ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

日記ロワイアルコミュのハト。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
キノコだったら確実に致死毒を孕んでる配色の野生のハトは、もしここがポケモン的な世界ならレベル17くらいで華麗なクジャクに進化する前段階ってことになるんだろうけど、どうも生命のシステム作った神様はその辺空気読めなかったらしいので、土鳩と書いてドバトと呼ばれる彼ら彼女らは、海岸に漂着した重油の照り返しみたいな羽毛を背負ったままで生まれ死んでくことになる。

そういうのをちょっと悲しいと思うのは多分僕の個人的な感傷で、環境保護とかを主張してる偉そうな大人なら自然の摂理とかを背景にそんなものは人間のエゴに過ぎないと説法するのだろうけど、しかし「エウレカセブン」の終盤でドミニクがアネモネを救いに行く時言ったように、一体エゴで何が悪いっていうのだろう。
「愛する人を救うのは自分でありたい」と、世界の存亡を前にしてドミニクは言った。
皆を救う確率より己の感情を優先したそれは結果が伴ったという事実を抜きにしても、とても素敵な言葉で美しい姿勢だと僕は思う。人は誰でも自分が思い描く理想の自分になりたいと想っているし、理想の世界になって欲しいと願ってる。

たとえば僕が願うそれは土鳩が美しく羽ばたく世界。
強い願いはやがて外に溢れ出し、それは物語として形をなす。

そう、それはたとえばこんな――







『たとえば僕がこんな身体じゃなくて』


と、僕はその人間の老人に語る。
それは老人の問いかけに対する答えで、最も肝要な一部分。

「何故だね?」

そう、風のない夜の森のように穏やかな声で人間の老人は尋ねた。
彼は人間でありながら鳥の言葉を解する。賢者、と古い鳥達は呼んでいた。身体を覆うカラスのように黒い毛皮と対照的に、頭は目と口元しか見えなくなるような長く縮れた白髪と白ヒゲ。変な格好だ、と他人のことを言えない僕が思った。

「どうして君は、虹になりたいなんてことを思ったのかね?」

どうして、と彼は尋ねた。何故虹なのかと。

たとえば白い鳩の群れの中で、ある時たった一羽生まれた土鳩。
周囲に虐げられ蔑まれる遠因で原因でもある、この色鮮やかというよりハッキリと毒々しい悪趣味な配色の羽さえどうにかなったなら、それで解決する話なのではないか、と。

けれど僕は答える。人間のようにゆるゆると首を横に振り。

「それはもう、遅いんです。僕がもっと幼いころであったなら、きっとそれで満足したのでしょうけれど」

けれど今の僕には分かるから。分かってしまっているから。

「たとえば僕がこんな体じゃなくて、もっと普通の羽色をしていても。それでも多分、僕のたったひとつ欲しかったものは、他の――」

他の?いや、それは正確ではない。僕は言い直す。
実の両親にさえ疎まれ蔑まれていた中で手を差し伸べてくれた、今は夫婦(つがい)となった2羽の親友を思い浮かべながら。

「彼の、元に在ったのだろうと。そしてそれが一番相応しいことだと思うんです」

白い羽。綺麗な身体。
きっとそれでも僕は彼女に選ばれない。
きっとそれでも彼女には彼が相応しい。

否、選ばれない、ということすらおこがましい。
そもそも僕は名乗りをあげることすらしなかったのだから。
いくじなし。臆病鶏。

『貴方は、もう少し自分に自信を持ってもいいと思うよ?』

そう言ってくれたのは、他でもない彼女だ。

『みんな馬鹿にしてるばかりでちゃんと見ていないけれど、貴方は群れの誰より高く早く飛べる翼を持ってるわ。それにその羽も。見るたびに少しづつ色が濃くなってること、自分で気づいてる?私いつも思うのだけど、貴方の羽色はこれからどんどん鮮やかになって、いつか虹のようになれるんじゃないかしら』

白く光り輝くような羽よりも、なお美しい魂の色。
眩しすぎて美しすぎて、僕には望むことすらおこがましいことに思えて。
そう、結局のところ僕に足りなかったのは綺麗な身体なんかじゃなくて――

「ふむ、なるほどなるほど」

面白がるような老人の声で、僕は懐古の世界から呼び戻される。
ふと気づくと間近から老人は僕の目を覗き込んでいた。まるでそこから頭の中を読み取ったように頷く。
目を細め口の端を吊り上げたその表情は、なんだか野原で遊ぶ孫を遠くから見ている祖父のような、好々爺じみた笑みだった。

「青春だの」

つぶやいた言葉の意味はよくわからなかったけれど。
ただ、その響きはいつも僕に掟や常識を諭すように語って聞かせた群れの長老のようで、僕は少し不安になる。
けれど賢者と呼ばれる老人は、それすらも読み取って呵呵と笑う。

「別に止めやせんよ。人間の若者ならば先は長いと言うことも正しかろうが、お前さん達の命の時間は人より大層短いし、産めよ増やせよと言うほどに神を敬ってもおらん。どの道ワシには羽の色抜きなんぞ出来やせんからの。出来るのは、鳥で虹を作ることだけさね……その命と引き換えにして、な」

「ええ、それで十分です」
僕は迷いなく答える。分かっていたことだった。
賢者は空飛ぶ者を虹に変える。代償はこの世で最も大きな痛みとその魂。

「一応聞くが、本当にいいのかね?こいつは要求される苦痛と代償から言って間違いなく拷問か刑罰の類だ。平たく言えば焼身自殺だからの。炎色反応…といってもお前さんには分かるまいが、要は七色に燃える火薬を全身に刷り込んで、摩擦熱で火をおこす、花火みたいなもんだ。生きながら火に焼かれる。考えるだけで苦しいなあ?しかも成功する確率はさほど高くない。燃え損という可能性は十分にある。そしてもし上手く虹になれたとしても、10回まばたきを繰り返す間には綺麗さっぱり消えてなくなる。それっきりだ。それでも…」

「それでも、構いません」
脅すような老人の言葉を遮って、僕は断言する。構いやしない。
今の僕が在る意味は、きっともう彼女の言葉の中にしかないのだから。
それでも賢者と呼ばれる老人は続ける。きっとそれは鳥達を焼くという行為に手を貸す、彼なりの責任感なのだろう。

「君は構わなくても、誰かが構うかもしれんよ?誰かが、君が居なくて泣くかもしれんだろう?」

浮かぶのは勿論、優しく綺麗な彼と彼女の姿。
そして。

「そうですね。きっと彼は悲しんでくれるでしょう。彼女は泣いてしまうでしょう。ですがそれでも、」

そして、浮かぶのは。


『お前は、二人の枷になる』


”彼”の親――長老と呼ばれる老鳥の言葉。

『勝手なことを言っているのは承知している。すまないとも思う。
しかし間違ったことではない。それはお前が一番よく分かっているだろう?』

汚く醜く蔑まれる僕が彼等の傍にいることで、二人に害が及ぶかもしれないという、それはとてもとても正しい言葉。

「それでも、いえ、それだからこそ僕はここで消えてしまった方がいい」

それでもきっと彼等は構わないと言うだろう。
笑って僕が傍に居ることを許すだろう。

でも、だけど。
そうして許されてしまった僕は、一体どうすればいいのだろう?

虐げられるのは慣れている。
蔑まれたって気にならない。
無視されるなら快適だ。
けれど、

けれど、憐れまれるのは、とても辛い。

「一方的に許されて、何も返せないまま生きてしまったら。
そんなことになったなら、きっと僕は僕自身を許せない」

迷いが無いと言ったら嘘になる。後悔はいくらしてもし足りない。
けれどきっと、これが今出来る最善で、僕が最も望むこと。

「そうか」
と、賢者は、目を細めて頷いた。

「そうか、そうか」
こくり、こくりと。噛み締めるように頷く。
そして言う。

「わかったよ、お若いの。おいで、お前さんが虹になる手助けをしてやろう」





――そして、僕は今、賢者の腕の中に抱えられ、小高い丘の頂上にに立っている。

遠くの海から吹いているのだという風に顔中の白い毛をなびかせながら賢者が言う。

「難しいことは何もない。ただ一直線に、早く、そして高く飛ぶこと。それだけだ。一度飛び始めたら決して羽を休めてはいかんよ。空に燃え尽きてしまう前に地面に堕ちれば、その時点で失敗だと思いなさい」

僕は頷く。そして尋ねる。
彼と、そして彼女の居る方角を。僕が飛ぶべき方角を。

「北の森――長老クダンの治める森は、どの方角にありますか?」

賢者は黒い毛皮を纏った指を太陽と反対側に向ける。
先にあるのは山脈と、その中で特徴的に二つだけ高く飛び出す尖った山。その二つの中間を、老人の指は示していた。

「あちらだよ。山を越えたら大豆の畑が目印になるだろう」

「わかりました」

ひょっとしたら彼と彼女の次に好きになったかもしれない老人に、僕は礼を言って腕から離れ、その頭の上に乗る。

「頑張りなさい。こう言うのは変かもしれんがね」

「いえ、ありがとう」

「ほっほ、礼を言われるようなことでもないがの」

そう言ったきり、老人は急に静かになる。
僕ももう何も言わない。
静謐な丘の上、風の音だけが耳に響く。

老人の頭の上で、僕は強い風を待つ。
失敗は出来ない。早く高く、それだけが全てだと賢者は言った。
早く高く飛ぶためには、早く高い風が要る。

虹の粉は全身に振り掛けられている。風が羽根を撫ぜるだけで、もう火が付いてしまいそうなほど身体が熱い。
それでも僕は待ち続ける。
あの山を超えて、大豆畑の向こう、彼と彼女と生まれ育ったあの森にまで届くような、強い強い風を待つ。

そしてそれはやってくる。

背後から一際潮の香りを孕んだ、嵐のように大きな大きな風が吹く。


――飛び立つ間際、幸運を、と賢者の声が聞こえたような気がした。


そうして僕は空を飛ぶ。
そうして僕は虹を目指す。

飛び立ってすぐ、文字通りの灼熱感が全身を襲う。
山へ辿り着く前に、気が狂うか燃え尽きてしまいそうな気がした。

身体が燃える。飲み込んだ蜂に胃の奥を突き刺されたような痛みと灼熱感。燃える、燃える。嘴が熱い、翼が熱い、尾が溶けているようだ。
自分が叫んでいるような気がしたが耳には何も聞こえない。
やがて目も霞み始める。心なしか、目の前に鮮やかな光が見えるような気がした。
何度か気が遠くなり、いつ意識が戻ったのか分からなくなり、朦朧としながらそれでも僕は飛び続ける。方角は完全に分からなくなり、目印の畑どころか山すらももう視界には入っていない。自分が今何のために飛んでいるのか、そもそも飛んでいるのかすら忘れそうになりながら、それでも翼は休まない。地面に堕ちれば失敗だ、と老人は言った。堕ちるわけにはいかない。意識が遠くなるたびに、見慣れた森と、その中に佇む彼女の姿が浮かんで消える。
浮かんで消えて、浮かんで消えて、浮かんで、消えて、浮かんで、消えて――浮かんで、浮かんだまま、遠くに点のように見えるそれと、意識の中の森の色が重なった。

ふと気づくと視界の先に山はなく、先には緑の裾野が広がっていた。
遠くに黄金色に輝く大豆の畑、そしてその更に先、地平線のぎりぎり上に小さく見える、それは見間違えようのない故郷の緑。身体の熱も痛みも、不思議と消え去っていた。あるいはもう、それらを感じないほどに身体が痛んでいるのだろう。

――そうだ、あそこだ。
僕は自分に言い聞かせる。もう、虹が出ているかどうかは考えなくなっていた。ただ、願う。

あの場所へ飛んで行きたい、大豆畑の向こうにある、あの緑へ――





そう、あの大豆畑の、向こう側へ――





大豆畑の、――





大豆、畑――





飛んで――





…豆――。














「うおおチクショウうめええええええ豆豆豆だあああああクルックーーーー!!!」







fin.

コメント(58)

一票!
読んでいて、もう逆に不条理なオチを楽しみにしてしまう自分がいます。
衝撃的過ぎて、ラストを受け入れられない自分がいます(笑)

えぇ〜?!

途中まで 涙々だったのに。


ハト―!
ある意味違う名作も書けただろうに…

まだ力は有り余っていただろうに…





いい感じにほっぽりだしやがって…!!!(笑)

このザマは何よ!!

もぉ。さっきまで過去の色んな作品読みあさってたんだけど
今日は読むのここらでやめとく。
トラウマできた(笑) 

名作にイッピョ
何事にも咎められない本能のスイッチ on。

一票です
これは・・・ちょっと敵いません。一票。
ん〜、不完全燃焼…
と感じつつふとタイトルに戻り、ああ!なるほど!(笑)

一票です☆
何かくるぞくるぞくるぞ
きたーって感じがすごい。
一票。

ログインすると、残り27件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

日記ロワイアル 更新情報

日記ロワイアルのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。