ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

十二鳥コミュのアウトバースト4

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
[島田和彦・その2]
私は相島を帰した後、安藤雄太の自宅へ向かった。
病院から何度も彼の自宅へ連絡を入れたが、家族の誰とも連絡を取れなかったからだ。

住所録を頼りに車を走らせて、30分。

閑静な高級住宅街についた。
一軒一軒丁寧に壁の表札を見ながら、ゆっくり車を走らせて、ようやく見つけた。
一際目立つ黒光りする石の表札。

インターホンを押すが、返事はない。
共働きなのか、やはり家に人気は無かった。

私は暫く車の中で、待つことにした。

煙草に火を着け、ソファに深く身体を預けて一息つくと、体中にドッと疲れが出た。

あぁ、今日はなんて日なんだ・・・。
突然こんな日になるなんて。
雄太・・・。
まだ私には実感が無いんだ。
お前がもうリングに立てないなんて・・

私の最高傑作・・・。
教師生活、僅か四年にして出会ったダイヤの原石。

磨けば磨いただけ、いや、そんなもんじゃ無い!
磨いた以上に光り輝く、きっともう二度と巡り会う事のない奇跡の星・・・。
雄太・・・。
いつの日か復帰出来る日が、来るとして・・・、
それは何年後なんだ・・・。
在学中に復帰する事は難しい・・・。
ならば、お前が復帰した時、お前を側で指導するのは誰だ?

プロのジムか・・・。
大学のコーチか・・・。

いずれにしても私ではない。
お前の名前が世間を賑わせる時・・・。
お前を完成させた男は、別の誰かなんだ・・・。

雄太よ・・・。
私の夢を継ぐ逸材よ・・・。


クソッ!

全ては無に還った。

お前の素質を見抜いた、あの日の感動も・・・。

日々、お前の進化を観たくて供に費やした、あの過酷なトレーニングとその時間も・・・。

もう無に還ったんだ・・・。
何もかも、意味を失った。

数年先に雄太が復帰しても、それは私にとって全く意味を持たない。

私が雄太を頂点に立たせなければ、私にとっては意味が無い。

雄太を見つけたのは、私なのだから・・・。



そんな思いに捕われながら、私はいつもより美味く感じない煙草を揉み消した。

私はただ暫く、悠々と流れる雲を観ていた。
5分ほどの時間だったろうと思うが、とても永い虚無な時間に思えていた。

無駄になった時間か・・・


深い溜め息が自然と湧き出た時、ルームミラーに一台の車が映った。

車は私の横についたと思うと、そのままバックして雄太の家の車庫に入った。
私は慌てて車から降りて、声をかけた。

「すみません、安藤雄太くんの・・・!」

車から降りて来たのは、白いスーツの女性だった。
振り向いた面差しに雄太を感じる。

母親に間違いない。

「お母様ですか?」

「あら・・・どちら様かしら」
ドアを閉めながらこちらを振り向く。
何気ない素振りに品を感じさせる女性だった。

「常磐実業高校の島田と申します、すみませんが、直ぐに病院まで同行してください!」

私は想像した以上に、美しい雄太の母親を前に、少し焦りながら、怪我を負い入院したと用件を伝えた。

「えぇ、雄太が・・・」
そう言って驚いたこの母親の一瞬の表情を、私は見逃さなかった。

何というのか・・・。
雄太の母は私の話しを聞くと、一瞬だけ酷く嫌な顔をした。
困ったようにも見えたし、ムッと苛立った様にも見えた。

私には何故か、これがとても気になった。


・・・相島健吾のせいかもしれないと、ふとアイツの言葉が頭をよぎった。

『安藤の親は、典型的な大人供だからだ・・・!』

典型的な大人・・・?

一体どういう意味なんだ?

私は雄太の母親を車に乗せて、とりあえず病院へ向かった。
事情は今の時点で分かる限りを話した。

すると母親はさっきの表情とは裏腹に、病院へ着くなり、一目散に雄太の病室へと走った。

その後ろを追いかけながら、少しだけ安心した自分がいた。

(やっぱりそうだ、子供を心配しない親はいないからな・・・)

病室に入ると、雄太は小さく寝息を立てていた。

「雄太、雄太!お母さんよ!」

揺り起こす母親に私は慌てて止めた。
「あっ、お母さん、多分今は麻酔が効いてますから・・・」

「でも・・・」

母親を宥めて、とりあえず一旦病室を出る事にした。


病棟のゲストフロアまで来ると、雄太の母親は眼を真っ赤にして、私に話し出した。

「・・・あの子は、本当に不幸な子です」

「え?」
母親の第一声がこれかと、一瞬耳を疑った。
しかし母親の顔を見ると、その言葉に意味がある事を知った。

「・・・突然ごめんなさい。」

「いえ・・・、差し支えなければ話して下さい」

母親はハンカチで涙を拭いて、ベンチソファに腰を降ろした。

「あの子は、つい最近まで私の弟の夫婦に育てられてました・・・」

私は驚いた。

雄太とは部活の間トレーニング中に沢山プライベートな話しをしたが、そんな話しを聞いたのは、今日が初めてだった。

「お恥ずかしい話しですが、私には離婚歴が有りまして・・・、今の夫が私の連れ子だった雄太を、受け入れてくれなかったんです。」

急に空気が重くなる言葉だった。

「・・・それで」

「はい・・・。私は仕方なく一旦雄太を弟に預けて、長い間主人を説得しました。
そして雄太が中学二年生になる頃、ようやく引き取る事が出来たんです」


弟夫婦に預けて、長い間説得?
ようやく引き取る事が出来たんです?

その言葉の端々から、私の腹のうちに少し苛立ちが生まれた。


「何故ご主人は雄太くんを受け入れてくれなかったんですか?
いくら連れ子とは言え、愛した貴女のお子さんでしょう」

私は雄太の母が話す事が、どうにも無性に不快に感じてきた。


「主人は私を愛してくれました・・・。勿論再婚当時は、雄太の事も認めてくれていました。」

「だったら何故・・・」

思わず問い詰めるような口調になってしまった。

どうも話しが読めない。

「それは・・・」

母親は更にハンカチで顔を覆って、屈み込んだ。

どうやらこの親子には、根っこの深い何かがある・・・。
連れ子とは言え、親の問題で子供を他所へ預けるか・・・。
再び私の頭に、相島のあの言葉が響いた。

『典型的な大人供』

相島は自信あり気に、雄太の親は自分を告訴したりしないという・・・。


きっとここにその意味があるんだ・・・。

私は興味もあったが、雄太が不幸であるのなら、なんとかしてやりたい気持ちが湧き出してきた。


「お母さん、すみませんが雄太くんの怪我など、学校を休む間の単位に関しても、詳しい話しをしなければなりません。
本日、ご主人がご帰宅後にもう一度、お宅へお伺い致します」

私は断らせない口調で要件を伝え、雄太の家庭環境を探る事に決めた。


今後少しでも・・・。

少しでも長く雄太と関わりを保つために・・・。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

十二鳥 更新情報

十二鳥のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング