したり映画帖コミュの『雨の午後の降霊祭』（‘６４）

監督・脚本：ブライアン・フォーブス、撮影：ジェリー・タービン、音楽：ジョン・バリー、出演：リチャード・アッテンボロー、キム・スタンレー

黒沢清監督の『降霊』（‘９９）のオリジナルとなった作品。脚本・監督はブライアン・フォーブスという役者あがりの人。傑作『ポセイドン・アドベンチャー』（‘７２）の監督でイギリス時代のヒッチコック作品の撮影を担当したロナルド・ニームの、ウォルター・マッソー主演作『ホップスコッチ』（‘８０）の脚本も書いている。

ストーリー。まだ幼かった息子を失った中年夫婦。妻（Ｋ・スタンレー）は定期的に交霊会を開いて招待客の悩み相談に応えている霊媒師。しかし、息子を失ったことで最近は精神の均衡も危うい。生真面目な夫（Ｒ・アッテンボロー）はそんな妻のために恐ろしい計画に協力することとなる。それは亡くなった息子の霊を慰撫すること。息子の霊のために女児を誘拐することだった。計画は妻の主導で実行され、夫は誘拐に成功し、女児を自宅に監禁する。本来なら数日だけの誘拐のつもりだった。だが、女児が病気になったことからじょじょに歯車は狂いだす。妻は息子の霊を癒す（成仏？）ために女児殺害を言いだす始末。夫は犯罪の発覚を恐れながら、いつもの交霊会の開催を何とか迎える。招待客のなかには誘拐した女児の母親が夫婦の秘密も知らずに参加している。交霊会は妻の体調不良で途中で頓挫するが、それでも、女児の母親は妻の能力にいたく感動する。皮肉にも子供を失うという傷を共有し慰め合う女児の母親と妻。その後、刑事たちが夫婦の家を訪問する。夫は手に負えなくなった女児を森に置き去りにしてきたばかり。刑事たちは女児の居場所を妻に相談する。それは妻の霊媒能力を高く評価した女児の母親の勧めがあったからなのだ。刑事たちのまえで妻の交霊が始まり、死んだ息子の霊が妻に憑依する。しかし、夫は知っている。じつは死んだ息子というのは存在せず、妻は流産したことを悲観して妄想の息子を作りあげていることを。だから、妻は霊媒のフリをして、女児の捨て去られた森の居場所を宣告すればいいだけなのだ。だが、妻の口からついてでたのは、存在しない息子が見た光景。それは夫婦が女児を誘拐したことの示す証言だった――。

スパイものの『ホップスコッチ』もそうだったが、この監督の脚本はプロットが練り上げられている。だからリメイクもし易い。本作はタイトルだけ見れば、怪奇ものかと思いきや、意外にスリラーとしてドンドン推してゆく。Ｊホラーのマンネリ化に当時、食傷気味だったであろう黒沢監督が本作に目をつけた理由もうなずける。監禁していた少女が病気になって計画が狂いだすという点は、ワイラーの『コレクター』（‘６５）に共通するが、こちらの方が一足早い。ラストのオチもいまの観客なら、かなり前半で読めてしまうが、ポーの『黒猫』などに通じるラストの怪奇現象によって犯罪が露見するというドンデン返しはビックリだけに終わらない。子どものいない夫婦の悲哀が、演出家の腕の見せ所となって味わい深い。これも黒沢監督がこだわるテーマのひとつだ。

『遠すぎた橋』（‘７７）、『ガンジー』（‘８２）、『コーラスライン』（‘８５）など監督としては二流だが、『大脱走』（‘６３）『飛べフェニックス！』（‘６５）『１０番街の殺人』（‘７１）なんて小心者を演じさせれば右にでるものがないリチャード・アッテンボローと演劇界の実力派女優のキム・スタンレーの演技合戦。天才ジョン・バリー（ジェームス・ボンドのテーマのひと！）の音楽。イギリスらしい冬の風景や空気を切り取ってみせるシャープな撮影。空き地で遊ぶ男児たちの風景や階上に立つパジャマ姿の女児の白い影！がイイ。当時のイギリス映画の質感や色合いが、カラー、モノクロを問わずに似ているのは使用するフィルムがそうさせるのか、それともその風土に合わせた撮影フォーマットがあるのか？技術的なことはよく判らないが、とにかくイギリス人でない監督が撮ってもイギリスって判るのが不思議。（ワイラーの『コレクター』やカレル・ライス『蜜の味』（‘６１）フライシャーの『１０番街の殺人』、ペキンパーの『わらの犬』（‘７１）ですら）地味だけどイギリス映画の贅沢さを堪能できるフィルム。渋い。

http://www.youtube.com/watch?v=W6dbk6RXALI