禅宗寺院と仏塔
仏塔には多宝塔・五重塔・三重塔などがあり、寺だけではなく世界遺産の宮島厳島神社などの神社にも廃仏毀釈をまぬがれた塔がまれに存在している。有名な寺にはそのシンボルとして風雪に耐えて建ち続けている。備後で塔と言えば二つの国宝、尾道浄土寺多宝塔と福山明王院五重塔に代表される。しかし、改めて禅宗寺院を見てみると東福寺、建仁寺、南禅寺など、有名で今なお広大な境内を持つ禅寺であっても塔が無いことに気がつく。禅寺には塔は元々無かった、または不要の代物だったのかという疑問が出てくる。伽藍の配置は宗派によって異なる。大寺は金堂(本堂）・塔・講堂・鐘楼・経蔵・僧坊・食堂を数えて「七堂伽藍」を備える。法隆寺は回廊で囲まれた境内の中心に中門を造り、その中に右に本尊を祀る「金堂」、左に五重塔を配置し、回廊の外側に講堂、鐘楼、経蔵を建てる。薬師寺は中門と回廊を配置し、正面奥に「金堂」その手前の両側に「東塔」「西塔」の二つの三重塔を建てている。このように回廊内に金堂(本堂）と塔はセットで配置している。本堂とともに塔を伽藍の中心として重要視しているということだろう。
禅宗伽藍の配置は三門(山門）・仏殿（本堂）・法堂（ほっとう）を直線上に並べ、僧堂（そうどう）・庫院（くいん）・東司（とうす・便所）・浴室を建てる。これが禅宗で言う「七堂伽藍」である。その中に塔はない。臨済禅では回廊は建てないが曹洞禅は回廊を巡らせる。備中一宮吉備津神社社家に生まれた栄西が文治3年（1187）に入宋して禅を学び、建久2年(1191)に帰朝し広めたのが臨済禅の始まりである。日本に帰った栄西は、まず建久7年(1196)博多に聖福寺を建てた。これが日本で最初の禅宗寺院だ。禅宗とともに宋(中国）の禅宗寺院建築様式も持ち帰ったというが、当時の仏教界は比叡山の力が強く、禅宗などという新興宗教の寺院は建てさせてもらえなかった。そこで鎌倉幕府を頼り正治元年(1199)北条政子が栄西に帰依して寿福寺を建立。次いで源頼家の庇護を受けて京都に建仁寺を建立したのは建仁2年(1202)のことである。しかし、この時の建仁寺も天台、真言、禅の三宗兼学であり、純然たる禅宗寺院は建てさせてはもらえなかった。安貞元年(1227)に帰朝した道元は天福元年(1233)京都宇治に興聖寺を建てた。寛元元年(1243)に京都を離れ越前に移り永平寺を建て曹洞禅を広めた。嘉禎2年(1236)、九条道家が発願して京都に東福寺が建立された。開山は円爾弁円（えんにべんえん・聖一国師）である。京都建仁寺建立から50年後、鎌倉には北条時頼によって建長寺が創建され、建長5年（1253）に落慶。開山は宋僧・蘭渓道隆（らんけいどうりゅう）。この人こそが母国「宋」の禅宗様伽藍を模して建長寺を建てたのだ。この建長寺こそが日本で初めての本格的な禅宗様寺院だと太田博太郎氏は述べられている。蘭渓道隆の没後、弘安5年（1282）に北条時宗が宋僧・無学祖元（むがくそげん）を開山として迎え創建したのが円覚寺である。また南禅寺など京都や幕府の置かれた鎌倉に禅宗大伽藍が続々と建てられた。しかし、創建当初の伽藍を残すものは残念ながら皆無である。したがって古図や文献からでしか再現できない。それらの古図を見ると確かに仏塔が描かれているのだ。それは本堂の横とかという伽藍の中心ではなく少し離れた山腹に建てられている。禅寺にも仏塔は存在していたということになる。現在、禅宗寺院に現存し、また国指定重要文化財を拾い出してみたら興味深い事実が見えてきた。しかも全国でも次の8塔しかない。
国宝
○安楽寺八角三重塔
長野県上田市別所温泉
曹洞宗 崇福山護国院
開山：樵谷惟仙（しょうこくいせん）
本尊：釈迦如来
時代区分：鎌倉後期
○向上寺
http://
広島県尾道市（旧豊田郡瀬戸田町）
曹洞宗 潮音山
本尊：釈迦如来
中国三十三観音霊場第十一番
時代区分： 室町中期
年代： 永享4（1432）
解説文： 向上寺は尾道より船で一時間半程の海上にある生口島にあり、三重塔は永享四年（一四三二）の建立である。禅宗寺院の塔婆として貴重な遺構であるとともに、唐様の手法が濃厚で、細部も特色ある意匠がみられる。建立年代が明らかであり、部材がほとんど当初材のみと思われることもめづらしい。
○瑠璃光寺
http://
山口県山口市香山町
曹洞宗 保寧山
本尊：薬師如来
時代区分： 室町中期
年代： 嘉吉2（1442）
国指定重文
○三明寺（さんみょうじ）
愛知県豊川市豊川町
曹洞宗
本尊：千手観音
時代区分： 室町後期
年代： 享禄4（1531）
解説文：三明寺は、寺伝によれば、大宝2年（702）の創建であり、室町時代に禅宗寺院として再興されたという。現存する三重の塔は、初層を三間四方とし、こけら葺の高さ15ｍ程の塔であり、解体修理に際して発見された墨書により、享禄4年の建立と知られる。比較的小型の塔ではあるが、初層・二層を和様、三層を唐様とし、外観に変化を持たせている。
○�宛�寺（そうけんじ）
滋賀県蒲生郡安土町安土城跡
臨済宗妙心寺派
山号：遠景山
構造形式： 三間三重塔婆、本瓦葺
時代区分： 室町後期
年代： 享禄3（1528）
○法観寺（ほうかんじ）
http://
京都府京都市東山区
臨済宗建仁寺派
山号：霊応山
構造形式： 三間五重塔婆、本瓦葺
時代区分： 室町中期
年代： 永享12（1440）
解説文：観音霊場として知られる清水寺の近隣に位置する。街中にそびえ立つ五重塔は通称「八坂の塔」と呼ばれ、周辺のランドマークとなっている。境内は狭く、塔以外に目だった建築物がないことから、「八坂の塔」は、寺自体を指す通称ともなっている。
○宝福寺（ほうふくじ）
http://
岡山県総社市井尻野
臨済宗東福寺派
本尊：虚空蔵菩薩。
構造形式： 三間三重塔婆、本瓦葺
時代区分： 室町前期
年代： 永和2（1376）
解説文：室町時代の画僧雪舟が修行したことで有名な寺院である。山号は井山（いやま）。井山宝福寺または井山宝福禅寺ともいう。
○天寧寺
http://
広島県尾道市東土堂町
曹洞宗
足利義詮建立
山号：海雲山
構造形式： 三間三重塔婆（元五重）、本瓦葺
時代区分： 室町前期
年代： 嘉慶2（1388）
解説文：天寧寺は貞治6年（1367）に足利義詮が建て，普明国師を開山とした曹洞宗の大寺である。のち本堂などは雷火で焼失し，この塔だけが残った。
塔婆は嘉慶2年（1388）の造立で，元禄5年（1692）上の二重を撤去し三重塔婆に改修された。現存する部分は相輪まで当初のものをよく伝えており，和様を基調に禅宗様が濃厚にとり入れられ，規模雄大で手法もまたすぐれている。
備後尾道に二塔、岡山県総社市と山口県山口市にそれぞれ一塔ずつある。中国地方でも瀬戸内沿岸地域で現存の半数を有しているのだ。また、禅僧雪舟は「東福寺伽藍図」を残しており、その雪舟が修行したという岡山県総社市宝福寺は東福寺の末寺という。雪舟は、応永27年（1420）備中赤浜（総社市赤浜）に生まれ幼くして宝福寺に入った。しかし、絵ばかり描いて修行をサボっていた幼少の雪舟は住職に柱に縛られてしまった。縛られたまま泣いて流した涙でネズミを描いたのはここ宝福寺でのことである。その描いたねずみが動きだし、縛られていたロープを噛みきったというのはいかにも出来すぎだ。また、福山市山手町「三宝寺」は山陰倉吉の定光寺の末寺で、三宝寺を菩提寺とする神辺城主杉原盛重はこの禅宗ネットワークを利用して山陰で尼子氏と戦っている。鎌倉から南北朝、室町、戦国時代の禅寺ネットワークはかなりの広域をカバーしていてまったく感心してしまう。
大田博太郎著「禅寺と石庭」によると、建仁寺・三重塔、東福寺・五重塔、南禅寺・多宝塔、天龍寺塔、相国寺・七重塔、相国寺鹿苑院・三重塔、建長寺・五重塔、円覚寺・三重塔、寿福寺・十三重塔、浄智寺・多宝塔など・・・、これらはかつては確かに存在していた。しかし、現在は残念ながら失われている。そして、これらの塔が建てられていた場所はすべて伽藍の中心部ではなく、すこし離れた山腹に建っていたという。現存する生口島の国宝向上寺三重塔などこの位置にぴたりと一致している。向上寺仏殿は火災で焼失し今も失われたままであるが、仏殿から離れた場所にあった三重塔は焼失を免れたというわけだ。それぞれの仏殿は禅宗様をかたく守って再建されたが、塔だけはなぜか再建されず、しかも現存しているものの建築様式をみると和様がほとんどで、純然たる禅宗様は安楽寺八角三重塔しかないという。向上寺と天寧寺は折衷様、他は和様で、まったくといっていいほど禅宗様にはこだわっていない。建立位置などと考え合わせると禅寺では「塔は必要でなかったというなら、はなはだしく見当違いではない」とも記されている。
天寧寺三重塔は当初は五重塔であった。もし当初の通り五重塔で再修されていたならば貴重な禅寺の塔として間違いなく国宝であろう。備後尾道に二塔が現存している事実は我々の誇りであるとともに、これを確実に後世に残さなければならないと思う。
写真
左：国宝・向上寺三重塔
中：国指定重文・天寧寺三重塔（元五重）
右：国宝・瑠璃光寺五重塔（檜皮葺）
仏塔には多宝塔・五重塔・三重塔などがあり、寺だけではなく世界遺産の宮島厳島神社などの神社にも廃仏毀釈をまぬがれた塔がまれに存在している。有名な寺にはそのシンボルとして風雪に耐えて建ち続けている。備後で塔と言えば二つの国宝、尾道浄土寺多宝塔と福山明王院五重塔に代表される。しかし、改めて禅宗寺院を見てみると東福寺、建仁寺、南禅寺など、有名で今なお広大な境内を持つ禅寺であっても塔が無いことに気がつく。禅寺には塔は元々無かった、または不要の代物だったのかという疑問が出てくる。伽藍の配置は宗派によって異なる。大寺は金堂(本堂）・塔・講堂・鐘楼・経蔵・僧坊・食堂を数えて「七堂伽藍」を備える。法隆寺は回廊で囲まれた境内の中心に中門を造り、その中に右に本尊を祀る「金堂」、左に五重塔を配置し、回廊の外側に講堂、鐘楼、経蔵を建てる。薬師寺は中門と回廊を配置し、正面奥に「金堂」その手前の両側に「東塔」「西塔」の二つの三重塔を建てている。このように回廊内に金堂(本堂）と塔はセットで配置している。本堂とともに塔を伽藍の中心として重要視しているということだろう。
禅宗伽藍の配置は三門(山門）・仏殿（本堂）・法堂（ほっとう）を直線上に並べ、僧堂（そうどう）・庫院（くいん）・東司（とうす・便所）・浴室を建てる。これが禅宗で言う「七堂伽藍」である。その中に塔はない。臨済禅では回廊は建てないが曹洞禅は回廊を巡らせる。備中一宮吉備津神社社家に生まれた栄西が文治3年（1187）に入宋して禅を学び、建久2年(1191)に帰朝し広めたのが臨済禅の始まりである。日本に帰った栄西は、まず建久7年(1196)博多に聖福寺を建てた。これが日本で最初の禅宗寺院だ。禅宗とともに宋(中国）の禅宗寺院建築様式も持ち帰ったというが、当時の仏教界は比叡山の力が強く、禅宗などという新興宗教の寺院は建てさせてもらえなかった。そこで鎌倉幕府を頼り正治元年(1199)北条政子が栄西に帰依して寿福寺を建立。次いで源頼家の庇護を受けて京都に建仁寺を建立したのは建仁2年(1202)のことである。しかし、この時の建仁寺も天台、真言、禅の三宗兼学であり、純然たる禅宗寺院は建てさせてはもらえなかった。安貞元年(1227)に帰朝した道元は天福元年(1233)京都宇治に興聖寺を建てた。寛元元年(1243)に京都を離れ越前に移り永平寺を建て曹洞禅を広めた。嘉禎2年(1236)、九条道家が発願して京都に東福寺が建立された。開山は円爾弁円（えんにべんえん・聖一国師）である。京都建仁寺建立から50年後、鎌倉には北条時頼によって建長寺が創建され、建長5年（1253）に落慶。開山は宋僧・蘭渓道隆（らんけいどうりゅう）。この人こそが母国「宋」の禅宗様伽藍を模して建長寺を建てたのだ。この建長寺こそが日本で初めての本格的な禅宗様寺院だと太田博太郎氏は述べられている。蘭渓道隆の没後、弘安5年（1282）に北条時宗が宋僧・無学祖元（むがくそげん）を開山として迎え創建したのが円覚寺である。また南禅寺など京都や幕府の置かれた鎌倉に禅宗大伽藍が続々と建てられた。しかし、創建当初の伽藍を残すものは残念ながら皆無である。したがって古図や文献からでしか再現できない。それらの古図を見ると確かに仏塔が描かれているのだ。それは本堂の横とかという伽藍の中心ではなく少し離れた山腹に建てられている。禅寺にも仏塔は存在していたということになる。現在、禅宗寺院に現存し、また国指定重要文化財を拾い出してみたら興味深い事実が見えてきた。しかも全国でも次の8塔しかない。
国宝
○安楽寺八角三重塔
長野県上田市別所温泉
曹洞宗 崇福山護国院
開山：樵谷惟仙（しょうこくいせん）
本尊：釈迦如来
時代区分：鎌倉後期
○向上寺
http://
広島県尾道市（旧豊田郡瀬戸田町）
曹洞宗 潮音山
本尊：釈迦如来
中国三十三観音霊場第十一番
時代区分： 室町中期
年代： 永享4（1432）
解説文： 向上寺は尾道より船で一時間半程の海上にある生口島にあり、三重塔は永享四年（一四三二）の建立である。禅宗寺院の塔婆として貴重な遺構であるとともに、唐様の手法が濃厚で、細部も特色ある意匠がみられる。建立年代が明らかであり、部材がほとんど当初材のみと思われることもめづらしい。
○瑠璃光寺
http://
山口県山口市香山町
曹洞宗 保寧山
本尊：薬師如来
時代区分： 室町中期
年代： 嘉吉2（1442）
国指定重文
○三明寺（さんみょうじ）
愛知県豊川市豊川町
曹洞宗
本尊：千手観音
時代区分： 室町後期
年代： 享禄4（1531）
解説文：三明寺は、寺伝によれば、大宝2年（702）の創建であり、室町時代に禅宗寺院として再興されたという。現存する三重の塔は、初層を三間四方とし、こけら葺の高さ15ｍ程の塔であり、解体修理に際して発見された墨書により、享禄4年の建立と知られる。比較的小型の塔ではあるが、初層・二層を和様、三層を唐様とし、外観に変化を持たせている。
○�宛�寺（そうけんじ）
滋賀県蒲生郡安土町安土城跡
臨済宗妙心寺派
山号：遠景山
構造形式： 三間三重塔婆、本瓦葺
時代区分： 室町後期
年代： 享禄3（1528）
○法観寺（ほうかんじ）
http://
京都府京都市東山区
臨済宗建仁寺派
山号：霊応山
構造形式： 三間五重塔婆、本瓦葺
時代区分： 室町中期
年代： 永享12（1440）
解説文：観音霊場として知られる清水寺の近隣に位置する。街中にそびえ立つ五重塔は通称「八坂の塔」と呼ばれ、周辺のランドマークとなっている。境内は狭く、塔以外に目だった建築物がないことから、「八坂の塔」は、寺自体を指す通称ともなっている。
○宝福寺（ほうふくじ）
http://
岡山県総社市井尻野
臨済宗東福寺派
本尊：虚空蔵菩薩。
構造形式： 三間三重塔婆、本瓦葺
時代区分： 室町前期
年代： 永和2（1376）
解説文：室町時代の画僧雪舟が修行したことで有名な寺院である。山号は井山（いやま）。井山宝福寺または井山宝福禅寺ともいう。
○天寧寺
http://
広島県尾道市東土堂町
曹洞宗
足利義詮建立
山号：海雲山
構造形式： 三間三重塔婆（元五重）、本瓦葺
時代区分： 室町前期
年代： 嘉慶2（1388）
解説文：天寧寺は貞治6年（1367）に足利義詮が建て，普明国師を開山とした曹洞宗の大寺である。のち本堂などは雷火で焼失し，この塔だけが残った。
塔婆は嘉慶2年（1388）の造立で，元禄5年（1692）上の二重を撤去し三重塔婆に改修された。現存する部分は相輪まで当初のものをよく伝えており，和様を基調に禅宗様が濃厚にとり入れられ，規模雄大で手法もまたすぐれている。
備後尾道に二塔、岡山県総社市と山口県山口市にそれぞれ一塔ずつある。中国地方でも瀬戸内沿岸地域で現存の半数を有しているのだ。また、禅僧雪舟は「東福寺伽藍図」を残しており、その雪舟が修行したという岡山県総社市宝福寺は東福寺の末寺という。雪舟は、応永27年（1420）備中赤浜（総社市赤浜）に生まれ幼くして宝福寺に入った。しかし、絵ばかり描いて修行をサボっていた幼少の雪舟は住職に柱に縛られてしまった。縛られたまま泣いて流した涙でネズミを描いたのはここ宝福寺でのことである。その描いたねずみが動きだし、縛られていたロープを噛みきったというのはいかにも出来すぎだ。また、福山市山手町「三宝寺」は山陰倉吉の定光寺の末寺で、三宝寺を菩提寺とする神辺城主杉原盛重はこの禅宗ネットワークを利用して山陰で尼子氏と戦っている。鎌倉から南北朝、室町、戦国時代の禅寺ネットワークはかなりの広域をカバーしていてまったく感心してしまう。
大田博太郎著「禅寺と石庭」によると、建仁寺・三重塔、東福寺・五重塔、南禅寺・多宝塔、天龍寺塔、相国寺・七重塔、相国寺鹿苑院・三重塔、建長寺・五重塔、円覚寺・三重塔、寿福寺・十三重塔、浄智寺・多宝塔など・・・、これらはかつては確かに存在していた。しかし、現在は残念ながら失われている。そして、これらの塔が建てられていた場所はすべて伽藍の中心部ではなく、すこし離れた山腹に建っていたという。現存する生口島の国宝向上寺三重塔などこの位置にぴたりと一致している。向上寺仏殿は火災で焼失し今も失われたままであるが、仏殿から離れた場所にあった三重塔は焼失を免れたというわけだ。それぞれの仏殿は禅宗様をかたく守って再建されたが、塔だけはなぜか再建されず、しかも現存しているものの建築様式をみると和様がほとんどで、純然たる禅宗様は安楽寺八角三重塔しかないという。向上寺と天寧寺は折衷様、他は和様で、まったくといっていいほど禅宗様にはこだわっていない。建立位置などと考え合わせると禅寺では「塔は必要でなかったというなら、はなはだしく見当違いではない」とも記されている。
天寧寺三重塔は当初は五重塔であった。もし当初の通り五重塔で再修されていたならば貴重な禅寺の塔として間違いなく国宝であろう。備後尾道に二塔が現存している事実は我々の誇りであるとともに、これを確実に後世に残さなければならないと思う。
写真
左：国宝・向上寺三重塔
中：国指定重文・天寧寺三重塔（元五重）
右：国宝・瑠璃光寺五重塔（檜皮葺）
|
|
|
|
|
|
|
|
備後の歴史を歩く 更新情報
-
最新のアンケート
-
まだ何もありません
-
備後の歴史を歩くのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています
人気コミュニティランキング
- 1位
- mixi バスケ部
- 37860人
- 2位
- お洒落な女の子が好き
- 90059人
- 3位
- 写真を撮るのが好き
- 208307人