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オモロイ坊主を囲む会.コミュの『北朝鮮托鉢行』(3)

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第一章 北朝鮮到着

 二〇〇四年十一月十六日、俺は北京から空路、念願の北朝鮮へと旅立った。
 十一時三十分北京発JS一五二便、機内はほぼ満席で、ほとんどの人が朝鮮語を話しているようだ。俺の隣に座っているカメラマンの久保田は、TBSの依頼を受けて、「オモロイ坊主」が北朝鮮の僧侶や「よど号」グループと接触する様子を取材するために同行している。彼はアフガニスタンやイラクなどの戦場を、カメラを担いでくぐり抜けてきた男で、本人は出発前に「正直なところ、北朝鮮だけは行きたくないと思っていた。銃弾や砲弾とは違う、訳の分からない不気味さがある」などと言っていたが、英語も話せるようだし、旅慣れているし、俺にとっては心強い限りだ。
 
昨晩は特にすることもないので早めに寝たのだが、夜中の二時くらいに目が覚めてしまい、朝までろくに眠れなかった。やっと北朝鮮へ行けると思って心が騒いでいるのか、気が動転しているのか、まるで小学生のときに修学旅行で初めて泊りの経験をする前の晩のようだ。ミャンマーやラオス、カンボジアなどタイ周辺諸国だけでなく、インドやスリランカ、韓国、中国、オーストラリアなどを比丘として旅してきた俺だが、さすがにあの国への入国を目前に控えて緊張しているらしい。
 
平壌空港は北京から三時間ほどのフライトだ。その間に機内食もサービスされたが、俺は正午過ぎの食事を戒で禁じられた身の比丘、客室乗務員に配膳を断り隣の席に座っている久保田の機内食セットを覗いてみたが、あまり美味しいそうには見えなかった。機内の客室乗務員は、若くて綺麗な女性ばかりなのだが、皆が皆、同じように眉毛を剃り、同じ睫毛をつけ、同じように口紅を塗って、まるでマニュアルに書いてあるかのような化粧をしている。その綺麗だけど能面のような表情は俺の頭の中に、テレビで見た「喜び組」の姿を思い出させた。
 
予定通り平壌空港へ到着。空港の規模はタイの地方都市の小さな飛行場よりも、さらに小さい感じだろうか。久保田曰く「空爆を受けた後のバグダッド空港よりボロい」とのことで、タイの空港と比較するよりも、今の日本人にはこっちの表現のほうがイメージしやすいのかも知れない。
 
心配する事もなく、あっけないほど簡単に入国審査を済ませ(俺はロクに英語も話せないのに、これまで多くの国の入管をなんとも思わずに通過してきたが、この国は今までのようにはいかないぞ・簡単には入国させてくれないのではと、内心ビクビクものだった)荷物を受け取るべくターンテーブルへ向かって行って驚いたのは、その荷物の多さだ。乗客の数から考えると一人四、五個の荷物を預けていることになるのではないだろうか。「よう、こんだけの荷物を積んで飛行中に堕ちなかったな」と呆れてしまうほどの量で、テレビやステレオから電気炊飯器・等・等・・・なんでもあり・・・きっと物不足で困っている北朝鮮の人たちに頼まれ、お土産として持ち込まれた品物なのだろう。でも不思議だったのはその荷物を、X線検査機に通して中味のチェックはするが税金検査は一切無し、つまり何を持って入っても税金はかからないような様子だ、いったいどうなっているのだろうか?そんなこんなで俺たちが荷物を受け取るまでに一時間ほどかかってしまった。
 
税関を抜けると、早速日本語で35〜6歳のチョット陰気臭い感じのコートを着た男に「藤川先生ですか?」と話しかけられた。俺たちが出国手続きを終え空港のロービーに出てくるのを待ち構えていた通訳兼ガイドの男だ。初対面の挨拶もそこそこにして早速その二人の通訳兼ガイド(兼監視役?)と運転手一人に連れられ、ワンボックスカー(日本製のトヨタ)に乗って市内へと向かう。ちなみに北朝鮮では入国の際に携帯電話を預けなければならず、事前にその話を聞いていた俺は日本を出るときに知人に預けてきたので特にその必要はなかったが、空港から市内へ向かう車の中で通訳に預けたパスポートや帰りの航空券は、とうとう帰国日まで返されることはなかった。
 
初めて見た平壌の街並みの印象を羅列すると、陰気、静か、覇気がない、暗い、寂しいといった言葉が並ぶ。運悪く雨が降っていたせいかも知れないし、俺が太陽の光溢れる「マイペンライ」の国、タイから来たせいなのかも知れない。街の中心に大同江が流れる平壌市内の景色は綺麗と言えば綺麗なのだが、やはりどこか寂しい。街を歩く人も、その立派な建物の並ぶ、道路幅が馬鹿広く整然とした街並みと比較して数が少ないし、おとなしいというか真面目な雰囲気だった。俺は隣で街並みにカメラを向けている久保田に『ズバリ言って、綺麗だけど人工的で人間臭さのまったく感じられない街だな』と呟いた。
   
何よりも初日の北朝鮮の印象として強く心に残ったのは、出会った人々の表情だ。機内の客室乗務員、空港の係員、通訳、運転手、ホテルの従業員、誰もが表情が堅く、仮面をかぶっているようで、その下の素顔が見えてこない。特に女性は綺麗な人が多い分、かえってその冷たさが強調されてしまい、笑顔を向けられても馬鹿にされているようにさえ感じてしまう。
 「この女の化けの皮をはがしてやりたい」
 出家前、気取った美人を見ると裸にしたくなる衝動に駆られ、実際ほとんどそうしてきた俺だが、作り上げられた美しさを持つ北朝鮮の女性たちを前にして、一瞬同じような感情を抱いてしまった。テーラワーダ仏教では、セックスはもちろん、女性に障ることや性欲を持つことも戒律で禁じられていて、こんな事を思うだけでも厳密に言うと戒律違反だ。
 
それはともかくとして、通訳の二人とは明日から少しずつ仲良くなって、人間同士として話をしてみたいものだ。そして何よりも北朝鮮の僧侶と話がしたい。
「金さんとお釈迦さんとどちらが偉い尊敬できる人だと思っているか」と聞いてみたい。久保田が平壌空港で出会った欧米人から聞いたところによると、山の奥のほうにあるお寺にとても立派なお坊さんがいらっしゃったとのことなので、楽しみだ。
 
苦労してビザを取って北朝鮮に来た以上、何かつかんで帰りたい。今後俺がブッダの弟子として生きていく上で役に立つ何かを見つけたい。どんな体制の中であろうとも、人間が生きている以上、どこかに宗教心を垣間見ることができるはずだ。初日の時点では、俺は不安よりも期待のほうが大きかった。
 
その日の夜はホテルから車に乗って、神仙炉という朝鮮の鍋料理を食べに出かけた。と言っても俺は戒律で、太陽が西に傾きだしてから翌朝太陽が昇り始めるまで食べ物を口にすることができない。食事に出かけても座ってお茶を飲むしかできないが、一晩だけは付き合うことにした。
 
街並みに寂しさを増幅させていた雨は夕方には止んでいたが、夜の平壌はますます寂しかった。夜道には街灯が全くなく、ヘッドライトだけが光る真っ暗闇を車が進んでいくのである。俺が通訳に「真っ暗やな」と言うと、通訳からは「星が良く見えるでしょう?」という即答が返ってきた。

明くる朝、食堂で久保田と二人きりで向かい合った時に、久保田が『藤川さん昨日車の中で“人間臭さの感じられない街だな”と言ったでしょう。昨夜食事が終わってホテルへ帰って来てから、明日からの旅の便宜を図るために、通訳たちを誘って3人で日本から土産に買って来た酒を酌み交わしたのですが、その時あの2人が“藤川さんが言った、人間臭さの感じられない街”と言うのは、どう言う意味ですか?とヒツコイほど聞かれましたよ』と、聞かされた。そうなんだ彼達は通訳兼ガイドの役目の他に、俺たちの言動を監視しチェックするための役を命じられて、俺たちに同行しているのだ、今後は言動に気をつけないと、と改めて特殊な体制の国へ来て居る事を意識し直した。結局、この通訳兼ガイドと運転手の3人組は、俺たちが平壌空港から帰りの飛行機に乗って北京へ発つまで、夜も家にも帰らず一緒のホテルへ泊り込み、何処へ行くのも俺たちにズーット付ききりだった。その内の一人の通訳の家は、俺たちが平壌で泊まって居たホテルの窓から見える距離にあるにもかかわらずにだ。夜にホテルの部屋からロービーへ出てウロウロしていると、必ず二人の通訳の内の一人が音も無く何処から寄ってきて『何処へ行きたいのですか?』と聞くのには恐れ入った。このとき“そうだ俺たちは監視されているのだ!”と改めて強く感じた。(続く)

コメント(1)

力作ですね〜。
本件、カメラマンの久保田さんと、出版の企画しようと思っております。

シャカの格言と、写真を交えてたビジュアル系を。
どなたか、出版社お心当たりあればお知らせくださいませ。

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