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十二鳥コミュのアウトバースト7

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[島田和彦・3]

午後八時・・・。
私は雄太の家に再び訪問した。

インターホンを押す。

<・・・はい>
昼間会った雄太の母親がインターホンにでた。
「常磐実業の・・・」
私は既に名乗っている校名から馬鹿丁寧に名乗ろうとすると、最後まで話す前に、
<どうぞ・・・>と言われた。

何だか母親の声は妙に暗かった。

「お邪魔します」
重い玄関の扉を開くと、母親が一礼して待っていた。

「お母さん、日中は失礼しました。ご主人は御帰宅なさってますか」

「上がってお待ち下さい、書斎にいますから、呼んで来ます」

昼間は綺麗に化粧した母親の美しい顔は、酷く疲れた表情に変わっていた。
どうやら雄太の事で旦那と相当揉めたらしいな・・・。
恐らくは一騒動を終えた顔だな、アレは・・・。



私は広いリビングに通され、ソファに腰を降ろした。
母親が旦那を呼びに行ってる間、座ったまま部屋を眺めた。

部屋の蛍光灯は、『蛍光灯』なんかじゃなくシャンデリアと言った方がいいか。

白い壁にはヤニのクスミは無い。
旦那は恐らく、ノンスモーカー。

革張りの白いソファには染みも綻びも無い。

テーブルごしの向かいのソファも正しく完全な白。

・・・私は幼い頃から余り裕福な育ちでない為か、この部屋はとても落ち着かない部屋だった。

そして最も気になったのは、棚や壁に飾られた賞状やトロフィーだった。

名前は安藤久作、または安藤良久とある。

トロフィーは大方が久作の名前。
だがほとんどがボーリングやゴルフのトロフィーだ。

恐らくこれは旦那の社内コンペの物だろう・・・。

賞状の中にあるのは良久の名前。
そろばんに五級認定状、校内写生の銀賞が一枚・・・、果ては誰でも貰える佳作まで飾ってある。

与えられた日付はごく最近の物から二〜三年以内。小学校の物だ。

雄太の弟か・・・。


まあ、そんな事はどうでもいい。
どれもこれもヘドがでる程クダラネェ物だ。

しかし・・・。
雄太の賞状が一枚も無いじゃないか!

あるだろう・・・!
中学は野球部だ、県大会出場の実績だから市大会優勝の賞状やトロフィーが・・・!

今年のボクシング高校総体の全国三位の賞状は何処だ!

ボクシング雑誌にも写真付きの記事になったんだ!
何故飾られてない・・・。

私が端から順番に捜そうと席を立ち上がりかけた時、漸く旦那が現れた。

「・・・お待たせしました」

旦那はそう言いながら、必死な顔で賞状に眼が行っている私を、怪訝な顔で睨んだ。

「あ・・・、ははっ、どうも夜分にお邪魔してすみません」

私はその空気を取り繕うつもりで、滅多にしない愛想笑いをしてみせた。

「ふん・・・、まあどうぞ、かけて下さい」

旦那はそんな私を全く意に介さず、鼻で笑ったのか、それとも舌打ちの様なつもりなのか、とにかく無愛想な男だった。

(チッ・・・、なんだその態度は・・・。
若造教師だと思って舐めやがるか・・・)

腹のうちでそんな事を毒づいて、私はネクタイを締め直した。

「あの、既に奥様からお聞き及びと思いますが、雄太君がある良からぬ生徒に怪我を負わされました・・・」

私は今日の始業式からの出来事をできる限り詳しく話した。

また入院の間の授業欠席の補填を何処で補い、留年しないようにするか等や、相手の相島に対しての問題の話しもした・・・。

しかし旦那の反応は全く無かった。

ただ「えぇ・・・」や「うん、うん」と、生返事ばかりである。
最後の方は眼をつぶったまま頷くだけになっていた。

(・・・くそっ、どういうつもりだ、この親父は。本当に雄太の事がどうでもいいのか)

一通り話しを終えた私が、黙ったまま睨むと旦那は、漸く話しが終わったかと、面倒臭そうに眼を開いた。

「先生・・・、色々話しをして喉が渇いたでしょう」

「はっ・・・?」

「母さん、先生にアレを出して差し上げなさい」

旦那はキッチンで洗いものをしながら、横目で頷いた。

そのちらりと見せた横顔が、私に向かって謝っている様に見えた。

腹は立っていたが、母親のその表情が私を無言で宥めた。


そうしてそのうち、リビングのドアが開いて、小さな男の子が現れた。

「パパ・・・、お話し終わった?」

「うん、もう少しだよ〜、それより良久、お客さんが来てる時は、どうするんだったかな?」


その姿に私はア然とした・・・。
(何だ、その態度の違いは!
息子にそんな顔して、テメェの言う客には散々無愛想だっただろうが!
息子にどうするとか問う前に、自分を何とかしろ、このクソオヤジ!)

「コンバンワ」

良久という少年は屈託の無い純粋な眼をしていた。
このガキ・・・いや、この子が弟の良久か。

旦那の顔は完全に溺愛の表情をしていた。

この異常ともいえる溺愛は、恐らく雄太の母親と旦那との間に産まれた子供なのだろう・・・。

佳作の賞状まで飾りやがって・・・。

「さぁ、もう少しだから部屋へ戻ってなさい」

旦那はアホガキ・・・、良久を部屋へかえすと、また無愛想な表情に戻った。

母親がその後に、旦那の言うアレを出した。

私はソレに一瞬沈黙した。
高級そうなグラスに入った無色の透明な液体。

「あっご主人、私は車なもので申し訳ありませんが酒は頂けませんのです・・・」

私が疑いも無くそう言うと、旦那は一瞬吹き出した。
「フッ、酒じゃありませんよ、これは水です」

「え・・・」

(み、水なんか普通、客に出すかコノヤロー)

そんな私の腹のうちを読んだのか、旦那は注釈するように話し出した。

「これは私がこだわっている名水でね・・・、とても身体にいいんです。わざわざ毎回注文して取り寄せているんです」


そして旦那は私のワイシャツの胸ポケットに眼をやった。
「先生は煙草をやるんですね・・・。」

「えぇ・・・まぁ」

「直ぐに止めた方が良い。そんな物は身体によろしくない。寿命は縮まるし、周りに迷惑だし、百害あって・・・」


旦那の煙草トークはその後5分ほど続いた。

私はとにかく他人の説教が大嫌いな質で、これには辟易した。
きっとこの旦那は、相手の意見も聞かず、自分の持論を押し通す人間に違いない。
議論も出来ない、私が最も嫌いな人間だ。

(クソっ、禁煙だと?
黙れバカヤロー!百害なんて承知の上だ。それでもテメェみたいなストレス与える奴をぶっ飛ばさずに、落ち着ける為に煙草はあるんだ。
一利は貴様の為にあると思え!)

段々と私のイライラは募り出した。


しかし旦那は、さらに饒舌になり、遂には雄太の話しになった。

「・・・ふん、周りに迷惑をかけると言えば、家にいるあの養子だな」

「養子・・・?雄太君の事ですか」

「そうです」

旦那のハッキリした返事に、何かのスイッチが私の頭の中で切り替わった。

「ご主人はあまり雄太君を善く思われていない様ですが、何か理由でも?」

私は少し強く押し寄った。

「理由なんてもんじゃないよ」

しかし旦那は無愛想に吐き捨て、語気荒く話しを続けた。

「今の妻と結婚したのが約九年前だ、私は仕事が乗りに乗っていた頃だよ」

旦那の話しはそれから延々と続いた。

それは雄太が八歳の頃らしい。
結婚前に会った時は、まだ大人しい良い子だったという。

だが結婚して間もなく雄太は、旦那に懐くどころか、かなり反抗したという。
そして旦那三十九歳の頃。
エリート銀行員だという彼は、その若さで支店長という席を持っていたが、さらに東京本社で近々、取締役員に異例の出世が待っていたという。

・・・が、それを雄太がぶち壊したらしい。

当時小学生の雄太が学校の友人と悪質な自販機荒らしを数件行い、新聞沙汰になったという。

また小学生という年齢が世間を騒がせたらしい。

それが会社にバレて、子供の躾云々を追求されて出世は取り消し・・・、以来支店長の席に戻り業績を上げるも、一切出世の話しは無くなったという。


確かに哀れむ点はあれど、躾が出来ないのは旦那の落ち度でしかない。

少なくとも、雄太と心を通わせた私の意見は、会社と同じだった。

だが、事情を話す度に旦那の怒りは沸点に達していた。

「先生は先程、入院の問題と相手の生徒をどうするかの話しをしましたね」

「はい」

「入院は仕方がないから私が対処するが、相手の生徒にはお構いなしだ!」

「何故ですかっ」

それは私にとって予想外だった。
この旦那なら、また面倒な揉め事になるかもしれない、相手の生徒(相島健吾)を徹底的に処罰させると思っていたからだ。

「何故ですか、じゃないよ!これ以上あの養子の事で告訴だの何だのしてみろ、間違いなく会社に知られるだろうがっ!」

旦那は烈火の如く私を怒鳴りつけた。

「待ってください!雄太君は被害者です。事情を話せば何の問題がありますか?ご主人の会社だってまさか被害者に冷遇は無いでしょう」

すると旦那は怒りを噛み締めて鼻で笑った。

「フッ、これだからお気楽公務員は困るんだ!
いいかい、民間の企業は出世するほど内部のやっかみも増えるし、派閥の争いも深いんだ!
アンタらみたいな教師風情には解らないだろうが、小さな誤解が大きな問題に擦り変わる事なんてザラなんだよ!」

私はこの旦那の言葉が衝撃だった。
会社の内情が云々ではない。
この旦那がガキの様に自分の事情と保身だけを考え、連れ子とはいえ我が子の筈の雄太を守るつもりが全く無い事がだ・・・。



『あいつの親は典型的な大人だからだ』



その時、再び相島健吾の言葉が胸に響いた。

あぁ・・・、この事だったのか。


私は無性に腹が立った。

身体の内側から、電気のような衝撃が何度も走った。

「では、ご主人は相手の生徒は本当にお咎め無しで構いませんね・・・」

「結構です。話しは以上だ、
それからくれぐれも向こうの親に謝罪なども要らないと伝えて下さい。
そうされる事も迷惑なんでね・・・」

旦那がそう言った瞬間、私は水の入ったグラスを握り潰した。

「・・・失礼します」

私はグラスの破壊を詫び無かった。

それが、旦那のいうお気楽な公務員だという私の、無言の一言だった。

旦那はア然として見送りにも出なかった。

母親が慌てて、私を見送りに出ようとしたが、私はそれも怒りに燃える眼で、拒否した。

母親も雄太を心配がっている様だが、そんなのも嘘だ。

この母親も旦那と一緒だ。母親は旦那に嫌われる事を恐れている。
旦那の愛を守りたいか?

だから昼間、雄太が入院したと告げた時、一瞬嫌な顔をしたんだろ。


何なんだこの家族は・・・。保身と嘘か。


私はやり切れない怒りが、メラメラと沸き上がって身体中が熱かった。


相島・・・。
お前は、知っていたのか。
雄太のこの家庭環境を・・・
知っていて雄太をあんな目に会わせたのか・・・。

私は自分でも、怒りの矛先がゆっくりとスライドして行くのが分かった。


ただ、誰かにぶつけなければ収まりはつかなそうだ・・・。


誰かを殴らなければ、
雄太の無念を、俺の拳で晴らさなければ・・・

今夜は眠る事さえままならねぇ・・・

コメント(3)

あ〜もぉ大人なんてこんなんばっかですょ(´Д`)、ペッ

何か読みながら苛々しちゃいました。笑
お互いの心の動き(微妙な変化みたぃな…)が良く分かりました。
続きがまたまた楽しみですね↑↑
期待してます(>∀<)
ムシャムシャ、コメントご飯頂きます。
どーしよーもないですね、こんな大人。
どーしよーも無い大人をアピールする為にかなり隔たった大人を書きました。
ちょっとやり過ぎたかなぁ。
でもうちのアニキとかこんな感じ・・・。
大嫌いッス。

(‐Д‐)ペッペッ
訂正します。
話しの途中に
『旦那が洗いものをしながら横目で頷いた』
というくだりがありますが、あれは母親です・・・。
スンマセンでした。
訳わからなくなりますね。
赤面の間違いです。
本当に失礼しました。

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