澁澤龍彦コミュの澁澤龍彦邸にあるマルキ・ド・サド直筆の手紙

昭和の昔、ビニ本が流行った。いまでも鮮明に覚えているのは、ビニ本屋の店頭に澁澤龍彦訳のマルキ・ド・サド全集が売られていたことである。サドはキワモノ的扱いだった。もっとも19世紀もサドの本は禁書だったが。20世紀になってようやくサドはシュールレアリストたちによって再評価された。ぼくは大学の卒論はサドだった。当時でもサドを選ぶことは異例中の異例だった。大学時代の恩師は、ボードレールやリラダンの名翻訳で知られる、澁澤さんも敬愛していた齋藤磯雄先生。齋藤先生のリラダンの「残酷物語」は三島由紀夫からも激賞された。ちなみに齋藤先生のお姉さんの旦那は直木賞作家の柴錬こと柴田錬三郎さんである。その昔、柴錬もリラダン好きと知って驚いたことがあるが、齋藤先生の影響だろう。卒論の指導教授を齋藤先生に頼んだのだが、サドを評価していなくて断られてしまったことがある。
サドの文学の最大のテーマは「人間がどこまで自由でいられるのか」ということだった。サドは自由の果てにある、底知れぬ深淵を垣間見たのだった。
40年ほど前、南仏のラコストにあるサドのお城をヒッチハイクで訪ねたことがある。ここを澁澤さんや遠藤周作さんも訪れたかと思うと感慨深いものがあった。　
写真は北鎌倉の澁澤龍彦邸の居間にあるサド直筆の書簡(時代は18世紀、フランス革命前後)と、生前そのままに残されている、澁澤さんの書斎。ぼくは夫人の澁澤龍子さんと極めて親しいので、澁澤邸に出入りできるのである。澁澤邸は澁澤さんの美意識が詰まった、小さな美術館のよう。