したり映画帖コミュの『氷壁の女』（‘８２）

監督：フレッド・ジンネマン、撮影ジュゼッペ・ロトゥンノ、音楽：エルマー・バーンスタイン、出演：ショーン・コネリー、ベッツィ・ブラントリー、ランベール・ウィルソン

ジンネマンってつまんねぇよな。名作なんて言われてっけど『真昼の決闘』（‘５２）ってダメ。『七人の侍』ばりに糞ダサい。『地上より永遠に』（‘５３）はバカみたい。『尼僧物語』（‘５９）とか『日曜日には鼠を殺せ』（‘６４）とか『わが命つきるとも』（‘６６）なんてのもまったくオモロない。『ジャッカルの日』ですら、なんか乗れない。アンタ、真面目すぎ。アカデミック臭すんだよ。ド田舎のガッコのセンセエ。バカバカしさと狂気に欠けんてだよな。撮ってるヤツの性格なんてどうでもいいんだけどさ、映画が真面目じゃ、ホントつまんねえ。映画作る意味ないっしょ。『ジュリア』（‘７７）はチョイ良かったけどよ。しかし、油断はならねえ。

で、『ジュリア』から結構ブランクあって、結局ジンネマンの遺作となっちゃった本作なんだけど。ところがドッコイ。前言撤回。これがオモロい。垢ぬけていてドキッとさせられるんだよなぁ。潜伏期間に修行したんか、カッコいいぜ、叔父貴。ナメてた。スンマセン。ジイさん、死ぬまえとなったらリキみが抜けていい仕事してんだ。まあ、エラそうに他人の作品あれこれ言える立場じゃないけどさ。

ファースト・カットからして魅せてくれる。寝台列車のベッドから起きあがったネエちゃん（ブラントリー嬢）のネグリジェからうっすらビーチクが浮かんでんだ。深夜って設定ってのもあんだけど、走行する列車の光と陰の合間にチラリと見せる粋。見えるか見えないかって演出。ジジイの渋いエロ目線なんだな。まいったゼ。『尼僧物語』でも、もうちょっとでオードリー・ヘップバーンにエロを感じさせられたのに失敗していたヤツの仕事とは思えんくらい。その後に続くシーンが、上着を羽織ってブラントリー嬢は列車の廊下で煙草をプカリ。通りすがった車掌が挨拶しても気づかない。ブラントリー嬢は何か物思いに耽っている。車窓の夜景を見るでもなし見つめている。ここで大胆に列車外に切り替わって窓ナメでブラントリー嬢と並走するキャメラ・ポジション。あ、これセットだったのね。と、気づかされる暇も与えず、スイスに向かって走り去る列車の実景。って、叔父貴、うまくネ！コンテが緻密で余裕があるじゃん。セットとロケの織り合いが絶妙。（ここまで５カットぐらい）そっから、個室に戻ったブラントリー嬢をベッドで待っているのは初老のオヤジ。そのオヤジが、ヅラ被って（植毛だっけ？）活躍する『ネバーセイ・ネバーアゲイン』直前のショーン・コネリーって、登場させ方バッチシ。よっ！メロドラマ！切れ味サイコー！エロすぎるろ！ジェームズ・アイボリー辺りは学習せんといかんぜ。

てっとりばやく説明すっと、親子ほどの年の差カップルがスイスへ山登り旅行に向かってる。どうやら新婚らしい振る舞い。オッサン・コネリーは張り切ってるのに、ブラントリー嬢はときおり、物思いに沈む。この結婚に不安でもあるのか。でも、やることはやる。ホテルのオーナーがふたりを部屋に案内し、現地の良さなんか御託を並べていると、はやる気持ちを抑えきれないのか、コネリーは上着を脱ぎ、ブラントリー嬢はおずおずとブラウスのボタンをはずし始める。野暮に気づいたオーナーは黙って部屋を後にする。このあたりの演出もざーとらしくなくっていいんだよな。冒頭のブラントリー嬢のエロ印象とその後のテーマにもつながってる。って言うか、やっぱ現役かよ、コネリー！さすがだね！！

そんで、ふたりは登山で有名なスイスのある町に数日逗留すんだけど、毎日、登山コーディネイトする地元の案内人ってのが美青年ランベール・ウィルソンなんだな。当時、草刈正雄と男前世界?１を争ったほどの男だ（ウソ）。これで何か起こらんはずない。読みとしては、地位も名誉もあるオッサンに飽きたネエちゃんが素朴な男前に惹かれるって図式かと思いきや、そう話は単純じゃない。さすがジンネのマンさん。オトナだね！

確かにブラントリー嬢と美青年ウィルソンの交流は深まっちゃう。どうやらウィルソンはブラントリー嬢に興味を持ち始めたよう。だって、コネリーとはあまりにも年が離れすぎてんだから。どんなファックしてんのか気になるわな。で、ウィルソンはブラントリー嬢に質問攻め（質問プレイ？）。そしたら、お嬢は秘密を明かす。じつは、コネリーは普通のファックでは飽き足らず、いまではアナルにしか興味がないというのだ！（ウソです）前文訂正。秘密というのは、じつはコネリーはお嬢が子供の頃から慕っていた実の伯父だったのだ（これはホント）。そして、コネリーは妻に嘘を吐いて、姪っ子（ブラントリー嬢）と不倫旅行にきたのであった。まあ、コネリーは本当は真面目な医者で愛妻家なんだけど、お嬢の若い肉体に惹かれたっつうこと。でも、お嬢から誘惑を仕掛けたってのがイイのよね。なのにいまではお嬢は贖罪意識に駆られてんだから勝手やなあ。一発ヤッたからもういいんかい。清廉に見せかけた無意識の悪女。たいして美女じゃないトコがまたいい。この手が一番やっかい。男だけ本気なのな。

お嬢の告白を聞いちゃったウィルソンは心に一物を抱えたまま、そうとは知らないコネリーを、峻厳な山に案内する。コネリーが希望した困難な登山。ホテルにひとり残ったブラントリー嬢はこっそり帰国の準備をする。やっぱり不倫を解消しようと決心している。登頂に成功したウィルソンは山頂でコネリーに秘密を知っていることを明かしちゃう。ブラントリー嬢との不倫関係を責める。お嬢への同情もあるけど、いの一番は自分がモノにしたいんだなあ。そんでも、老練コネリーは右から左に受け流す。オレだってリスク覚悟のファックなんだよ。若造には判らんよ、と。コネリーとウィルソンの間に緊迫した空気が流れる。なぜなら、そこはひとりでは無理な登山の頂上。仲間割れしたら地上に帰るに帰れない。まあ、ウィルソンにしてみたら好意を持った女から悩みを打ち明けられたんだから何でもやっちゃうわな。シロウト童貞の暴走ってヤツ。お嬢は無意識だったとは言え、ホンマやっかいなやっちゃ。

そしたらどうよ、ひとりでホテルを去ろうとしたお嬢の元に遭難したふたりの情報が届くじゃない。お嬢は血相変えて待ち続ける。イイ気なもんだ。どうやらどちらかが崖崩れで死んだらしい。遠くにちいさな人影が見える。それは果たしてコネリーなのかウィルソンなのか？ってな具合にクライマックスにはキッチリとサスペンスを用意してる。手際もいいよ、ジンネマン。ウィーン人監督によるアメリカ製作の英国映画。似てるようだけど増村の『妻は告白する』（‘５３）とはまた違う。佳作って言葉がよく似合う野心やあざとさがさっぱりと洗い流されたような味わい。地味っていったらそうかもしれん。でも、たまにはこういうのが欲しくなんだよな。あんまり手を加えてない美味いもんが。滋味。