その後フォークソングの歴史を見ればよいのだと気づいたのですが、そちらはJean Ritchieのダルシマーばかりが出てくるのです。例えば1976年に出版されたThe Folk Music Sourcebookでも、Jean Ritchieを紹介する中に、She often sings solo voice, or with dulcimer とあります。この本の中でdulcimerは今で言うマウンテン・ダルシマーで、ハンマー・ダルシマーがhammered dulcimer あるいは、Dulcimer, Hammered と区別されるのです。どうやら一時期のアメリカではDulcimerといえばJean Ritchieのダルシマーだったようで、私はあるアメリカの音楽史シリーズの翻訳本の中で、ダルシマーが弦をはじく楽器を示しているということを知らずに、混乱したことがあるくらいです。(有名な人の本なのに、不用意にdulcimer という語を用いたがために日本の翻訳者もそれをただダルシマーと訳し、私はスウェーデンにハンマー・ダルシマーがあるのかと誤解したのです。)
さて、ではHammer DulcimerかHammered Dulcimerかという問題ですが、今はHammered Dulcimerの方が一般的です。けれどHammer Dulcimerが間違いでないことは、Paul M.Giffordの"The Hammered Dulcimer : A History" (The Scarecrow Press, 2001)にありました。
1959年に開催されたThe Newport Folk Festivalはさまざまな地域からのブルーズ・シンガー、バラード・シンガーだけでなく新しいフォークの若いプロの演奏家たち、Joan BaezやBob Dylan(当時18歳)を含む、今までとは違うフェスティバルだったそうです。そこにJean Ritchieが登場し、アパラチアのダルシマーが注目を集めました。マス・メディアにThe Newport Folk Festivalがレポートされるにつれ、ElgiaHickokは自分が何年も弾いてきたdulcimerを紹介したいと思い、1963年に参加、翌年の1964年、Chet Parkerとともに"Golden Slippers"などを演奏し、それが"Hammer" dulcimerと記録されたのだそうです。
The Newport Folk Festival以来Chet Parkerの人気は高まり、熱狂的ファンが彼の演奏を録音してそのテープをFolkways Recordsに送り、それがThe Hammer Dulcimer Played by Chet Parker として1966年に出ます。(これは現在Smithsonian Folkwaysからオンラインで購入できます。)
ですから最初はHammer Dulcimerでした。でも多分文法的におかしいのか語感がおかしいのかわかりませんが、1966年にはRussell Fluhartyの広告が "America'sgreatest hammered dulcimer player"と書かれ、両者が混在するようになったようです。(以上Giffordの16章、The Dulcimer's American Revivalより。)