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日記ロワイアルコミュのシロクローム

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しんしんと雪が降る夜だった


二人で足あとを並べる

ギュッ、ギュッ、と小気味良い音が鳴る


並んでつけた足あとは

その先から雪に塗りつぶされて行く


僕は何も言わずに

少し歩幅が狭い君のペースに合わせる事に集中したんだ


街灯もまばらだったけど

少し明るい交差点に差し掛かった時

そっと顔を覗いてみた


まつ毛に雪がついている


何も言わない僕を君は不思議そうに見た

何も知らないような無垢な表情で



・・・・・・・・・・


もう何年になるだろうか

あの頃よりずっと大人になった君は

テーブルを挟んでグラスを傾ける


ふと、僕の視線に気付いたのか

あの時と同じように不思議そうに僕を見た

何も知らないような無垢な表情で


ただ違ったのは、まつ毛に雪がついて無かったコト


・・・・・・・・・・


無言で歩くのは二人のペース

いつもそうだし、それが普通だった


この日意外は


次の交差点で、僕はやっと重たい口を開いた

「実はさ、話があるんだ」

「分かってるよ」

そうだろう

そうなるようにしたんだから

「言わなくても分かってるから」

そう言いながら君は表情を崩さなかった


・・・・・・・・・・


「ちょっとお前今日暗くないか?」

隣の友人に肩を叩かれる

「ん?いやそんなコトないよ」

手元のジョッキを煽って笑顔を返す


・・・・・・・・・・


君は一人で交差点を渡って振り返った

「じゃあここで!」

いつもの表情で

ただ違ったのは「また」って言葉が無かったコト


僕は懸命に言葉を探したけど、それより早く君は背を向けて行ってしまった

心なしか、いつもより足早に

あの日に雪が塗りつぶしたのは、足あとだけでは無い気がした


・・・・・・・・・・


「私、来年ママになるんだ」

まだ目立たないお腹を愛しそうにさする

「聞いてた聞いてた、おめでとう」

当然のように、あの日のぎこちなさは無い


あれから一言だって話して無かったのに


「そこまで送ってくよ」

先に帰ると言う君と一緒に外へ出た


「あ、雪だ!」

君は手の平を返し、今年最初の雪を受け取る様にして空を見た


「寒いから行こうぜ」

僕は君を促して歩き始める


「同じだね」

君は僕から何て言葉を引き出したかったんだろうか

僕は黙って頷いた






あの日の交差点に差し掛かると、君はやっぱり一人で渡って振り返った

「じゃあここで!」

なんだかおかしくなって、切なくなって、僕はあの日見つからなかった言葉を懸命に探した、でもそれより早く君が続ける

「またね!」






もう10年になるだろうか

僕は何も成長してないな

いつもは鬱陶しい雪に少しだけ感謝した夜

涙が出そうで、少しだけ上を向いて歩いたら

まつ毛についた雪が気持ちよかった



こんなに経ってから、あの日君のまつ毛に雪がついてた理由を知ったんだ



しんしんと雪が降る夜だった

コメント(64)

今の気持ちにぴったりでしたぴかぴか(新しい)涙


一票でするんるん
 ひらりと首筋に落ちた雪が溶けてその心地よさが全身に広がっていくように、最後、文章が身体に染み渡りました。

 一票です。

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