したり映画帖コミュの２０１４年上・下半期①

１月１０日（金）
『トリック劇場版』０６
安易、凡庸、思いつき、熟慮足らず、紋切型、緩い、甘い等々思いつくネガティブな形容詞がすべて似合う、映画と呼びにはおぞましい作品。
であるが、ここまで続いているのは何か観客のニーズに応えている点があるからなのだろう。
われわれはそのニーズという奇怪な化け物へ真剣に立ち向かわねばならない。
そんな時期はとっくにやってきているのだ。
煩悩を切り捨て、襟を正させてくれる反面教師な作品である。
いい映画ばっかり見てても仕方ないのだ。
阿部寛最高！（４０点）

１月１３日（月）
『カニング・キラー／殺戮の沼』０７
マイケル・ケイトルマン作品。
二兎追うものは一兎を得ず、という諺を証明するような作品。
ホラーと思ってリラックスして観ていると、舞台は、ブルンジ～ルワンダ国境となりやや社会派の側面が強調される。
それでも、舞台に乗りこんだのは、上司の命で否応なしにやってきたレ・バンナ似のディレクターと黒人カメラマン、そして、動物愛に満ちた女性リポーター、動物学者、それと現地の状況や実情をよく知るハンターという組み合わせ。
じつにホラー映画のパターンだ。
現地住民が供犠として捧げた野良犬を可哀想だと救ってやる白人女が最後まで生き残ってしまう設定に作品の世界観を疑う。
結局アフリカ僻地の紛争なぞ飾りでしかなく、世にもくだらない作品ができあがった。（２０点）

１月１４日（火）
『黒いドレスの女』８７
崔洋一作品。
ハードボイルド志向は判るが、原田知世に本役は無理すぎる。
永島は思ったより良かった。
文太も若い。
田中陽造の脚本が問題なのか知らないが、『セーラー服と機関銃』や『魔の時刻』なんかもこの時代の色に合わせ過ぎで空疎にしか響かない。
好きか嫌いかは別として、まだ荒井晴彦の方が現代的な感じがする。（５０点）

『ゲーム・オブ・ライブス』０５
デビッド・アンスポー監督。
実話ベースの物語。
全編客観視点。
ジェラルド・バトラー主演。
アメリカ国内のサッカーを描くという魅力的な題材ながら毒にも薬にもならない作品となった。
実話といえ登場人物たちの乗り越えるべき主題が見当たらない。
もちろんＷ杯での勝利というものが大きなテーマとなっているが、それを補強・補完するためのそれぞれのドラマがあっさり切り捨てられている。
監督、コーチの意味深な表情も何の役にも立たない。
義父や妻、家族の問題も前半で解決したようで、後半はとんと話題にも上らない。
サッカーという映画化しにくい題材を扱ったという事が徒となった（４０点）

１月１６日（木）
『燃えよドラゴン』７３
デビッド・クローズ作品。
シナリオに相当『ドクターノオ』が下敷きにされていると推測。
何でブルース・リーで００７をしないといけないのか、という疑問はこの際どうでもよくって、程よく均整のとれた筋肉美のブルース・リーがみごとにヌンチャク・アクションを見せるシーンを観るだけで充分だ。
有名な『上海から来た女』譲りのラストの鏡の中の格闘は、終幕に向けて何某かの盛り上げには役立っている。（５５点）

『トリック劇場版／霊能力者バトルロイヤル』
映画に似せようとした事が徒となった。
真面目な阿部ちゃんもキャラがぶれる。
前作やＴＶシリーズのように空っぽな作品でいいのだ、あなたたちは。
結構『ＳＰＥＣ』の終盤ぽくなって非常にツマラン。（３０点）

１月１７日（金）
『酔拳２』９４
ラウ・カーリョン監督作品。
当時でも若くはないはずのジャッキーが裕福な漢方屋の息子として若者役で大活躍。
監督は、ジャッキーと列車の下で槍の使い手として闘う老人だ。
画面外から物の受け渡しや武器を投げ渡す演出がいい。必ず全身ショットの人物に投げ渡している。槍を使った闘いも面白い。
とにかく年齢にもかかわらず凄いジャッキーのアクションと相俟って監督の演出の良さが活きる。
工場用のアルコールを呑んで異常に燃える酔拳が楽しい。（７０点）

『アナコンダ３』０８
ドン・Ｅ・ファンルロイ作品。
度胆を抜かせるだけの安いファーストシーンで開巻。
Ｃ級感満載、演出、演技、撮影、美術、ＣＧとあらゆる点でＣ級感を追い討ちする。
Ｃ級が罪な訳ではない。
低予算のＣ級に胡坐を掻いて、安易な紋切型に作品を仕上げている事が問題なのだ。
貧乏は罪ではない。
貧乏臭さが唾棄すべき陥り易い罠なのだ。
失神していた農夫が気づいたら大蛇に呑みこまれていたというエピソードは笑った。
あと、リーダー各の男がチームのメンバーに指示を出しているとあっさり殺されてしまう瞬間は『ディープ・ブルー』のパクリと推測。
というか、今では誰もが真似するクリシェとなったか。
首をもがれた男が銃を乱射するのもイイ。
こんな些末ながらアイディア・工夫が美点となる瞬間を度々味わいたい。
それにしてもＣＧが雑。人間が大蛇に丸呑みされるシーンの素呑み感はあまりに酷い。
ＴＶドラマの『ナイトライダー』の主人公が脇役のおいしい役で出てた。
恐らくＴＶフューチャーと思われる。
ところで頻繁に使用されるアナコンダ目線は『トレマーズ』同様つまんないし怖くもない。（５５点）

１月１８日（土）
『アイ・アム・レジェンド』０７
ラストのオチとなるシーンが、タイトルにもなっている為相当重要なはずのだが、そのレジェンドの理由が一番つまらない。
前半の面白さがオチでだいなしになってしまう。
致命的だ。
レジェンドになった理由が、生き残りの親子を救ってウイルスの治癒方法を守った事なのだが、今一つ盛り上がらないのは、どこか狂気じみた、本来人間を救うという目的から逸れていくようになっていないからだ、と個人的には思う。
地球にたった一人だった孤独感が狂気に走らせる。
それぐらいの皮肉感がないのは、Ｗ・スミスが主演の限界と言えるのだろう。
これは孤独を主題に描かれなくてはならない。
それはＷ・スミスが許さない。
だから、つまらないのだ。（６５点）

『アナコンダ４』０９
『３』と同じ監督で主要キャストも同じ。恐らく企画段階で連作の予定だったのだろう。
こちらの限られた情報だが、蛇の生態って餌となる獲物を丸呑みするところにこのシリーズの主役の大蛇の面白みなのではないだろうか。
だから噛み千切ったり、喰い裂いたりする残虐さはいくら場面を活気づけようという意図があったとしても興醒めする。
ＣＧの問題は前作から引き継いでおり、大蛇の「動き」には工夫せず、「表情」に工面するというお門違いをやらかす。
蛇が怖い顔してもこっちはてんで怖くない。
大蛇を道連れにしようとした殺し屋が無駄に爆死する場面はよかった。
一番死んで欲しいと望んだ女性主人公が最後まで生き延びてしまう世界観に、『ディープ・ブルー』の意気込みを学んで欲しかった。（２０点）

『天河伝説殺人事件』９１
タイトル・バックはいつものように洒落ていてカッコいい。
どうしても横溝正史との差を考えてしまうと、内田康夫には、こけおどしに近いおどろおどろしさやスケール感に欠ける。
岸恵子の配役ですぐに犯人が判ってしまう。
演出を石坂浩二の金田一を再現したいのか、今回も飄々と榎木孝明の浅見光彦を演じさせるが、どうも型に嵌めすぎでつまらない仕上がり。
市川崑は、説明よりもリズムを大事とする撮影・編集が特色だが、これは現代でも重要に価値があるように思われる。
なのに、今作がつまらないのは、技法ばかりが先走り、役者の実力がそれぞれについていけていない決定的な問題に、監督が気づけなかった点にあるのかも知れない。
ところで、本作は奈良が舞台のため、土地の人々は基本関西弁を使うはずだが皆標準語で対応している。
関西訛りの誤用を防ぐためのネガティブな選択なのだろうが、それでも、一人だけ、岸恵子は関西弁を話す。
でも、それが下手糞。
何故、彼女だけそうなのかは積極的な説明はない。
ここにも市川崑の痴呆ぶりを感じさせられてしまう。（４５点）

『ダイハード０．４』０７
レン・ワイズマン作品。
アクション場面の連続は、以前のシリーズよりスピード・アップされていて面白いのだが、やっぱり相棒がいるという設定はどうしても主役のスケール・ダウンを招く。
せいぜい『１』のビル外から無線で協力する黒人警官程度に収めて欲しい。
ＰＣに疎いジョン・マクレーンを助けるハッカーの青年の存在をクローズ・アップさせるよりハッカー青年の指示を受けたマクレーンが滅茶苦茶なＰＣ操作をする、というような展開が見たかった。
これでサブテーマの娘との確執やジェネレーション・ギャップの問題が浮き彫りとなる方が良いと思う。（４５点）

１月２０日（月）
『少林サッカー』０１
面白い。
突っ込みどころ満載なのだが、チャウ・シンチーの人に対する残酷さやエグさが光っている。
主人公は貧しすぎて乞食と呼ぶしかない程ひどい。饅頭屋の娘にも容赦ない。懸命にオシャレした姿も不細工に何の憐憫もなく描く。
クライマックスで再登場するときも、女の子なのに禿頭姿で活躍させるという徹底ぶり。安易な優しさや思いやり等は描かない。
こういう作品を高潔と呼ぶ。（７０点）

『ランダム・ハート』９９
シドニー・ポラック作品。
この作家は自立した女性を好んで描いているように思われる。
だからなのか展開も見え透いていて、大概がつまらない。
今回は女主人公もいるが、相手役にＨ・フォードを配し、大人の都会的ロマンスを描く。
ポラックが制作を担当した『ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』にどこか似ている（全然違うのだが）。
本作も、抑制が効いていて本当にいい。
今までポラックといえばリチャード・アッテンボローのようにいい脇役を演じていた事ぐらいしか好感は持っていなかったが、本作は監督として素晴らしい仕事をしている。
撮影の違いも職業や舞台の違いで変化させている。
冒頭、Ｈ・フォードがランニングした汗だく姿で妻とやりとりをする。
妻はこの後不倫相手と秘密の旅行予定だ。妻は後ろめたさもあるのか、朝の挨拶をしたＨ・フォードをベッドに誘う。
その際、汗ばんだ夫の体を手で触れる妻というエピソードが演出される。
その演出が大人のエロを感じさせるのだ。
不倫相手と妻が予約していたホテルを探し当てた場面もいい。
ベッドのバスローブや浴槽を見て嫉妬するＨ・フォードは不倫相手とセックスする妻の姿を想像する。
だが、妻は不倫相手と飛行機事故で死んでしまっている。
身悶えするしかないのだ。
中年男の卑小さを見事に描く。
Ｈ・フォードの役が警察の内部捜査官という設定もいい。
本当に素敵な脚本だ。
ジンネマンの『氷壁の女』もそうだけど、ベテラン監督が盛りをすぎてからいい仕事をするという現象が起こるのは不思議だ。それとも、そういうものなのか。
早くその境地に達したい。
見えている。
すぐそこだ。（８５点）