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日記ロワイアルコミュの14歳

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※かなり長文です



***


 2年になり、崎本詩織は朝早く、先生方が学校に来て、昇降口の鍵を開けるより早く学校に来るようになった。誰かがいるところに入っていくのは怖い。けれど、誰かが来る前に教室に入ってしまえば、そのまま教室にいることが出来ると思ったのだった。誰よりも早く教室に入るためにと来ていたら、結局は先生方が来るよりも早くなってしまったのだ。
 しかし、詩織にとって不運なことに、そんな時間に来ていても1人で教室に入れる訳ではなかった。同じように昇降口が開くよりも前に来ている生徒が2人、他にいたのだった。1人は1組の大崎。クラスが違うため、彼はあまり影響がなかった。しかし、もう1人が悪かった。同じ4組の出口佑基。2年になって初めて同じクラスになったが、正直彼に対しては苦手意識しかもつことができなかった。制服のズボンはやや下がり気味で、ボタンは第2ボタンまではあいている。常に周りの人を厳しい目つきで見ている出口に、詩織は「不良」という印象しか持てなかったのだ。外見的には、詩織とは正反対のタイプであった。教室に入り、
「何でこの人、こんな早くから学校に来ているんだろう・・・」
と憂鬱な気持ちでふと出口の方に視線を向けると、
「てめえ、何見てんだよ!」
と怒鳴り、荒々しく教室を出ていくのだった。

 学校に来るようになったとは言え、そこには詩織にとって決して居心地の良い場所ではなかった。1年の時、虐めの中心となっていたクラスメイトは別のクラスになったものの、廊下ですれ違いざまに梅村に暴力を振るわれることはある。近藤も、一緒にいる女子たちとの話の中で、詩織の陰口を言っていることは明らかだった。彼らの狡いところは、決して教師の目の前でそれらの行為をしないことであった。
 ある日の放課後、教室に忘れ物を取りに戻ろうと階段を上っていた詩織はハッと息をのんで立ち止まった。階段の上には梅村と近藤がいた。顔をそむけ、その横を通りすぎようとした時、近藤が声をかけた。
「ちょっと、あんた何ここ通ってるの。マジ邪魔なんだけど。」
そう言って詩織を軽く押した。手すりをつかもうとした手は虚しく空をつかみ、踊り場まで真っ逆さまに落ちていった。
そこへ、階段を降りてきた梅村が、横たわる詩織の脇腹を蹴り飛ばしていった。痛みのあまり、暫くうずくまっていたが、やがて立ち上がり、誰にも会わず、詩織は校舎を後にした。今更、それを教師にも親にも言うつもりはなかった。言ったところで、誰かが助けてくれるわけではないのだ。むしろ、大人が絡むと余計に面倒なことになるだけだ。それなら、せいぜい大人に嫌われないように振る舞い、極力息をひそめて過ごしている方が良い。心のどこかで、詩織はそう感じていた。

 翌朝、いつものように学校に行く。去年であれば、なんだかんだ理由をつけて休んでいたかもしれなかったが、そうするとまた、学校に来られなくなるだけだということも分かっていた。学校に来なければならない必然性も見いだせてはいなかったが、周りから色々言われるのも鬱陶しいのだった。極力問題を起こさない、巻き込まれている素振りを見せない。それが
、自分を守る唯一の手段だと詩織は思っていた。
 その日も、いつものように出口は朝早くから来ていた。
「はぁ・・・、この人本当に、何しにこんな早くから来てるんだろう・・・。」
詩織自身、好きで早くから学校に来ている訳ではなかったし、早く来たところで暇なのだ。その日はたまたま床に落ちているゴミが気になり、拾ってごみ箱に捨てに行った。すると、いきなり出口に腕を掴まれ、教室の外へ引っ張り出された。突然のことに驚き、逆らうことができなかった。屋上へ続く階段の踊り場で、出口は足を止め、こちらを振り返った。
「お前、ちょっと身体見せてみろ。」
言うが早いか、詩織のセーラー服の上衣を捲り上げた。
「ちょっと、何する・・・」
抵抗しかけたが、詩織はすぐに動きを止めた。出口は詩織の脇腹にある痣を険しい顔で見つめていた。無意識に庇っていたことに気づいたらしい。
「誰にやられた?」
「・・・・」
詩織は答えない。
「誰にやられたって訊いてるんだよ!」
出口の語気が荒くなる。
「そんなの、訊いてどうするの。出口君には関係のないことでしょ。」
詩織のその言葉に、出口は一瞬鼻白んだようだったが、
「けっ、関係ねーかよ。このブス!」
そう言い残して去って行った。詩織にとっては何が何だか分からなかった。何故、出口が自分の身体の傷のことに気付いたのか、そして、何故それを気にするのかが理解できなかった。

 4月も終わりに近づいたある日、詩織は風邪をひいて熱を出した。正直学校には行きたくなかった。しかし、病欠とは言え、休んでしまえばまたそのままズルズル休んでしまいそうな気がした。母親のみどりは、「無理しなくても、休んだって良いのよ。」と言ったが、詩織は学校に行くと言い張った。
 いつもより出掛けるのが数分遅れただけで、既に出口と大崎が学校に着いていた。それを見ただけで、詩織は更に憂鬱な気分になった。まだ開いていない、昇降口の扉の近くで先生が来るのを待つ。すると、また出口が近づいてきた。
「お前、今日は帰れ。」
突然、そう言われて詩織は一瞬ひるみかけたが、言い返した。
「何でそんなこと指図されなきゃいけないの。私はあなたの言いなりになんかならない。」
「良いから帰れ。こんな熱でフラフラしてんのに、学校来てんじゃねぇよ!」
そう言うと、出口は自分の鞄を昇降口の脇に投げ捨て、詩織の鞄を奪った。
「ちょっと、何するのよ!」
詩織が取り返すより先に、出口は鞄を大崎に渡した。
「大崎、お前は荷物持ってろ。」
「は、はい。でも出口君のは・・・」
「俺の鞄なんて、持ってく奴いねーよ。盗られたところで、別に困るもんなんて無いし。」
そう言って、出口は詩織を背負った。
「ちょ、ちょっと、降ろしてよ。」
「うるせえな。お前の家どっちだよ。」
そう言う頃には、既に正門を出ていた。もともと体調が悪いのだ。抵抗しても無駄だと悟り、詩織は出口に家の方向を教えた。
「重くない?自分で歩くよ。」
「肋骨の浮いてるような女なんて、重くも何ともねーよ。」
「ひどい・・・」
はじめは警戒していたが、次第に不思議な居心地の良さを詩織は感じていた。家に着き、学校に戻る出口と大崎を見送った後、詩織は全身の力が抜けるような感覚に襲われ、ベッドに倒れ込んだ。気力だけで持ちこたえていたが、これまでの1ヶ月近く、相当なプレッシャーとストレスを負っていたのだ。
「佑基君、そんなに悪い人じゃないのかも・・・」
そう呟くと、詩織は泥のような眠りに引きずり込まれた。






※この話はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。


続く

第2話
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