[どうじまる] ズビグニュー・ブレジンスキーはジミー・カーター政権で国家安全保障顧問を務めた人物だが、ヘンリー・キッシンジャーと並んで現代米国政治に最も大きな影響を与え続ける一人である。その怪物のような容貌と共に、ユーラシア大陸の「チェス盤」に一つ一つ駒を進める緻密で冷厳な知性は、20世紀後半を生きた大勢の人々の印象に刻み込まれているだろう。 そのブレジンスキーが、ブッシュ政権が核弾頭を用いたイラン攻撃に急速に歩みを進めつつあった2007年1月に米国上院外交問題委員会で、イラン攻撃のきっかけとなる「事件」を画策する米国政府に対して厳しい警告を行った。その警告後、ブッシュ政権の好戦的な動きが沈静化し、いったんはイラン攻撃計画が押しとどめられた。しかしその戦争熱は「高止まり」の状態でオバマ政権に引き継がれていたのである。 当時ほとんどの大手メディアがこの上院外交委員会の様子を報道せずに黙殺したため、彼の警告について知る人は今に至るまでほとんどいないのだが、World Socialist Web Site(WSWS:世界社会主義者ウエッブサイト)によって、ブレジンスキーの発言とそれに対するメディアの反応ぶりが記録されている。 http://www.wsws.org/articles/2007/feb2007/brze-f03.shtml Why is the US press silent on Brzezinski’s warnings of war against Iran? この記事は次の記事の続編であり、ブレジンスキーの上院での証言はこちらにより詳しく書かれている。 http://www.wsws.org/articles/2007/feb2007/brze-f02.shtml A political bombshell from Zbigniew Brzezinski これは、米国・英国とイスラエルがイランへの攻撃に接近しつつある現在、非常に重要な意味を持つを思われるので、私がその当時阿修羅サイトに投稿した翻訳を少し訂正して取り上げることにしたい。
あのお笑いものの「ノーベル平和賞」が功を奏したのかどうか知らないが、オバマ政権前半には対シリア・イラン戦争への熱気が盛り上がることはなかった。しかし後半に入って2012年の大統領選が近づくに伴い、米国とNATOと西側メディアは、ペンタゴンが21世紀初頭に攻撃目標の一つとして掲げたリビアの解体と植民地化を実現させ、つづいてシリアとイランに向けてその毒牙をむき出しつつある。イラン開戦の決定は、再選を狙うオバマに対する「踏み絵」となるだろう。2011年にメディアが誉めそやした一連の「アラブの春」もまたこの流れの中で初めてその意味が分かる。 さて、2007年にブレジンスキーは「イランとの軍事衝突のためのまことしやかなシナリオ」を次のように述べている。 「イラクでの失敗がその基点となる。続いてそれをイランのせいにして非難し、次に何らかの挑発行為をイラクで行うかまたは米国内で起こるテロ活動をイランの仕業とする。そしてついにはイランに対して、いわゆる『防衛的』な軍事行動を起こすことになる・・・。」 もちろん当時はイラクでの米軍による破壊と殺人が膨大に行われており、同時に、イラク内でのいわゆる「テロ」にイラン製の武器が使われているなどといったデマが盛んに流されその「証拠写真」(その後全く姿を消した)がまことしやかに発表されていた。そしてこの米国上院で行われたブレジンスキーの警告後に、そういったイランへの挑発行為は収まっていった。しかしその《「核開発」への非難と制裁→挑発→事件でっち上げ→対イラン攻撃》の流れは、ワシントン・ロンドン・テルアビブの重要な選択肢として残り続けているように思える。 仮にオバマがそれを拒めば、戦争を義務付けられた共和党候補が大統領選に勝利して、戦争の可能性は来年になるかもしれない。だが悪くすれば夏の以前に米国内で大型テロが起こり(オバマ自身がその標的となることもありうる)、イランの仕業として戦争が開始される可能性もある。 しかし昨今のイラン周辺での動きを見ると、もう一つ別のシナリオが進行中なのかもしれない。それは《「核開発」への非難と制裁→イラン国内とシーア派への攻撃と挑発→イランからの先制攻撃→イランに対する「反撃」》という、ちょうど半世紀以上前の「パールハーバー型」誘い込みのシナリオである。イラクから米軍戦闘部隊が引き揚げて以来イラクやパキスタンで続発するシーア派への爆弾攻撃、イラン国内での核施設の爆発や核科学者の暗殺などは、英米とイスラエルによるテロ攻撃の可能性が高いが、そうだとすればイランを追い込み挑発してイランに先に引き金を引かせるためのものだろう。 この点について、ミシェル・チョスドフスキーは次の文章で強く警告を発している。 http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=28652 Beating the Drums of War: Provoking Iran into "Firing the First Shot"? by Michel Chossudovsky