日記ロワイアルコミュのくろまるカレー

　小学時代、親友のアキヒロの家に遊びに行った。
ボンカレーを出してくれた。インスタントなのに
　「これ、ムッチャうまい！！ドロッとしてる！！」
　キョトンとしていたアキヒロの母のこと、
今になって理解できるようになった。　

　

　母は料理が苦手。カレーはいつも、シャバシャバの
バーモンドカレー。ルーの割合に対して大量の水を使う。
　「もっとドロっとしたカレーにしてくれ」
　口が酸っぱくなるくらい忠告してきたが、
やっぱり変わらない。

　久々に実家に帰ったら、母はカレーを
作ってくれた。
　「うん？今日のカレー、うまいな」
　かなりドロッとしている。
　「ルー変えたから」
　得意満面の母に
　「何のルー？」
　と聞くと
　「く・ろ・ま・る、フフフ」
　そう言えば確かにルーが少し黒っぽい。
おいしくて３杯お代わりした。

　ちなみに母の携帯の裏側には油性の
太マジックで
　「絹子」
　と名前が書いてある。
　「どうせ書くなら苗字も書けや！」
　と言ってもお構いなし。

　閑話休題。「くろまる」なんてのが、あるのか。
コンビニが発達し、どのメーカーも新商品開発に
力を注いでいると聞くが、「くろまる」は初めて
聞いた。くろまる…。

　

　ゴミ箱が目に入った。
　「おーこれが、くろまるのパッケージ？」
　「そうや」
　僕は興味津々にそれを手にした。表には大きな
平仮名で「こくまろ」と書いてあった。
　「あら嫌だ。まあどっちでもええやん」
　「…………」
　確かにどっちでもいい。

　オトボケながらも、よくもまあ30年
以上も、母をやってきたもんだ。
いや息子を務め上げたもんだ。

　「お母さんの人生ってどんなんやった？」
　と聞いたことがある。
　「あんたら３人（僕には妹が２人いる）が
きちんと育ってくれた。それがお母さんの人生」
　何や？それ。自分の目的みたいなもんは
ないんか？うれしかったけど、ちょっとだけ
寂しかった。

　

　母の好物は焼肉。たまに実家に帰るときは、
肉を買い込む。ホットプレートでジュージュー
が母の楽しみ。
　「タンはレモン汁やで」
　「あっそうか。レモン汁とタンって合うなあ」
　母は最高に幸せな顔をする。でもいっつもそうだ。
　タンをタレで食べようとする。
　「タンはレモン汁やで」
　「あっそうか」

　

　飲みすぎた僕は、母に千円札を渡して
　「タバコ買ってきてくれ」
　と頼んだ。
　「はいよ」
　もう慣れっこだから、母はちゃんとラークの
メンソールを買ってきてくれる。
帰ってきた。
　「おい、タバコは？」
　「えっ？」
　「えっじゃねえよ。タバコは？」
　「何それ？」
　「えっ、つうかお母さん、今どこ行ってたの？」
　「………」
　千円札も手にはない。僕は外へ出た。
５０メートルぐらい離れたところに落ちていた。
始まりだった…。

　自分への投資など一切放棄してきた母。
これからは、おいしい料理をたくさん食べさせて
やりたい。面白いことをたくさん経験させて
やりたい。色んなところに連れて行ってやりたい。

　たとえ、母が僕のことを誰だか
分からなくなったとしても…。
　たとえアルツハイマーという病気
だったとしても…。
　

　僕のたった一人の母だから…。