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日記ロワイアルコミュの星空公園

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団地の中にある小さな公園。

太陽がやわらかい光を注ぎ、暖かい春風が木の葉を優しく揺らす心地よい昼
下がり、ベンチには老夫婦がちょこんと座っている。

幅広いベンチだが、まるで2人は狭いベンチに座っているかのように仲良く寄り添
っている。

きらきらと降り注ぐ太陽の光は、まるで2人を照らすスポットライトのようにも見
える。




様々な業種の会社が所狭しと建ち並ぶ郊外に、ある小さな会社がビルに埋もれる
ようにひっそりと佇んでいた。

男はその会社の社員である。年齢はもうすぐ43歳。妻と2人で狭いアパートで
暮らしている。
生活は決して楽ではない。
家賃や食費等で給料はほとんど消費される。

会社では同期に敬語を使っている。女性社員からはお茶も出て来ない。年下の上
司にいつも頭を下げている。


今日も男はサービス残業を終え、終電で帰宅した。
玄関のドアを開けると、妻が優しい笑顔で『お疲れ様でした』と迎え入れてくれ
た。
男はいつもこの一言で救われていた。
妻はどんなに帰りが遅くなっても、いつも変わらぬ優しい笑顔で迎えてくれた。

その日食卓には男の大好物の焼きそばが置かれていた。
帰りが遅かったためすっかり冷えきっていたが、男は皿を持ち上げると子供のよ
うに口へかきこんだ。
男が焼きそばを口いっぱいに頬張ったまま『やっぱりお前が作った焼きそばは世
界一だな!』と言うと、妻は『そんなに慌てて食べると体に良くないですよ』と
はにかんだ。




ある日、妻が夫の帰りを待っていると携帯が鳴った。
電話の主は夫だった。
『もしもし?』
『あぁ俺だけど。すまんが、今夜会社の上司がうちに泊まりに来ることになった
から』

突然のことに妻は驚いたが、いつもお世話になっている上司の方が来るというの
で部屋を念入りに掃除して、お酒とおつまみを用意した。

しばらくするといきなり玄関が開いて、既に酔っ払った上司が男に支えられなが
ら千鳥足で入ってきた。

妻は深々と頭を下げて『いつも主人がお世話になっております』と挨拶をした。

上司はその挨拶が言い終わないうちに大きな声で『いやー汚ったねぇアパートだ
な〜こりゃ!とりあえず酒持って来い!』とがなり立てた。

『すいませんすぐにお持ちします』
妻はすぐに酒とつまみを用意した。

上司は食卓の上に足を乗せて、ビールとつまみを貪りながら大きな声で男の悪口
を言った。

『奥さん!こんなダメ人間の夫持つと辛いだろうね〜!』
『こいつがもっと仕事できりゃ俺もこんな苦労しねぇのによ!』
『あんたの旦那は出来が悪いから会社にとってお荷物なんだよ!』

妻はひたすら『申し訳ありません』と頭を下げ続けた。
男はずっと下唇を噛み締めて悔しさに震えていた。

上司は散々に悪口を言うと『やっぱタクシーで帰るわ』と言って帰って行った。


上司が帰るとアパートには澱んだ静けさが漂った。
男も妻も何もしゃべらなかった。
いや、しゃべれなかった。
どのくらい経っただろうか。
ずっと床を見つめて立っていた妻がフッと夫に視線を移した。



男は涙を流していた。
顔をグシャグシャにして、両膝を握り締めながら、悔しさを押し殺すように泣いていた。そして男は消え入りそうなかすれ声で『すまん…本当にすまん…俺がこんなに情けないばっかりに…』と何度も何度も謝った。
妻もまた顔をグシャグシャにして泣きながら首を大きく横に振った。夫が罪悪感
を感じているのを払拭しようと、夫が謝る度に何度も何度も首を横に振った。
部屋にはビールの空き瓶やおつまみの食べ滓が散乱していた。
その日は大雨だった。




それから5年が経った。
男は48歳になっていた。
男は元々身体が強くない上に、年齢と過労を重ねてきたため随分と痩せてしまっ
た。
それでも男は5年前の大雨の日を思い出すと、妻のために仕事をがんばることが
できた。
そしてどんなに疲れて家に帰ろうと、妻の笑顔は男に活力を与えた。

しかし皮肉なことに男が努力すればするほど、仕事に打ち込めば打ち込むほど仕
事がうまくいかなくなった。

毎日何度も年下の上司に罵声を浴びせられた。
それでもめげずに自らすすんで残業をした。
しかしやはりミスをしては周りから責め立てられた。
それでも男は休日でも仕事をして、何とか認められるようにと努力した。
いつしか男の身体はげっそりと痩せ細ってしまった。


そんな日が続いたある日、男は年下の上司に課長室に呼ばれた。
課長室に入ると、年下の上司はあくびをしてボールペンをくるくると回しながら

『明日から来なくていいよ』
と言った。



男は突然のその言葉が、数秒間理解できなかった。
そしてその場で放心状態のまま立ち尽くした。
頭の中をさっきの言葉がグルグルと回っていた。



その夜、男はどこか遠くへ行きたくてあてもなくバスに乗った。
ぼーっと窓の外を見ていると小さな公園があったので近くの停留所で降りた。

遊具といったらブランコと砂場しかない寂しい公園だったが、男にとっては自分
の今の気持ちを写し出しているようでなぜか居心地が良く感じられた。
男は幅の広いベンチを見つけると、寝転んで星空を見上げた。
ビルの形に切り取られた狭い空に、スモークでくすんだ星達が弱々しく光ってい
た。
それを見ると男は『まるで会社という狭い檻の中でくすぶっていた俺みたいだな
』と、独り言を言った。
男は深夜まで星空を見て家に向った。



家に着くと、男は決心した。
玄関を開けてすぐにクビになったことを打ち明けると。
しばらく妻と話していたら言い出しにくくなるに違いない。
玄関を開けると同時に言う!
よし!これだ!
これでいこう!!


そう決心してかれこれ30分は経過していた。
男はドアノブを握ったまま動けずにいた。
いざとなると身体が言うことを聞かない。
いつもは家に帰るのが楽しみで、勢い良く玄関を開けていたが今夜ばかりは事情
が違った。

そして、さらに30分経過した時、ついに男はドアを開けた。



ガチャ。。。



『…俺、会社クビになった…』





男はついに打ち明けた。
それと同時に罪悪感が沸々とわきあがり、唇を噛み締めてうつむいた。




妻はいつもの笑顔でいつものように『お疲れ様でした』と言った。


それは男がいつもいつも救われている一言だった。
しかし今夜はいつもよりさらに男の心に入り込んだ。
気がつくと男は顔をグシャグシャにして泣いていた。


妻は夫の大好物の焼きそばを焼いてあげた。
男は焼きそばの上に涙をぽたぽたと落としながら、焼きそばを頬張った。
今までで一番うまい焼きそばだった。
今までで一番泣いた。




団地の中にある小さな公園。

太陽がやわらかい光を注ぎ、暖かい春風が木の葉を優しく揺らす心地よい昼
下がり、ベンチには老夫婦がちょこんと座っている。

幅広いベンチだが、まるで2人は狭いベンチに座っているかのように仲良く寄り添
っている。

きらきらと降り注ぐ太陽の光は、まるで2人を照らすスポットライトのようにも見
える。

老夫婦は風呂敷から弁当箱を出した。
タッパーを開けるとまだ温い焼きそばがぎっしりとつまっていた。おじいさんは
美味しそうに焼きそばを頬張ると、『やっぱりばぁさんが作った焼きそばは世界
一だ』と言って顔をクシャクシャにして笑った。


コメント(85)

これ、変な改行は意味あってのこと?気になる…

でもまずはキレイなお話に
一票
こんな年下の上司がいたら、殺したい…


一票

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