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日記ロワイアルコミュのワールドワイドな弁当屋。

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仕事が忙しくてご飯を作るのが面倒な時に利用する弁当屋。

そこに数ヶ月前から、20代くらいの異国の方が働いている。
東南アジア系かな?褐色の肌が健康的で笑顔が素敵な方である。

ネームプレートを見ると、富田と書いてあるから、きっと富田さんと結婚して日本で生活する事になったんだろうなぁと、勝手に想像してます。

その富田さん。少しカタコトではあるが、日本語はそこそこ上手いのでレジ打ちや注文を取る程度ならまったく困らないようで、僕が弁当を買いに行くとかなりの高確率でレジ打ちを担当してくれる。

『○○円にナリマース』

『はい。』

『アルガトゴザイマシター』

会話と言えば、注文とこんな程度ながら行く度に働いてる姿を見て『いつも頑張ってるなぁ』と感心してました。

ある日の事です。
その日の僕は仕事が残っていた事もあり、あまり時間が無かったので事前に電話注文をしておく事にしました。

弁当屋に電話をすると『お電話アリガトゴザイマース』という明るい声が聞こえてきた。富田さんである。

『あ、注文をお願いします』

『ハイ。アリガトゴザイマース』

『唐揚げ弁当を一つお願いします』

『ハイ。唐揚げベントですね。何時頃にキマスカー』

『これから向かうので15分位で行けると思います』

『ハイ。オマチモウシマース』

お待ち申すんだ...と思いながらも名前を告げて電話を切る。

予定通り15分後に弁当屋に到着すると予想通り富田さんがレジに立っている。
名前を告げると準備が出来ていると富田さんは微笑んだ。

『ハイ。ロースカツベント一つで...』

ん?
ちょっと待ってくれ。僕が注文したのは唐揚げベントであって、ロースカツベントではない。

他の人が注文した物と間違えてるのかな?とレジ周りを見てみるも、他に作り置きしてあるような弁当は見当たらない。

『あ、えっと、僕が注文したのは唐揚げ弁当なんですけど...』

『ハイ?』

『いや、ですからね。僕が電話で注文したのはロースカツ弁当じゃなくて、唐揚げ弁当なんですよ。』

『カラアゲ?』

『そう、カラアゲ』

『カツじゃなくて?カラアゲ?』

『そう、カツじゃなくて、カラアゲ』

それを聞いた富田さんは、とても悲しそうな顔になりました。それはもうとても悲しそうな顔でした。

どうして良いのかな分からなくなったようで、後ろの厨房を振り返る。
きっと中のおばちゃん達に指示を仰ぎたかったんだろう。

そこで僕は慌てて言いました。

『あ!大丈夫!ロースカツも好きだから!それを買います。だから大丈夫!』


どうしても唐揚げじゃないといけない訳でもない。
何より異国の地で頑張ってる富田さんが、僕の注文を間違えただけで怒られるのは嫌だなって思ったんです。

『カラアゲジャナイデスヨ?』

『大丈夫!ロースカツ買います』

それを聞いた富田さんは、花が咲いたような笑顔になりました。

『注文、スイマセンでした。アリガトゴザイマス』

『お店の人には間違えちゃったって言わなくて良いですからね?僕はロースカツ弁当をお願いした。それで良いですからね?』

富田さんは少しだけ困った顔をしてから、ニッコリ笑って『本当にゴメンナサイ。アリガトウ』と言いました。


そんな事があってから、数日後。僕は再び弁当屋に行きました。

厨房の中にいた富田さんは『イラッシャイマセー』と言いながらレジ前に出てきました。

そして相手が僕だと認めると、満面の笑顔を見せてくれました。

『前はスイマセンデシタ』

『あ、覚えてたんですか?いや、気にしなくて良いですよ。ロースカツも美味しかったですしね』

『良かっタデス』

そんな会話をしてから、いつものように注文をしてベンチに腰掛け、出来上がりを待ちました。

『お待たセシマシタ。カラアゲベントのお客サマー』

その声を聞いてレジ前に行くと、富田さんが声を潜めて言いました。

『カラアゲ2個増ヤシタ。これ内緒ネ』

『え?本当に?ありがとう』

『ナイショ。コノマエ、嬉しカタデス』


その弁当には確かに、いつもより唐揚げが2個多く入っていた。

10日に一度、行くかどうかの弁当屋だったけど、僕は行く度に冨田さんと簡単な会話を交わすようになった。

それは天気の事だったり、新発売の弁当の事だったり、本当に些細な短い会話だったけど僕と富田さんの交流は続いた。


富田さんは、僕が弁当屋に行く日は必ず働いていた。

何曜日だろうと、何時だろうと、富田さんは働いていた。
なかなか休みが取れない僕が感心するほど、富田さんは働いていた。
まだ若いし、家庭は大丈夫なのかな?なんて心配する事もあったけど、そんな事は聞ける訳もなく、僕はただ弁当を買って帰った。

しかし、ある時から弁当屋で富田さんを見掛けなくなった。

たまたま休みなのかな?と思ったけど、次も、その次も、富田さんはいなかった。

僕は勇気を出して、レジ打ちをしてくれたおばちゃんに聞いてみた。

『最近、富田さんを見かけませんけど、お休みですか?』

『あぁ、富田さんなら新しく出来た○○店に助っ人で行ってますよ』

そうだったのか。
病気になったり、仕事を辞めたりしてなかったんだ。他のお店で頑張ってるんだって分かった瞬間、自分でも驚くほど安堵していた。

そんな僕におばちゃんは微笑みながら言いました。

『○○店に行く事が決まってから、富田さんったら貴方に会えなくなるなーって残念がってましたよ』


『え?富田さんが?』

『そう。あの唐揚げ弁当を買ってくれる人に会えなくなるなー。仲良くなれたのになー。って』

『はは、ははは。そうなんですか。富田さんがそんな事を』

なんだか嬉しいやら恥ずかしいやら、何とも言えない気持ちになった。


次の週、僕はいつもの弁当屋には行かなかった。
少し遠いけど、新しく出来たお店に行く事にした。

店に入るとカタコトの『イラッシャイマセー』が聞こえた。

僕を見た富田さんは『アー!』と驚きの声を挙げた。

『ナンで?ドウシタデスカ?』

『どうしたって、お弁当を買いに来たんですよ』

『ワザワザ?』

『たまたま、近くまで来たからです』

『ソレでも会エタコト、ウレシイデス』

日本人と違って、こういう、感情を素直に出すんだなぁと感心しました。ぼくにはそんなに素直に出せないな。

『ロースカツ弁当を下さい』

『今日はカラアゲジャナイでスカ?』

『毎回唐揚げ弁当じゃ、カラアゲの人って言われちゃうしね』

からかうようにいうと、富田さんは顔を真っ赤にしながら『違う違う』と首を振りました。本当に分かりやすくて面白い人だな。


ちょっと遠いけど、普通に弁当を買って帰るだけじゃ味わえない楽しさがあるのなら、今度からはこっちの弁当屋に通うのも悪くないな。富田さんを見ているとそんな風に思えました。


異国の人で、多分既婚者で、日本語がカタコトで、僕よりも年下で、頑張り屋さんで、感情が顔にすぐ表れる面白い人。



きっと彼の奥さんも、そんな富田さんに惹かれたんじゃないかな。


僕もそんな彼が働くお弁当屋さんの唐揚げ弁当が好きです。



それでは皆様、良いお年を。

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