーは、きっとロメールやウッディ・アレン等と比較されそうだが、本質としてまったく違う。
強いて言うならロメールスタイルのフィリップ・ガレルか。
同じテーマやスタイルを繰り返す点がガレルなのである。
ただガレルと違って楽天性に溢れている。
“たかが映画、されど映画”というヒッチコックの名言があるが、本作はまさに“たかが映画”感に溢れた素晴らしい映画なのである。
アメリカ留学していた癖に全然その影響が見られない点も面白い。
徹底してヨーロピアンだ。
クローズ・アップがほとんどない点もハリウッドから遠く離れている。
確信犯だ。
だらだらとどうでもいいエピソードが続くが、前半と後半でふたりの女性が登場する。
前半の女性は、どうやら先輩が前から目をつけている女性のようである。それを寝取ってしまう。
後半の女性は、電車内で偶然知り合った人妻である。
それも寝取る。
本人は決して悪気はなく常に本気のようである。
だから、勝手に嫉妬して家の前の小高い丘で見張ったりする。
恋愛讃歌なのだ。
そこがウッディ・アレンに例えられる所以なのだろう。
こういったノンシャランな映画はラストが難しい。
終り方やオチが上手く収まりにくい。
でも、ホン・サンスは易々とこの難題を乗り越える。
立ち寄った中年オバサンの占い結果が、そのオチとなってあっさり終幕する。
この監督は曲者である。“されど映画”をよく理解している。
気安く近づかないようにと老婆心で忠告しておく。（１００点）

『キャビン』１１
クリシェやルーティンを利用した、ハズシやパロディに溢れた作品。
予想のつかない展開とラスト。
でも、それが逆にホラー等のジャンル映画に馴染みのある者にはうざったく感じる。
「だから、どうした」と思ってしまう。
本作のようなサブカル思考に本気でつきあう気は持たない。
こういうメタ映画は『スクリーム』や『パラサイト』でもう充分。
『最終絶叫計画』を見ている方が健康的である。（５０点）

『次の朝は他人』１１
ホン・サンス。
モノクロ作品。
カラー撮影と違って、雪が降るような光の反射の激しい雪景色や天候をあれだけ美しくフィルムに収められるのは凄い。
モノクロの撮影が素晴らしい。
これはやはり、素人の自主映画ではなくて立派なプロの仕事だ。
携帯電話で通話していた主人公に天候が変化して雪が降りかかる。
最高に美しい瞬間だ。
通りの向こうにも雪が降っている。
これは、ホン・サンスの撮影スタイルがもたらす僥倖なのだ。
アジア人のこちらですら見間違えてしまう似たような登場人物たちを、ホン・サンスはハリウッド流の的確な描き分けをよしとせず、いつも必ずニーショット等の全身と風景をこみで描く事を好む。
それは時間と空間を同時に提示しようとする意志の表明だ。このスタイルにこだわるホン・サンスは、ノンシャランな題材を好んで描いているが、実は脱ハリウッド、反ハリウッドな気骨のある作家なのだ。
ところで、韓国の人もよくお辞儀する。
携帯電話の相手に向かってもお辞儀して、日本人とそっくりだ。（８５点）

１月２５日（土）
『よく知りもしないくせに』０９
ホン・サンスは中毒になる。そういった意味でロメールやウッディ・アレンに似ているのかも知れない。いつも登場人物や物語に変化の工夫のあるロメールたちに較べると、われらがホン・サンスはぶっきらぼうだ。
あまりにもノンシャランだ。
主人公は大概映画監督や作家等、ホン・サンス自身に近い人物を扱う。タイトルロールもふざけている。
手書きがあったり、ＰＣで作れる簡易なテロップを平気で使う。
とにかく立派に見えたくないようなのだ。
本作はヴィデオ撮影のようでありながら構図は的確。
やはりクローズアップは出てこない。
素人臭いズームが頻出する。
人物や物語の情緒に寄り添うズームでないところが奇妙でホン・サンスらしい。
洗練や合理性を追求するハリウッド流に何から何まで背を向けている。
そこがクールだ。
前半の映画祭事務局の女性と後半の先輩監督の新妻の区別がつかなかった。
こちらの認識能力不足なのだろうが、それすらどうでもいいとノンシャランに構えている。
そのノーガード戦法にこちらはなす術がない。
友人が急死したと思いこんで、世話するつもりで泣きながら友人の妻を抱くところは面白すぎ。（７５点）

１月２８日（火）
『鬼火』６３
ルイ・マル作品。
梗概は、自殺を志望する青年の願望成就するまでの一日の物語。
主人公の美青年が登場以来、終始陰鬱で暗澹たる表情なのがいい。
神経質に常に張りつめた顔つきなのだ。
どうやら鬱病の設定らしい。
当時流行していたヌーヴォー・ロマンのように空虚な感情が漲る。
エリック・サティの音楽も当世好みだ。
音響が変調するのは、主人公の内的・心象の表現か。
この監督は常に時代の流行を嗅ぎ付ける。
そして、そこそこ上手くこなす。器用なのだ。
器用な分すべてが軽薄に見えてくる。
流行ものに飛びつく浅ましさを感じる。
評価されてなければ擁護しようと考えるが、結構賞も獲得して妻もパツキンのアメリカ女なんかを侍らせている。
どこまでも上手く行き過ぎ。
そんな奴に素敵な映画を撮らせてなるものか。
ただの僻みばかりの愚痴となる。（７０点）

『教授とわたし、そして映画』１０
ホン・サンス作品。
相も変わらずクロース・アップなし。
ヴィデオ撮影。
タイトルの手書き。
ようやくぎこちないズームが観客の心情に沿うように使用される。
会話するふたりの人物を捉える場合は必ず横位置、ないし斜めで切り替えしなし。
映画作家が主人公。
だが、ひどく面白い。
おかしい。
今回は、構成が複雑に工夫されている。
まず女性のナレーションが設定されている。
主人公らしき若い映画作家を中心に物語は展開されていくが、どうやら主人公の相手の女性も映画を撮ろうとしているらしい。
終盤から知らぬ間にバトンはその女性へと引き継がれる。
私小説スタイルと思いこんでいたこちらを裏切ってゆく。
どおりで、主人公がフレームから外れた後も、空舞台、もしくは主人公の目が届かない場面となっても話が続く。
決して主観キャメラを使わない理由が、ここで結実する。
あくまで客観なのだ。
ただ視点が主人公に寄り添っているだけなのだと理解できる。
ノーガード戦法と思わせつつ、恐ろしく手つきが知的な映画なのだ。
“されど映画”なのである。（９５点）

１月２９日（水）
『さよなら子供たち』８７
近代ヨーロッパが常に背負い続ける翳、ナチスのユダヤ人迫害。
映画的にはさして目新しいテーマではないが、思い出したようにルイ・マルは本作を果敢に挑む。
当時最高のキャメラマンのひとり、レナート・ベルタが透明感ある瑞々しい少年たちの姿を映しだす。
こういったテーマや作風は嫌いになれないが、どうしてもイチャモンつけたくなる優等生的な姿勢をルイ・マルは内包している。
ラストショットも気恥ずかしいくらいに見事である。
テーマやそれを導くエピソード配分も申し分ないはずであるのだが。
敢えて結論するなら、ルイ・マルには狂気が足りないのだと思う。（７０点）

１月３０日（木）
『パニッシャー／ウォー・ゾーン』０８
レクシー・アレキサンダー監督。
友人の薦めで観たのだが、全然乗れなかった。
あ、間違えた。
友人が薦めたのは、もう一方の『パニッシャー』だった。
本作は、本作でアクション満載。
冷酷なほど残忍に敵をバッタバッタと倒してゆく。
その殺しの即物性は面白い。
けれど、情が通じ合った女、子供を人質に取られ、窮地に陥る主人公はあまりに凡庸だ。
ゴルゴ１３の１エピソードように結果的には救ったが、その理由は別の可能性がある、といった具合にするとパニッシャーの格も上がっただろう。（４５点）、

１月３１日（金）
『映画・怪物くん』１１
中村義広作品。
“嵐”の大野くんが主演する事で低予算でない振りを必死に繕う。
上川隆也まで出ている。
でも映画はかなり安っぽい。
恐らく海外ロケも敢行しているのだろうが、マサラ・ムービーに仕立てあげる素養も意志なく、単に子供の大好きなカレーライスでお茶を濁す。
ドラゴンの造形は『ネヴァーエンディング・ストーリー』のファルコンみたいで良かった。
何でもＣＧにすりゃいいってもんじゃない。
どうでもいいけど、カレーに生卵はインドの方を虚仮にし過ぎ。（２０点）

点）