伊予国喜多郡大洲の地は、肱川(ﾋｼﾞｶﾜ)中流の盆地であり、河港があった事から元来は大津と呼ばれていた。川の北岸には富士山に似た山容の冨士山(ﾄﾐｽﾔﾏ；標高320ｍ)が聳える。大洲盆地は霧の発生日数が年平均100日にも及んで日照時間が少なく、肱川が頻繁に氾濫するため、農業には厳しい条件の地であった。冬季には大洲盆地で涵養された冷気が霧を伴って肱川沿いを一気に強風となって流れ出す「肱川あらし」が発生する事でも知られる。
伊予を南北につなぐ大洲街道・宇和島街道の結節点にあり、また東には四国山脈を抜けて土佐国に出る街道がある。すぐ西には外港とも言える八幡浜があり、古来交通の要衝であった。
源平合戦の際には河野通信が肱川と久米川の合流点にあたる地蔵ヶ岳に平山城の比志城を築き、平家方の田口成直を撃破している。
鎌倉時代には伊予守護・喜多郡地頭宇都宮氏の被官である大豆(ｵｵﾂﾞ)氏と呼ばれる土豪の住む地であったが、豊前守護宇都宮頼房の三男宇都宮豊房(1293〜1369)が元徳２(1330)年に伊予守護宇都宮貞宗の養子となって守護職に任じられ、翌年入国した際に比志城を改修して大津城(地蔵ヶ岳城or根来山城)を築き、拠点とした。
なお、宇都宮貞宗は現在の今治市に当たる伊予府中を拠点としており、隠居後も府中に居住していた。また、貞宗の父で元伊予守護の貞泰も存命で、豊房と共に大津城に入った。
大津築城の際、城の下手の高石垣が何度積んでもすぐに崩れ、「これは、神の祟りに違いない」との噂が広まったため、石垣の下に人柱を立てる事となった。そこで籤引で選ばれたのが「おひじ」という若い娘で、不憫に思った豊房が「何か言い残すことはないか」と尋ねたところ、おひじは「この城下を流れる川に、私の名前を付けて欲しい」と言い残し人柱に立った。間もなく出来あがった高石垣は二度と崩れなくなり、城も立派に建った。そこで豊房はおひじの遺言通り、城下に流れる川を肱川と名付け、おひじの魂を慰めたとの民話が伝わっている。
元弘３(1333)年２月に反幕蜂起した忽那(ｸﾂﾅ)氏や三島大祝(ﾐｼﾏｵｵﾎｳﾘ)氏は府中の宇都宮貞宗を攻撃して降伏させた後、３月に大津城も攻めて貞泰・豊房も屈服させた。
南北朝時代が始まると、伊予宇都宮氏は当初南朝方に属し、建武３(1336)年、懐良(ｶﾈﾖｼ)親王が征西大将軍に任ぜられて西下した際には、宇都宮貞泰はこれを援助している。しかし、やがて貞泰は足利方に寝返って上洛、引付衆・評定衆と言った幕府要職を歴任した。貞泰の子のうち、長男貞宗・次男義綱・五男宗泰は足利方、三男貞久・四男貞邦は南朝方となっている。
宇都宮豊房には子が無かったため、養祖父貞泰の五男宗泰が養子となって伊予宇都宮氏を継承、以後、その子孫が代々大津城を拠点とする国人領主として守護細川氏や河野氏に仕える事となった。
戦国時代末期になると、守護家当主の湯築城主河野通宣(ｺｳﾉﾐﾁﾉﾌﾞ；1522〜81)と宇和郡黒瀬城主の西園寺公広(ｻｲｵﾝｼﾞｷﾝﾋﾛ；1537〜88)が中国の覇者毛利元就と結んで宇都宮氏に圧迫を加えて来たため、大津城主宇都宮豊綱(1519〜85)は土佐の権中納言一条兼定(1543〜85)・豊後の大友宗麟と結んでこれに対抗していた。
永禄10(1567)年、河野通宣は家臣の村上通康・平岡房実に命じて宇都宮豊綱を攻めさせ、宇都宮氏の属城を次々に攻略して、大津北方の上須戒城をも奪取した。このため、一条兼定は宇都宮氏救援軍を北上させ、河野軍との間で明間合戦と呼ばれる小競り合いが続いたが戦局は一条軍優勢で、河野方だった西園寺公広も一条軍の軍門に下る事態となった。
このため村上通康は毛利元就に援軍を依頼、元就の命を受けた小早川隆景が永禄11(1568)年３月に出陣を敢行したため戦局は逆転し、毛利軍の猛攻を受けた大津城は陥落して宇都宮豊綱は逐電している。
だが、４月になり大友宗麟が北九州平定を目指して豊前・筑前に出兵すると、毛利元就はそちらへの対応を重視せざるを得なくなり、６月には小早川隆景は北九州戦線に転じている。このため宇都宮豊綱は大津城奪回に成功した。
しかし同年11月、毛利元就は乃美宗勝(ﾉﾐﾑﾈｶﾂ；1527〜92)に命じて再度伊予出兵を断行、大津城は陥落して宇都宮豊綱は毛利氏の捕虜となり、伊予宇都宮氏は滅亡してしまったのである。
その際、隠居した河野通宣の後を襲った河野通直(1564〜87)は豊綱の娘婿であった大野直行を大津城主としたが、直行は土佐の長宗我部元親に通じて天正２(1574)年に河野通直から独立を宣言、長宗我部軍の支援を受けて実兄大野直昌麾下の河野軍を撃破している。
その後、大野直行は河野通直に帰参したが、天正13(1585)年、関白豊臣秀吉の命を受けた小早川隆景が伊予に出兵すると、直行は河野通直と共に降伏、大津城は伊予一国350000石を与えられた小早川隆景の属城となり、隆景の養子秀包が35000石で城主となった。
天正14(1586)年、隆景が筑前名島371300石に転ずると、翌年、秀吉譜代の戸田勝隆が100000石で大津城主となり、天正16(1588)年には黒瀬城主西園寺公広を謀殺している。
文禄３(1594)年、文禄の役からの帰国途中の勝隆が病没すると、子が無かったため戸田氏は改易され、翌文禄４(1595)年、近江佐々木六角氏一族の池田秀雄が20000石で大津城主となった。慶長３(1598)年、秀雄が慶長の役の陣中で病死すると、その子秀氏が城主の地位を継承した。この間、慶長２(1597)年に日本軍の捕虜となった朝鮮王国随一の朱子学者姜��(ｷｮｳｺｳ；1567〜1618)が翌年まで大津に抑留されている。
慶長５(1600)年の関ヶ原合戦の際、池田秀氏は西軍に組したため改易され、大津城は伊予国府200000石藤堂高虎(1556〜1630)の属城とされて、丹羽長秀の子で高虎の養子となっていた藤堂高吉(1579〜1670)が城代となった。
この時期に大津城は近世城郭として大改修されている。北と東は肱川に臨み、南から西にかけて二重の堀が巡らされて、本丸の外、二の丸・三の丸が設けられ、小規模ながら堅固な縄張りを持っていた。天守閣は複合連結式層塔型四重四階であった。
高虎治下で城下町の整備も進み、慶長10(1605)年に塩売買エリアとして塩屋町が設けられた外、三の丸の北側に町人町が拡充されて行った。なお、武家屋敷は三の丸にあった。
慶長13(1613)年、高虎は伊勢国安濃津に転じ、翌年、賤ヶ岳の七本槍の一人脇坂安治(1554〜1626)が53500石で大津城に入ったが、その子安元は元和３(1617)年に信濃国飯田藩に転封となり、代わって美濃出身の外様加藤貞泰(1580〜1623)が伯耆国米子から60000石で入封した。
元和９(1623)年、貞泰は跡目の届け出をしないまま急死したが、嫡男の泰興が２代将軍徳川秀忠の特別の配慮で相続を認められた。この際、次男の直泰が幕府から10000万石分知の内諾を得て新谷(ﾆｲﾔ)藩が成立したが、これを認めようとしない本藩との間で騒動が続き、寛永16(1639)年に至って藩内分知という事で漸く決着した。但し、幕府は新谷藩公認を続けたため、新谷藩主は陪臣の身でありながら大名と公認される全国唯一の例となった。
また、陽明学者中江藤樹(1608〜48)は寛永９(1632)年に大津藩から新谷藩に配置換えになった藩士であったが、寛永11(1634)年に脱藩した人物である。脱藩後も藤樹を慕う大津藩士は多く、近江の藤樹書院を訪ねて入門する者や、書簡で教えを請う者が続出、大津藩に好学の気風を根付かせる事となった。
なお、加藤泰興は戦国時代末期から大津と併用されて来ていた「大洲」を藩名と正式決定している。
以後、廃藩置県まで加藤家の支配が続くが、毎年繰り返される肱川の水害のため藩財政は常に逼迫しており、領民には重税が課せられたため、幕末までに10回も百姓一揆が勃発、特に寛延３(1750)年、７代藩主泰武の時に起きた内ノ子騒動は18000人もの農民が参加する大規模なものであった。
一方、中江藤樹の影響もあって陽明学が盛んな藩でもあり、５代藩主加藤泰温(ﾔｽｱﾂ；任1727〜45)は陽明学者川田雄琴(ﾕｳｷﾝ；1684〜1760)に藩校設立を命じ、６代藩主泰衑(ﾔｽﾐﾁ)の代になった延享４(1748)年、伊予の他藩に先駆けて藩校止善書院明倫館が落成、雄琴の子孫が教授職を世襲したが、寛政12(1800)年に寛政異学の禁で陽明学が禁止されたため、教学を朱子学に改めている。また、八幡神社神官の常盤井厳戈(ﾄｷﾜｲｲﾜｼﾎｺ)が設立した私塾の古学堂では国学が教授された。止善書院明倫館からは箱館五稜郭設計者の武田斐三郎(ｱﾔｻﾌﾞﾛｳ；1828〜1880)、古学堂からは安政５(1858)年に日本初の電信実験を成功させた三瀬諸淵(ﾐｾﾓﾛﾌﾞﾁ；1839〜1877)等の逸材が輩出している。国学者矢野玄道(ﾊﾙﾐﾁ；1823〜87)も大洲藩出身である。
嘉永６(1853)年、加藤家第12代藩主となった泰祉(ﾔｽﾄﾐ；1844〜64)は尊王攘夷派の立場を取り、元治元(1864)年に泰祉21歳の若さで死去した後を襲った弟の泰秋(1846〜1926)も尊王攘夷派大名として知られ、倹約や家臣の知行削減を行なって財政再建や軍備増強に尽力している。
慶応３(1867)年12月の小御所会議に際して泰秋は率兵上京して御所の警備に当たり、慶応４(1868)年１月の鳥羽伏見の戦いでは警備する摂津国西宮へ長州藩兵を隠密に上陸させて新政府軍勝利に貢献した。さらに、甲府城警備や奥羽討伐など、新政府側に与して活躍し、明治天皇の東京行幸(事実上の遷都)では行幸行列の前衛を務めた。
藩執政として若き藩主泰秋を支えたのが山本尚徳(ﾋｻﾉﾘ；1826〜1871)で、明治３(1970)年には大参事に就任して、近江から桑苗を取り寄せて無償で民家に配布したり、茶の栽培を奨励して宇治から製茶工を雇い入れるなど、民生に尽力した。
しかし、相次ぐ新政府の新規施策に対する農民の反発が強まる中、明治４(1871)年７月に廃藩置県が断行され、旧藩主加藤泰秋が東京居住を命じられると、泰秋の東京移住は大参事山本尚徳の陰謀であるとのデマが飛び交い、40000人もの農民が泰秋の東京移住反対を叫んで肱川河原に集結する大洲騒動が勃発、城下の町人達は家財道具を持って他郷へ避難する事態となった。
このため旧藩主加藤泰秋自身が農民の説得に向かったが効果は無く、８月15日に至って山本尚徳は騒動の責任を取って自刃、農民達は翌日解散した。なお、最後の藩主加藤泰秋は子爵に叙され、大正天皇の侍従を務めた後、大正14(1925)年に大洲城三の丸に居を構え、墓も東京ではなく歴代藩主菩提寺の臨済宗妙心寺派龍護山曹渓院に設けられている。
廃藩によって大洲藩は大洲県とされたが、同年11月に宇和島県に併合され、明治５(1872)年６月に神山(ｼﾞﾝｻﾞﾝ)県と改名された後、明治６年２月に石鉄(ｲｼﾂﾞﾁ)県と合併して愛媛県喜多郡大洲町となった。
なお、大洲城天守閣と一部の櫓は地元住民の活動によって廃城後も保存されていたが、天守閣は老朽化と構造上の欠陥のために明治21(1888)年に解体されてしまった。
明治40(1907)年には新谷出身の豪商河内寅次郎(ｺｳﾁﾄﾗｼﾞﾛｳ)が肱川に面した風光明媚な景勝地に臥龍山荘を建てている。
大東亜戦争中の昭和18(1943)年と20(1945)年に肱川が未曾有の大洪水を起こし、町は大損害を受けたため、肱川上流に鹿野川ダムが建設される事となり、昭和34(1959)年に完成した。
昭和29年に周辺の村と合併して市制が施行されると、観光業に力が入れられ、昭和32(1957)年には肱川で観光鵜飼事業が開始され、昭和41(1966)年にはＮＨＫ朝ドラ『おはなはん』の舞台となるなど、次第に観光地として脚光を浴びるようになり、平成16(2004)年には大洲城天守閣が木造で原型通り復元された。
冨士山には市の花に指定されたツツジが60000本も植えられ、市街地南方の山中にはフラワーパークおおずが設けられるなど、四国有数の花の名所としても知られる。
＋大洲城跡
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＋中江藤樹の邸跡
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＋川田雄琴一家の墓
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＋八幡神社社叢
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＋如法寺のツバキ
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・如法寺
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・大洲藩主加藤家墓地
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・加藤光泰霊廟並びに大洲藩主加藤家墓所
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・止善書院明倫堂跡
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・山本尚徳邸跡
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・臥龍及び亀山公園
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・古学堂跡
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＊陣屋町伊予新谷
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伊予を南北につなぐ大洲街道・宇和島街道の結節点にあり、また東には四国山脈を抜けて土佐国に出る街道がある。すぐ西には外港とも言える八幡浜があり、古来交通の要衝であった。
源平合戦の際には河野通信が肱川と久米川の合流点にあたる地蔵ヶ岳に平山城の比志城を築き、平家方の田口成直を撃破している。
鎌倉時代には伊予守護・喜多郡地頭宇都宮氏の被官である大豆(ｵｵﾂﾞ)氏と呼ばれる土豪の住む地であったが、豊前守護宇都宮頼房の三男宇都宮豊房(1293〜1369)が元徳２(1330)年に伊予守護宇都宮貞宗の養子となって守護職に任じられ、翌年入国した際に比志城を改修して大津城(地蔵ヶ岳城or根来山城)を築き、拠点とした。
なお、宇都宮貞宗は現在の今治市に当たる伊予府中を拠点としており、隠居後も府中に居住していた。また、貞宗の父で元伊予守護の貞泰も存命で、豊房と共に大津城に入った。
大津築城の際、城の下手の高石垣が何度積んでもすぐに崩れ、「これは、神の祟りに違いない」との噂が広まったため、石垣の下に人柱を立てる事となった。そこで籤引で選ばれたのが「おひじ」という若い娘で、不憫に思った豊房が「何か言い残すことはないか」と尋ねたところ、おひじは「この城下を流れる川に、私の名前を付けて欲しい」と言い残し人柱に立った。間もなく出来あがった高石垣は二度と崩れなくなり、城も立派に建った。そこで豊房はおひじの遺言通り、城下に流れる川を肱川と名付け、おひじの魂を慰めたとの民話が伝わっている。
元弘３(1333)年２月に反幕蜂起した忽那(ｸﾂﾅ)氏や三島大祝(ﾐｼﾏｵｵﾎｳﾘ)氏は府中の宇都宮貞宗を攻撃して降伏させた後、３月に大津城も攻めて貞泰・豊房も屈服させた。
南北朝時代が始まると、伊予宇都宮氏は当初南朝方に属し、建武３(1336)年、懐良(ｶﾈﾖｼ)親王が征西大将軍に任ぜられて西下した際には、宇都宮貞泰はこれを援助している。しかし、やがて貞泰は足利方に寝返って上洛、引付衆・評定衆と言った幕府要職を歴任した。貞泰の子のうち、長男貞宗・次男義綱・五男宗泰は足利方、三男貞久・四男貞邦は南朝方となっている。
宇都宮豊房には子が無かったため、養祖父貞泰の五男宗泰が養子となって伊予宇都宮氏を継承、以後、その子孫が代々大津城を拠点とする国人領主として守護細川氏や河野氏に仕える事となった。
戦国時代末期になると、守護家当主の湯築城主河野通宣(ｺｳﾉﾐﾁﾉﾌﾞ；1522〜81)と宇和郡黒瀬城主の西園寺公広(ｻｲｵﾝｼﾞｷﾝﾋﾛ；1537〜88)が中国の覇者毛利元就と結んで宇都宮氏に圧迫を加えて来たため、大津城主宇都宮豊綱(1519〜85)は土佐の権中納言一条兼定(1543〜85)・豊後の大友宗麟と結んでこれに対抗していた。
永禄10(1567)年、河野通宣は家臣の村上通康・平岡房実に命じて宇都宮豊綱を攻めさせ、宇都宮氏の属城を次々に攻略して、大津北方の上須戒城をも奪取した。このため、一条兼定は宇都宮氏救援軍を北上させ、河野軍との間で明間合戦と呼ばれる小競り合いが続いたが戦局は一条軍優勢で、河野方だった西園寺公広も一条軍の軍門に下る事態となった。
このため村上通康は毛利元就に援軍を依頼、元就の命を受けた小早川隆景が永禄11(1568)年３月に出陣を敢行したため戦局は逆転し、毛利軍の猛攻を受けた大津城は陥落して宇都宮豊綱は逐電している。
だが、４月になり大友宗麟が北九州平定を目指して豊前・筑前に出兵すると、毛利元就はそちらへの対応を重視せざるを得なくなり、６月には小早川隆景は北九州戦線に転じている。このため宇都宮豊綱は大津城奪回に成功した。
しかし同年11月、毛利元就は乃美宗勝(ﾉﾐﾑﾈｶﾂ；1527〜92)に命じて再度伊予出兵を断行、大津城は陥落して宇都宮豊綱は毛利氏の捕虜となり、伊予宇都宮氏は滅亡してしまったのである。
その際、隠居した河野通宣の後を襲った河野通直(1564〜87)は豊綱の娘婿であった大野直行を大津城主としたが、直行は土佐の長宗我部元親に通じて天正２(1574)年に河野通直から独立を宣言、長宗我部軍の支援を受けて実兄大野直昌麾下の河野軍を撃破している。
その後、大野直行は河野通直に帰参したが、天正13(1585)年、関白豊臣秀吉の命を受けた小早川隆景が伊予に出兵すると、直行は河野通直と共に降伏、大津城は伊予一国350000石を与えられた小早川隆景の属城となり、隆景の養子秀包が35000石で城主となった。
天正14(1586)年、隆景が筑前名島371300石に転ずると、翌年、秀吉譜代の戸田勝隆が100000石で大津城主となり、天正16(1588)年には黒瀬城主西園寺公広を謀殺している。
文禄３(1594)年、文禄の役からの帰国途中の勝隆が病没すると、子が無かったため戸田氏は改易され、翌文禄４(1595)年、近江佐々木六角氏一族の池田秀雄が20000石で大津城主となった。慶長３(1598)年、秀雄が慶長の役の陣中で病死すると、その子秀氏が城主の地位を継承した。この間、慶長２(1597)年に日本軍の捕虜となった朝鮮王国随一の朱子学者姜��(ｷｮｳｺｳ；1567〜1618)が翌年まで大津に抑留されている。
慶長５(1600)年の関ヶ原合戦の際、池田秀氏は西軍に組したため改易され、大津城は伊予国府200000石藤堂高虎(1556〜1630)の属城とされて、丹羽長秀の子で高虎の養子となっていた藤堂高吉(1579〜1670)が城代となった。
この時期に大津城は近世城郭として大改修されている。北と東は肱川に臨み、南から西にかけて二重の堀が巡らされて、本丸の外、二の丸・三の丸が設けられ、小規模ながら堅固な縄張りを持っていた。天守閣は複合連結式層塔型四重四階であった。
高虎治下で城下町の整備も進み、慶長10(1605)年に塩売買エリアとして塩屋町が設けられた外、三の丸の北側に町人町が拡充されて行った。なお、武家屋敷は三の丸にあった。
慶長13(1613)年、高虎は伊勢国安濃津に転じ、翌年、賤ヶ岳の七本槍の一人脇坂安治(1554〜1626)が53500石で大津城に入ったが、その子安元は元和３(1617)年に信濃国飯田藩に転封となり、代わって美濃出身の外様加藤貞泰(1580〜1623)が伯耆国米子から60000石で入封した。
元和９(1623)年、貞泰は跡目の届け出をしないまま急死したが、嫡男の泰興が２代将軍徳川秀忠の特別の配慮で相続を認められた。この際、次男の直泰が幕府から10000万石分知の内諾を得て新谷(ﾆｲﾔ)藩が成立したが、これを認めようとしない本藩との間で騒動が続き、寛永16(1639)年に至って藩内分知という事で漸く決着した。但し、幕府は新谷藩公認を続けたため、新谷藩主は陪臣の身でありながら大名と公認される全国唯一の例となった。
また、陽明学者中江藤樹(1608〜48)は寛永９(1632)年に大津藩から新谷藩に配置換えになった藩士であったが、寛永11(1634)年に脱藩した人物である。脱藩後も藤樹を慕う大津藩士は多く、近江の藤樹書院を訪ねて入門する者や、書簡で教えを請う者が続出、大津藩に好学の気風を根付かせる事となった。
なお、加藤泰興は戦国時代末期から大津と併用されて来ていた「大洲」を藩名と正式決定している。
以後、廃藩置県まで加藤家の支配が続くが、毎年繰り返される肱川の水害のため藩財政は常に逼迫しており、領民には重税が課せられたため、幕末までに10回も百姓一揆が勃発、特に寛延３(1750)年、７代藩主泰武の時に起きた内ノ子騒動は18000人もの農民が参加する大規模なものであった。
一方、中江藤樹の影響もあって陽明学が盛んな藩でもあり、５代藩主加藤泰温(ﾔｽｱﾂ；任1727〜45)は陽明学者川田雄琴(ﾕｳｷﾝ；1684〜1760)に藩校設立を命じ、６代藩主泰衑(ﾔｽﾐﾁ)の代になった延享４(1748)年、伊予の他藩に先駆けて藩校止善書院明倫館が落成、雄琴の子孫が教授職を世襲したが、寛政12(1800)年に寛政異学の禁で陽明学が禁止されたため、教学を朱子学に改めている。また、八幡神社神官の常盤井厳戈(ﾄｷﾜｲｲﾜｼﾎｺ)が設立した私塾の古学堂では国学が教授された。止善書院明倫館からは箱館五稜郭設計者の武田斐三郎(ｱﾔｻﾌﾞﾛｳ；1828〜1880)、古学堂からは安政５(1858)年に日本初の電信実験を成功させた三瀬諸淵(ﾐｾﾓﾛﾌﾞﾁ；1839〜1877)等の逸材が輩出している。国学者矢野玄道(ﾊﾙﾐﾁ；1823〜87)も大洲藩出身である。
嘉永６(1853)年、加藤家第12代藩主となった泰祉(ﾔｽﾄﾐ；1844〜64)は尊王攘夷派の立場を取り、元治元(1864)年に泰祉21歳の若さで死去した後を襲った弟の泰秋(1846〜1926)も尊王攘夷派大名として知られ、倹約や家臣の知行削減を行なって財政再建や軍備増強に尽力している。
慶応３(1867)年12月の小御所会議に際して泰秋は率兵上京して御所の警備に当たり、慶応４(1868)年１月の鳥羽伏見の戦いでは警備する摂津国西宮へ長州藩兵を隠密に上陸させて新政府軍勝利に貢献した。さらに、甲府城警備や奥羽討伐など、新政府側に与して活躍し、明治天皇の東京行幸(事実上の遷都)では行幸行列の前衛を務めた。
藩執政として若き藩主泰秋を支えたのが山本尚徳(ﾋｻﾉﾘ；1826〜1871)で、明治３(1970)年には大参事に就任して、近江から桑苗を取り寄せて無償で民家に配布したり、茶の栽培を奨励して宇治から製茶工を雇い入れるなど、民生に尽力した。
しかし、相次ぐ新政府の新規施策に対する農民の反発が強まる中、明治４(1871)年７月に廃藩置県が断行され、旧藩主加藤泰秋が東京居住を命じられると、泰秋の東京移住は大参事山本尚徳の陰謀であるとのデマが飛び交い、40000人もの農民が泰秋の東京移住反対を叫んで肱川河原に集結する大洲騒動が勃発、城下の町人達は家財道具を持って他郷へ避難する事態となった。
このため旧藩主加藤泰秋自身が農民の説得に向かったが効果は無く、８月15日に至って山本尚徳は騒動の責任を取って自刃、農民達は翌日解散した。なお、最後の藩主加藤泰秋は子爵に叙され、大正天皇の侍従を務めた後、大正14(1925)年に大洲城三の丸に居を構え、墓も東京ではなく歴代藩主菩提寺の臨済宗妙心寺派龍護山曹渓院に設けられている。
廃藩によって大洲藩は大洲県とされたが、同年11月に宇和島県に併合され、明治５(1872)年６月に神山(ｼﾞﾝｻﾞﾝ)県と改名された後、明治６年２月に石鉄(ｲｼﾂﾞﾁ)県と合併して愛媛県喜多郡大洲町となった。
なお、大洲城天守閣と一部の櫓は地元住民の活動によって廃城後も保存されていたが、天守閣は老朽化と構造上の欠陥のために明治21(1888)年に解体されてしまった。
明治40(1907)年には新谷出身の豪商河内寅次郎(ｺｳﾁﾄﾗｼﾞﾛｳ)が肱川に面した風光明媚な景勝地に臥龍山荘を建てている。
大東亜戦争中の昭和18(1943)年と20(1945)年に肱川が未曾有の大洪水を起こし、町は大損害を受けたため、肱川上流に鹿野川ダムが建設される事となり、昭和34(1959)年に完成した。
昭和29年に周辺の村と合併して市制が施行されると、観光業に力が入れられ、昭和32(1957)年には肱川で観光鵜飼事業が開始され、昭和41(1966)年にはＮＨＫ朝ドラ『おはなはん』の舞台となるなど、次第に観光地として脚光を浴びるようになり、平成16(2004)年には大洲城天守閣が木造で原型通り復元された。
冨士山には市の花に指定されたツツジが60000本も植えられ、市街地南方の山中にはフラワーパークおおずが設けられるなど、四国有数の花の名所としても知られる。
＋大洲城跡
http://
＋中江藤樹の邸跡
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＋川田雄琴一家の墓
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＋八幡神社社叢
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＋如法寺のツバキ
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・如法寺
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・大洲藩主加藤家墓地
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・加藤光泰霊廟並びに大洲藩主加藤家墓所
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・止善書院明倫堂跡
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・山本尚徳邸跡
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・臥龍及び亀山公園
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・古学堂跡
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＊陣屋町伊予新谷
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