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日記ロワイアルコミュの【約束】

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ショップ経営者としての貴重な体験談です。
是非、読んでみてください。

※日記では3話に分けて書き綴ったものです。
 文字数の都合で一部URLを貼らせて頂きますのでご了承ください。





【約束】その1《出逢い》


初夏の陽射しが葉の緑に反射して独特な香りに変わる。

おかしなもので、そんな空気を大きく吸い込むと

普段はすっかり忘れてしまっているひとつの約束を思い出し、少しだけ不安に駆られる。

「10年後に連絡するね。それまでは何があっても連絡しないでおく。」

ちょうど10年前の夏の終わりに交わした約束。

おれはあいつからの連絡をただただ待つ役割。

人間って弱いね。

ポジティブだと自負していたおれでさえ、ほんのちょっとの心配事があるだけで

物事を悪い方に悪い方に考えてしまう。

すぐに自分でそれを否定して平静を装うんだけどね。

その日のために携帯の番号を変えることができず、不便なことも何度かあった。

けど、そんなことはどうでもいいこと。

やっとこの夏、忘れてしまうほど待たされた約束の10年が経つ。







あいつとの出会いは約束を交わす半年ほど前、

冬から春へと季節が移り始めたころだった。



暇な平日で閉店時間も近くなったころ

店の前にモスグリーンのボルボが停まった。

850のワゴン、新車でピッカピカ。

新規のお客さんってのはこの上ないありがたいことで

常連さんの来店とはちょっと違った特別なわくわく感をもって迎えることとなる。

おれはこの新しい出会いとわくわく感がたまらなく好きだった。



が、このときばかりは車から降りてきた若者の姿を見て思わず息をのむこととなる。

1本の杖を頼りに、両足を引き摺るようにゆっくりと歩く。

いや「歩く」という表現にはあまりにも程遠い、なんとも痛々しい動作。

あわてて入口の重い扉を開け、若者を迎える。

「すいません。」

苦笑いしながら恐縮するあいつに

「いらっしゃい。」

出来る限り明るい笑顔で答えてみた。







「ゆっくり見て行って下さいね。」

「ずっと前からこの店が気になっていたんだけど、なかなか入るのに勇気がいるっていうか・・・」

よく見ると彼は童顔だが、歳はそこそこ行っていそう。

27、8歳くらいかな。

ちょっと派手なトレーナーにスエットパンツ。

髪はボサボサで、無精鬚が伸び

まるでその容姿は入院病棟から抜け出して来たような感じだった。



まぁ、彼が「入りづらい」というのも無理はない。

顧客のほとんどは服飾関係、美容師、プロのスポーツ選手あとはあちこちの若社長。

地元のお客さんより県内各地からマニアが集まっちゃう店。

「こんなお店に誰がした!?」ってな調子だから・・・



そんなこんなで、おれにとっても彼のようなお客さんはまず接することのない異例中の異例。

どんな接客をしようか、頭の中でグルグル考える。

店の中央には買い物を済ませた顧客さんをもてなす為の

大きなアンティークテーブルと猫足の椅子が置かれている。

まず彼にそこに腰掛けるよう勧め

おれがテーブルに商品を運ぶというVIP待遇の接客スタイルを採ることにした。

「ここに座るのが夢だったんだよなぁ。」

「そんな、大げさな。w 」

遠慮がちに腰かけた彼から、どんな服を探しているのか、どんな服が好きなのかを丁寧に聞き出しいくつかの商品をテーブルの上に広げ、それを取っかえ引っかえしながらこころ行くまで買い物を楽しんでもらった。

そして彼はいくつかのお気に入りの中から、おれが一番プッシュした長Tを選び気持ちよく買物をして帰って行った。

車の中から「また明日来ますね。」などと、珍しい言葉を残しながら・・・。








彼、福山君は約束どおり翌日も、その次の日も、皆勤を続け、毎回何かしらを買い物してくれる。

1週間たった頃にはすっかり常連の仲間入りをするようにもなっていた。

2回目以降、彼には必ずといっていいほどの確率で付き添ってくるひとりの女性がいた。

介護を職とする彼女は体格もよく、いつも元気満々で、笑顔がとても可愛らしい。

そんな彼女が福山君の傍にいるのは、決して職業意識とか同情なんかではなく

「ちゃんとした別の理由」があるからなのだ。

誰の目にも明らかだった。

いつだって彼女の言葉、一挙手一投足には彼への愛が溢れていたから。





当然、親しくなるにつれ、彼の事情も少しずつ知ることとなる。

福山君自身は多くを語らないのだが、彼女が明るい笑顔でぽつぽつと話すのだ。



2年前、友達が運転する車の助手席で事故にあったときの様子。

事故自体はさほどたいした事故でもなく、50cmほどの段差で田んぼに落ちる自損事故。

運転していた友達は無傷で、直後には自分の間抜けな失敗を笑っていたくらいだったらしい。

そんなつまらない事故でなんと彼は頚椎を骨折してしまったのだ。

頭蓋骨をボルトで止め、固定されたまま寝たきりの生活。

直後に固定部から炎症を起こして何度も生死を彷徨った末の生還だという。

彼が歩くときの足を引きずるような不格好な姿は決して見苦しいものではなく

「下半身は諦めるしかない」と医者から宣言されたのにもかかわらず

かろうじて残る左足の僅かな感覚と意地だけを頼りに想像を絶するほど努力をしてきた結果だったのだ。



そんな彼が、事故の前から、健康な頃から、気になっていたというこの店。

「ここに座るのが夢。」

初めての日、彼の言葉にはのんきな店主の想像をはるかに超える思いが込められていたのだった。










【約束】その2《相談》


ひと月ほど経ったある日、初めて彼女がひとりで訪ねてきた。

「ごめんなさい。
よってんさんだったら相談にのってもらえるかな、って勝手に来ちゃいました。」

「えぇっ? おれに相談って?」

「あっ、言い間違えました。聞いてもらうだけで十分でした。」




彼女が少しだけ緊張しながら切り出した時、恥ずかしながらおれは

「きっと障害を持つ男との恋の悩みなんだろうな。」

などと高を括っていた。





「実はあの事故が変えてしまったのはあの人の身体だけではなかったんです。」

ひとつ大きくため息をすると彼女は思い切ったように話しを続けた。

「あの人には奥さんも、子供も二人いました。

正確にいうと、2年前事故のときは2歳の子供と奥さんのお腹に8か月の子です。

あの人が意識不明で“助からないだろう”と言われる中、2人目の子が生まれてきたんです。

既にそのとき、奥さんは自分ひとりで子供たちを育てて行く決心をしていたようです。」


思いきり意外だった。

「てっきり、福山君は独身だと思ってたのに・・・。」

さすがに「じゃ、あなたと彼の関係は?」等という下種な質問はできなかった。

ただ、改めて彼女の真意を探ろうとしたおれの視線に彼女は気付いていたのだろうか。



「子供がいたなんて“まさか”でしょ?

で、あの人の言葉を借りれば

“死んだも同然のおれが生き返るなんて思ってなかったんだろうね。”

ってことらしいんですけど

当初、奥さんはふたりの子供の育児と

やっと意識を回復した旦那の看護に一生懸命でした。

それは私も見ていたから知っています。

看護のほとんどは私たち病院側でするとは言え、毎日のように旦那のもとへ通い

その度ごとに「生きていてもしょうがない」やら「殺してくれ」とか聞かされて

それでなくても先々のことを考えたら、不安でいっぱいだったんでしょうけど・・・

今度は奥さんが精神的に参っちゃってノイローゼっていうか、極度な欝病になってしまって・・・。

心配した実家の親御さんが奥さんと子供を連れ帰って、その後親御さん同士の話し合いになったんです。

命すら保証できない亭主。あわよくば命を取り留めたとしても一生大きな障害、でしょ?

片や、心に大きな病を負ってしまった母親。

子育てどころか自分の感情すらコントロールできない状況な訳です。

結局、離婚の申し出はあの人の親の方からだったそうです。

『夫婦とはいえ、こんな状態で息子のお世話をお願いするのは忍びない。

とにかく娘さんと幼い子供たちにとって一番いい環境を・・・』ということで

当然あの人も納得し、協議のうえで離婚の手続きは取ったってことなんですけど・・・

奥さんがまた、必要以上に自分を責めちゃって・・・」





のっけからそんなややこしい話?

「無理。」って思うしかなかった。

「おれが乗れる相談なんて、見当たりそうもない気配ですけど・・・?」

「あ、ここまでの話は多分に私の問題だから別にいいんです。」

「・・・・・。」

「そんなことより、よってんさんも当然わかっていると思うけど・・・

今、あの人のお金の使い方って異常なんです。」

「そんなこと、って!? まぁ、確かに服だけに限らず、すごい勢いだよね。」



おれは、商売をする上で絶対にしてはならないと自分の中で決めている事柄がいくつかある。

その内のひとつが

「お客さんの懐を勝手に詮索したり心配したりしてはならない。」である。

どんな身なりであっても、若かろうが、歳を取っていようが

どんな車に乗って来ようが・・・

そんなことでお客さんを選ぶ権利はおれたちにはない。

もっと言うなら、おれたちを見て、選ぶのはお客さんの方なのだ。

今回、彼とのことにしても、誠心誠意接し気持ちよく楽しみながら買い物をしてもらうこと。

そして、それを上手に着こなしてお洒落になってもらうことが全てで

おれの役割はそれ以上でも、以下でもない。

頼まれてもいないのに「身体が不自由なのに」とか

「仕事もしてないのに」とか「あ、保険金か」

等と勝手な詮索をすることはこの上なく失礼千万なこと。

おれのルールに大きく反するのである。



彼女の話は更に続く。いや、ここからが核心だった。

「もちろん保険会社から大金を頂きました。

奥さんと子供たちのためにもその内の何割かを渡しています。

退院してしばらくは散財するのもあの人自身が心のバランスを取るためなんだろうな

って、甘く見てました。

でも徐々にそれが自暴自棄に見えたりもして、時々ですけど・・・。

ここに初めて来る少し前に、将来のことについて話し合ったんです。

あ、私たちふたりのことじゃないですよ。

あの人自身のことです。

健康のことや最近全くさぼっているリハビリのこと。

それより何より『仕事をどうするか』です。

将来を考えて今何をすべきかってこと。

頂いたお金は大金のようでも普通に生活して、いいえ、切り詰めたにしても

7、8年後には間違いなく底をついてしまう・・・当たり前だけど。

今のまま浪費を続けたら3年以内だろうな。

かといってどこかの会社で「お勤め」ができるかって事になると

左官とか鳶をしていたあの人に、特別な資格や能力がある訳ではないし、

可能性はまず無いものと思わなきゃいけないですよね?」


「ゼロだとは思わないけど、かなり限られちゃうね。
自分で何かを始めることを考える方が早いかも。」


「ですよね。

結局私たちも、ただ漠然と“自分で何か出来る商売はないのか”ってことで

下見っていうか、参考にしようと思って

雑貨屋さんとか古着屋さんとかいろんなお店を見て廻ってたんです。

で、そんなある日、よってんさんとも知り合えた。って訳です。」


「あらあら、それは余計役に立たない奴に会っちゃったね。」


「いえいえ、とんでもない。

結局、いろいろなところを見て廻った結果

素人が意気揚々とお店に見に行っても、何か買い物させられて帰ってくるのが関の山で

経営に関することなんて、なにひとつ酌み取れるわけではない。

っていうことがわかりました。

よってんさんからしたら「当然だょ。」って笑われちゃうかもしれませんが

それでも私たちは至って真面目に考えてたんです。」


「確かにおれもお客さんの入店と同時にスイッチ入っちゃって、裏方の苦労なんか絶対に見せないもんなぁ。」


「アハハハハ。

で、つい最近あの人が

“資金はあるのに、誰かと共同経営しなくちゃ無理なのかなぁ。”

なんて言い出したんです。

ちょうど私も似たようなことを考えていたのではっきり言ってあげました。

“よってんさんと仕事したいんでしょ?!”って。

“とても言えないよ。思っても言えない。”

なんて言ってましたけど、ホントはよってんさんと知り合って

いっしょに仕事が出来たらいいなぁ、って思ったから「共同経営」なんてことを考え始めたことはすぐにわかりました。

でも、知識が全く無いことや、やっぱり最後は思うとおりに動かない身体のことが邪魔をして切り出す勇気がないんです。

それにあの人じゃ、勇気を振り絞ってお願いするにしても口下手で

せいぜい冗談っぽく言うのが精一杯だと思いますし、

とにかく話だけでも聞いていただけたら・・・

で、もし迷惑でなかったら相談に乗っていただけたら、って勝手に来ちゃったんです。

本当に勝手で、すみません。」








彼女がおれの目をじっと見るその瞳の奥には、彼女の、いや二人の真剣さが静かに光っていた。

「話の要旨は概ね解りました。
おれのことを信用して、認めてくれて、話してくれたこと、ありがたく思います。」


「ありがたくだなんて・・・」


「まず、結論だけど、共同経営については無理です。謹んでお断りします。」


「やっぱり、そうですよね。勝手なこと言っちゃってすみません。
気を悪くしないでくださいね。」


「おれの方こそせっかくのお誘いを・・・
あとは本人と話してみます。
彼に明日にでも来るよう伝えておいてください。」






気丈な彼女の目が少しだけ赤かったのは
おれの思い過ごしではなかったような気がした。










【約束】完結編《経験》

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=808711255&owner_id=13426330



コメント(128)

私も視覚と肢体に障害持つ者です。
こんな風に頑張ろうとは思えません。
でも、勇気もらえました!
人間ヤルと決めたことは何が何でもやらなダメですよね♪
一票☆
一票ぴかぴか(新しい)よってんさんの人間性に感激致しました。
お二人から絶対連絡あると思いますわーい(嬉しい顔)きっと忙しすぎて10年経ってるって思ってないのかも(^-^)
偶然開いたページでこんなに感動できるなんて・・・ありがとうございます。
一票です!

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