伝承文化研究所コミュの京都研修旅行紀　その７

（厭離庵（えんりあん）・中院（ちゅういん）別荘跡）

　厭離庵（えんりあん）は、藤原定家が撰び書いた百人一首の色紙が、襖に飾られた宇都宮頼綱の別荘が在った處と傳へられてゐます。

　この厭離庵は、１１月を除いて非公開であり、今回は外から見るだけといふ計晝（けいかく）でした。

　それは突然歩いてゐると見つかりました。

　中院（ちゅういん）別荘跡と言ふ看板が道路脇に立ってゐたのです。

　百人一首を研究してゐる人でも此處（ここ）を定家の時雨亭跡と言って憚（はばか）らない方も居るほど絡まり合っているミステリーが此處に來た事で總べて氷解しました。

　「厭離（えんり）」とは定家自身が言ってゐた言葉だそうで「厭（いと）ふ事がない」つまり「飽きることがない」そんな意味ださうです。

　宇都宮頼綱は、藤原定家の子為家の舅（しゅうと）にあたり、後に冷泉家に譲られました。

　ですから此處は百人一首が飾られた宇都宮頼綱の中院山荘がこの厭離庵と云ふ事になります。

　しかし、以後荒れ果ててしまったのですが、江戸時代初期に白隠禅師（はくいんぜんじ）の高弟になる霊源（れいげん）禅師により開山されます。

　その後も紆余曲折（うよきょくせつ）有りて明治維新の頃には物乞（ものご）い人が住み着き荒れ放題であったと云いますが、山岡鉄舟の娘である素心尼（そしんに）が住職されてよりは尼寺となり今に伝わっています。

（拙歌）

年ふりてかはりしすがたあはれなり
　　　　　　盛り思へば移ろひ悲しや

今のこる定家の色紙飾りたる
　　　　　　中院別荘雨にけむるや

飽きることなしを願ひて名づけたる
　　　　　　厭離の言の葉我れに迫りぬ

（小野篁（おののたかむら）こと参議篁）

　さて、厭離庵を後にして大覚寺まで歩いてゐると、道端で小野篁即ち百人一首１１番の参議篁の石碑を見つけたのです。

　その小さな石碑は、「生（き）の六道（りくどう）」と書かれてゐて、注意してなければ見過ごしてしまふほど餘（あま）りに自然に立っていました。

　小野篁は、参議にまで登りつめた人ですが、實（じつ）は若い時には、船の争いから喧嘩をし、副使として行くはずだった遣唐使を拒否して島流しにあったと言ふ人です。

　百人一首に選ばれた歌は島流しの時に創られた歌です。

「わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ蜑（あま）のつり舟」

　この歌は、篁（たかむら）が都に残す妻に島流しに送られる悲哀を込めたものです。

　何年か後に許されて、都に戻りそこから一氣に参議といふ位を極めるほど出世をした人であります。

　また、小野小町とも縁続きであったと言われております。

　何か百人一首の神様が、私達を導いて下さってゐるやうな氣がしてなりませんでした。

（拙歌）

思ひがけず見つけし参議のしるべなり
　　　　　　嵯峨野の里の奥深さ知る

罪を得てまた戻り來て位（くらい）極む
　　　　　　心の強さにあくがるるかな

（次回は大覚寺です）