したり映画帖コミュの２０１４年１月上半期②

１月７日（火）
『相棒Ｘデー』１３
自殺事件から意外な真実を導きだしてゆく凸凹コンビの活躍を描く。
警察機構内部の既得権益や責任所在など醜い争いが事件解決を難航させる。
気軽に近づき難いテーマを扱っているが、それが娯楽にまで昇華しない。
それら題材を映画にまで仕上げるのが、映画版の醍醐味だろうし、映画化の意義でもあるように思う。
実在の機構という取扱い要注意のテーマな分、脚本化するのも取材や調査が相当困難である。
山崎豊子や松本清張、さいとうたかおのような気骨ある調査チームが必要となる。
だが、日本のＴＶ・映画業界で今、このような題材を見事娯楽に仕上げられる社会派の脚本家や監督は皆無だろう。
贅沢品なのだ。
現在の日本ではテーマも規制される。
韓国にはいそうな気がするが。
人気ＴＶシリーズのスピンオフ作品という体面がある手前、そのノリを踏襲するのは仕方ないのかも知れないが、どこかＴＶ的すぎる軽さが乗れない。
物語構成にも新味がなく、もう少し工夫や挑戦を見てみたい。
この題材を選んだ意図には野心を感じるのだが……。（４０点）

『ジュマンジ』９６
ジョー・ジョンストン監督。
初見した時も面白く見たが、２回目も更に面白く見た。
何十年間もゲーム内で生存していたロビン・ウィリアムスが失踪時の少年からおっさんに変身して登場するのがオモロい。
ゲームを終了させたウィリアムスが再び子供に戻ってしまい、どうオチを着けるのかとラストに向けてサスペンスが進行する。
それが、パラドックスとしてラストのオチに見事に生かされている。
違う形の続編が『ザスーラ』だ。
これと見比べると本作の面白さがよく判る。（７０点）

『ハンガーゲーム』１２
続編ありきで制作されているのが見え透いている。
バジェットはそれなりにかかっているはずなのに、このチープぶりはどうした事だろう。
原作の甘さ、緩さが反映されているのかも知れないが、とにかく図式的で、殺人ゲームに選出されている人々が奴隷のように何故従順なのかがよく判らない。
恐らくこのネタは今後活用するのだろうが、ＳＦものにはこういう理由に脚本の比重が置かれる。
それが描かれていないというのは、シリーズものとはいえ、かなり致命的になる。
主人公少女の貧乏暮らしはよかった。
でも力試しを見せる場面で観戦する上流階級側に防弾ガラス等の何の対策も講じていない事に多くの疑問と共にご都合主義という言葉が思い浮かんだ。
『２』では監督が変更されている。（２０点）

１月８日（水）
『カーズ』０６
本作になかなか乗れなかったのは、『トイストーリー』と違って全ての世界が、車たちで支配されており、人間やその他生物は影すらないという世界観の影響が大きい。
そのくせ、そのファンタジックな世界の倫理がくだらない。
ファンタジーだという理由は納得できても、ラストの事故ったキングにゴールを譲る事をよしとする世界観には付き合いきれない。
もちろん子供に向けたメッセージなのだろうけど。
ヒューマニズムを、車を借りて訴えたかったのか、実にくだらない終幕方法だ。
人間じゃない物に物語を託したのなら人間を越えた発想や能力で問題解決を図って欲しかった。
錆だらけの小型トラックが震えの度に赤錆が落ちるというネタには笑った。（４５点）

『歓喜の歌』０２
松岡譲司作品。
この作家の美点は作家性を抑制する所にある。
作品に触れている間は、なるべく個性的なぞという言葉を忘れさせようとする点にあると思う。
だから、鬼面人を驚かすようなショットや演出は避ける。
これは個性を尊重する時代にあってはかなり貴重である。
ただこのような作風は、成瀬巳喜男がそうであるように、脚本や撮影、演技、美術等が高度な達成感を求める。
でも、ひとつ間違えれば簡単に駄作に陥る。
面白いかそうでないかは、相当脚本の出来で左右されてしまうのだ。
今回は世界観の緩さがキツイ。
優しさというヒューマニズムで困難を乗り越えるという構成に不満が残る。
現代の進化した時代にこんな解決法は古臭く、リアリティに欠くと感じる。
悲劇が必要な訳ではない。
田中澄江や水木洋子の凄さを改めて感じ入る。
ライヴァル役の由紀さおりのキャスティングはいい。（６０点）

『麒麟の翼』１１
土井裕泰監督作品。
原作の甘さは東野圭吾のものだろうけど、阿部ちゃんの魅力を殺ぐには至らない。
阿部ちゃんが出演していれば、作品がどんな出来だろうと見続けられてしまう。
見惚れてしまう。
奴はスター俳優だ。
刑事の捜査シーンの描写は最近では見ないくらいベタにしている点が好感。
松坂桃李と友和と百恵ちゃんの息子は似ていて混同した。（６０点）

１月９日（木）
『風の谷のナウシカ』８４
久しぶりに見直す。
何度見てもいつも新しい発見がある。
更新される。
世界規模と呼ぶより地球規模の世界観が、今日アニメ業界で流行の終末論的黙示録の先駆けとなっている。
が、その複雑さや多面性の統一が、本作を時代の代表作にさせている。
異論なし。
唐突に飛行機の操縦席の一部を壊し、それを利用して繋いでいたグライダーに移動するアクション、その連動性に感動した。
古老の兵士が命を賭した任務に対してその理由を「老い先短い」からと冗談ぽく嘆くシーンがいい。
どこから切っても面白い。
傑作。（１００点）

『余命一ヶ月の花嫁』０９
廣木隆一作品。
最初かなりの先入観で観てしまったが、抑制して作られていて、こちらが穿った観方をしていた事に深く反省する。
かと言って、本作が良作だとは言い切れない程に、問題は単純ではない。
以前『僕はラジオ』でも触れたが、実話という事に依存している作品において主観と客観視点を混在させて取り入れる場合、工夫や戦略が必然となる。
それがこちらの持論だ。
どう導入するかが問題となるはずである。
描かれている事実は、誰が知ったのか、もしくは誰が知っているのか。
それをどう示すかが映画の肝となる。
多くの映画は全編客観視点で描くことによってその問題を回避する。
だが、どうしても主観を導入したいという欲望に捉われる。
なぜなら、そのような視点を導入した場合、映像や語り口に変化を与え易いからだ。
でも、そういった画面変化の欲望を優先する場合は、必ず主観導入の理由等を示さなければ観客に対して不公平である、とこちらは考える。
自在な主観・客観導入は、作品を装飾するための制作側の都合にしか見えない。
だから、危険なのだ。
本作でも、ヒロインの死後、遺されたヴィデオを観る場面は、主観導入の意図がしっかり描かれている。ここまでは見事だ。
だが、すぐに恋人役の瑛太が独りヴィデオを観ながら涙に咽ぶ客観シーンに切り変わる。
そこには瑛太本人しかいない為製作者側はそれをどうやって知ったのかという疑念が作品を興醒めさせる。
実話というのが売りなのだから、この場面は本来第三者が知った（見た）ようにしなくてはいけない。
恐らく残された恋人の証言から作品にこの場面を加えたのだろうが、それが判れば判るほど、こちらの興奮は盛り下がる。
できるだけ情緒への安易な寄りかかりを避けようとする演出に聡明さを感じるが、やはり題材が鬼門となって作品の向上にはならなかった。
主観と客観の混在は脚本上でも鬼門となるのだ。（６０点）

『ブロークン・フラワー』０５
久しぶりのジャームッシュのヒット作品。
ジャームッシュは、お洒落ぶっていてカッコつけで好きでない、と私の友人からも苦言を呈されているが、確かに最近の作品には鼻持ちならない演出が多かったように思う。
でも、本作は、初老目前の独身貴族のオヤジが、過去の女性遍歴を辿るという何とも情けなく物哀しい滑稽な話となっている。
どこかで装飾をかなぐり捨てている。
これまで触れる事を避けていたような男の実存性に向かっている。
いつものようにロードムーヴィーで、彩る女性たちも様々という連作形式を採択しているが、何か感触が違うのだ。
舞台のアメリカ風俗もそれとなく描かれる。
乾いた都会的な作風が売りだったジャームッシュが情緒的に物語を描いている。
終盤の息子だと思いこんだ青年に主人公が執着する場面で、これまで描くことのなかった、人間の雄としての痕跡に図らずもこだわってしまう主人公の姿に監督自身の姿が重なり不覚にも涙した。
真情を吐露するジャームッシュ流演歌なのだ。
ラストショットがパンで終幕する点も好きだ。
あれがパンニングで終わるから何故か泣ける。
とにくか泣ける。泣くしかない。泣く。（８５点）

『英国王のスピーチ』１０
トム・フーパー監督。
これも実話が原作。
というより史実の映画化。
全編客観視点で描かれる。
やはり主観が危険な事を理解しているのか、視点を変換する事はない。
聡明である。
批判が目的でない為のちに英国王となる主人公の描写も好感が持てるように地平線まで降ろしている。
庶民と同様の悩みや家庭を持つ人間として描く。
吃音を治療担当する役者希望の男が、横柄なのも演出的に妥当である。
その辺は実在人物を描く際の好悪の距離感をうまく調整している。
そういった点が日本でも評価されたのだろう。
個人的には特権階級が主人公の作品に興味が沸かない。
どちらかと言うと、王の座を弟に譲ってまで、未亡人との恋に走る兄の方が映画的題材に思える。（７０点）

『劇場版スペック～天～』１２
なんか観たはずなんだけどまったく記憶にない。
途中で眠ってしまったようだ。
それだけの作品ということか。
堤幸彦は優れたＴＶ作品は撮れるのかもしれないが、映画を撮れるようには思えない。
映画原理主義すぎる思想だろうか、自分は。（１５点）

『エターナル・サンシャイン』０４
ミシェル・ゴンドリー監督＆チャーリー・カウフマン脚本のコンビ作品。
どちらの作風なのか妙に暗いところが好感。
ジム・キャリーなぞ登場場面から今までスクリーンでは見せた事のない陰鬱な表情をしている。
それが、実は意味があって、オチへと繋がる。
上手い。
記憶や過去を題材に現代的に脚色する手腕は、映像的なセンスも含め、長けている。映像担当はゴンドリーなのだろうけど、脚本にもイメージが確実に練りこまれている。
ＣＭやＭＴＶ出身のゴンドリーと余程肌が合うのだろう。
企画の発想がすでに本作の長所や美点を備えている。
ケイト・ウインスレットも良かった。
でも、幻の傑作『猿女』を下敷きにしている『ヒューマン・ネイチャー』は好きになれない。
現代の日本も優秀な作家はＣＭ界等から輩出されている。
これは世界的な共通項なのだろうか。
今や“映画”へのこだわりは、逆に“映画”から遠く離れてしまうという事実は、映画原理主義者にとって脅威である。（８０点）