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日記ロワイアルコミュの悪魔の声はいつだって美しい

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 皆さんは発毛剤という物をご存知か?

 読んで字の如くの意味合いだが、直接頭皮に振り掛ける物や、服用する物など形態は様々、薄毛に悩む男性諸君にはまさしく夢のようなアイテムと言えよう。

 俺は美容師という職業柄、友人達から髪の毛の相談をよく受ける。そのほとんどが「薄毛」に関するものばかり。三十路もちょっとすぎた頃の成人男子は、確かに気になるお年頃なのだろう。

 そんな友人達の中に「イッチー」と言う男がいる。

 この男、顔はなかなかの男前なのに、鬼の様な剃り込みで、更に見事なまでに河童。今時ギャグ漫画でもなかなかお目にかかれないレベルのハゲ散らかし方をしていた。

 二十代半ばの頃は「あー、お前ヤヴァイなぁ、イクね、こりゃ三十路を迎える頃には草木の一本も残らぬ死の大地だわ」なんて冗談めかして言っていたものだが、実際その年齢になったら予想を遥かに超えていた。うん、俺だったらいっその事全部剃ってる。最初から無かった事にする。

 彼はそんな風貌を気にしてか、美容室に来るのが気恥ずかしかったらしく、いつも近所の床屋で済ませていた。

 ある日、そのイッチーから電話がかかってきた。

「きく$久しぶりっ!髪切ってくれよ!」

 思わず「どこの?」って聞き返しそうになった。

 半年前に会った時は相変わらず哀愁すら漂っていたはずだが、

「最善は尽くします」

 とだけ告げておいた。



 そしてイッチー来店当日。



 朝から悩んでいた。せっかく意を決して来てくれる友人に、俺は何をしてやれるのだろうか?枯れた大地に雨を降らせることが出来るのだろうか?と。

「いらっしゃいませー」

 来たっ!時間的におそらく来たのはイッチーだ!受付に視線を送った。

 あれ?

 来たのは間違いなくイッチーだった。でも、何か違う。何て言うかそう、



 毛が増えてる。



 正確に言うと爆発的に毛が増えていた。

 挨拶もそこそこに、彼を席へと通し、矢継ぎ早に質問をぶつけた。

「ちょっ!これ本物!?何て言う髪の毛!?なんで!?ホントはこれ海苔とかなんでしょ!?ねえ、剥いでいいの!?」

 彼はまるで腐った生ゴミでも見るような目で俺を見るとこう言い放った。

「昔からこうでしたけど何か?」

 まさかの過去捏造。

 そんなわけも無いので、まともに髪が増えた理由を聞いてみると、

「実はさ、半年位前から飲み始めたんだよ、発毛剤」

「それでそんな爆発的に増えたのか!?そんなに効果出るもんなの!?」

「国産のじゃそこまで強いのは無いみたいだからさ、海外の発毛剤が手に入ったんで使ってみたんだよ、そしたらさあれよあれよと半年でコレモンよ」

「ハンパねーな!つーかさ、副作用とか平気なのか!?薬って効果の強いものは色々あんじゃねーの!?」

「んー、ネットで色々調べてたらさ、なんかありえないところから毛が生えてくるかも知れないんだって。写真とか載っててさ、見たら肩からビローンって長い毛が束で生えてたり、手の甲がクマみたくなってたり」

「そりゃ災難だな」

「だろ?でも背に腹は変えられねえってことで飲み続けてたんだけど、一向に異常は見られないんだよねぇ、増えたのは髪だけ。そういや、薬の説明文にも「神の恵み!」とか書いてあったしな、髪だけに」

「誰が上手いことを言えと」

「まぁとりあえず、かっこよくしてくれ!俺は元々男前なんだから素材さえあればイケるはず、頼むよー!」



 そう言った彼は、とても清々しい顔をしていた。

 なんだかつられて俺まで清々しい気分になる。

 年々伐採されていく頭髪に恐れおののき、自信を失っていった彼がこんなにも堂々としている。

 たかが髪、されど髪。

 これからの君の人生に神の恵みあれ!

 俺は精一杯の技術を施した。



「こんな感じでどう?」



 イッチーに後ろ姿を鏡で見せた。

「おーおーおー、いいじゃんいいじゃん!さすが俺、いい感じだねー!」

 確かに、元が良いだけに格段に男前が出来上がった。

「うんうん、良かったなー!じゃあお疲れさま」

 と首についた毛を払おうと、イッチーのシャツの襟をめくると、

 ん?あれ?

 取れね−ぞ、どうなってんだこれ・・・?



 

 はっ!

 あわっ!あわわわわわわわっ!!!

 せ、背中一面に毛がびっしりと生えている!

 もうね、何て言うかウール100%みたいな感じ?

 間違いない、事件だっ!

 ・・・。

 思い出の写真を机にしまうかのように、そっとシャツを元に戻した。

 見てはいけないものを見てしまった気がする。

 でも、本人はまだ気が付いていないわけだし、俺が墓場まで持って行けばいいんだ。

「で、でもさ、ありえないところから発毛しなくて、よ、良かったな」

「ホントだよ、いやー、ムックみたいになったらどうしようかと思った」

 ムックみたいになったら・・・ムック・・・ム・・・

「ぐはっ!」

 もう誰も俺を止められない。

「がはははははははっ!!!いやね、お前ムックだって!!!あのね背中がムックなの!!!黒いムック!!!略して黒ムック!ありえねーくらいムックなんだっつーの!ぶぅははははははははは!!!」

 ハトが豆鉄砲喰らった様なツラしてたから合わせ鏡で見せてやったら絶句してた。

 そして何を言うかと思ったら、

「む、昔からこうでしたけど何か?」

 そうですね。



 それにしても禍々しい光景を見せ付けられた気分だ。

「神の恵み」ね・・・。

 悪魔の声はいつだって美しい。


コメント(87)

胸や背中の毛が濃い人はおおにして…。
一票るんるん

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