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日記ロワイアルコミュの誰も羨ましくない人なんていない

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マイミクの@ひーmi@赤パッソさんの作品を推薦します。
同じ誕生日つながり、と言う縁でマイミクさせてもらっているパッソさんですが
こんな才能があったとは・・・正直、びっくりと同時に嫉妬です。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1721907104&owner_id=7988115

それでは、@ひーmi@赤パッソさんの作品
『誰も羨ましくない人なんていない』をどうぞ・・・



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



その昔、藤の花と桜の花は同じ頃に咲いていた。
ちょうど山の霞が盛りの頃。
しでこぶしが大きな白い花を誇るその少し前頃。

藤はいつも桜が羨ましかった。
お花見といえば。
別れの思い出に残るのは。
日本人の風情を思わせるのは。
最も美しい人生の代名詞として使われるのは。
それは全部桜の花。

いつもいつも、桜ばかりが目立っていて、藤は目にとめてもらえない。
桜吹雪の下で、みんな楽しそうに宴会を開く。
お酒を飲んで桜の花を喜ぶ。

花が散り出すと本当に悲しそうにみんなが桜の木を見上げる。

藤は悔しかった。
美しさで比べれば、決して見劣りしないはずなのに。
むしろ山の緑に映えるのは私。
姿が艶やかなのも私なのに。

桜なんて、桃色というよりもどちらかと言えば白に近い色だし、決して目立つ訳ではない。
それなのに、春といえば、みんな口をついて桜だと言う。

本当は分かっていた。
私は桜のように一瞬にして散ることがない。
おばあさんのようにゆっくりとしぼんでいくだけ。
数週間は美しさを保って、そのうち黒ずんだ色が混じって、ひっそりとしぼんでゆくの。
散りかけの私を見て、誰も美しいとは言ってくれなかった。

それに比べて桜は潔かった。
咲き誇ったと思えば、わずか数日のうちに花を散らせる。
もうすぐ散ってしまう儚さに、散り際の美しさに、人は魅了されるのだ。
だから桜は自信があるように見えるんだ。

藤は、桜にはどうやったって勝てないと思った。
どれだけ美しい花を咲かせても、生き様そのものが美しい桜には勝てないと思った。
私のほうが綺麗なのに。
その気持ちをぬぐい切れないまま。

ある日、散り際の桜を見上げる老人がいた。
あまりにも穏やかで、少し寂しげな瞳。
その老人は、余命わずかな病人だった。
医者からは、あと2回桜の季節を迎えられたら良いほうだと宣告されていた。
老人は、余命宣告から3回目の桜を見ていた。
この桜が散り去ってしまうまでが、命だと悟っていた。
桜が散ってしまえば生きる気力が削がれる気がした。

そうして藤は、自らの意志で花の季節を少しずらした。
桜が散りかけの頃に咲き始め、散り終わった後に紫の花を満開にする。
そうして、田植えの季節を越えて、やはりひっそりと身をしぼませていった。

桜のように美しく散ることはできないけれど、桜の花が散ったすぐ後に咲くことで、あの老人が生きる希望も持てたらと思った。
桜が散ることで悲しさだけが残るのではなく、ほんの僅かでも藤が咲くのを楽しみにしてもらえたらと思った。
何かが残れば、二番煎じでもいいじゃないかと思った。
本当は、桜のように注目されたかったし、桜のように愛されたかった。
一番になりたかった。
でも、一番に愛されなくたって希望は与えられる。
ほんの僅かな人にほんの僅かな希望を与える。それが藤の役目。





******************************************************************



桜は幸せだった。
みんなに愛されて、散り際にはみんなが悲しんでくれて、誰もが桜の木の下で幸せそうに笑ってくれた。
桜の小さな花びらを、髪の毛に絡ませた少女が走り抜けてゆく。
桜は幸せだった。

見た目は地味かもしれない。決して派手な花ではない。
艶やかでもない。
それでも、誰からも愛されるために、桜は生きた。
本当はもっと長く愛でられたかった。
でも、人々は桜の散り際の美しさに、儚さに魅力を感じていると分かっていたから桜はほんの数日でみんなにお別れを言った。
いつも泣きながらお別れを言った。
桜の涙は、風に舞い、地面を真っ白に埋め尽くすほど。

生き様に自信があった。
愛されることが当たり前だと思った。

ある日散り際の桜と咲き始めの藤を見比べた少女が言った。

「ああ、もうすぐ藤の花が満開ね。本当はね、桜より藤の花が好きなのよ私。みんなに向けて咲いているのではなくって、私だけに咲いてくれる。そんな気がするのよね、何故か。人生は潔くなくったっていい。そう言ってくれている気がするの」


桜はそのとき気がついた。
ああ、私はいつも藤が羨ましかったんだ。
決して万人に愛される花では無いけれど。
私の花の下でにぎわう人々は、私の花で賑わっているわけでは無い。
それどころか、本当は桜の花などあまり見てはいない。
けれど藤はどうだろう。
桜より藤が好きという人はずっと少ないけれど、その人たちは藤の花そのものを愛している。

本当はそんな風に愛されたかった。
みんなに愛されなくったっていい。
この少女のような、ほんの一握りの人に笑顔を与えて愛されたかった。
凛としたその姿が、公に賞賛されることはないけれど、ほんの少しの愛情で力強く咲き誇る藤。
決して美しい散り方ではないけれど、少しでも長く愛されたいと、少しでも長く楽しませたいと。
その姿こそが、本来あるべき生き様にすら思えた。

藤のようになりたくても、けれど桜にはそれができなかった。
花を散らせずにしぼんでゆく桜など誰も愛さない。
だって桜は藤のように見目美しい花ではないから。
花の美しさで比べても勝てないから。

そうして桜は開花の季節を少しずらした。
藤が花をつけるその前に、すべての花びらを散らせ切ってしまうように、少しだけ早く花を付けるように
藤が羨ましいばかりに、生きながらえてしまわないように。

潔く、心残りなく散り去れるように。

コメント(105)

あぁ。涙か出るほどの綺麗な話でした。場面が、目に浮かんだ。儚く散る桜と凛と咲く藤。
どちらも魅力。
もうすぐ桜の季節ですね。今年は見方がちょっと変わります。
えぇ〜、植物の話で涙流してしもた〜
綺麗な文章や〜一票

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