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日記ロワイアルコミュのかたちあるもの、かたちないもの、かたづかないのもう

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「ねぇ、なんでそんなに物を捨てられないの?」



―記憶ってのは凄くでたらめなもんで、適当に積んでおいたらいつの間にか同化してしまったり、滲んでしまったり、見つからなくなってしまったり。

一生に使える時間なんてたかが知れてる。
人一倍物忘れが激しくていい加減な俺だけど、でも俺はこの身に起こった出来事を、その全てを取り出せる記憶として留めておきたいんだ。

欲張り?

だっていつか死ぬとき、思い出すことが無かったら寂しいじゃない。



産まれた子供の為にと、嫁の実家へ引っ越すことが決まって1ヶ月。
引越しの作業は全然捗らず。

それもこれも俺の山のような荷物が原因だ。



ゼンマイが壊れたブリキのおもちゃ。

ひびの入ったカセットテープ。

どこのそれか分からない鍵。

擦れて丸くなったピック。

紐の無いストラップ片。

色あせた絵葉書。

三角形の石。



一つ一つ、見て思い出したい思い出がある。
きっとそれが無かったら、もう忘れてしまっていたはずの思い出がある―



「で、こんな道端に落ちてそうな石まで取っておくんですか?」

嫁に詰め寄られる。



「・・・そうだなぁ、その石、何に見える?」

嫁は手にした三角の石を、大袈裟に日にかざし目を細めて一言。



「ごみ」

まぁ彼女にかかれば俺の持ち物の9割はゴミなんだけどね。







公民館の裏には、人が腰掛けるのに丁度良い短い階段がある。
城跡のある公園へ登る坂道の側面で、人目に付かない落ち着ける場所。

俺が生まれた町は本当に寂れた小さな町で、夜中に遊べるとこなんて一つも無かった。

それでも俺は「月食を見に行こう」「ホタルを捕まえに行こう」「花火をしよう」と半ば無理矢理な理由で彼女を誘い出し、夜中にたまに二人で遊んだ。
昼間に二人だとなんだか照れるし、余計な友達が付いてくるかも知れない。それに、夜だと顔があんまり見えなくて、落ち着けるから。




俺が無理矢理作る理由は大体失敗だった。

雲に隠れて月が見えなかったり、ホタルは川に入らないと捕まえられなかったり、花火が湿気てたりした。

それでも、昨日見たテレビの話、学校の話、友達の恋愛事情、他愛の無い会話ばかりで、いつも夜は更けていく。



細くてさらさらした髪が好きだった。

笑うとできる目のしわが好きだった。

慌てて目を逸らす仕草が好きだった。

彼女に会う理由を作ることばかり考えて、その先の事は何も考えられず、一度もそんな気持ちを伝えることなんて出来なかった。



「これ、何に見える?」

足元の石を拾い上げて俺に差し出す彼女。
昇り始めた朝日に照らされた、角が取れて丸くなった石。
足元に目を落とすと、同じような石がたくさん転がっていた。



「石に見える」

「なんて夢の無い!」

「じゃあ何に見えるのさ?」

「ショートケーキ」

俺は彼女の手からその三角の石を受け取って、角度を変えながら何度もその形を確かめてみた。



「ケーキは川底を転がって、少しずつ丸くなるんだよ」

「何それ?」

「そんで削れて小さくなって、最後は無くなっちゃうんだ」

「でもここは川じゃないよ」

「雨風があるからいつか無くなるんじゃないかな」

「この石も無くなる?」

「大事にしまっておいたら無くならないかも」

「へー、じゃあ取っておいて、一生」

「は?」

「私がおばあちゃんになったら見せて」



その日はテストがあった日だったけど、二人とも机に突っ伏して爆睡してたっけ。







おばあちゃんになったら、見せてって言ってたなぁ。

『見せに来て』

じゃなく

『見せて』

って。



結局来なかった未来に想いを廻らせていたのは、まだ17歳の頃。
お互いにそれぞれ家庭を持った今でも、家族ぐるみで付き合っている。

昔の話は、暗黙のルールというか、誰も口にしないんだけど。

なんかそんな背徳感を含め、やっぱり捨てられないでいる思い出の一つには違いないのだ。



「えいっ」

物思いに耽っていると、掃除をしながら開け放っていた寝室の窓から、嫁がその石を投げ捨てた。



「あーーーっ!!」

「なんか気持ち悪い」

「勝手に捨てるなよもう!」

「ごみばっかり取っておくから片付かないんだ」

「えいっ、て・・・」

窓から身を乗り出した俺に、嫁はそっぽを向いてまた片づけを始めた。
・・・そんなに気持ち悪い顔してたのか。



「いる、いらない、いる、いらない、いらない、いらないいらな・・・」

怒涛の勢いで、そして嫁の独断によって大きなダンボール箱一杯にゴミ認定されていく俺の思い出。

嗚呼、さようなら俺の記憶達。





探せば見つかるはずの石を俺は探さなかった。
時間は形のあるものも、形のないものも、全て消し去ってしまうのかも知れない。

不思議と寂しい気持ちにならなかったのは、消えたものに変わる何かが、きっと俺の中にあるからなんだと思う事にした。

焼却炉から舞う灰と、それに混じって降り始めた季節はずれの雪が、夕日にきらきら輝いていた。

コメント(79)

 きれいな文章と思い出と想いが身体に染み込んできました。

 一票。
探せば見つかるはずの…のくだりが好きです。一票。
「なんか気持ち悪い」の言葉には
思い出への執着に対する嫉妬
の気持ちがあったのでは...?

的はずれだったらすみません。

一票晴れ
一票

美しい思い出を捨てられても怒らないで受け入れられる相手を見つけた素晴らしさ☆彡

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