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日記ロワイアルコミュのデイドリーム・キッズ

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「嫌いだね!!子どもなんて!!」


いつもそう言っていた俺が出身の野球チームのヘッドコーチに就任したのは
大学2年の春。

入り浸っていた飲み屋で偶然出身チームの監督に会ったからだ。


『夏音ー、飲んでばっかり居るならチーム手伝ってくれよ〜』
たばこと酒とオッサン特有の饐えた匂いを口臭に乗せ、
60オーバーの監督がにやにやしながら言った。


「契約金いくらだ?年俸もらっちゃうよ?」

フツーの断り文句だったのだが、
帰ってきた言葉が意外だった。


『はーん。オマエはもう野球嫌いなのね。結構小さい男になったなぁ〜。1勝くらい出来るかと思ったのに。もういい、用はねぇよー』



なんだとモウロクじじい。

「冥土の土産に勝ち星持たせてやるよ」


ぐっひゃっひゃと監督が笑った。
契約完了のサインだった。



しかし、だ。
週末、出身の小学校グラウンド行くと気持ちは一気に萎えた。


なんたるヘタクソ。
いや、いいんだヘタクソなんて。
野球が好きで上手になりたいその気持ちさえあれば、俺だってモチベーションあがるし。



メンバー18人中、時間通りに集合したの6人。
連絡無し欠席8人。
ランニングしないでDSやってるバカ数人。

俺達が現役の時は鬼の様におっかなかった監督は、
校庭のタイヤに座ってコーヒーとたばこを愉しんでいる。

なんじゃこれは。

よく見れば校庭も7割が蹴球に占有されていて。


時代はJリーグ全盛期。散歩してる犬だって蹴球のユニフォームなんぞを着て腐る。

ムカついた。
心底ムカついたね。




大きく息を吸い込んで。


「集合だ、くそガキどもぅ」

なんなら隣の中学校の生徒まで振り返るくらいの声だったね。

ビビってる子ども半分、かったるい顔してる子ども半分。

『あのなー。今日から臨時でコーチの夏音だー。みんな仲良くなってなー』
監督がへらへらしながら言う。


にわか雨みたいなパラパラの拍手。

「俺はオマエら嫌いだから。野球やんならちゃんとやれよ。じゃなきゃ辞めちまえ」



完全に子ども達は敵になりました。
子供達どころか親御さん達まで。



監督はそれを見ても笑ってるだけ。
何がしたいのか全然わからん。

少年野球だから練習できるのは週末のみ。
秋の公式戦までにチームを纏めようと思った。


監督に昨今の大会記録を見せてもらった。


過去3年間6大会。
1回戦コールド負け4回
2回戦コールド負け1回
不戦敗1回


「監督よー、・・・不戦敗ってなに?」

『ん、ああ。なんかのゲームの発売日だったかなぁ・・・』

「もう・・・何言われても驚かない気がするわ・・、
でも2回戦負けって事は1回勝ったって事でいーんでしょ?」


『ん・・ああ。相手が日程間違えて来なかったんだわぁ・・・』


俺が野村監督でも白旗振りそうだ。



さて、じゃあ。がんばろうかね。

俺が子ども嫌いで、相手は俺と野球嫌いっつー果てしなく相性は悪い。
最高の船出だね。入り江で沈没しそうな船『夏音丸』は
不協和音をテーマソングにして出航したのでした。


「オマエらに野球を愉しめなんて言ってる余裕ねーんだよ」
「休みたきゃ辞めちまえー」
「家でバット振って来い、宿題なんて二の次だバカヤロウ」


俺だったら辞めてる(笑)

でも生意気に『辞める前に勝ってみたい』とか言いやがるから。
だったら付いて来いと。

勝たせてやるからついて来いと。
もう80年代の青春スポ魂ヨロシクな展開になりつつあって。
打ちに打ちまくる練習をさせた。






事件が起きた。

狭い校庭内での練習。
そのくせ、俺は一日中フリーバッティングをやらせました。
その打球が蹴球チームの子の頭に直撃。
校庭に倒れ込みました。

「うん。・・・・・・で?」
これが俺の感想。

病院行くなり、保健室空けてもらうなりすればいーじゃない。
もちろん謝りました。当人にも、その日のうちに親御さんにも。

んで、親御さんがバカみたいに怒ってる訳で。

『頭に障害が残ったらどうする』
『責任はアンタがとるのか』
『治療代請求するからな』

打った本人を同席させなかった事がまた腹立たしかった様で。

『だから野球なんて野蛮で低俗なスポーツは・・・』


ドカーン。

夏音ドカーン。

蹴球だって、ヘディングするから頭に負荷かかるだろうが。
しかも今回当たったのはポップフライだぞ。
子どもがビックリして倒れこんじゃっただけだっつーのに。

責任?治療代?俺が持ってやるよ。請求書持って来いよコラ。

ただ、今テメェが言った野蛮で低俗なスポーツってのをウチの子どもの前で言ってみや。
一生懸命やってる子どもの前でそんな言葉吐けるテメェの神経の方がよっぽど低俗じゃねぇのか。
なんとか言えよコノヤロウ。

って、玄関のドア蹴りながら言いました。
おまわりさんが来ました。

一応事情聴取されて、ドア蹴ったからなんか書類書かされて。
翌日監督から電話が来て、ああクビだろうなって思ってたら、
他に人がいねぇんだよって理由で続投となりました。


打った子は気にしてたけど結局子ども。すぐ忘れるもんで。

そこからチームを辞める子が少し増えた。
気にしなかった。
強制するつもりはないし、勝ちたいって子だけでいいやって思ってたし。
楽しく野球したいのであれば別のチームに入ればいい位に思ってた。


唯一、丸3日間野球漬けになれる時。
『夏合宿』

これは熾烈を極めた。
朝から晩までバッティング。寝ても覚めてもバッティング。
手のひらなんてみんなスプラッタになっていった。

この頃でも俺は子ども達が嫌いだった。
練習が終わると遊んでる奴等が嫌いだった。
その分まで練習すればいーのにと思ってた。

毎回、練習が終わると子供達は監督の下に群がり、
俺はグランドの隅っこで泥まみれの手でたばこに火を着けていた。

大会が近づくと、子どもなりに締まった顔を作る様になってきた。

そこそこ形になって来たし、なにより子どもたちが野球に真剣だった。


『どーよ?ヘッドコーチ?ぐひゃひゃひゃ』

「見りゃーわかるでしょうよ。勝ち負けくらいにはなったんじゃないの」

『1回戦くらい勝ってくれないと、親御さん達から非難すごいだろぅなぁー』

「何その言い方?負けたら監督辞めればいいじゃん。責任はトップが取るのが筋でしょ?」

『ぐひゃー。こんな監督のクビだけで済んだらいつでもくれてやるよぅ。頑張れよー』


チームとしては色眼鏡かけてもまだまだ弱い部類に映った。

それはしょうがない事。そんなに野球甘くないし、勝利は尊いもんだ。
それが分かるだけでも子どもには良い事じゃねーかな。なんて。


チームで一番気の強い、反骨心旺盛なキャッチャーのジュンが俺の所に来た。
めづらしい事だ。

『コーチ。リードを教えてくれよ』

「いーよ。途中で泣くなよ?」

『泣かねぇよ!!』

クソガキが。いくらでも付き合ってやるわ。泣かしたるわ。


もう2週間で公式戦だ。


おのずと子ども達にも緊張感が漲ってくる。


「あのなぁ!おまえらが緊張したって悪い方向に動くだけだから。
練習真剣に試合適当にやれやー」


多少精悍になった顔で、俺を睨みつける子ども達。

いーよー、その感じ。
いただきましょうその感じ。

『あんただけにはバカにされたくない』って目が言ってるよ。

監督が俺達の師匠だと、ありありと態度に出てる。

それでいーよ。試合にさえ勝ってくれれば。
監督と俺が約束した一勝。それだけ出来れば俺はサヨナラだ。



ただ、事態は悪い方向に動くもので。


公式戦一週間前。

監督から電話。

『1回戦の相手〜。東京野球クラブな〜。』


「・・・・・醤油飲んで死んでください」


市内の大会で4連覇中、その先の都大会ベスト8常連。


ちょっと、いい勝ち方なんかして、
【練習厳しいけどいいコーチ】的な感じで終われるかと思ってたのに。


練習厳しくて勝てないコーチ。

最悪じゃないか(笑)



子ども達にその事実を伝えた。
子ども達の中には目を瞑って天を仰ぐ者、
グローブ叩きつけて大きくため息をつく者。反応は様々だった。


カチーンときた。

「勝てないと思うよ。おまえらレベルじゃ勝てないと思うよ。」

『『なんだよその言い方!!!!』』

一斉に罵声が飛んだ。

「勝たせたいけど。勝てると思うけど。そんな反応じゃ1年生のチームにも負けんだよ!」

『どーせ勝てないじゃねーか!勝てる訳ねーじゃねーか!!』

「その気持ちの持ち様がダセーっつってんだよ。
勝てないなんて試合終わった後に言え!!今勝てるって言わないでいつ言うんだバカどもが!!」


『俺、もう試合行かない』
『俺も』
『僕も』



あら、激を飛ばしたつもりでもあったのに。


超緊急事態です。

レギュラー3人抜けました(笑)




試合当日。

ビックリするほどの観客。

子ども達の小学校には2チームしかないからかなりの応援団が詰め掛けていた。


で。


監督がいない。

連絡付かない。

親御さんも連絡するが捕まらない様だ。



もう。監督代行俺様です。

親御さん達の見つめる中でミーティングが始まった。


『コーチ・・・なんで監督いないの・・・?』

「はい。知らない。いない人間言ってもしょうがない、
先発メンバー言うぞー、呼ばれたら返事なー」

『いやだってば!監督いないと試合できないじゃん。』

「だから俺が監督代行なんだよ。黙って聞いてろ」


『あの…すみませんが!』

三人の親御さん達が、前に出てきた。

「はい?」

申し訳なさそうに親の背中からレギュラー3人が出てくる。

『行かないって行ってゴメンナサイ。やっぱり試合出たいです・・・』

親もペコペコしている。東京野球クラブとの試合だ。息子の勇士が見たいのだろう。

よし、早くみんなの輪に入れ。と言ってから、親に向かって冷静に、強く言った。

「この三人は試合に出しません」

みるみる強張る親御さん達。

「自らの意思で出ないと言った責任を取らせます。
もう今日のスタメンは口頭で伝えてありますので変更出来ません」

『なんだよテメェ!ウチの子の方が上手いんだから出せよ!』

「るっせーんだよコノヤロウ!!子どもに半端な事やらせてんじゃねぇ!
その言葉かけられてる他の子どもの気になってみろ。帰れコラ!!!」

一塁側、水を打ったように静まり返る。
もう試合前から俺様四面楚歌。


それでも試合は定刻通りに始まる。当然ながら。



東京クラブのピッチャーがバカみたいに速い。

うーん・・・厳しいなぁ。
と思ってたら、結構ウチの子たちが打つ。
バッティングしかしてないからなー。

ただ、点が入らない。

加えて、東京クラブは主力温存だ。
それにすら力負けしている。


コールドさえ免れれば、正直格好が付くと思っていた。
でも、俺が思うよりも、予想よりも子ども達は逞しくなっていた。

4回終了時。3-0。

すごいぞ。頑張れ子ども達。
俺なんかどーでもいーからさ。
監督の為に頑張ればいいよ。監督に褒めてもらえよ。


「こらぁ!ちゃんとサイン見ろー!」

『サイン出すのが遅いんだよ!!』

もうケンカだね。今日勝って早く静かな週末を取り戻したいぜ。



思ったよりも守備が形になっていて驚いた。
バッティングばっかりやってるって事はその分守備機会も増えたと言う事か…。

奇跡、は少しずつ形を成しつつあった。

6回ウラ、ウチの3番・4番が連続長打。3-1。2点差。

俄然現実味を帯びてくる、勝利の二文字。

流石に東京クラブ、一気に1軍面子を投入。逃げ切りを図った。

最終回7回オモテ、東京クラブの攻撃。

1アウトから2本の単打と死球で満塁。バッターは4番。
万事休すか。


ライトに高々とフライが上がる。

完璧な犠牲フライだ。

一点追加は覚悟して、そして試合の大勢決する覚悟も、した。

ウチのライトが捕球後腕を振る、キレイでゆっくりな放物線がキャッチャーに届く。
誰もが呼吸を止めて審判の動きに目をやった。

審判は青空に親指を突き刺した。

なにやら、ガタンと、流れを変える歯車が動いた音が聞こえた気がした。


最終回のウチの攻撃。2点差。


「あ」


っと言う間に2アウト。

ところが、突如ピッチャー乱れた。
四球・四球・パスボールで2・3塁。

なんと、ホームランで逆転の事態。


バッターは、ジュンだった。

「おい!ジュン!びびってんじゃねーぞ!!!」

『アホか!コーチじゃなくて俺たちがコーチを勝たせてやるから黙って座ってろよ!!』

まぁ、生意気な。


1球目・2球目フルスイング。

本当に狙ってんの?
小学生が狙ってホームランは打てないと思うよー。


3球目。

快音がグランドに響く。

太陽が目に入って打球が追えなかった。

高い、

とても高い打球だった。


レフトが背を向けて全力疾走してるのが見えた。

応援団の発狂にも似た叫び声が聞こえた。


『いけぇー!!』

チームメイトの枯れんばかりの声が聞こえた。

キラリと。太陽からボールが落ちてくるのが見えた。



最後に、東京クラブの大歓声が、聞こえた。




躍起になって喜ぶ三塁側とは対照的に、こちら側のベンチは憔悴しきっていた。

ただ、誰一人として、俺の元には寄らず、黙々と片付けを始めていた。

まぁ、こんなもんだろう。
辛く当たった挙句、敗戦だ。


最後、親御さん達にも御礼を言わなくてはならない。

全員を整列させる前に、ジュンがふらっと俺の前に来た。

真っ赤な顔で明らかに怒り心頭だった。

そんなに怒ってもしょうがないだろうよと思いつつ。

「なんだよ」と言うと。


『コーチ。・・・・・・打てなくってごめんなさい・・・』

言葉と同時にジュンは号泣してしまった。

『打てなかったから!!あんなに打つ練習しだのに、うでながったがら・・・!!!
ううう・・・・ごべんなさいい・・・うーぅ』




「おまえ、がんばったじゃん!!!練習したじゃねーか!!死ぬほど!!何も悪かねぇよ。悪いのは俺だから。ごめんな。ジュン。よくやった!マジすごかったぞ!!」

マジでぐっとこらえた。

誰も居なかったら俺だって号泣だ。



挨拶の後、父兄から連絡を受けた。

『監督が病院に居ます』と。


そういえばあのジジィ。
体悪かったのか?!


もう一つ。
『実は、今回の大会でウチのチームともう一個のチームが統合しちゃうんで、このチームでの試合は最後なんです』



ざけんなよーおい。

それわかってて俺に指揮を?

冗談じゃねーよ。


勝たしてやれなかったじゃねーかよ、最後なのに。

いい思い出にしてやれなかったじゃねーかよ!!


大至急、病院に急行。



「じじぃコノヤロウ!!!!」

『あ、ごめん。痔の手術してて経過悪いもんでいけなかっただわ。ぐひゃひゃひゃ』

「それもそうだけど、チーム最後ってどう言う事だ!そんな大事な試合で俺なんかに任せやがって!!」


『しょうがないじゃん。最後だってなんだって。いい試合だったらしいじゃなぃのぅ』

「でも、子ども達がかわいそうだろが!」

『なんで?』

「チーム統合で、さ・い・ご・だから!!」


『はー。・・・・はーはーはーそうか。ぶひゃひゃひゃ』

「な!?何笑って・・・」


『あのな、チームは統合じゃなくて、吸収。チーム名もユニフォームも全部ウチの使用。戦力大幅アップ』


「は?!」

『オマエとの約束。一勝はまだしとらんからコーチ継続なぁー』

ちょ、ちょとまてジジィ!!


『今度は泣くなよコーチ!』

振り返ればチームメイトが数人。



なんじゃこれ!?


あわてて病室を飛び出した。


『逃げんなよコーチー』
『週末来いよー』
『泣かせてやるからよー』


子ども達の声が廊下にコダマする。




俺は笑いながら子ども達に叫んだ。





「嫌いだね!!子どもなんて!!」

コメント(346)

一票!年取るとこういうの弱いんだわさ♪

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