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日記ロワイアルコミュの日本一有名なアバズレメス猫女と私

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子どものとき、すごくシビアな子どもだった私。
キャラクターものなんか嫌いだし、キャラクターにキャアキャア言ってる子どもっぽい女子どものこともまた、嫌いだった。
自分は、ああいうミーハーではない、という自負もあったように思う。
中でもキティちゃんが一番嫌いだったんだけど、デパートに設置してある、キティちゃんがポップコーン作ってくれる機械は好きだった。

というか、ポップコーンができる工程と、できたてのポップコーンが好きだった。


前を通ると
「ハーイ!私キティでーす。今日はなに味にするのかな!ワクワク、ワクワク!」
って何回も言うのが子ども心にも鬱陶しくてたまらんかった。キティちゃんの声を聞くと、お腹がグーと鳴ることさえあった。


母に小銭をもらえた日は、キティちゃんの挨拶など完全無視である。


「ハーイ!私キテ…」
と言いかけてるのに、お金を貰ったとたん
「いらっしゃいませー!」
と態度を豹変させるキティちゃん。
のんきに挨拶などしていて、「やっぱりパンダに乗ろう」などと、小銭返却レバーを押されたりしたら、たまらないから彼女も必死だ。

「今日はなに味にする?カレーと塩と、バターがあるよ」
などと営業してくる。
うーん、なんにしようかな?と私はかなり迷うのだが、迷って決められない私をあざ笑うかのように、音楽がだんだん早くなり、キティちゃんに
「早くはやくぅ」
と何度もいわれてしまう。
大人になってから買ってみて知ったが、「早くはやくぅ」を三回言わせると、ガチャッ、とお金が返却される。
キティちゃんもたった三百円で、何回もおねだりさせられてはプライドが傷つけられるのかもしれない。
お高く、金にシビアで、せっかちな女、キティ。


せっかちな女に焦らされ、塩はなんだか子ども心にもお得感がない、などと計算し、カレーは辛いからバターにしよう、などと考察する私。
バターのボタンを押すと、先ほどまで早く早く、と焦らされていた音楽が、急にゆったりしたメルヘン調のものになる。

「バターあじ、キティ、一番だーいすき!じゃあおいしーいママから貰ったバターたっぷりのポップコーンをつくるからね!」
などと言われる。


しばらく待つと、機械からは
ポッポコ!ポッポコ!
とポップコーンのはじける音がして、キティちゃんのお腹の小窓をのぞくと、ポップコーンが跳ねているのが見える。

私は唾をごくり、と飲み込みながら熱くなっていく機械に張り付いて、ポップコーンが跳ねるのを見ている。
薄い前髪のうぶ毛が、汗ばんだおでこにはりつく。
「まだかな?まだかな?」
「ワクワク、ワクワク!」
とキティちゃんも何度もルーティンなセリフを吐く。
いい匂いがあたりにただよってくると、ポップコーンしか見ていないのに、後ろにいる子どもはみんな、私を羨ましがっている!とわかる。
私は今、世界一、みんなに羨ましがられている子どもだ!と鼻高々に、ポップコーンの出来を見つめる。


ポップコーンは食べたいけど、ポップコーンが跳ねるのはいつまでも見ていたい。
早く出来上がってほしい気持ちと、ずっと出来上がらず見ていたい気持ちが複雑に絡まりあったところで、ポッポコの音は止み、キティちゃんは
「もうすぐできるよ!おいしーいポップコーン!」
などという。

今頃バターをとろり、とかけているんだわ!などと夢想していると、
カタン!
と大きめの紙コップが降りてきて
バラバラザザザー!
とポップコーンがたっぷり入れられる。
「ハーイ!でっきあっがりーっ!」
とキティちゃんが叫び、透明の扉が自動でゆっくり開いて、私のためだけに作られた、私だけのポップコーン(バター味)のいい匂いがふわり、と出てくる。

「熱いから、気をつけてね」
とキティちゃんに注意され、山と盛られた宝物を、ゆっくり、一粒も落とさないように慎重に、慎重に機械からポップコーンを出そうとしていると、キティは
「おいしかったかなあ?じゃあ、またねーッ!」
と、まだポップコーンを手にとってもいない私にそそくさと挨拶をして、
また
「ハーイ!私キティでーす!」
と別の子どもたちに営業をかける。


私はこぼさないように、そろりそろり、後ろ歩きをして、子ども用ベンチに腰掛ける。
一粒一粒、大切にポップコーンを食べる。中にはできていない生の粒なんかも混じっているので、ポケットに入れて、家で煎ってもらおうなどと思ったりした。





あんなに世界一みんなに羨ましがられていた子どもだったハズの私も、ポップコーンが残り少なくなると、なんだか惨めである。

スコップで飴をすくって落とすゲームなら、今頃きれいなあめ玉をたくさん持っていたかもしれない。
ワニ叩きをしている男の子はワニに「もーう怒ったぞーっ!」などと言われていて、ゲームはクライマックスのご様子。男の子にめった叩きにされているワニは「イテッ、イテッ」といいつつ、何度もしつこく出てきてくれる。

しかし、私に愛想ふりまいていたキティは、今や他の子に
「キティ、カレーあじ、一番だーいすき!」
などと言って、バターあじ派の私たちをすっかり裏切っている。

このあばずれメス猫め!

「ンチャラララララララーラーン♪」と、蛇でもでてきそうな、日本人がみんな「ああ、なんかインド人ってこういう曲を笛で吹くよね」とイメージしそうな曲が鳴って、だんだんカレーとポップコーンの匂いがする。
「私もポップコーンほしい」と通りがかりの子どもがカレー味のポップコーンを作っている子どもを指差す。

私は淋しい気持ちで紙コップの底を手ですくい、とろーりとかかったわけではなかったバターあじの粉を舐める。

ポップコーンの油でべたついた手を、母に「洗いなさい」と叱られてトイレの洗面所で洗う。
トイレから戻ると、母が持っていたはずのキティちゃんの紙コップは捨てられていて、
「かわいいんだから持って帰ろうって思ってたのに!」
と母に怒ったりする。
母は「そんな汚いことするなら買ってあげない」と言うのでしぶしぶ、黙る。

すねてポケットに手をつっこむと、生で固かったポップコーンの粒が指に触れ、どきん、とする。
これも見つかったら母に捨てられるから、こっそり持って帰ろう。


母のスクーターの前に乗せられて(違法です、念のため)母に足でぎゅっ、とはさまれながら、正面からの排気ガスの風に目をつぶって、ときどき手のひらをクンクン、匂いでみる。


子どもの汗ばんだ手の匂いに混じって、かすかに偽物のバターの匂いと、ポップコーンの匂いがした。

「お母さん、またタカマシヤ連れて行ってな!」
と言うと、
「た、か、し、まやでしょ、高島屋!」
と母に注意される。
ポップコーンの手で口を隠しながら、私は何度も小声で
「タカマシヤ、タカシマヤ、タカマシヤ、」
と、キティちゃんの居場所の名前を練習しながら、時折手のひらを舐めてみたりした。
手は洗ったはずなのにちょっとだけ塩辛く、ポップコーンの味がしてる。


私はタカマシヤにお母さんと行くようなクールな大人のレディなんだからキティちゃんの紙コップなんか捨てられても泣かないんだ。

スクーターの正面から吹く向かい風に強く目を開くと、私は世界中の子どもにうらやましがられるような、クールで大人な子どもになった。

コメント(124)

うん…ポップコーンよりも美しい文章に欲情してきたよ
一票
あたしもキティ嫌いの小娘でしたw 懐かしい!
一票
ポップコーンおいしいですよね!

一票。

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