したり映画帖コミュの『ブラックダリア』‘０６

監督ブライアン・デ・パルマ、撮影ヴィルモス・ジグモンド、音楽マーク・アイシャム

デ・パルマってホント損なひとだなと思う。頭は悪くはないんだろうけど、ダサい。何かの間違いでロバート・ゼメキスのような傑作を撮ったりする事はまずない。心から賛辞を送りたくなるような大傑作を撮ることも決してない。だけど、そんなブライアンが気になる。それはまるで、小学校から知っている決して美人とはいえない地味で目立たないクラスメートが、中学校の教室で消しゴムを拾ったときに見せた胸元の膨らみにドキリとオンナを感じてしまって以来、その娘の事が気になってしょうがなくなったような胸騒ぎに似ている。

どちらかといえば好きになれない『アンタッチャブル』で正統派の巨匠のように評価され、本人も悪い気がしなかったのか、勘違いしたように『カジュアリティーズ』なんてアカデミー賞狙いの作品を撮ったり、大作『虚栄のかがり火』みたいに酷評の総スカン喰らって痛い目に遭っても、それほど擁護したいと思わせなかった。ブライアンには悲愴感が欠けていたのだ。

何度もアカデミー賞を逃していたスコセッシがようやくオスカー像を手にいれられたのは、加齢臭のように漂わせたあまりの悲愴感に、愚鈍なアカデミー会員もさすがに不憫に思ったからだろう。更に『ディパーテッド』なんて駄作で受賞してしまうなんて、スコセッシ自身も苦虫を噛み潰したような表情を棺桶まで持ってゆく事になるだろう。しかし、ブライアンはそんな不幸からは縁遠い。いい歳して平気で『ファム・ファタル』なんてのを撮ってしまう。それが損なひとだと思わせる所以なのだ。

スコセッシより三歳年上のこのオッサンにはどこかオプティミスティックな天真爛漫さがある。『悪魔のシスター』や『キャリー』『フューリー』なんてホラーを撮っているものの、ウェス・クレイブンのような知的な屈折がないのがブライアンの愛すべき作家的性質なのである。スケベ、サスペンス、サディズムのスリー“Ｓ”を一本の作品に込める事がブライアンの単純明快な身上だ。オッパイを出して、ハラハラドキドキさせて、残虐シーンを見せれば映画は成立するというあまりにもシンプルな映画原理は、“女と車があれば映画はできる”と言ったゴダールの明晰な映画原理に匹敵する。（ホンマか！）

『ブラックダリア』もご多分に漏れず、スリー“Ｓ”が盛り込まれている。Ｖ・ジグモンドの華麗なクレーン撮影で始まる冒頭の暴動シーンや死体発見シーンなどではブライアン印が炸裂しているが、小器用さもないのに有名な原作をうまくまとめようとして見事に失敗している。脚本にも問題があるのだろうが、惹句にもなっている“世界一有名な死体”というお話は活かされておらず、ストーリーを絞り切れずにいる。だったら３時間を超える大作への野心を見せればいいものの、あいにくブライアンには『天国の門』のマイケル・チミノや『地獄の黙示録』のコッポラのみたいに、作品自体が破滅を目指してしてしまうような作家的狂気を持ち合わせてはいない。その慎み深さがまた憎めない。オッパイこそ見せなかったけど、シュミーズ姿で振り返るスカーレット・ヨハンソンはエロかった。このシーンを、階段を利用して視線の演出をするブライアンは、やっぱり気になる。しかし、ヒラリー・スワンクはブス女優なのだから、脱ぎっぷりのよさで勝負をして欲しかった。スッポンポンで階段を下りてくるとか、毛皮のしたには何も身に着けていなかったとかいくらでもやりようがあったはずなのに、そういった弱点までブライアンをほっとけないひとにする。

映像派を売りにするひとは年負うごとに作品の面白味が減退する、スコセッシもそうだし、ダリオ・アルジェントやもしかするとベルトルッチも同じ部類なのかもしれない（全員イタリア系だ！）。若気の至りとも呼べるようなハチャメチャさが妙な訳知り顔となって影を潜め、洗練さを前面に押し出そうとして失敗している。しかし、ブライアンは何故かその陥穽から逃れられている。贔屓の引き倒しではない。特性や個性が通俗性とマッチングしてしまうという意味においてＢ級作家であるということを、無自覚ながら体感しているのである。そこがブライアンの気になる理由なのだ。このオヤジは天真爛漫なのだ。否、もしかすると単なる馬鹿なのかもしれない。（７５点）

コメント(2)

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[1] mixiユーザー 05月02日 08:32

やっぱイタリア系って歳とってくるとメタボ化してきて、若い頃のアクロバッティンングなカメラワークとか出来なくなってくるのかしらん？？でも良い歳して・・・とか言おうとすると、気付けば映画界は老人が元気！？去年はこのデ・パルマやイーストウッド、そしてトミー・リー・ジョーンズ・・・そして今年はスタローン。良い意味でも悪い意味でも高齢化社会ですな＾＾

[2] mixiユーザー 05月03日 10:41

確かにメタボっているんだけど、痩せぎすのイタリア人って何だか信用置けないような気もする。
ナンニ・モレッティとか……。
あ、でも、マルコ・ベロッキオってのもいるなあ。
マルコ・フェレーリも……。
そもそも映像派のひとたちが大好きなヒッチコックは最初からかなりのメタボだったし……。

イーストウッドやＴ・Ｌ・ジョーンズ、スタローンって役者やってたから強いのかな。
頭脳というより、身体で映画を撮ってるって感じがあるもんなあ。

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