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日記ロワイアルコミュの「誰だって希望を持ちたいんだよ……勿論余命宣告された俺だってさ……Sちゃん、やんなよ!頑張って何かを産み出せよ」、または、私が本気で日記ロワイアルを書籍化して募金コミュに参加するきっかけ。

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私が夜間受付当直で働いている病院の入院患者でJ田さんと言う50代後半の男の人がいる。

彼は何年も前、通院しているときからの知り合いで、今はかなりステージが進んだ癌で、治療よりも痛み止めやLOQなどの緩和ケアの方向にいっている人だ。

彼は眠れない深夜などに、時々下の外来受け付けにやって来て、私が暇な時などにタバコをねだる。

彼にタバコを吸わせる事は担当医師から黙認を得ている。

私は厚着をした彼と病院の通用口を出て、建物の陰で一服する。

実家が岩手だが、もう親類などと何十年も連絡をとっていなくて、東京で独り暮らしをしているJ田さんは、当然癌で余命宣告を受けた事など親類に伝えていない。

「俺は無縁仏が似合う男なんだぜ」

彼はタバコの煙を吐きながら、ほろ苦い笑顔を浮かべる。

今回の震災で親類の事を多少心配しているようだが、今さら連絡をとってもしょうがないと、一切の連絡はしていないようだ。

さて、自然とこのごろは震災関係の話が多くなる。

しかし、J田さんは自分の命が残りいくばくも無いからか、いささかシニカルな口調でどこか他人事のように、津波の事とか原発の事とか停電や買占めの事を醒めた感じで言うのだ。

まぁ、しょうがないだろうと思う。

だって彼は余命宣告を受けた人なんだからと、すぐそばに死が迫っていると言われてしまったのだから。

私は彼の話に調子を合わせて深夜の会話をした。

一晩に許されたタバコの本数は2本。

J田さんは2本目のタバコをゆっくりと吸い、次第に無口になりタバコの火を見つめる。

まるで自分の人生の残り時間が刻々と短くなるのを確かめるように、暗闇に頼りなく光るタバコの先端を見つめた。

フィルターまでぎりぎりに吸ったタバコをサンダルの底に押し付けて消すと私が差し出した携帯灰皿に吸殻を捨てて、小声でサンキュ、とつぶやき病院に戻るのが日課だった。

私はいつもJ田さんが降りてくると自然と息を潜めて話すようになった。

彼の残りの時間の火が私の吐息で消えないように、彼とともに深夜の病院の外でひそひそ話した。

ところで昨晩は私が去年に出した本の事をJ田さんが言い出した。

「Sちゃん(私の名前)あの本の売れ行きはどうだい?」

「う〜ん、8ヶ月でやっと800部ですよ。
あと200部も在庫が有りますね〜」

「そうか……出版も不況だからな〜。
……でも、800部も売れたんだから、先々もっと売れるよ。
あれ、中々面白かったぜ。
普段あんまり本を読まない俺だって面白く読めたからな〜!」

「どうも……売れると良いですね〜そしたら他の話も本に出来るから……」

「大丈夫、売れるよ……」

私はタバコを靴の裏で揉み消して、携帯灰皿に吸い殻を入れると2本目のタバコに火を点けた。

3月も半ばに入ったのに真冬の様に寒かった。

J田さんが私のタバコの箱から一本抜き取ると火を点けた。
そして、くわえタバコで私の顔を覗き込んだ。

「なんか、今日は元気無いね」

J田さんは時々非常に人の心模様を鋭く見抜く時がある。

「判ります?実は……」

私は今参加しているSNSのコミュニティが震災支援の為に各人が投稿している日記を一冊の本にまとめて書籍化して、その印税を寄付する話が持ち上がっている事を話した。

「そいつは結構な話じゃないの。
勿論やるんだろ?」

「はい、そのつもりなんですけど……」

私はコミュニティ内で強硬に反対する人がいる事を、そして、震災支援に名を借りた売名行為だとか、絶対に売れる訳は無いと、それ以前に出版社が相手にしてくれる訳がないと言われている事で少し落ち込んでいる事を話した。

J田さんはじっと私の話を聞きながらタバコを吸っていた。

「なんだよ…Sちゃん、印税ちょろまかそうってする気?」

「とんでもないですよ!
 その本に出す分の短編の印税は当然全部寄附に回しますよ!」

「なら良いじゃねえか…」

「でも、単なる自己満じゃないかって…」

「自分が満足しなけりゃ他人様が満足しねえじゃねえかよ」

「それもそうですよね〜…でも、売名行為なんて言われたら…」

「おいおいおいおい!Sちゃんもずいぶん弱気になっちゃったね!
 良いことやって名が売れるんなら結構なことじゃねえか!
 それに名が売れたら売れるほど寄付金も集まるってことだろ!
 やれよ!
 近頃じゃ電車で年寄りに席を譲るんだってあれやこれや屁理屈かまして譲らない奴らがいるけどさ。
 そう言うことに文句言う奴らなんかそんなのと一緒だよ!
 気にするなよ!」

J田さんがいつになく熱く語ったので私は少なからず驚いた。

「J田さん、今日は…熱いですね…」

「うん…タバコもう一本だけくれる?」

J田さんが照れくさそうに笑ってから私に両手を合せて頼んだ。

私はしばらく躊躇った後で箱から一本抜き取って渡した。

「これ、3本目を渡したの内緒にしといて下さいよ」

「サンキュー…う〜ん、美味いな!」

J田さんが美味そうに煙を吐き出した。

そして、またいつものようにちりちりと燃えるタバコを見つめた。

「今ってさ、日本で1万人2万人も死んだの行方不明って言ってんだろ?」

「ええ…」

「俺も残り少ない命だけどよ…なんか…切ないよな…上手く言えねえけどさ…」

J田さんがまたタバコをくわえて吸った。

J田さんのさめた話し方を聞いていたら、震災のことなんか興味がないと思っていたのでいささか意外だった。
通院しているときからの知り合いだったが、今ではすっかりJ田さんの顔の肉がそげ落ちて、頬の線が深くなっていた。

「でも、時々海を流されていて助けられたとか、電気が消えた病院で赤ん坊が生まれたとかってニュースを見るとさ…上手く言えないけど…なんか、嬉しくなるんだよ…何つーかさ…」

「…希望ですか?」

「そうそう!希望!…良い言葉だよな!
 Sちゃん達が本を作ろうって聞いたとき、俺もなんか希望が湧いたぜ。
 日本はまだまだ捨てたもんじゃないよな!ってさ!
 誰だって希望を持ちたいんだよ……勿論余命宣告された俺だってさ……Sちゃん達だって何かを生み出して希望を持ちたいんじゃないの?それで良いんだよ!やんなよ!頑張って何かを産み出せよ!」
 
「……」

「俺はもう長くないけどさ。
 Sちゃん達が頑張って本作ったり寄附したりって考えると、ありがたいなぁって、頑張れよって…そう、希望が湧くよな。
 むかつく奴がいても良いじゃないかそんな奴相手にするなよ。
 それに、その本が出来てさ、その本読んで元気が出る人が100人でもいれば上等だよ!
 それに印税は困った人たちに寄附するんだろ?
 一石二鳥じゃないか。
 それに、むかつく奴らなんかは本のことなんかすぐに忘れちまうけど、感動した奴らはSちゃん達の本のこと、ずっと一生覚えてるはずだよ。
 その方が良いじゃねえか!
 日本のためにはずっとずっと良いよ!
 俺もなんか書きたいけどよSちゃんみたいに文才がねえからよ。
 Sちゃん、何かを生み出すってかっこいいぜ!」

「はい、頑張ります」

「そのかわり絶対本を出さなきゃ駄目だぜ!」

J田さんは私の肩をぽんぽん叩いて笑った。

すっかりやる気が出た私は内緒でもう一本だけJ田さんにタバコをあげた。






終わり 

コメント(105)

1票

売名だとか偽善だとか言われようが、その寄付金で助かる人達がいるのは事実。
一票!!


入れてると思ったら入れてなかった〜!!
1票です。誰だって、どんな時だって、希望を持ちたい。これを否定する必要はないと思います。

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