たのしい特別支援教育研究室コミュの自立活動についての一考察

自立活動についての一考察

和歌山県　支援学校　勇気りんりん　

京都在住のサークル仲間から「自立活動についての質問」というレポートがメーリングリストに投稿されたのをきっかけに私も自分なりに「自立活動」ということについて整理しておきたいと思います。

まず、「自立活動」という言葉を検索キーワードとして調べてみました。
いろいろ出てきたものの中からいくつかを選んで印刷して読んでみました。私が選んで印刷してみたものは以下のものです。
１、 Wikipedia「自立活動」
２、「特別支援学級の自立活動とは、どのように行えばいいのですか。」
３、「自立活動の指導の手引き」平成２５年４月　山口県教育委員会

この中で一番参考になり見やすいと感じたのは山口県教育委員会の「自立活動の指導の手引き」だったので、それを参考に私なりの考えを書いてみたいと思います。

自分なりの結論を言えば、「難しく考えることはない。普段やっている教育活動のあらゆる場面に自立活動のねらいは含まれている。自分がやっている教育活動の中でどういう自立活動のねらいを持っているかを意識して《自立活動でどういうねらいでその活動を行っているのですか？》と聞かれた時にきちんと答えられる準備をしておけばよい」ということです。
そのような質問をしてくるような人には文部科学省発行の「学習指導要領　自立活動編」の冊子のここに書かれている目標をねらって取り組んでいますと説明すればより納得してもらいやすいでしょう。

「自立活動の指導の手引き　理論編」１ページには以下のように書かれています。

１
自立活動の意義

特別支援学校の目的は、学校教育法第７２条により、「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者（身体虚弱者を含む。以下同じ。）に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。」と示されています。
幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校（以下、「小・中学校等」という。）の教育は、幼児児童生徒の生活年齢に即して系統的・段階的に進められています。
しかしながら、障害のある幼児児童生徒の場合は、その障害によって、日常生活や学習場面において様々なつまずきや困難が生じることから、小・中学校等の幼児児童生徒と同じように心身の発達の段階等を考慮して教育するだけでは十分とは言えず、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導が必要となります。
このため、特別支援学校においては、小・中学校等と同様の各教科等のほかに、特に「自立活動」の領域を設定し、その指導を行うことによって、幼児児童生徒の人間として調和のとれた育成を目指しているのです。

２　自立活動の目標

自立活動の目標は、特別支援学校学習指導要領において、次のように示されています。

個々の幼児、児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う。

「自立」とは
幼児児童生徒がそれぞれの障害の状態や発達の段階等に応じて、主体的に自己の力を可能な限り発揮し、よりよく生きていこうとすること。

「障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服する」とは
幼児児童生徒の実態に応じ、障害によって生ずるつまづきや困難を軽減しようとしたり、また、障害があることを受容したり、つまづきや困難の解消のために努めたりすること。

「調和的発達の基盤を培う」とは
一人ひとりの幼児児童生徒の発達の遅れや不均衡を改善したり、発達の進んでいる側面を更に伸ばすことによって遅れている側面の発達を促すようにしたりして、全人的な発達を促進すること。

学習指導要領では、このねらいを達成するために、教師が指導し、幼児児童生徒が身に付けることが期待される事項を整理してまとめたものを、自立活動の内容として示しています。

３　自立活動の内容とその取扱い

自立活動の内容は、人間としての基本的な行動を遂行するために必要な要素と、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素からなりますが、その中の代表的なものが項目として六つの区分の下に分類・整理されています。

自立活動の六つの区分は、実際の指導を行う際の「指導内容のまとまり」を意味しているものではありません。指導に当たっては、幼児児童生徒の実態把握を基に、六つの区分の下に示してある項目の中から、個々の幼児児童生徒に必要とされる項目を選定し、それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定します。
また、小学校・中学校学習指導要領に示されている各教科等の「内容」は、すべての児童生徒に対して確実に指導しなければならない内容ですが、自立活動の「内容」は、個々の幼児児童生徒の障害の状態や発達の程度等に応じて選定されるものであり、そのすべてを指導すべきものとして示されているものではないことに十分留意する必要があります。

　　（「自立活動の指導の手引き」平成２５年４月　山口県教育委員会より引用）

つまり、「自立活動」の指導内容とは手引きなどに示されたすべての項目を指導すべきものとして示されているものではないので、それぞれの子供が今身に着けるべき目標と合致しているものを選んで指導すればよいのです。
言い換えると教師（自分）が授業などで指導したい内容に「自立活動」の目標を関連づけて（こじつけて）、もし誰かに聞かれた時に答えられるようにしておけばよいのです。
それには「６項目」に整理されて作られている内容例などが便利なマニュアルとして使えます。
詳しくは　「自立活動の指導の手引き」平成２５年４月　山口県教育委員会　などを印刷して手元に置いて利用されることをお勧めします。

具体的な指導内容例

「自立活動の指導の手引き」平成２５年４月　山口県教育委員会　の資料編には、「障害種別の自立活動内容表」というものがあります。
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
病弱・身体虚弱
知的障害
というように障害別に指導内容例が書かれていますが、「知的障害」を例としていくつか紹介してみたいと思います。

１　健康の保持
①生活のリズムや生活習慣の形成
②病気の状態の理解と生活管理
③身体各部の状態の理解と養護
④健康状態の維持・改善

・ストレッチを行い、関節の拘縮や変形の進行を防止する。
　→毎朝、朝の会の前などにストレッチ体操に取り組んでいる生徒がいます。体操のメニューは私の学校には「理学療法士」の資格を持った自立活動専任の先生がいらっしゃるので作ってもらっています。
・健康タイムの時間に集中して運動場を○周走る。
　→CDで生徒の好きな軽快な音楽を流して、その曲が終わるまで運動場をグルグル回って走ります。１周走るとホワイトボードに磁石のついた絵カードなどを貼って何周走ったか分かるようにしました。そのカードの数だけシールにして廊下に「和歌山市まであと○キロメートル」のようなチャレンジ表に貼って励みになるように工夫したりしました。
・ブラッシングをして口内衛生に気を付ける。
　→給食のあと、時間を測って（３分間）ブラッシングさせています。（キッチンタイマーや携帯電話のタイマーなどで音が鳴るまでブラッシングさせています。）
２　心理的な安定
①情緒の安定
②状況の理解と変化への対応
③障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲

・好きな活動に集中する時間を増やす。
　→　文化祭に向けて「皿回し」を楽しんでいる生徒がいます。文化祭に「サーカス団」をする予定なので、この他に「デビルスティック」や「フラフープ」、「バンブーダンス」「なわとび」などを練習している生徒もいます。
・課題を全部終えるまで、集中して取り組む。
　→「漢字博士」（和歌山県教育委員会のサイトから練習問題をダウンロードできます）試験に向けて２０分間集中してそれぞれの級の漢字練習に取り組んでいます。
・教師と一緒に音楽を聴いたり、本を読んだりしながら、新しい環境に慣れる。
　→休憩時間などに教室の大型テレビに「ユーチューブ」でいろんな音楽を聴いて楽しんでいます。絵本の読み聞かせをしたりすることもあります。
　

３　人間関係の形成
①他者とのかかわりの基礎
②他者の意図や感情の理解
③自己の理解と行動の調整
④集団への参加の基礎

・身近な人と一緒に本を読んだりテレビを見たりする。
　→これは、前の項目と共通で目標に設定できます。休憩時間などに教室の大型テレビに「ユーチューブ」でいろんな音楽を聴いて楽しんでいます。絵本の読み聞かせをしたりすることもあります。
・スキンシップを楽しむ。
・相手の表情や動作のまねをする。
　→手遊び歌や、つながり遊びが効果的です。二本松はじめさんから学んだ「つながり遊び」が重宝しています。
・簡単な質問に「はい」「いいえ」で答える。
　→「仮説実験授業」の問題に対する予想を選ぶ行為も「自立活動」の目標として抑えることだって可能です。「電気を通すもの　通さないもの」で「電気がつくか、つかないか」を選ぶことも自立活動の目標とリンクできます。

４　環境の把握
①保有する感覚の活用
②感覚や認知の特性への対応
③感覚の補助及び代行手段の活用
④感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握
⑤認知や行動の手掛かりとなる概念の形成

・１～４音の名前の絵カードと文字カードのマッチングができる。
　→「カルタあそび」は「環境の把握」で自立活動の指導内容として設定することができます。友達や先生と楽しみながらできるので、「心理的安定」や「人間関係の形成」の項目としても設定することも可能かも知れません。
・コインを貯金箱の穴の向きに合わせて入れる。
　→「型はめのおもちゃ」などを朝の自立活動のグッズとして使ったこともあります。

５　身体の動き
①姿勢と運動・動作の基本的技能
②姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用
③日常生活に必要な基本動作
④身体の移動能力
⑤作業に必要な動作と円滑な遂行

・教師や級友の動きをモデルとして、同じように体を動かす。
　→「手遊び歌」や手話による振り付けをしながら歌うというようなことを音楽の時間にしたりします。
・ボールを使って、投げる、受け取る、蹴るなどの基本的な運動を行う。
　→昼休みの「ボール遊び」も自立活動の目標として抑えることもできます。
・紙をちぎる。
　→「牛乳パック」を使った和紙作りで、「紙をちぎる」という作業をよくしました。これも自立活動の「身体の動き」の目標として設定できます。
・紙を折る。
　→「おり染め」の紙を折る作業も自立活動の目標に設定できます。
・水に浮き、身体をコントロールする。
　→プールでの活動も「身体の動き」や「心理的安定」など自立活動の目標として設定できます。

６　コミュニケーション
①コミュニケーションの基礎的能力
②言語の受容と表出
③言語の形成と活用
④コミュニケーション手段の選択と活用
⑤状況に応じたコミュニケーション

・スイッチ操作で意思表出をする。
　→パソコンにいろんなスイッチをつないで操作したりして意思表出をすることは肢体不自由の生徒によく利用したりしましたが、知的障害の生徒にも活用できそうです。
・身近な物の名前を聞いて、絵カードを取る。
　→絵カードや「カルタ」などコミュニケーションの目標として設定できます。
・文字をなぞって書く。
　→文字のなぞり書きの練習もコミュニケーションの能力につながるものとして自立活動の目標に設定できます。

この他にもとてもたくさんの例が示されていますので、詳しくは冊子を印刷して活用されることをお勧めします。

最後に重度重複障害の生徒等に関する教育課程での扱いについて触れているところがありますので紹介しておきます。

重複障害者については、一人ひとりの障害の状態が極めて多様であり、発達の諸側面にも不均衡が大きいことから、心身の調和的発達の基盤を培うことをねらいとした指導が特に必要であり、特別支援学校学習指導要領では、自立活動の指導を中心に行うことについて、以下のように規定しています。

◆重複障害者のうち、障害の状態により特に必要がある場合は、各教科、道徳、外国語活動若しくは特別活動（視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の高等部においては、各教科・科目若しくは特別活動、知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の高等部においては、各教科、道徳若しくは特別活動）の目標及び内容に関する事項の一部を取り扱わず、自立活動の指導を主として行うことができる。

この場合、自立活動を主とした教育課程においても、自立活動のほかに、道徳と特別活動の一部については必ず指導しなければならないことに留意する必要があります。
（「自立活動の指導の手引き」平成２５年４月　山口県教育委員会より引用）

重度重複の障害を持つ生徒の場合、教科指導が難しい場合があります。この場合「自立活動と道徳、特別活動」のみで教育課程を作っていく必要があります。
重度重複の生徒の教育内容を考えていく場合、この「自立活動」の整理された「６項目」は授業作りのヒントとして活用できる場面が多いと思います。
文部科学省が作った「学習指導要領」などの資料も授業作りのヒントにうまく活用していきたいものです。