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日記ロワイアルコミュのキラモ君とベル・エポック

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のちのち、男性同士のちょっとエロい個所があります。
お気をつけください。

では、いっきまーす!



**************************************************






未来に希望はある。のかなぁ?よくわかんない。
あればいいな、とは思う。
でも僕の未来は多分そんなに明るくない。

仕事はようやく順調になってきた。
入社した頃は何をしても怒られた。
どこをミスしているのかもわからなかった。
毎日毎日怒られていた。
悔しかったけど社長がとても良い人で、この人の会社にいたいと思って辞めずにいた。
必ず仕事の出来る男になって、この社長の役に立ちたいと思っていた。


新人の僕の仕事は、その社長にお茶を煎れることから始まっていた。
いつも笑顔で美味しそうにお茶を飲んでくれた。

社長の名前は神威ハルキさん。
一代でこの会社を築きあげたスゴイ人。

随分あとで知るのだが、奥様を数年前に事故で亡くされていた。
火事だったそうだ。
当時、奥様のお腹には赤ん坊がいた。
社長は一瞬にして奥様とお子さんを亡くされた。
剥がれない身体を無理矢理に引き千切られたような痛みと悲しみが社長を蝕んでいった。

愛する妻と子を亡くし、絶望のどん底に落とされた社長は
家で眠ることが出来なくなってしまった。
引越しを繰り返しても、ホテルに泊ってみても、何をしても眠ることが出来なかった。
マンションを借り、そこに荷物だけは置いてあるものの、そこでは眠れない。
社長には帰る場所がなかった。
深夜営業をしているファミレスで、ただただ時間が過ぎるのを起きて待っていなければならなかった。

或る日、重度の睡眠不足のまま接待をしなければいけなかった社長は
すっかり酔い潰れてしまった。
どこに帰ればいいと言うのか。
フラフラと彷徨っているうちに、跡かたもなくなった当時の家の前に辿り着いた。
そこは公園になっていた。
ブランコやすべり台、土管、ジャングルジムがあった。

土管にもたれながら月を見上げていたら、いつの間にか眠っていた。
社長はすぐさま、その公園の土地を買った。
ようやく眠れると思い、土管などの遊具を撤去して家を建てた。
しかし家の中では眠れなかった。
自棄になった社長は家を取り壊し、また土管を用意してあの酔い潰れた日のように眠ってみた。
すると、また眠ることが出来た。
それ以来、社長は思い出の場所、しかも土管の中で眠る生活を余儀なく送らされていた。

そして社長には僅かに願っていることがあった。

ここにいれば、また愛する妻に会えるかもしれない。


社長は亡霊のようにそこから離れられなくなっていた。




そんな事情があることなんて知らない当時の僕はただ呑気に毎日毎日お茶を煎れていた。

「笹原君、お茶をお願いしますね」
「はい。今、お持ちします」

「嗚呼、君の煎れたお茶は美味しいね」
「ありがとうございます」
「今日も仕事頑張ってください」
「はい」

毎日毎日同じ言葉を繰り返す。
僕はこのひと時が大好きだった。

仕事は一向に出来ないままだった。
一年が過ぎる頃、僕はすっかり病んでいた。
どうしてこんなに僕は仕事が出来ないのだろう?
どうしてこんなに僕は怒られるのだろう?
人に怒られるというのがこんなに心を病ませるとは思わなかった。

学生の頃の成績はそんなに悪い方じゃなかった。
どちらかと云えば上位の成績だった。
僕のプライドはズタズタだった。

僕は会社を辞めることにした。
親が病気で地元に帰るという理由にした。
もちろん、嘘だ。
でも僕がこの会社にいては迷惑になる。
僕では戦力にならない。

「そうですか。それは仕方ありませんね。残念です」

社長は表情を変えずにそう言った。

嗚呼、もうこの人にお茶を煎れることはないんだな。
淋しいな、と思った。
仕事を辞めることは何とも思わなかったけど、この人に会えなくなるのは淋しいと思った。



会社は送別会を開いてくれた。
その頃は社長がどこでどういう生活をしているなんて知らなかった。
送別会が終わった後、あまり酒が強くない僕は酔いを醒ましたくて公園で休んでいくことにした。
桜のたくさんある綺麗な公園があったので、そこに決めた。
不思議な公園で、中には土管と物置しかなかった。

僕は何だか子供の頃を思い出して懐かしくなって、その土管の中に入ってみた。
意外と大きな土管で大人の僕でもさほど窮屈ではなかった。
背中を冷たい土管にくっつけて、膝を抱え、ジッと靴の先を見た。

「また社長に会いたいな・・・」

声に出して言ってみた。
少しまだ酔いが残っているんだろう。
僕は独り言を言っていた。
そして声に出したことで答えがわかってしまった。
自分の言葉の先には否定的な答えしかないことに気付いた。

「会えるわけないよな」

溜息をつき、土管の中に寝転んだ。
スーツは汚れてしまうだろうけど、どうせ明日からは使わないんだ。
気にする必要はない。


どれくらい時間が過ぎただろうか。

「本日付けで退職した平社員君、ここで何をしているんですか」

突然、声がしたかと思うと頭を叩かれた。

驚いて起き上がると社長がいた。


いつもオーダーメイドの仕立の良いスーツをサラリと着ている社長ではなく、
作務衣を着た社長がそこにはいた。

「ひいっ!社長!」


「何ですか、化け物に遭ったみたいな声を出して」

「だ、だってまさか、こんなところで社長に出会うとは」

「こんなところでとは随分な言われようですね。ここはアタシのネグラですよ」

社長が土管の中に入ってきて僕の隣に座った。

「よっこいしょーいち、と」

「はい?何ですか?」

「・・・気にしないでください」


社長は僕にキラモというあだ名をつけた。

キラキラしているのにモッサリしている、を略してキラモというらしい。

そして社長は自分のことを「ハウスさん」と呼ぶように言った。



社長は僕の嘘の退職理由を見破っていた。
辞める理由も見破っていた。

採用した自分としては失恋した気分だと言った。

それから実はお茶が美味しくなかったと言った。
でも僕の笑顔を喜んでいたと言った。


それから僕には他の誰も持っていない力があると言ってくれた。

僕はまた面接に行ったら採用してくれますか?と聞いた。

そんなことわかりません、と言われた。

でも、もしその時キラモがキラキラしていたら採用しますと言った。



翌日、僕はまた社長にお茶を煎れていた。


僕は社長が言ってくれたようにガムシャラに仕事をした。
それからこれは社長に内緒だけどお茶を美味しく煎れる研究もした。
ネットで色々検索してみたりした。
茶道教室にも通った。
そうしていくと、どんどん面白くなって珈琲の煎れ方も勉強するようになった。
実はコーヒーコーディネーターと言われる珈琲関係の資格も取得した。

するといつのまにか、何故だかわからないけど仕事でミスをしなくなった。



「嗚呼、今日も笹原君の煎れたお茶は美味しいねえ」

「ありがとうございます」


社長にお茶を煎れるのは新人の仕事だが、僕は二年目もお茶を煎れていた。



「お前、よっぽど社長に気に入られてるんだな」

「え?」

「あの人、褒めてたぞ。

笹原君のお茶が一番美味しいですって。

笹原君の煎れたお茶しか飲みたくないから、これからは新人さんに煎れて貰わなくていいです、だってさ」

「そうなんですか?」

「珍しいんだけどな、こういうことって」

「へ、へえ。知りませんでした」

「それに仕事もだいぶこなせるようになってきたじゃないか。これからも頑張れよ。期待してるぞ」

「あ、ありがとうございます!頑張ります!」

僕をずっと怒っていた課長はそう言うと俺にもお茶を煎れてくれないかと笑った。

僕は二重に嬉しかった。

社長が、課長が、僕を認めてくれた。


特に社長の言葉は僕を天に昇らせてしまうほど嬉しかった。



僕は時々、社長のいる土管を訪れたりした。

会社では笹原君と呼ぶけど、プライベートでは僕をキラモと呼んだ。

僕も会社では社長と呼ぶけど、プライベートでは社長をハウスさんと呼んだ。


春も夏も秋も冬もハウスさんはそこにいた。

建設会社の部長さんや若い男の子や女の子もそこにはいた。

みんなにもあだ名があった。


僕達は何だか「仲間」のようだった。

みんなは僕のあだ名が一番羨ましいと言った。



「確かにお前はキラキラしてるな。ま、モッサリもしてるけどな」

部長さんのあだ名は自分の子供の頃のあだ名の「健坊」だった。

健坊がお酒を飲みながら大笑いした。

「そうよー。健坊は例外として、キラモだけじゃん、ハウスたんのつけたあだ名で悪口じゃないのって」

女の子が言った。

彼女のあだ名は「吠え吠え」だった。

「ボクなんて不細工だからねー。これが一番最悪じゃない?」

男の子が言った。

彼のあだ名は「不細工」だった。


「そ、そんな。皆さん、素敵なあだ名じゃないですか」

僕は恐縮しながら言った。

「どれも最悪ですよ」

ハウスさんが笑いながら言った。



モッサリはしてると自分でも思う。

でもハウスさんの言うようにキラキラしているのだろうか。

多分していないと思う。買いかぶってくれてるんだと思う。

だって、どっちかと云うと暗いし。



僕達はその場所で眠っていくこともあったし、帰ることもあった。

約束はしていないので誰がいつそこに行くとは誰にもわからなかった。

月曜日に全員がいることもあれば、金曜日に誰もいない時もあった。






僕は毎週土曜日は行かなかった。

土曜日の夜はいつもメールが来る。送る場合もある。






「今から会えますか?」





お互いの都合があえば会う。


待ち合わせ場所に現れるのは男性だ。





「何だ、全然イケてるじゃん。もっとダサい子が来るのかと思ってビビっちゃったよ」


僕の顔や全身を上から下まで見て相手がニヤッと笑う。







「そうですか。それは安心しました。僕でかまいませんか?」




「全然オッケー。じゃ、行こうか」



僕は腰に手を回されエスコートされてホテルに入る。



僕は毎週違う男に抱かれている。







http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1407358352&owner_id=24383800


につづきます。

コメント(109)

この方が作り出す人物達は何故こうも魅力的なのでしょうか。



一票
泣けました涙星緒さんの日記はおもしろぃexclamation ×2

一票ハート
星緒さんの文章の匂いが好きです。

一票!!!
とても好きな作品になりました!

1票♪
かなりの長編でしたが感動しました

一票

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