集え！ガチな映画感想家達よ！コミュのパルプフィクション

今更ながらとも思いつつもトピがなかったようなので立てました。　もし見過ごしていたのならご容赦のほど。


パルプ・フィクション　　　(1994)

PULP FICTION

上映時間 154分

監督： クエンティン・タランティーノ
製作： ローレンス・ベンダー
製作総指揮： ダニー・デヴィート
マイケル・シャンバーグ
ステイシー・シェア
原案： クエンティン・タランティーノ
ロジャー・エイヴァリー
脚本： クエンティン・タランティーノ
撮影： アンジェイ・セクラ
編集： サリー・メンケ

出演： ジョン・トラヴォルタ 　　ビンセント・ベガ
サミュエル・Ｌ・ジャクソン 　　　ジュールス・ウィンフィールド
ユマ・サーマン 　　　　　　　　　ミア・ウォレス
ハーヴェイ・カイテル 　　　　　ザ・ウルフ
ティム・ロス 　　　　　　　　　　　パンプキン
アマンダ・プラマー 　　　　　　　ハニー・バニー
マリア・デ・メディロス 　　　　　ファビアン
ヴィング・レイムス 　　　　　　　マーセルス・ウォレス
エリック・ストルツ
ロザンナ・アークエット
クリストファー・ウォーケン
クエンティン・タランティーノ
スティーヴ・ブシェミ
ブルース・ウィリス 　　　　　　　　ブッチ
フランク・ホエーリー
フィル・ラマール
ピーター・グリーン
デュエイン・ウィテカー
バー・スティアーズ
ブロナー・ギャラガー
アンジェラ・ジョーンズ
スティーヴン・ヒバート
ジュリア・スウィーニー
キャシー・グリフィン

　監督デビュー作「レザボアドッグス」でも時制を越えた展開を見せたＱ・タランティーノが、さらに大きく時制を交錯させて複数のエピソードを繋いだ異色のバイオレンス・アクション。強盗の計画を立てているカップルを導入部に、盗まれたトランクを取り戻そうとする二人組のギャング、ビンセントとジュールス。ボスの情婦と一晩のデートをするハメになるビンセント。ボクシングの八百長試合で金を受け取るボクサーのブッチ。誤って人を殺し血塗れになった車の処理に右往左往するビンセントとジュールス。ギャングのボス、マーセルスを軸としたこれらの物語がラストに向けて収束していく。錯綜する時制の処理は思ったほどのまとまりではないが、スピード感溢れる暴力描写と、与太話で構成されるセリフの数々は充分に面白い。2000年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いたこの作品で、タランティーノ節は完成された。個性溢れるキャストも大きな魅力だが、実質上の作品の主役ビンセントに扮するトラヴォルタが、それまでのブランクを吹き飛ばす存在感で素晴らしい。

というのが映画データーベースの記述でこれが書かれてからもう１0年以上も経つのだ。　「レザボアドッグス」がイギリスで封切りになるときにBBCの深夜文化トークショーで作品の中に見る暴力性にたいしての議論がかまびすしかったことを記憶していがそれに何年も先立つサム・ペキンパーの暴力性との比較もあったことを覚えている。　実際には青少年に見せて害があるかどうかがポイントだったのだが、新しもの好きの若手がいずこも同じ、その熱を表現の自由という陳腐な論でくるみこみアメリカのジャンク文化のあだ花、なのだというところに落ち着いてなんとか保守派をやりすごしていたのではなかったか。　

そのころイギリスでジャンクホラー映画を多く見ていた１０歳を少し超えたかというような子供がショッピングモールでよちよち歩きの幼児を誘拐して惨殺したことも映画の子供に及ぼす影響についての議論を呼び、それが年齢制限指定の厳守、という規制に結果したのだが何れにしても議論の核である映画の影響がはっきり犯罪につながる、というか部分が総体として明確に証明されない。　それは犯罪者がたどってきたさまざまな精神、社会的な環境を精査してもおぼつかないことは今までの経験で明らかだ。　それから１５年経って英国ではスラム化が進む都市部では青少年の銃犯罪が増え映画の影響の議論もなんのその、犯罪のアメリカ化が広がったとも言われている。　当時の「レザボアドッグス」の印象はかなり陰惨なものではあるが状況設定としてはダイアローグに優れたものがあると感じた。　けれど、その印象も今考えてみるとその数年後に見た本作と比べての印象であり、実際、犯罪者たる主人公たちが動き回る世界には大して変わりがあるわけではない。


「レザボアドッグス」で囮の捜査官を演じるティム・ロスと「死ぬまでにしたい１０のこと(MY LIFE WITHOUT ME)　2003年　で観て脇役として味のあるアマンダ・プラマーのコンビがはじめと終わりで主役たちの犯罪ぶりにくらべるとちっぽけな押し入り強盗程度で絡む結構が面白い。　それに時間軸の入れ子設定が台詞を追っているとああなるのだとすんなり納得ができ、それが登場人物たちの醸し出すユーモアとも絡み、ウイットに富む軽みを感じさせ、そこがこの前作との大きな違いであり、そこにはポップ調のBGやそれぞれが特徴あるキャラクターの主人公たちが移動する場所の設定とも相まって前作とくらべるとその華やかさが彼らの周りに日常的に去来する「死」の陰惨さを覆うように作用しているのだろう。　生死をものともとしない無法者たちの間で交わされる会話には思わず笑いを噴出させるものが挟まれており殺すつもりのないものが車の振動で引き金を引いてしまい頭を吹っ飛ばしてしまうその顛末もドタバタ喜劇でしかなく、哀れな被害者の立場にたてばくわばらものではあるがそのブラックユーモアさにおもわず哄笑してしまう。　ここでのひきつった笑いは突然の異常さから自分を通常に引き戻そうとする自己防衛の自然な精神の作用なのだ。主人公たちの訳のない饒舌もそれ自体としてはわれわれが日常話したり聴いたりすることとかわりなく、それが彼らのプロとしての「仕事」の合間や「仕事中」にはさまれることで一層その余裕をもったプロぶりを「アマチュア」の半可通に起因する中途半端さと対比できるようにも仕組まれているのだ。　だからそこにジャンクが話すジャンクフード、アムステルダムやパリのバーガーの肉の厚さを上下から挟むように仕組まれたダイナーでの強盗のエピソードが効果を増すのだ。　そこに一見雑駁な印象を与える構成にも後から考えるとニヤリとさせるところがちりばめられていて、全体の構成が探偵物、安手の恋愛物が中心の紙の「パルプフィクション」がその安っぽさだけで人の人気をひきつけているというパルプの大衆需要、経済効果を見越した目論見の底にある結構をヴィジュアル製品である本作が見過ごしていることはなくそれを熟知しての作品であるからさまざまに登場するエピソードはシナリオからガジェット、カメラ割りの何から何までその引用先を詮索する楽しい効用もマニアに付加され、いっそう本作を話題のテーブルに推し進めるのに貢献するのだが、その作用はまさしくタランティーノがヴィデオショップで同僚、顧客たちに語っていたただろうその口吻に符合するのではないか。

本作に流れる５０年代から８０年代にかけてのポップ音楽の効用はいうまでもないものながら、特に、ときにラテン系、マカロニウエスタンに流れるエンリオ・モリコーネ調の調べがガンを駆使して無法を働くという両者の内容に符合するのだが上にも述べたように本作での主人公たちの饒舌が無理に押し黙ったような二流、三流のイタリア版ウエスタンの雰囲気に対照され、本場のテンガロンハットではなくラテン系の、皮がよじれたようなヨーロッパ版のカウボーイハットを被って目の辺りを覆い無精ひげの濃い脂ぎった男たちの無口な男たちと、小説をトイレで読んでいたり聖書の話を得々と食い物について語る肩の力を抜いた本作での無法者と比べると、それでなくとも家庭の主婦からは馬鹿にされそうなマカロニウエスタンの無法者たちのしかめつらさが一瞬思い出され、その無理に作られた暴力に向かう無口のシリアスさに対する諧謔からの鋭い批評となり思わず哄笑を誘うこととなる。

後付で見れば本作でのユマ・サーマンの台詞から後年「キル・ビル」に通じるものがあり興味深い。　両作でのサーマンの秀逸な、とりわけ本作での怪しげな強烈麻薬に口角から泡を流しながらの瀕死の形相とトラボルタとの会話で刃物が得意だったというミアの台詞が符合する。　けれどマーシャルアートを無理に演じさせられるサーマンの動きと漫画雑誌（パルプ）で上村一夫原作劇画を基にした、梶芽衣子主演の「修羅雪姫」シリーズを比べてみるとアメリカパルプの過剰さが今更ながらテキサスステーキの脂となって胃のあたりに漂うこととなる。

食い物とフランスということであればフランス系とおぼしきブルース・ウィリスの恋人の、如何にもフランスフランスしている仕草と彼女の嗜好がブルーベリーパイとクロワッサンにフランスのコーヒーと混ざって匂いジャンク、ジャンクというアメリカンバーガーカルチャーに対するにおい消しにもなっているのだろうし強烈な臭いでいえば４５口径と思しき自動拳銃に至近距離から吹っ飛ばされた死体の処理という、ハービー・カイテルのカウントダウンにせかされて４０分間にその血肉が飛び散った車内を掃除する二人にまとわりつく強烈な死臭が匂ってこない、というのが「パルプ・フィクション」の本領でもありそれをもう１５年以上も前にBBC文化討論番組の若き批評者はしっかり嗅ぎ分けてでもいたのだろう。