バッハの作曲した舞曲の研究書『舞曲とJ.S バッハの音楽Dance and the music of J.S.Bach』 の著者Little Meredith&Jenne Natalieも「バッハの時代には彼らが特定の舞曲形式を反映していなかった事と、明瞭な振り付けの起源も、特徴的なリズムパターンも見出すことが出来ない」と記している 。
b. 無伴奏チェロ組曲におけるアルマンドの特色 Schwemer&Woodfull-Harris(2000)によると、《無伴奏チェロ組曲》におけるアルマンドは、テンポによって2つのカテゴリーに分類され得るという。第1のカテゴリーは速いテンポのアルマンド、第2のカテゴリーは遅いテンポのアルマンドである。第1の速いテンポのアルマンドは、?番から?番までに使用され、第2の遅いテンポの形式は?番のみで使用されていると指摘されている 。 《無伴奏チェロ組曲》のアルマンドでは、テンポを表示する速度記号は一切書かれていない。?、?、?番の拍子記号はC(4分の4拍子)で、?、?、?番は アラ・ブレーヴェ(alla breve)が指示されている。アラ・ブレーヴェよりもCが速いとは考え難いため?,?,?番は速いテンポであり、?,?,?番のアルマンドは遅いテンポに分類されるべきである。 ?番のアルマンドはバッハが楽譜を所有していたフランス人作曲家ガスパール・ル・ルー Gaspard Le Roux (1660?−1707)の組曲fis-mollから冒頭部分のパッセージが引用されている 。当時は著作権のある現代とは違い、他の作曲家のモティーフなどを引用すること、または自ら作曲したモティーフを違う曲に転用することは当たり前に行われていた。拍子記号は、アラ・ブレーヴェではなくCが用いられれGaye と表示されている。ル・ルーのアルマンドからモティーフを引用している事と、アラ・ ブレーヴェの指示があることから、?番のアルマンドは比較的速いテンポであると考えられる。