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日記ロワイアルコミュの十六夜

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夏休み。



それは小学生が最も楽しみにする日本一の長期休暇で、
親戚総出で海に山にでかけ、
お盆には先祖様に感謝をし、
花火をし、日焼けをし、
宿題の絵日記と読書感想文に追われる。



そんな夏休み。
当時の俺も、何も変わらない夏休みを送っていた。






1998年、8月。
俺、7歳。小学校2年生。





俺には、悪友がいた。
友達以上、親友以下。
ただ家が近いから一緒に遊んでいた、幼馴染。



俺より3日早く生まれたからと、
ただそれだけでお姉ちゃんぶってみて、
ある日彼女が一言、

「わたしの言うことは守らなきゃいけないんだよ!」

なんて言ったそれを
俺も軽く笑いながら受け入れていた。

2人きりのときは彼女が絶対。
それが、俺と彼女の遊びだった。



俺らは約束なんかしない。
ラジオ体操の後、

「また後でね!」

っと別れればいつもの時間にいつもの公園。

「また明日ね!」

っと別れれば明日のラジオ体操までは遊ばない。

決まりなど作っていない、暗黙の了解。



最初にも言ったが、
彼女は悪友だった。
そして、悪いことを思いつくのも大抵彼女だった。



パトカーに石を投げたのは僕らです。
バスを乗りっぱなしで何往復もしていたのは僕らです。
市民プールのロッカーにカルピスをこぼしていたのは僕らです。
駄菓子屋さんのきなこ棒、"あたり"を確認してから買ったのは僕らです。

歩道橋の上から車に向かって立小便をさせられたのは僕です。
その時に僕の足に小便をひっかけてきたのは彼女です。





俺らの遊びと言えば、悪戯だった。



でもそんな時、彼女が近所の交番のお巡りさんに、

「10円落ちてましたー!!」

と言ったら褒めてもらえるのが嬉しくて、

「じゃあそれは君がもらっていいよ!」

って言われて持ち帰り、
翌日も同じことして褒めてもらって

「(*・ω・*)えへへーっ」

なんて喜ぶ純粋な少女の心を見せるから
俺は彼女を見ているだけでも十分楽しかった。



彼女は平気で色々な嘘をついた。
そこはやっぱり子どもだから簡単に見破れる簡単な嘘で、

「ママに本買ってもらっちゃった!いいでしょー!!」

と言って、今でいうドヤ顔で彼女が渡してくる本を上から見てみると、

「狭山台図書館」

の判子が綺麗に押されていた。
それでも俺は

「なっちゃんすげー!オレも、オレもお母さんに頼んでくる!!」

なんてノリノリで返したのを覚えている。



俺は将来先生になりたかった。
その話をするとなっちゃんは、

「すごいねー!じゃあ今からいっぱい勉強しておかなきゃね!」

と満面の笑みで言い、
俺はその笑顔を見るのが好きだった。



ある日、いつも通り学校の宿題に出されているラジオ体操の時間。
彼女が唐突に、

「今日抜け出さない?」

なんて言い始めた。
ラジオ体操の時に遊ぶことは今までなかったが、
何も気にせずOKした。

ラジオ体操をやった証拠に判子がもらえるのだが、
判子を押すのはラジオ体操を始める前だったから、
判子だけもらって抜け出し、
ラジオ体操をやっている公園とは別の公園に移動。
2人ではしゃいでいた。





帰り際、彼女は突然言った。



「太陽って……どれくらい大きいんだろうね。」



はぁ?
っと思ったのは言うまでもない。

彼女はポケットから5円玉を取り出した。
当時の僕らにとって5円玉とは、
2枚あればきなこ棒が買える超高級な硬貨である。



彼女は続ける。



「太陽ってすごく遠いんでしょ?すごく遠いのにこんなに大きく見えるなんて
すごいよね!」



俺は2年生。彼女も2年生。
俺のバカな頭では全く理解でっきなかったし、
彼女が何を言わんとしているのかもわからなかった。



5円玉を親指と一指し指で持ち、腕をいっぱいに伸ばす。
5円玉の穴を見つめながら、彼女はさらに続ける。



「でもね、すごく大きいはずなのに、この5円玉の穴にすっぽり入っちゃうの、不思議じゃない?」



よくわからないが、
俺はいつも通りに彼女をほめた。



「なっちゃんすごいよ!だいはっけんだよ!!なっちゃんはえらいがくしゃさんになれるよ!!」



すると彼女は、



「じゃあ大きくなって先生になった時は、このことを子どもに教えてあげてね!」



とほほ笑んだ。

何の根拠もなく元気に「うん!」と答えると、

彼女はそれに満足したのだろう。
帰ることになった。








その日の夜、
俺は彼女と公園にいた。
帰り際に、夜になったら2人で家を抜けだして会おうってことになっていたから。



彼女は、また5円玉を指でつまみ、腕を伸ばしながらその穴を見つめる。



「月もさ、5円玉に入るんだよ。」

「でも月から見たら、わたしたちって、絶対見えないよね。」

「人間って、ちっちゃいよね。」



そうやって悲しそうにほほ笑む彼女に、
俺は言う言葉がなかった。



暫くの沈黙の後、彼女が口を開く。





「……あのさ、ガンって、知ってる?」



「うん、テレビで見たことある。絶対死んじゃう病気だってね。」





「わたしね、ガンなんだ。2学期は、学校いけないんだって。」





彼女の目は暗くてよく見えなかった。
だが、彼女は今までずっとこんなわかりきった嘘を言ってきた。



「うっそだー!なっちゃんは元気じゃんかー!!」



「あはっ、バレちゃった?」



そうして俺たちは笑いあった。





二度と彼女に会えなくなるとは知らずに。









2学期に入って、俺がいつものように学校に行くと、
彼女が来ない。



まあ風邪か何かだろうと思っていたが、
次の日も、その次の日も来ない。



そんなある日、
俺は親に知らされる。





「なっちゃん、死んじゃったんだって!!」





俺は死ぬという概念がよく理解できなかったが、
彼女にもう会えないと知ったとき、
涙が止まらなかった。





彼女のお葬式。
いつも俺の隣にいたはずの彼女が、
満面の笑みで笑っていた。

俺と一緒に撮った写真。
2人でピースしていたはずだが、
俺のところは切り取られ、彼女だけが笑っていた。

俺もそこに写しておいてくれればいいのに。
彼女に会えないなら、俺はここに残っていても楽しくなんかない。

彼女のいない世界に色はない。



そんなことを考えていたら、彼女の母親がやってきて、
俺に1冊の日記を手渡した。

彼女の母親によればそれは、
彼女が初めて文字を覚えてから毎日書いていた日記で、
下手くそな文字で、日々の出来事がつづられていた。



当たり前だが、
そのほとんどが俺との思い出。



1番最後のページを読んで、俺は泣いた。
この日初めて泣いた。





   きょうもこたとあそびました。
   5えんだまのあなはちいさいのに、
   それにはいるつきやたいようは
   もっとちいさいです。
   
   わたしががんだというと、
   こたはわらっていました。
   わたしは、こたのわらうかおがすきです。
   こたといるのがすきです。
   こたがすきです。

   でも、わたしはがんだからなあ。
   がんばっていきよう。
   そしたらこたは、
   わたしのことおよめさんにしてくれるかな。

   いきているって、
   いろんなことかんがえられて、
   たのしいんだね。





なんだよ。
俺の片想いじゃなかったのかよ。

読んだ瞬間、
諦めていた彼女が急に愛おしくなった。

いつも一緒にいたはずなのに、
もう二度と一緒にはいられない彼女。

また、彼女と悪戯をしたい。

彼女の言うことは絶対。
彼女に「こっちに来い」って言って欲しい。
彼女が「会いたい」と言えば、
俺は会いに行かなくてはならない。

はやく言ってほしい。



それでも、彼女の写真が動くことはなかった。



彼女は焼かれた。



俺は、彼女の遺灰を飲んだ。
苦しかったけれど、
これで彼女と1つになれた気がして。

彼女の全てを手に入れた気がして。
彼女がずっと傍にいてくれる気がして。





彼女は、最後まで俺のことを、
みんなと違うあだ名で呼んだ。

俺はあだ名をつけにくい苗字だから、
ほとんどの友達が呼び捨てか、下の名前にあだ名をつける。



彼女だけがこう呼んだ。





   こた





と。






あれから13年が経とうとしている。



高校卒業までの人生において、
俺のことを「こた」と呼んだのは、
彼女、ただ一人。

大学入学前にmixiネームを決める時に、
俺はまよわずこの名前を選んだ。



俺はあの頃からとても大きくなった。
当時から夢は変わらず、教員の道をまっすぐに歩んでいる。



必ず、5円玉に月が入ること、教えるからね。



俺は元気だよ。
なっちゃんが生きることの楽しさを教えてくれたから。
なっちゃんのいない世界に色はないけれど、
それでも俺がいつかそっちに行くまで、
待っててくれるよね。
いっぱいいたずらしてから行くからね。





夏目漱石は、

   I love you.

を、

   月が綺麗ですね。

と訳したという。



だからなっちゃん、


今日は、


月が綺麗ですね。





俺の指につままれているのは、平成10年の5円玉。
あの頃と何も変わらない。

俺は親指と一指し指で5円玉をつまみ、
腕を伸ばす。



穴と月を重ねると、
すっぽり入った。



なっちゃん、確かに入ったよ。
月って、とても小さいんだね。
人間は、もっと小さいんだよね。





今夜は十六夜(いざよい)。
十六夜ってね、満月の翌日の月のことを言うんだけど、
満月より、月が出るのが遅れてるでしょ?
だから、ぐずぐずとためらっていることを十六夜とも言うんだって。



俺がなっちゃんに最後まで好きって言えなかったのも、



十六夜だったのかな。




なっちゃん、今なら言える。





月が、綺麗だね。

いつか行くから、待っててね。





I love you.












俺が将来教員になった時、
十六夜の意味について問う問題を試験に出そうと思う。



その時、大抵の子どもは解答用紙にこう書くだろう。



   I love you.



と。




そしてきっとPTA緊急総会が開かれる。

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