したり映画帖コミュの『ピラミッド』‘５５

監督ハワード・ホークス、脚本ウィリアム・フォークナー、ハリー・カーニッツ、撮影リー・ガームス、ラッセル・ハーラン、音楽ディミトリ・ティオムキン

ハリウッドの旧作がつぎつぎとＤＶＤ化されるなか、なぜかこの作品は取り残されている。それもハワード・ホークス作品で一流スタッフ揃いのシネスコ・カラー大作なのに。たしかに出演陣は有名なのはファラオ役のジャック・ホーキンスぐらいなので、往年のハリウッド的な派手さには乏しいのでいまのひとには話題性がないのかもしれないけど。それにしても、こんな大傑作が日蔭に埋もれているというのは残念でならない。ホークス作品という括りでいえば、数年前にフィルムセンターで大々的な回顧展が開催されたなかでも、突出したものとは言い難いかもしれないが、でも、傑作には違いないと保証する。ホークスを敬愛するジャック・リヴェットのフィルムにある“陰謀”というテーマは、確実にこの作品の影響下にある。必ず物語の背後には、その進行を操る人物がいるのだ。その理知的で、どこかゲームのような遊戯性が、残酷な運命を歯車のように寸分の狂いもなく回転させる。それをクライマックスのシーンで鮮やかに視覚化させるという大胆な構造は、脚本の勝利でもあり、ホークスの天才性でもある。ここで描かれるのは、ある人物の愛憎の激変や微妙なすれ違いなぞではない。ただ、人間のいる世界が描かれているだけなのだ。それがこのフィルムのとっつきにくさを引き寄せている要因なのかもしれない。観客は感情移入できる人物を探しだすまえにあけっけなく世界の起承転結を見せられてしまう。だからこそ、これは奇跡のような傑作なのだ。必見！