したり映画帖コミュの『「エロ事師たち」より　人類学入門』‘６６

監督今村昌平、主演小沢昭一、原作野坂昭如

原作の『エロ事師たち』が大好きだ。お気に入り小説のベスト１０に入るぐらい。主演の小沢昭一が大好きだ。この人が出ているだけで、その作品が観たくなる。エッセイもいい。

これだけ好条件が揃った本作だけど、思ったより楽しくなかった。今村昌平とは相性があまりよくないのだろう。初期の『盗まれた欲望』『果てしなき欲情』『にあんちゃん』『豚と軍艦』は主演の長門裕之が素晴らしく（日本のジャン＝ピエール・レオーだ！）、傑作だと思う。『にっぽん昆虫記』辺りからどうも駄目で、カンヌグランプリの『楢山節考』なんて最低だ。小津安二郎の不遜な弟子であり、川島雄三の正当な後継者の今村が日本を代表する監督になっていることは、うなずけるのだが、脚本のみに係わった西村昭五郎の『競輪上人行状記』が最高傑作だと信じてやまない。

小沢昭一扮する主人公は、仲間とブルーフィルムを製作して生業を立てている。ブルーフィルムとは、当時違法であった裏のポルノ映画のこと。居候先の寡婦の大家（坂本スミ子が素晴らしい）といい仲になり、内縁の夫の座に納まったのはいいものの、大家の連れ子で年頃の息子と娘が反抗的で、家庭内はてんで幸福とはいえない。それでも昭一は家計のためにブルーフィルム製作に心血を注ぐ。あるとき、ポックリと妻が逝ってしまった。消沈する昭一だが、残された義理の子供たちのために、新しく大人のオモチャの研究に打ち込み始める。精巧なダッチワイフの開発だ。昭一はダッチワイフに亡き愛妻の面影を再現させようとするのだが、次第に、ひとつ屋根のしたに暮らす義理の娘にその面影を見つけだす――。（後半は原作と違っている）

昭和の、貧しくて這いずるように生きている人間の、エゲツなくも逞しい姿を謳いあげる野坂の原作は、まさに重喜劇派の今村にとっては格好の題材のはずなのだが、『競輪上人行状記』と違って、鈍重な印象が強い。当然面白い。しかし、この時代の作品ならこのくらいの面白さは少なくない。今村が得意とするシンボリックな動物のイメージがこの作品辺りから見受けられる。本作は水槽に飼われている泥鮒なのだが、これがダサイのだ。『うなぎ』でもリサイクル使用されているが、どうもつまらない。こうゆう表現を有り難がるひとがいるんでしょうな、きっと。ベルイマンも同類か。（７０点）