したり映画帖コミュの２０１３年１２月下半期②

１２月２０日（金）
『華麗なるアリバイ』０７
クリスティー原作でパスカル・ボニツェール監督作品だから油断はならない。
だけど、観たところ、普通の作品だ。
それも結構あっさり味。
だが、そこはボニッツェールである。何か仕掛けがあるはずだ。
だって、『地に堕ちた愛』や『私の好きな季節』の脚本家なのだから。
曲者なのだ。油断してはならない。
だが、しかし……よく判らなかった。
思わせぶりな平凡な一本。
こちらが勝手に盛り上がってしまったのか。（５０点）

１２月２１日（土）
『情婦マノン』４８
主演女優のセシル・オーブリーは、華奢なのにその分顔は大きく、手足は短め、上向きの鼻、おちょぼ口、しもぶくれ、目つきはフランス女優の伝統なのかシモーヌ・シニョレ似である。
いわゆる美人でも何でもない。
魅力的なのは唇がアンニュイに濡れているからだろうか。
今観ると、マノンの悪女ぶりも結構淡泊。
なので最期もあまり盛り上がらないまま有名なシーンになる。
ただラストシーンはやはり強烈な印象を残す。
まるで狩猟した獣のように背中に提げられて砂漠を運ばれるマノン。
当時は相当センセーショナルだったろう。
東陽一が烏丸せつ子でリメイクしてるが、烏丸のしもぶくれが、セシル・オーブリーとの共通点である。（７０点）

『ラ・マルセイエーズ』３８
唄（唱歌）がたくさん披露される。
大らかで鷹揚、猥雑で寛容な世界観。
ルイ１６世なぞはおっとりと人間的に描かれ、敵役とは思えない。
フランス革命を叙事的に描くが、いざという時に敵同士が同郷の友人だと判明し、手に手を取り合うという牧歌的シーンが綴られる。
革命が歌合戦の様相でラストへと流れ込む。
かと思いきや、ラストは行進の足音で締め括る粋。逆に唄は歌われない。
靴音だけが鳴り響く。
群衆シーンでは当然、時代背景としてＣＧではない本物の群衆が集っている。
その迫力と圧倒感！
クレマンの傑作『鉄路の闘い』のように、フランスの労組の募金にて制作されたらしいプロパガンダ映画なのに、ここまでアナーキーな世界観が凄い。（８０点）

１２月２２日（日）
『ある子供』０５
絶望しか残されていない未来を、たくましく生きる若い男女とその赤児。
初めは女性が主人公だと思わせながらいつのまにか無知な男性の若者に視点が変わっている。
若い男女は幼児のように児戯にじゃれ合う。
見た目よりその精神年齢は何とも幼い。
そういった生態を見せられると彼らを応援したくなる。
まったく共感できない人物と描かれても。
“セイヴ・ザ・キャット”というハリウッド流の主人公のキャラ設定方法があるが、今作は、猫を救うような心優しき若者ではまったくなく、逆にこちらが救いの手を差し伸べたくなるような頼りなくも強かな存在――ある子供――なのだ。
ここにはハリウッド流のキャラクターは登場しない。
その点が骨太で頼もしい。
いまだに目に見えない形でありながら、歴然とヒエラルキーが存在している世界観。そこに富める者と貧しき者のヨーロッパの歴史が感じ取れる。
その現実が、更に絶望感を深める。
でも、作者は常に、弱者に寄り添うように視線を投げかける。
若者の男性は無人の乳母車や窃盗道具のバイク等を押し続ける。
哀しくて滑稽なシーン。
このシーンには感涙した。
ラストに主人公の号泣するシーンが待っているが、あそこは出来過ぎな感が否めなかった。（７０点）

『ひめごと』０２
ああ、つまらない。
ああ、くだらない。
性のファンタジーとしてあまりに空虚だ。
主演女優の魅力のなさは致命的である。
実存的でなさ過ぎる。
ファンタジーだけれども何せ対象は性愛なのだから実存は必要だ。
それなのに、あの主人公が野心どおりのし上がってゆくには、あまりに魅力が欠如している。
それを納得させるには演出上・脚本上の工夫が必要と思われる。
先輩となるダンサー女性も全裸になるだけで、まったく役に立たない。
女主人公のナレーションもかなり空疎。
何で、カイエでベスト１に選ばれたか謎。（３０点）

１２月２３日（月）
『海の牙』４６
ルネ・クレマン作品。
冒頭で一度画面に現れた語り部役となる医師が再び物語に登場するまで、しばらくドイツ軍占領下のフランスの状況を示す。
前半は、どうやって医師が敗走するドイツ軍に巻き込まれてしまったかが展開される。
潜水艦の記録映像等が、モンタージュで挿入されて迫真性を帯びる。
傑作『鉄路の闘い』では抵抗側のパルチザンが主役として描かれていたが、今回は敵のナチス側の潜水艦が主な舞台となる。
その捻りが面白い。
潜水艦内部のセットが凄い。
セットというよりロケセットなのか？
名手アンリ・アルカンの撮影が閉塞感や男だらけの世界の暑苦しさを見事に切り取る。
狭い空間の為クローズ・アップが多用され心理的なサスペンスを盛り上げる。
かなりアメリカンな手法だ。
クレマンは、この後もこの手法を自家薬籠中としてフィルムグラフィーを築いてゆく。
クレマンが自国だけでなく、世界中で人気が高いのは、フランス人でありながらアメリカンな作風が愛されたためかもしれない。
戦勝国となったフランスだが、その後アメリカ映画に蹂躙される事は歴史のみぞ知るか。（８０点）

『召使』６３
脚本は『できごと』と同じくＨ・ピンターが担当。
抑制、と呼ぶより底辺に情念や思惑が鬱積したかのような禁欲的な演出が、この監督と脚本家コンビの得意な作風である。
謎に満ちた人物としてダーク・ボガード演じる召使が登場するが、この人物の扱いにロージーとピンターの特徴が現れる。
上流階級出身と思われる主人と雇われた召使が図式的な関係として、最初は描かれる。
が、その図式まで途中からグネグネよじれてゆく。
相当奇妙で不条理な、謎に満ちた人物としてＤ・ボガードは描かれてゆく。
本来観客側にいるはずの主役は、主人と召使のどちらなのか。
それすら明確にさせない。
意地悪で暗澹たる作品。
だからこそ楽しい。
近年、この手のグロテスクな作品はとんとお目にかかれない。
アルトマン『ベースメント』、シュレイダー『迷宮のヴェニス』もピンターの脚本。ピーター・ウェアーの『配管工』は本作のかなり影響下にあるか。（８５点）

１２月２５日（水）
『舞台よりすてきな生活』００
マイケル・カラスニコ作品。
好きでないＫ・ブラナーが主演作品なのだが、Ｗ・アレンのようにいい塩梅で力が抜けていて楽しい。
子供嫌いのＫ・ブラナー演じる主人公が、近所の脳性麻痺の少女と親交持って心境に変化が兆すというベタな物語。
でもテンポ良くラストシーン直前までは気持ちいい。
少女の母親が、わが娘が主人公との交流で別の面を見せ始める事に嫉妬するという点に脚本の上手さがある。
だが、ラストの少女との別離のシーンは演出家のセンスが問われる。
が、そこは凡庸。
残念。
惜しい。
妻役のロビン・ライト・ペンはいい。（７０点）