したり映画帖コミュの２０１３年１２月上半期⑤

１２月１１日
『イノセント・ガーデン』１３
傑作。
物語の根底にヒッチコックの『疑惑の影』のオマージュがある。
謎の叔父の名前もチャーリーである。
接写の多用は、思春期少女という被写体の息吹や目線などの細部を掬い取る事に効果を上げる。
冒頭のシーンがラストでは違う意味を持つという基本を外さない演出もいい。
パク・チャヌクが得意とする残虐シーン、アイディアは、要所要所に活かされるだけで、全体的には抑制されている。
蜘蛛の描写や足にできた腫物を潰すシーンに嫌味なく発揮される。
クラスメイトの男子が殺害される場面自体はいいが、その後の死体処理のシーンが淡泊で、もう少し丹念に見せて欲しかった。
タイトルの『イノセントガーデン』はダサい気がする。
この現代、未成年の少年少女に無垢といった称号を与える事は、幻想にすぎないと誰もが判っている。
いまだに大人側の子供たちに欲求する都合のよい視点が、このタイトルには感じられる。
※タイトルは日本で独自につけたものでした。原題の『ストーカー』は主人公の姓。（９８点）

『ヒッチコック』１２
サーシャ・ガバシ作品。
あの『アンヴィル』の監督。
ヒッチコックの『サイコ』に賭ける情熱は自主映画そのものである。
この部分では号泣したが、物語のテーマや締め括り方は優等生でヒッチコックぽくなかった。
そこが大欠点。『サイコ』を理解していない。
アンソニー・パーキンス役は激似！（５０点）

１２月１３日
『Ｘファイル／ザ・ムービー』９８
この作品の企画は好きなのだが、ＴＶシリーズを全然鑑賞していないので、ファンとしてのノリが必要なのかもしれない。
ＴＶ版の２時間スペシャルみたいな作品。（４２点）

『ある秘密』０７
クロード・ミレール作品。
この監督の作品はジュゼッペ・トルナトーレのようによくできている。
だから面白くない。醜い。
そんな先入観で今作も接してしまっていたが、途中から“ある秘密”に関する展開してゆく件りで、映画のテーマに引きこまれてゆく。
ヨーロッパ映画において、ナチスドイツの影はいつの時代でも相当大きな傷となって現れる。
その傷の大きさに、人は生真面目に作品と向き合う必要性を感じるのだろうが、そこに作者のあざとい計算を感じさせる点に監督の限界を見る。（５４点）

『先生を流産させる会』
立ち廻りが難しいテーマだが、もう少しエッジが効いている作品を期待した。
だが、その試みは非常に称賛に値する。
困難に立ち向かう、って美しい。（７０点）

『白いリボン』０９
大作家の貫禄。
複数の視点から描く作風は以前も『コード：アンノウン』で描かれていた。
モノクロ撮影も『カフカの城』で効果をだしていた。
だから、今回は作家本人にとっては、野心的な試みが不要な作品となる。
ただ、世界に名前を刻むために余興的な色合いが残る。
いや、そこだけとも言える。
そんな映画だ。
真逆の作風だが、ふとブリューゲルの絵画を想起した。（７５点）

１２月１４日（土）
『終の信託』１２
渋い。さらに言うと硬い。硬派だ。
開巻より緊迫感が孕む演出。
『それでもボクはやってない』でリサーチできたのか、裁判機構の知識を存分に生かす。
そのリアリティが発揮されている。
役所広司は素晴らしい。
草刈民代も頑張っている。
隅ずみにまで演出が漲る。
大沢たかおもいい。検察官の高圧、威圧感を図式的にならずに演じている。
安易な通俗的メロドラマに仕立てる事は容易だったろうが、そうさせないのは監督の高潔な矜持があるからだ。
役所広司家族の扱いようでは、安易に図式的で判り易い設定にすることも充分可能だ。
でも、その罠には陥らない。
とにかく清潔で下品にはならないのだ。立教系の特徴か。
後半の検察庁でのやり合いが、さすがに途中でだれる。
そこが生真面目で硬いという印象を与えるのか。
時間をかけてホンが練られる、その環境がうらやましくもあり妬ましい。
現代の日本の脚本家でそんな贅沢は許されない。
信用と信頼の裏打ちか。（８５点）

『アダム―神の使い悪魔の子―』０４
ロバート・デ・ニーロはマッドサイエンティスト役。
ドナルド・プリーゼンスが生きていたら演じていただろう役どころ。
もう少し仕事を選らんだ方がいい。
炎上がる中でガラスに張りついて助けを呼ぶ子供のイメージに『オードリー・ローズ』のイメージと重なるが、脚本家や監督にホラーの素養があるように思えない。
少年が悩ませられる悪夢を克明に描くところに疑問が残る。
少年の内面が観客に情報として提示されてタイトルロールの少年のスケールがどんと落ちる。
期待した分のただの思い込みか。
ラストも酷い。
オチもなしで雰囲気だけでホラーのように終幕する。
時間を返して欲しい。（２０点）