現鹿児島県域は、大和朝廷の支配に服していなかった隼人(ﾊﾔﾄ)と呼ばれる異民族の居住地で、一応日向国に属するとされたものの、実際には大化の改新後になっても朝廷の統治が充分に及んでいなかった。
なお、鹿児島の名称は本来桜島の事を指したと言われ、やがてその周辺地域一帯の地名として定着したと推定されている。大宝２(702)年に薩摩国が日向国から分離すると、桜島一帯は鹿児島郡と呼ばれるようになったが、和銅６(713)年、新たに大隅国が設置されると、桜島と北方対岸の地域は大隅国桑原郡に編入され、鹿児島郡は桜島西方対岸の地を指すようになった。なお、薩摩国府は現薩摩川内市に置かれた。
朝廷の統治強化に反発した隼人は、養老４(720)年に大隅守陽侯史麻呂(ﾔｺﾉﾌﾋﾄﾏﾛ)を殺害して大叛乱を起こすが、中納言・征隼人持節大将軍大伴旅人(ｵｵﾄﾓﾉﾀﾋﾞﾄ)によって制圧され、漸く朝廷の実効支配が及ぶようになったが、水田稲作に向かないシラス台地土壌である事もあって、班田制が導入されたのは延暦19(800)年になってからだった。
万寿３(1026)年に摂関家領の巨大荘園島津荘が設置され、大隅国正八幡宮領も拡大すると、鹿児島郡は両者が混在する地域となった。
天喜元(1053)年には、藤原純友の玄孫と称する長谷場永純が稲荷川河口北方の標高50ｍの山上に山城の東福寺城を築いて拠ったと伝えられる。
鎌倉時代になると、神月(甲突)川河口から東福寺城一帯が鹿児島郡の中でも特に鹿児島と呼ばれるようになり、東福寺城は矢上氏の居城となった。また、鹿児島郡の南隣の谷山城には谷山郡司谷山氏が拠っていた。
一方、源頼朝の落胤と称する島津忠久を初代とし、薩摩守護・島津荘惣地頭職を世襲した島津氏は薩摩国西北隅の出水(ｲｽﾞﾐ)に守護所を置いていたが、当初は鎌倉に在住しており、谷山氏や矢上氏等の土着豪族は比較的行動の自由を持っていた。また、藤原摂関家が五摂家に分裂した後、島津荘は近衛家領となったため、中近世を通じて島津氏は近衛家と密接な関係を有する事となった。
しかし、文永11(1274)年の蒙古襲来の結果、第３代薩摩守護島津久経は異国警護番役を命じられて薩摩に入国し、以後、島津氏は薩摩在国が基本となって在地豪族への統制を強化したため、在地豪族との軋轢が強まる事となったのである。
南北朝時代になると、足利方に組した島津家第５代貞久は大隅守護も兼ねる事となったため、薩摩・大隅国双方に睨みの利く鹿児島に拠点を移そうとした。
しかし、谷山氏や矢上氏等の在地豪族は島津氏への反発から南朝側に立ち、矢上一族の中村高純が東福寺城を守っていたため、島津貞久は暦応３(1340)年に弟の佐多忠光に東福寺城を攻めさせたが、南朝側の大隅国高山城主肝付兼重(ｷﾓﾂｷｶﾈｼｹﾞ)が救援のため駆け付け、島津勢を撃退した。
しかも康永元(1342)年に南朝征西大将軍懐良(ｶﾈﾖｼ)親王が谷山城に入ったため、南九州の南朝方は勢い付いたが、翌康永元(1342)年に島津貞久は東福寺城を攻略して四男氏久を城主とした。
観応元(1350)年に観応の擾乱が勃発すると、南朝と結んだ足利直義派に属した日向守護畠山直顕(ﾊﾀｹﾔﾏﾀﾀﾞｱｷ)が大隅から薩摩にまで勢力を伸ばし、尊氏派の島津貞久と交戦を繰り返した。観応２(1351)年に神月川で行なわれた両軍の合戦の際、畠山方の多田七郎と島津方の山田弥九郎が一騎打ちを行い、弥九郎の刀が七郎の甲を突いたため、神月川は甲突川に改称されたとの伝承がある。貞久は延文元(1356)年に南朝側に転じ、逆に直顕が北朝側となったが、延文２(1357)年に直顕は氏久に敗れて日向へ撤退した。
貞久は川内碇山城主の三男師久に薩摩守護職を、四男氏久に大隅守護職を継承させたため島津氏は分裂する事となった。
弘和元(1381)年に両島津氏は再び北朝に帰参、嘉慶元(1387)年、氏久の子元久は東福寺城から稲荷川を少し遡った地点に平城の清水城を築いて居館とし、東福寺城は詰城としての役割を果たす事となった。さらに清水城北側の山にも別の詰城が築かれている。なお、元久は応永元(1394)年、清水城西方に曹洞宗玉龍山福昌寺を創建し、以後代々の菩提寺とした。
大隅守護の元久が独断で薩摩国内に新たな城を築いた事は、師久の子である薩摩守護伊久(ｺﾚﾋｻ)を激怒させ、両者の対立は決定的となったが、やがて元久が伊久を圧倒、応永16(1409)年には薩摩守護も兼ねる事となった。以後、島津家当主は鹿児島屋形様と呼ばれるようになり、清水城周辺に城下町が発展する事となった。16世紀になると稲荷川河口に大型船繋留用の桟橋が設けられ、鹿児島は港町としても発展、明 ・朝鮮・琉球・東南アジアとの貿易の拠点として栄えた。
天文18(1549)年にはイエズス会最高幹部のフランシスコ=ザビエルが鹿児島に上陸、島津家第15代当主貴久は布教許可を与えた、ザビエルは鹿児島滞在中しばしば藩主菩提寺の福昌寺を訪れて住持の忍室和尚と宗教問答を交わしている。
ザビエル上陸の翌天文19(1550)年、島津貴久は清水城から更に海岸に近い内城に居館を移した。内城は一重の掘を巡らせた程度の館で、防衛的機能が乏しかったため、東福寺城や清水城背後の詰城は後詰の城として維持された。清水城の居館跡地には大乗院が築かれている。
内城の山手地域は武家屋敷が集中し上町(ｶﾝﾏﾁ)と称し、稲荷川河口と滑川(ﾅﾒｶﾜ)から 海岸堤防付近(柳の木が植えてあり後の柳町)が民家中心の下町といわれていた。
島津貴久は薩摩・大隅両国の国人領主を抑えて戦国大名としての地位を確立、その子の第16代義久は天正４(1576)年に日向国も完全に制圧、天正６(1578)年には日向に侵攻して来た豊後の大友宗麟の大軍を耳川の合戦で撃破している。なお、義久は天正７(1579)年近江国から多賀大社を東福寺城内に勧請して多賀神社を作ったため、東福寺城のある山は多賀山と言われるようになった。
義久は続いて肥後国も制覇した後、天正12(1584)年には沖田畷の合戦で肥前の龍造寺隆信を撃滅、天正14(1586)年には関白豊臣秀吉軍の先鋒であった仙石秀久・等をも豊後国戸次(ﾍﾂｷﾞ)川の合戦で撃破して九州の大半を制覇するに至ったが、天正15(1587)年に秀吉自身が大軍を率いて九州に乗り込んで来ると敗退、薩摩・大隈両国と日向の一部の612500石のみが安堵され、義久は大隅・日向、弟の義弘が薩摩を領する事となった。一般に義弘が第17代当主とされる。義弘は参議に叙され、島津一族で初めて公卿に列した。
島津義弘は慶長の役(1597〜1598)においては、泗川の戦で僅か7000人の兵で明の20万の大軍を撃破し、殿軍として撤退途中に朝鮮水軍総司令官の李舜臣を仕留めるなど猛威をふるい、鬼石曼子(ｸﾞｲｼｰﾏﾝﾂﾞ)と呼ばれて東アジア世界全体に勇名を轟かせた。さらに慶長５(1600)年９月の関ヶ原の戦においては西軍に属したが、友軍が総崩れになった後、300人の寡兵で85000人の東軍の中央を突破して帰国に成功している。
徳川家康は直ちに30000人の大軍を薩摩に差し向けたが、長期戦になるのを警戒して同年11月に撤退、暫らくは事実上隠居していた義久が中心となって外交交渉が行なわれた。 義弘は義久の娘婿でもある息子の中納言家久(忠恒)に家督を譲ったが、この機に家久は、防御機能に問題がある内城から要害の地に本拠を移す事とし、内城の西南で、中世に上山氏が居城としていた上山城(標高107ｍの山城)の麓に平城の鹿児島城築城を開始した。これに対し義弘は海岸に近過ぎる鹿児島城は海から攻撃を受けやすく到底要害の地とは言えないと指摘、家臣も新城建築の負担に耐えないとして清水城か一宇治城を使うように苦言を呈した。さらに、家久に仕えていた明の儒学者黄友賢も、占いの結果「火災の難は免れがたし」と言ったが、家久は築城を強行した。
慶長７(1602)年、徳川家康は島津氏の実力を恐れて本領を安堵し、義弘の子家久(忠恒)を初代藩主(第18代当主)とする薩摩藩が成立した。
この結果、建築中だった鹿児島城は幕府を刺激しないように設計を変更され、慶長８(1603)に完成した城は天守閣も無い質素な屋形造りの平城となったが、家久は「人をもって城となす」と嘯いていた。
また、家久は家康の命を受けて慶長14(1609)年に琉球を征服、属国化し、奄美諸島は薩摩藩直轄領に組み込んだ。
鹿児島城は防御機能が低過ぎたため、裏山の上山城が後詰めの城とされ、家老の島津常久が城代に任命されて居住する事となった。この結果、必要無くなった東福寺城と清水城詰城は廃城となっている。慶長19(1614)年に常久が28歳で早世した後は、上山城は廃されて、跡地の城山は聖域として立入禁止区域となった。また、薩摩藩では元和元(1615)年の一国一城令を無視して中世式の山城を各地に残し、113区画をそれぞれ家臣に守らせる外城制度が維持される事となった。
家久は寛永11(1634)年には３代将軍家光から琉球12万3000石を合わせた72万8000石の大大名と認定されている。その子の第２代藩主光久が、万治元(1658)年に建てた別邸の庭園が、桜島を築山とし銀江湾を池に見立てた雄大な借景庭園である名勝仙巌園である。
鹿児島城は、鶴が翼を広げた形をしていたので鶴丸城とも言われていたが、弟３代藩主綱貴時代の元禄９(1696)年の大火で一旦全焼、再建された。
当時の屋敷は上町中心であったが、やがて甲突川の右岸に武家屋敷・町屋敷が立ち並び城下町が形成された。上級武士は千石馬場通り沿いに居住し、加治屋町あたりには下級武士が居住していた。
第５代藩主継豊は延享３(1746)年に仙巌園へ隠居したが、その長男で第６代藩主となった宗信は22歳で早世、その弟の重年が弟７代藩主となった。
宝暦３(1753)年、重年は幕府の嫌がらせにより、木曾三川の治水工事を命じられたため、家老の平田靱負(ﾋﾗﾀﾕｷｴ)を総責任者として取り組ませたが、この宝暦治水では莫大な費用と殉職者80数名を出す事態となったため、平田は完成を見届けた後、宝暦５(1755)年に責めを負い自刃して果てた。
この結果、重年も心労が重なって27歳の若さで早世してしまったため、その子重豪(ｼｹﾞﾋﾃﾞ)が僅か10歳で藩主となり、存命だった継豊が後見役となった。継豊の死後は重豪の外祖父島津貴儔(ﾀｶﾓﾄ)が後見役を務めている。
宝暦13(1763)年に親政を開始した重豪は蘭学に異常な興味を示した蘭癖大名で、自ら長崎のオランダ商館に出向いたり、オランダ船に搭乗したりしたみにならず、ローマ字を書き、オランダ語を話す事も出来たと言われる。安永元(1771)年には藩校造士館と武芸稽古場の演武館を設立し、教育の普及に努めた。安永２(1773)年には、明時館(天文館)を設立し、暦学や天文学の研究を行なわせた。現在、鹿児島市内随一の繁華街となっている天文館はその跡地である。医療技術の養成にも尽力し、安永３(1774)年に医学院を設立している。
これらの学問所は百姓町人が通う事も可能であり、安永９(1780)年には外城衆中を郷士に改め、より近世的な支配秩序の形成を図る藩政改革を推進した。
また、重豪は宝暦治水の反省から、積極的に幕府権力に接近、安永４(1775)年に三女茂姫(広大院)を御三卿の一橋家斉と婚約させたが、天明７(1787)年に家斉は第11代将軍となった。３代将軍家光以後、将軍家御台所は宮家か五摂家から迎えるのが恒例となっていたが、重豪は茂姫を近衛家の養女とする事で寛政元(1789)年に御台所とする事に成功、島津家は将軍家御台所を出した唯一の大名家となった。さらに重豪は有力大名と婚姻関係を結んだり、養子を送り込んだりしたため、幕政に大きな影響力を振るい、高輪(ﾀｶﾅﾜ)下馬将軍と称され、従三位に叙されて公卿に列するに至った。
重豪は天明７(1787)年に家督を長男の斉宣(ﾉﾘﾉﾌﾞ)に譲って隠居したが、藩政の実権を握り続けたが、蘭癖による莫大な出費は、最後には大名貸しからも資金調達を拒絶され、ついに市井の高利貸しからも借金する事態を招き、薩摩藩は天文学的借金を抱える事となってしまった。
この結果、斉宣は樺山主税久言(ｶﾊﾞﾔﾏﾁｶﾗﾋｻｺﾄ)・秩父太郎季保(ﾁﾁﾌﾞﾀﾛｳｽｴﾔｽ)等を家老に起用、朱子学テキストの『近思録』に基づく緊縮財政を行なおうとした。しかし、華美な生活を好む重豪は激怒して斉宣を隠居させ、樺山・秩父等の近思録派に自刃を命じた。この事件を近思録崩れと呼ぶ。
そして重豪は斉宣の子斉興(ﾅﾘｵｷ)を第10代藩主とし、自らはその後見人となってなおも政権を握り続けた。しかし、晩年に重豪は藩の財政改革にようやく取り組み、茶坊主だった調所広郷(ｽﾞｼｮﾋﾛｻﾄ)を抜擢、新田開発にも取り組んだ。
また、重豪は、斉興の嫡男斉彬(ﾅﾘｱｷﾗ)を溺愛、斉彬と共にフォン=シーボルトと会見し、当時の西洋の情況を聞いたりもしている。
天保４(1833)年、重豪が89歳で死去すると、斉興は調所広郷主導の財政改革を本格化、借金の250年分割支払い・清との密貿易・砂糖の専売等が功を奏して500万両もあった薩摩藩の借金は無くなり、逆に250万両の蓄えが生まれるに至った。
一方、重豪の寵愛を受けて江戸で生まれ育った斉彬は蘭癖が甚だしく、幕府要人と親しく交際して父斉興を軽んずる独断専行が目立った。
そこで斉興は、斉彬を廃嫡して側室お由羅の方が産んだ五男久光を後継者にしようと画策、斉彬の蘭癖が再び財政を破綻させる事を懸念した調所広郷が久光派の中心となった。
これに対し、斉彬は親交のあった老中首座阿部正弘に密貿易の件を密告するという禁じ手を使い、嘉永元(1848)年、阿部正弘から直接問責された広郷は江戸藩邸で急死した。斉興に責任を及ばさないために一人で罪を被り、服毒自殺したのだとされる。
さらに、嘉永２(1849)年には斉彬派の山田清安・高崎五郎右衛門・近藤隆左衛門等50余名が久光とお由羅の暗殺を謀るに至ったが、事前に計画が露見して自害させられるお由羅騒動が勃発した。この結果、巻き返しを図る斉彬は阿部正弘に強力に働きかけ、嘉永４(1851)年、斉興は第12代将軍家慶から直接隠居を命じられ、斉彬が第11代藩主に就任した。
斉彬は世子時代からアヘン戦争(1840〜42)等の情報を入手して欧米列強の日本侵略の時が近づいている事を看破し、藩主に就任するや、それまで長年温めていたアジア初の近代洋式工場群の建設に取り掛かった。これが集成館事業で、仙巌園に隣接した地で行なわれた。特に製鉄・造船・紡績に力を注ぎ、大砲製造から洋式帆船の建造、武器弾薬から食品製造、ガス灯の実験など幅広い事業を展開した。この当時佐賀藩など日本各地で近代工業化が進められていたが、島津斉彬の集成館事業は軍事力の増大だけではなく、社会インフラの整備など幅広い分野にまで広がっている点が他藩と一線を画す。
また、斉彬は第13代将軍家定の継嗣問題では前水戸藩主徳川斉昭・尾張藩主徳川慶勝・越前藩主松平慶永・土佐藩主山内豊信・宇和島藩主伊達宗城(ﾀﾞﾃﾑﾈﾅﾘ)等と共に一橋慶喜(ﾖｼﾉﾌﾞ)を推し、紀州藩主徳川慶福(ﾖｼﾄﾐ)を推す彦根藩主井伊直弼(ｲｲﾅｵｽｹ)等と対立していたため、養女の篤姫(天璋院)を近衛家の養女とした上で家定の御台所とし、将軍継嗣問題打開を図った。
安政５(1858)年、大老となった井伊直弼は強引に慶福改め家茂(ｲｴﾓﾁ)を第14代将軍に擁立、一橋派・尊攘派を粛清する安政の大獄を開始した。これに対し、在国中だった斉彬は大軍を率いて江戸へ乗り込もうと企画したが、同年７月に50歳で急死してしまった。斉彬の男子は全て夭折していたため、久光の長男で斉彬の娘婿である忠義が第12代藩主となったが、まだ若年だったため、隠居していた斉興が再び藩政を掌握、西郷隆盛以下の斉彬派家臣を粛清し、集成館事業も廃止してしまった。
安政６(1859)年、斉興が死去すると、久光が忠義の後見役として実権を掌握、小松帯刀(ﾀﾃﾜｷ)・大久保利通等を起用して公武合体で藩論を纏めた上で、文久２(1862)年、率兵して江戸に乗り込み、強引に幕政改革を実行させた。しかし、その帰途、英国人を殺傷する生麦事件を起こし、京都では公武合体に反対する尊攘派のテロが猛威を振るって薩摩藩の立場は苦しいものとなった。
文久３(1863)年７月、生麦事件の報復としてキューパー中将麾下の大英帝国艦隊が錦江湾に乗り込み、薩英戦争が勃発した。薩摩軍も善戦して英艦隊に相当な打撃を与えたが、鹿児島城下町は艦砲射撃を受けて炎上、特に集成館は集中攻撃を受けて灰燼に帰してしまった。但し、英軍は天守閣も無く目立たない鹿児島城の位置を誤認、近隣の寺院を天守と間違えて砲撃し、城は奥御殿に砲弾を何発か打ち込まれただけで済んだ。
こうして欧米列強の実力を知った藩主忠義は、集成館事業の重要性を改めて認識し、元治２(1865)年３月に集成館機械工場、慶応２(1866)年５月に日本初の紡績工場である鹿児島紡績所を建造するなど日本の近代化に貢献した。集成館機械工場は日本で初めてアーチを採用した石造洋風建築物であった。
また、久光は西郷隆盛を再起用して慶応２(1866)年に薩長同盟締結を断行、武力倒幕の決意を固め、慶応３(1867)年12月、京都に新政権を樹立して、慶応４(1868)年の戊辰戦争によって徳川政権を消滅させた。藩主忠義は新政府において参議に叙されている。
また、薩摩藩は廃仏毀釈を徹底的に行い、藩主菩提寺の曹洞宗玉竜山福昌寺までもが破却されて、多くの文化財が失われた。
明治４(1871)年の廃藩置県後、忠義は東京在住を命じられるが、大名ではない久光は鹿児島に留まって薩摩藩を消滅させた西郷・大久保を糾弾した。また県令には他国出身者を当てるとのルールを破って鹿児島県令には薩摩藩士大山綱良が任命され、久光と結んで租税を中央政府には一切上納しない措置を取ったため、鹿児島県はさながら半独立国のような様相を呈していた。忠義夫人の寧子(ﾔｽｺ)等も引き続き鹿児島城に居住していた。なお、集成館は官有となり、翌年陸軍省管轄の海軍製造所と改称された。
このため政府は、明治５(1872)年、鹿児島城を接収して本丸に熊本鎮台第二分営騎兵隊を置き、寧子等は磯御殿(仙巌園)に移った。
ところが、明治６(1873)年10月に征韓論に敗れた西郷が帰郷した直後の同年12月の火災で鹿児島城は焼失、分営も廃止されたため、西郷は出丸跡に私学校を建設、西郷を慕って官職を擲ち、入学する青少年が続出した。
島津久光は西郷と入れ替わりに上京、内閣顧問を経て左大臣に任じられたが、大久保と激しく対立して、明治８(1875)年に帰郷した。しかし、鹿児島は既に西郷王国の如き状態となっており、大山県令も西郷に組したため久光の影響力は殆ど残っていなかったのである。
明治９(1876)年には宮崎県が鹿児島県に併合され、同年の廃刀令も無視されるなど、西郷王国は益々強大化し、政府の最高実力者大久保は焦燥の年に駆られる事となった。
明治10(1877)年１月29日、参議大久保利通と側近の大警視川路利良等が西郷暗殺の陰謀を企てたとして激高した同校生徒が鹿児島の鎮台の弾薬庫襲撃を行い、これが契機となって西南戦争が勃発した。西郷軍側の主力は私学校生徒であった。島津久光は乱に際し、中立を維持した。
田原坂の決戦に敗れて鹿児島に撤退した西郷軍は、同年９月１日、激戦の末、川村純義中将麾下の政府軍に制圧されていた私学校を奪回し、城山に総司令部を置いたが９月24日に玉砕、鹿児島城下は灰燼と帰し、櫓等が残っていた鹿児島城二の丸も消失した。私学校の石垣には当時の弾痕が多数残っている。なお、政府軍兵士の略奪によって多くの文化財が行方不明となり、戦禍・廃仏毀釈の害と相俟って鹿児島県は現在、国指定文化財の件数が最も少ない都道府県となっている。
乱に連座したと見做されて斬首された大山綱良に代わって新県令となった土佐藩出身の岩村通俊は鹿児島の復興に尽力し、西郷軍将兵の遺体も鄭重に葬って県民の信頼を獲得、鹿児島県は漸く通常の県となって行った。明治16(1883)年には宮崎県が分離している。
明治20(1887)年に島津久光公爵が没したのを機に、翌年島津忠義公爵は鹿児島に移住、磯御殿を本邸とし、明治22(1889)年には集成館の再所有に成功した。
明治22(1889)年４月１日、鹿児島は市となったが、県政界では吏党と民党の無意味な抗争ばかりが続いて西南戦争後の復興は充分に進んでいなかった。
明治27(1894)年に鹿児島県知事となった元上総一宮藩主加納久宜(ｶﾉｳﾋｻﾖｼ)子爵は不偏不党の方針を掲げて、農業・水産・土木・教育の諸事業に積極的に取り組み、農会の設置と系統化を通じた農業の近代化と生産力の向上・特産品の奨励・鹿児島港の近代化に尽力、めざましい成果を挙げた。知事・子爵の肩書きに囚われない気さくな性格で県民から慕われ、鹿児島県を再生した知事として“殖産興業知事”と呼ばれた。
大正３(1914)年、桜島が大噴火して大隅半島と陸続きになる事態が発生したが、風は東向きに吹いていたため、鹿児島市街は大きな被害を免れた。
大正４(1915)年に老朽化した集成館は閉鎖され、蒸気器械所のみが倉庫として残されて石蔵と呼ばれていたが、島津家第30代当主の島津忠重公爵(1886〜1968)は旧集成館機械工場を島津家の歴史を展示する博物館に改造し、大正12(1923)年に開館した。
昭和16(1941)年に日米関係が緊迫すると、ハワイ真珠湾と地形の似た錦江湾は海軍航空隊の訓練の場となり、浅深度海域への航空魚雷投下の猛訓練が実施された。
昭和20(1945)年秋に薩摩・大隅両半島へ上陸するオリンピック作戦を計画していたアメリカ軍は鹿児島を最前線拠点と見做して再三空襲、特に６月17日の大空襲で市街は灰燼に帰してしまったが、オリンピック作戦開始前に日本が降伏したため、鹿児島で市街戦が展開される事態だけは免れた。
鹿児島築城の際、黄友賢が「火災の難は免れがたし」と言った通り、頻繁に火難にあった街である。
＊城山
http://
＋鶴丸城跡
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・西郷隆盛洞窟
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・西郷隆盛終焉の地
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＋私学校跡石塀
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＋南洲墓地
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＋福昌寺跡
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・平田靱負屋敷跡
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＋世界で初めて精子が発見されたソテツ
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＋ウシウマの骨格
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＋弥生式住居跡
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・天保山砲台跡
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・祗園之洲砲台跡
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＊仙巌園
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＊旧集成館
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＊鹿児島紡績所技師館(異人館)
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＋桜島
http://
＋噴火により埋没した鳥居・門柱
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＋特殊羊歯及び蘚類の自生地
http://
・藤野のあこう群
http://
なお、鹿児島の名称は本来桜島の事を指したと言われ、やがてその周辺地域一帯の地名として定着したと推定されている。大宝２(702)年に薩摩国が日向国から分離すると、桜島一帯は鹿児島郡と呼ばれるようになったが、和銅６(713)年、新たに大隅国が設置されると、桜島と北方対岸の地域は大隅国桑原郡に編入され、鹿児島郡は桜島西方対岸の地を指すようになった。なお、薩摩国府は現薩摩川内市に置かれた。
朝廷の統治強化に反発した隼人は、養老４(720)年に大隅守陽侯史麻呂(ﾔｺﾉﾌﾋﾄﾏﾛ)を殺害して大叛乱を起こすが、中納言・征隼人持節大将軍大伴旅人(ｵｵﾄﾓﾉﾀﾋﾞﾄ)によって制圧され、漸く朝廷の実効支配が及ぶようになったが、水田稲作に向かないシラス台地土壌である事もあって、班田制が導入されたのは延暦19(800)年になってからだった。
万寿３(1026)年に摂関家領の巨大荘園島津荘が設置され、大隅国正八幡宮領も拡大すると、鹿児島郡は両者が混在する地域となった。
天喜元(1053)年には、藤原純友の玄孫と称する長谷場永純が稲荷川河口北方の標高50ｍの山上に山城の東福寺城を築いて拠ったと伝えられる。
鎌倉時代になると、神月(甲突)川河口から東福寺城一帯が鹿児島郡の中でも特に鹿児島と呼ばれるようになり、東福寺城は矢上氏の居城となった。また、鹿児島郡の南隣の谷山城には谷山郡司谷山氏が拠っていた。
一方、源頼朝の落胤と称する島津忠久を初代とし、薩摩守護・島津荘惣地頭職を世襲した島津氏は薩摩国西北隅の出水(ｲｽﾞﾐ)に守護所を置いていたが、当初は鎌倉に在住しており、谷山氏や矢上氏等の土着豪族は比較的行動の自由を持っていた。また、藤原摂関家が五摂家に分裂した後、島津荘は近衛家領となったため、中近世を通じて島津氏は近衛家と密接な関係を有する事となった。
しかし、文永11(1274)年の蒙古襲来の結果、第３代薩摩守護島津久経は異国警護番役を命じられて薩摩に入国し、以後、島津氏は薩摩在国が基本となって在地豪族への統制を強化したため、在地豪族との軋轢が強まる事となったのである。
南北朝時代になると、足利方に組した島津家第５代貞久は大隅守護も兼ねる事となったため、薩摩・大隅国双方に睨みの利く鹿児島に拠点を移そうとした。
しかし、谷山氏や矢上氏等の在地豪族は島津氏への反発から南朝側に立ち、矢上一族の中村高純が東福寺城を守っていたため、島津貞久は暦応３(1340)年に弟の佐多忠光に東福寺城を攻めさせたが、南朝側の大隅国高山城主肝付兼重(ｷﾓﾂｷｶﾈｼｹﾞ)が救援のため駆け付け、島津勢を撃退した。
しかも康永元(1342)年に南朝征西大将軍懐良(ｶﾈﾖｼ)親王が谷山城に入ったため、南九州の南朝方は勢い付いたが、翌康永元(1342)年に島津貞久は東福寺城を攻略して四男氏久を城主とした。
観応元(1350)年に観応の擾乱が勃発すると、南朝と結んだ足利直義派に属した日向守護畠山直顕(ﾊﾀｹﾔﾏﾀﾀﾞｱｷ)が大隅から薩摩にまで勢力を伸ばし、尊氏派の島津貞久と交戦を繰り返した。観応２(1351)年に神月川で行なわれた両軍の合戦の際、畠山方の多田七郎と島津方の山田弥九郎が一騎打ちを行い、弥九郎の刀が七郎の甲を突いたため、神月川は甲突川に改称されたとの伝承がある。貞久は延文元(1356)年に南朝側に転じ、逆に直顕が北朝側となったが、延文２(1357)年に直顕は氏久に敗れて日向へ撤退した。
貞久は川内碇山城主の三男師久に薩摩守護職を、四男氏久に大隅守護職を継承させたため島津氏は分裂する事となった。
弘和元(1381)年に両島津氏は再び北朝に帰参、嘉慶元(1387)年、氏久の子元久は東福寺城から稲荷川を少し遡った地点に平城の清水城を築いて居館とし、東福寺城は詰城としての役割を果たす事となった。さらに清水城北側の山にも別の詰城が築かれている。なお、元久は応永元(1394)年、清水城西方に曹洞宗玉龍山福昌寺を創建し、以後代々の菩提寺とした。
大隅守護の元久が独断で薩摩国内に新たな城を築いた事は、師久の子である薩摩守護伊久(ｺﾚﾋｻ)を激怒させ、両者の対立は決定的となったが、やがて元久が伊久を圧倒、応永16(1409)年には薩摩守護も兼ねる事となった。以後、島津家当主は鹿児島屋形様と呼ばれるようになり、清水城周辺に城下町が発展する事となった。16世紀になると稲荷川河口に大型船繋留用の桟橋が設けられ、鹿児島は港町としても発展、明 ・朝鮮・琉球・東南アジアとの貿易の拠点として栄えた。
天文18(1549)年にはイエズス会最高幹部のフランシスコ=ザビエルが鹿児島に上陸、島津家第15代当主貴久は布教許可を与えた、ザビエルは鹿児島滞在中しばしば藩主菩提寺の福昌寺を訪れて住持の忍室和尚と宗教問答を交わしている。
ザビエル上陸の翌天文19(1550)年、島津貴久は清水城から更に海岸に近い内城に居館を移した。内城は一重の掘を巡らせた程度の館で、防衛的機能が乏しかったため、東福寺城や清水城背後の詰城は後詰の城として維持された。清水城の居館跡地には大乗院が築かれている。
内城の山手地域は武家屋敷が集中し上町(ｶﾝﾏﾁ)と称し、稲荷川河口と滑川(ﾅﾒｶﾜ)から 海岸堤防付近(柳の木が植えてあり後の柳町)が民家中心の下町といわれていた。
島津貴久は薩摩・大隅両国の国人領主を抑えて戦国大名としての地位を確立、その子の第16代義久は天正４(1576)年に日向国も完全に制圧、天正６(1578)年には日向に侵攻して来た豊後の大友宗麟の大軍を耳川の合戦で撃破している。なお、義久は天正７(1579)年近江国から多賀大社を東福寺城内に勧請して多賀神社を作ったため、東福寺城のある山は多賀山と言われるようになった。
義久は続いて肥後国も制覇した後、天正12(1584)年には沖田畷の合戦で肥前の龍造寺隆信を撃滅、天正14(1586)年には関白豊臣秀吉軍の先鋒であった仙石秀久・等をも豊後国戸次(ﾍﾂｷﾞ)川の合戦で撃破して九州の大半を制覇するに至ったが、天正15(1587)年に秀吉自身が大軍を率いて九州に乗り込んで来ると敗退、薩摩・大隈両国と日向の一部の612500石のみが安堵され、義久は大隅・日向、弟の義弘が薩摩を領する事となった。一般に義弘が第17代当主とされる。義弘は参議に叙され、島津一族で初めて公卿に列した。
島津義弘は慶長の役(1597〜1598)においては、泗川の戦で僅か7000人の兵で明の20万の大軍を撃破し、殿軍として撤退途中に朝鮮水軍総司令官の李舜臣を仕留めるなど猛威をふるい、鬼石曼子(ｸﾞｲｼｰﾏﾝﾂﾞ)と呼ばれて東アジア世界全体に勇名を轟かせた。さらに慶長５(1600)年９月の関ヶ原の戦においては西軍に属したが、友軍が総崩れになった後、300人の寡兵で85000人の東軍の中央を突破して帰国に成功している。
徳川家康は直ちに30000人の大軍を薩摩に差し向けたが、長期戦になるのを警戒して同年11月に撤退、暫らくは事実上隠居していた義久が中心となって外交交渉が行なわれた。 義弘は義久の娘婿でもある息子の中納言家久(忠恒)に家督を譲ったが、この機に家久は、防御機能に問題がある内城から要害の地に本拠を移す事とし、内城の西南で、中世に上山氏が居城としていた上山城(標高107ｍの山城)の麓に平城の鹿児島城築城を開始した。これに対し義弘は海岸に近過ぎる鹿児島城は海から攻撃を受けやすく到底要害の地とは言えないと指摘、家臣も新城建築の負担に耐えないとして清水城か一宇治城を使うように苦言を呈した。さらに、家久に仕えていた明の儒学者黄友賢も、占いの結果「火災の難は免れがたし」と言ったが、家久は築城を強行した。
慶長７(1602)年、徳川家康は島津氏の実力を恐れて本領を安堵し、義弘の子家久(忠恒)を初代藩主(第18代当主)とする薩摩藩が成立した。
この結果、建築中だった鹿児島城は幕府を刺激しないように設計を変更され、慶長８(1603)に完成した城は天守閣も無い質素な屋形造りの平城となったが、家久は「人をもって城となす」と嘯いていた。
また、家久は家康の命を受けて慶長14(1609)年に琉球を征服、属国化し、奄美諸島は薩摩藩直轄領に組み込んだ。
鹿児島城は防御機能が低過ぎたため、裏山の上山城が後詰めの城とされ、家老の島津常久が城代に任命されて居住する事となった。この結果、必要無くなった東福寺城と清水城詰城は廃城となっている。慶長19(1614)年に常久が28歳で早世した後は、上山城は廃されて、跡地の城山は聖域として立入禁止区域となった。また、薩摩藩では元和元(1615)年の一国一城令を無視して中世式の山城を各地に残し、113区画をそれぞれ家臣に守らせる外城制度が維持される事となった。
家久は寛永11(1634)年には３代将軍家光から琉球12万3000石を合わせた72万8000石の大大名と認定されている。その子の第２代藩主光久が、万治元(1658)年に建てた別邸の庭園が、桜島を築山とし銀江湾を池に見立てた雄大な借景庭園である名勝仙巌園である。
鹿児島城は、鶴が翼を広げた形をしていたので鶴丸城とも言われていたが、弟３代藩主綱貴時代の元禄９(1696)年の大火で一旦全焼、再建された。
当時の屋敷は上町中心であったが、やがて甲突川の右岸に武家屋敷・町屋敷が立ち並び城下町が形成された。上級武士は千石馬場通り沿いに居住し、加治屋町あたりには下級武士が居住していた。
第５代藩主継豊は延享３(1746)年に仙巌園へ隠居したが、その長男で第６代藩主となった宗信は22歳で早世、その弟の重年が弟７代藩主となった。
宝暦３(1753)年、重年は幕府の嫌がらせにより、木曾三川の治水工事を命じられたため、家老の平田靱負(ﾋﾗﾀﾕｷｴ)を総責任者として取り組ませたが、この宝暦治水では莫大な費用と殉職者80数名を出す事態となったため、平田は完成を見届けた後、宝暦５(1755)年に責めを負い自刃して果てた。
この結果、重年も心労が重なって27歳の若さで早世してしまったため、その子重豪(ｼｹﾞﾋﾃﾞ)が僅か10歳で藩主となり、存命だった継豊が後見役となった。継豊の死後は重豪の外祖父島津貴儔(ﾀｶﾓﾄ)が後見役を務めている。
宝暦13(1763)年に親政を開始した重豪は蘭学に異常な興味を示した蘭癖大名で、自ら長崎のオランダ商館に出向いたり、オランダ船に搭乗したりしたみにならず、ローマ字を書き、オランダ語を話す事も出来たと言われる。安永元(1771)年には藩校造士館と武芸稽古場の演武館を設立し、教育の普及に努めた。安永２(1773)年には、明時館(天文館)を設立し、暦学や天文学の研究を行なわせた。現在、鹿児島市内随一の繁華街となっている天文館はその跡地である。医療技術の養成にも尽力し、安永３(1774)年に医学院を設立している。
これらの学問所は百姓町人が通う事も可能であり、安永９(1780)年には外城衆中を郷士に改め、より近世的な支配秩序の形成を図る藩政改革を推進した。
また、重豪は宝暦治水の反省から、積極的に幕府権力に接近、安永４(1775)年に三女茂姫(広大院)を御三卿の一橋家斉と婚約させたが、天明７(1787)年に家斉は第11代将軍となった。３代将軍家光以後、将軍家御台所は宮家か五摂家から迎えるのが恒例となっていたが、重豪は茂姫を近衛家の養女とする事で寛政元(1789)年に御台所とする事に成功、島津家は将軍家御台所を出した唯一の大名家となった。さらに重豪は有力大名と婚姻関係を結んだり、養子を送り込んだりしたため、幕政に大きな影響力を振るい、高輪(ﾀｶﾅﾜ)下馬将軍と称され、従三位に叙されて公卿に列するに至った。
重豪は天明７(1787)年に家督を長男の斉宣(ﾉﾘﾉﾌﾞ)に譲って隠居したが、藩政の実権を握り続けたが、蘭癖による莫大な出費は、最後には大名貸しからも資金調達を拒絶され、ついに市井の高利貸しからも借金する事態を招き、薩摩藩は天文学的借金を抱える事となってしまった。
この結果、斉宣は樺山主税久言(ｶﾊﾞﾔﾏﾁｶﾗﾋｻｺﾄ)・秩父太郎季保(ﾁﾁﾌﾞﾀﾛｳｽｴﾔｽ)等を家老に起用、朱子学テキストの『近思録』に基づく緊縮財政を行なおうとした。しかし、華美な生活を好む重豪は激怒して斉宣を隠居させ、樺山・秩父等の近思録派に自刃を命じた。この事件を近思録崩れと呼ぶ。
そして重豪は斉宣の子斉興(ﾅﾘｵｷ)を第10代藩主とし、自らはその後見人となってなおも政権を握り続けた。しかし、晩年に重豪は藩の財政改革にようやく取り組み、茶坊主だった調所広郷(ｽﾞｼｮﾋﾛｻﾄ)を抜擢、新田開発にも取り組んだ。
また、重豪は、斉興の嫡男斉彬(ﾅﾘｱｷﾗ)を溺愛、斉彬と共にフォン=シーボルトと会見し、当時の西洋の情況を聞いたりもしている。
天保４(1833)年、重豪が89歳で死去すると、斉興は調所広郷主導の財政改革を本格化、借金の250年分割支払い・清との密貿易・砂糖の専売等が功を奏して500万両もあった薩摩藩の借金は無くなり、逆に250万両の蓄えが生まれるに至った。
一方、重豪の寵愛を受けて江戸で生まれ育った斉彬は蘭癖が甚だしく、幕府要人と親しく交際して父斉興を軽んずる独断専行が目立った。
そこで斉興は、斉彬を廃嫡して側室お由羅の方が産んだ五男久光を後継者にしようと画策、斉彬の蘭癖が再び財政を破綻させる事を懸念した調所広郷が久光派の中心となった。
これに対し、斉彬は親交のあった老中首座阿部正弘に密貿易の件を密告するという禁じ手を使い、嘉永元(1848)年、阿部正弘から直接問責された広郷は江戸藩邸で急死した。斉興に責任を及ばさないために一人で罪を被り、服毒自殺したのだとされる。
さらに、嘉永２(1849)年には斉彬派の山田清安・高崎五郎右衛門・近藤隆左衛門等50余名が久光とお由羅の暗殺を謀るに至ったが、事前に計画が露見して自害させられるお由羅騒動が勃発した。この結果、巻き返しを図る斉彬は阿部正弘に強力に働きかけ、嘉永４(1851)年、斉興は第12代将軍家慶から直接隠居を命じられ、斉彬が第11代藩主に就任した。
斉彬は世子時代からアヘン戦争(1840〜42)等の情報を入手して欧米列強の日本侵略の時が近づいている事を看破し、藩主に就任するや、それまで長年温めていたアジア初の近代洋式工場群の建設に取り掛かった。これが集成館事業で、仙巌園に隣接した地で行なわれた。特に製鉄・造船・紡績に力を注ぎ、大砲製造から洋式帆船の建造、武器弾薬から食品製造、ガス灯の実験など幅広い事業を展開した。この当時佐賀藩など日本各地で近代工業化が進められていたが、島津斉彬の集成館事業は軍事力の増大だけではなく、社会インフラの整備など幅広い分野にまで広がっている点が他藩と一線を画す。
また、斉彬は第13代将軍家定の継嗣問題では前水戸藩主徳川斉昭・尾張藩主徳川慶勝・越前藩主松平慶永・土佐藩主山内豊信・宇和島藩主伊達宗城(ﾀﾞﾃﾑﾈﾅﾘ)等と共に一橋慶喜(ﾖｼﾉﾌﾞ)を推し、紀州藩主徳川慶福(ﾖｼﾄﾐ)を推す彦根藩主井伊直弼(ｲｲﾅｵｽｹ)等と対立していたため、養女の篤姫(天璋院)を近衛家の養女とした上で家定の御台所とし、将軍継嗣問題打開を図った。
安政５(1858)年、大老となった井伊直弼は強引に慶福改め家茂(ｲｴﾓﾁ)を第14代将軍に擁立、一橋派・尊攘派を粛清する安政の大獄を開始した。これに対し、在国中だった斉彬は大軍を率いて江戸へ乗り込もうと企画したが、同年７月に50歳で急死してしまった。斉彬の男子は全て夭折していたため、久光の長男で斉彬の娘婿である忠義が第12代藩主となったが、まだ若年だったため、隠居していた斉興が再び藩政を掌握、西郷隆盛以下の斉彬派家臣を粛清し、集成館事業も廃止してしまった。
安政６(1859)年、斉興が死去すると、久光が忠義の後見役として実権を掌握、小松帯刀(ﾀﾃﾜｷ)・大久保利通等を起用して公武合体で藩論を纏めた上で、文久２(1862)年、率兵して江戸に乗り込み、強引に幕政改革を実行させた。しかし、その帰途、英国人を殺傷する生麦事件を起こし、京都では公武合体に反対する尊攘派のテロが猛威を振るって薩摩藩の立場は苦しいものとなった。
文久３(1863)年７月、生麦事件の報復としてキューパー中将麾下の大英帝国艦隊が錦江湾に乗り込み、薩英戦争が勃発した。薩摩軍も善戦して英艦隊に相当な打撃を与えたが、鹿児島城下町は艦砲射撃を受けて炎上、特に集成館は集中攻撃を受けて灰燼に帰してしまった。但し、英軍は天守閣も無く目立たない鹿児島城の位置を誤認、近隣の寺院を天守と間違えて砲撃し、城は奥御殿に砲弾を何発か打ち込まれただけで済んだ。
こうして欧米列強の実力を知った藩主忠義は、集成館事業の重要性を改めて認識し、元治２(1865)年３月に集成館機械工場、慶応２(1866)年５月に日本初の紡績工場である鹿児島紡績所を建造するなど日本の近代化に貢献した。集成館機械工場は日本で初めてアーチを採用した石造洋風建築物であった。
また、久光は西郷隆盛を再起用して慶応２(1866)年に薩長同盟締結を断行、武力倒幕の決意を固め、慶応３(1867)年12月、京都に新政権を樹立して、慶応４(1868)年の戊辰戦争によって徳川政権を消滅させた。藩主忠義は新政府において参議に叙されている。
また、薩摩藩は廃仏毀釈を徹底的に行い、藩主菩提寺の曹洞宗玉竜山福昌寺までもが破却されて、多くの文化財が失われた。
明治４(1871)年の廃藩置県後、忠義は東京在住を命じられるが、大名ではない久光は鹿児島に留まって薩摩藩を消滅させた西郷・大久保を糾弾した。また県令には他国出身者を当てるとのルールを破って鹿児島県令には薩摩藩士大山綱良が任命され、久光と結んで租税を中央政府には一切上納しない措置を取ったため、鹿児島県はさながら半独立国のような様相を呈していた。忠義夫人の寧子(ﾔｽｺ)等も引き続き鹿児島城に居住していた。なお、集成館は官有となり、翌年陸軍省管轄の海軍製造所と改称された。
このため政府は、明治５(1872)年、鹿児島城を接収して本丸に熊本鎮台第二分営騎兵隊を置き、寧子等は磯御殿(仙巌園)に移った。
ところが、明治６(1873)年10月に征韓論に敗れた西郷が帰郷した直後の同年12月の火災で鹿児島城は焼失、分営も廃止されたため、西郷は出丸跡に私学校を建設、西郷を慕って官職を擲ち、入学する青少年が続出した。
島津久光は西郷と入れ替わりに上京、内閣顧問を経て左大臣に任じられたが、大久保と激しく対立して、明治８(1875)年に帰郷した。しかし、鹿児島は既に西郷王国の如き状態となっており、大山県令も西郷に組したため久光の影響力は殆ど残っていなかったのである。
明治９(1876)年には宮崎県が鹿児島県に併合され、同年の廃刀令も無視されるなど、西郷王国は益々強大化し、政府の最高実力者大久保は焦燥の年に駆られる事となった。
明治10(1877)年１月29日、参議大久保利通と側近の大警視川路利良等が西郷暗殺の陰謀を企てたとして激高した同校生徒が鹿児島の鎮台の弾薬庫襲撃を行い、これが契機となって西南戦争が勃発した。西郷軍側の主力は私学校生徒であった。島津久光は乱に際し、中立を維持した。
田原坂の決戦に敗れて鹿児島に撤退した西郷軍は、同年９月１日、激戦の末、川村純義中将麾下の政府軍に制圧されていた私学校を奪回し、城山に総司令部を置いたが９月24日に玉砕、鹿児島城下は灰燼と帰し、櫓等が残っていた鹿児島城二の丸も消失した。私学校の石垣には当時の弾痕が多数残っている。なお、政府軍兵士の略奪によって多くの文化財が行方不明となり、戦禍・廃仏毀釈の害と相俟って鹿児島県は現在、国指定文化財の件数が最も少ない都道府県となっている。
乱に連座したと見做されて斬首された大山綱良に代わって新県令となった土佐藩出身の岩村通俊は鹿児島の復興に尽力し、西郷軍将兵の遺体も鄭重に葬って県民の信頼を獲得、鹿児島県は漸く通常の県となって行った。明治16(1883)年には宮崎県が分離している。
明治20(1887)年に島津久光公爵が没したのを機に、翌年島津忠義公爵は鹿児島に移住、磯御殿を本邸とし、明治22(1889)年には集成館の再所有に成功した。
明治22(1889)年４月１日、鹿児島は市となったが、県政界では吏党と民党の無意味な抗争ばかりが続いて西南戦争後の復興は充分に進んでいなかった。
明治27(1894)年に鹿児島県知事となった元上総一宮藩主加納久宜(ｶﾉｳﾋｻﾖｼ)子爵は不偏不党の方針を掲げて、農業・水産・土木・教育の諸事業に積極的に取り組み、農会の設置と系統化を通じた農業の近代化と生産力の向上・特産品の奨励・鹿児島港の近代化に尽力、めざましい成果を挙げた。知事・子爵の肩書きに囚われない気さくな性格で県民から慕われ、鹿児島県を再生した知事として“殖産興業知事”と呼ばれた。
大正３(1914)年、桜島が大噴火して大隅半島と陸続きになる事態が発生したが、風は東向きに吹いていたため、鹿児島市街は大きな被害を免れた。
大正４(1915)年に老朽化した集成館は閉鎖され、蒸気器械所のみが倉庫として残されて石蔵と呼ばれていたが、島津家第30代当主の島津忠重公爵(1886〜1968)は旧集成館機械工場を島津家の歴史を展示する博物館に改造し、大正12(1923)年に開館した。
昭和16(1941)年に日米関係が緊迫すると、ハワイ真珠湾と地形の似た錦江湾は海軍航空隊の訓練の場となり、浅深度海域への航空魚雷投下の猛訓練が実施された。
昭和20(1945)年秋に薩摩・大隅両半島へ上陸するオリンピック作戦を計画していたアメリカ軍は鹿児島を最前線拠点と見做して再三空襲、特に６月17日の大空襲で市街は灰燼に帰してしまったが、オリンピック作戦開始前に日本が降伏したため、鹿児島で市街戦が展開される事態だけは免れた。
鹿児島築城の際、黄友賢が「火災の難は免れがたし」と言った通り、頻繁に火難にあった街である。
＊城山
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・西郷隆盛洞窟
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