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活字嫌いの為の連載小説コミュのまちまちのまちまち  作 マリ

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#1 『高円寺・ボロアパート・23時』


残念ながら、我が家の壁は薄い。
聞く気もないが、聞こえてしまう。
例えば隣人の咳払い。
例えば隣人の豪快なくしゃみ。
例えば隣人の笑い声。
例えば隣人の地鳴りのようないびき。


ただただ、悲しいかな、隣人は男。
隣人のたてる音にため息をつく俺もまた男。
ガタイのいい男達がリングの上で舞い踊る
ナントカ祭りに負けないほどに、毎日が男男のオンパレードだ。
俺がホモなら話は別だが、ノーマルの域を超えることが
どうしてもできないので毎日ため息ばかりついている。


唯一の救いといえば、一切女の気配がないことだった。
だがしかし「〜だった」と過去形にしたのは、まさに今。
今この瞬間。NOW!NOW!!NOW!!!
喋れもしない英語を叫びたくなるほどに!


ヤツの部屋から、女の声がしている!!!
いつもはため息の原因になる音を今日は積極的に聞きにいく。
一音も聞き逃すまいぞと鼻息も荒く。
壁に耳などつけたりもして。


「え〜、結構片付いてるね」
「そう?普通でしょ」
「ユイの弟なんか超部屋汚いし〜」


…自分のことを名前呼びする女?


「俺は、ほら、モノがある部屋とか苦手だから」
「ホントに何にもない部屋だねぇ〜」
「殺風景くらいが丁度いいんだよ」
「なんかぁ〜かっこいい系〜?」


…語尾に小さい母音?


「んなことねーよ」
「え〜かっこいいよぉ〜。ガイジンみたいで〜」
「ガイジンってカッコいいかー?」
「何かぁ〜、そんなイメージ?」
「お前結構天然ボケ?」
「それよく言われるんだよぉ〜」


…天然ボケという蔑称を喜んで受け入れる姿勢?


やった!俺が生きていく上で最も遠ざけておきたい類いの女だ!
顔こそ見えないけど、絶対に付き合いたくないタイプの女だ!
喫茶店じゃなくてカフェに行きたがる女だ!
遅めの昼飯をブランチと称する女だ!


…と、大きくガッツポーズをしていたら、急展開。
突然壁の向こうに立ちこめる囁き合い、クスクス笑い。
後の展開が一方向に定まり始めたような。


「ちょっとぉ〜もぉ〜」
「いーじゃん」
「やぁ〜」
「えー?」


振り上げたガッツポーズが行き場を失い、宙に浮く。
すると唐突に大音量でトム・ウェイツが流れ始めた。
何かの音をかき消すための?色んな?悩ましい?
音、若しくは声?何の声?
いつもはブリトニースピアーズから浜崎あゆみの流れに
身を任せノリノリの癖に!




……冷静になればトム・ウェイツもおかしいよな、
と思ったところで隣人はお楽しみ中、俺は独りで盗み聞き中。
言い訳はしようと思えば幾らでも出来るけれども、
言い訳を聞いてくれる相手も部屋にはいないわけで。
勝ち負けでいうと、負けてるのは圧倒的に俺なわけで。


とりあえず、ささやかなイヤガラセでもかましてやろうと
思いたちジェームスブラウンの「セックスマシーン」を
対抗して大音量でかけてやった。



…直接怒鳴り込まない俺の優しさをわかってくれる女が
どこかにいないものかね。


#1 終

コメント(2)

#2 『蒲田・ラブホテルの一室・14時』



「萎えた?」

服を脱ぎ身体を見せるなり、
女は何故か勝ち誇ったかのような顔をして男を見た。
女の胸には、引き攣れたような火傷の跡が一面広がっている。
赤黒い、生々しい、胸とよんでいいものか見る人間を迷わせる
2つの肉の盛り上がり。白々しい昼間のラブホテルでそれは、
酷く際立っている。
「どーしたの?それ」
「1万上乗せしてくれるなら話すよ」
「払うよ」
「別にね、ドロドロした話じゃないの。ただの事故。
火にかけてた天ぷら油浴びたの。」
「天ぷら…?」
「愛人してた時に。もっと聞きたいなら5千円」
「払う」
「立ったまんま台所でヤられてる時に、エプロンが
ひっかかって。」
「……笑っていい?」
「どうぞ」
許可を得たところで本気で笑う気にもなれず、
男の顔は妙な具合に歪んだ。泣き笑いのような、
形容し難い表情。
「教訓は2つ。天ぷら油を火にかけたままセックスしない、
愛人だけど相手の押しつける趣味に抵抗することも大事」
「2つ目の意味がわかんない」
「フリルがたくさんついたエプロンだったのよ。
やたらヒラヒラしたリボンがあらゆるところについたやつ。
それが菜箸に引っかかったの」
話慣れているのか、女はつるつるとそこまで話すと
脱いだシャツを再び身にまとった。
「え、ちょっと何で着るの?」
「もうやる気ないでしょ?1万5千円だけでいいから」
「やるよ?ていうか、やる気満々」
女は久々に感じる他人の身体の重さを、少しだけ愛しいと
思った。



とはいえ、昼間のラブホテルに愛はない。
少なくとも胸に火傷の跡のある女とその女に欲情する男が
趣味の悪いインテリアのラブホテルの一室でするセックスに
愛はない。そこにあるのは、愛のようなそうでないような、
何か。如何とも形容し難い、その感情の正体は。



「名前、聞いていい?」
「リンカ」
「本名の方。教えて、下だけでいいし」
「…何で」
「そっちで呼びたいんだよ」
「…エミ。」
男は穏やかな作り笑顔を浮かべ、何度も女の本名を呼びながら
胸の火傷の跡を中心にその身体を求めた。
思いがけず優しい男の手に、女は感動さえ覚えた。



男は考える。
胸に火傷の跡のある女の絶望を。
男は、傷ついた女を更に痛めつけるのが好きだった。
女の身体に傷が出来た理由はあれども、
男の性癖に理由はない。
ただただ、傷ついた女が更にボロボロになっていくのを
見るのが好きだった。最初になるべく優しい態度と言葉で
接して、少しだけ女の心を開かせる。
その後死なないように気をつけながら、
徹底的に殴る蹴るを繰り返す。白昼堂々と繰り広げられる、
目も眩むようなある意味美しいほどに、
他の意味を持たない純粋な暴力。
そして通常より多めに金を払い、男だけが清々しい気分で
一人ホテルを出る。



女は知らない。
この後胸以外にも傷が増えることを。
ただ自分を求める男を下から見上げ、
「自分はまだ少しだけでも、希望を持っていいのかもしれない」
と、ぬるく幸せな勘違いに浸っていた。




#2 終
#3 『新宿2丁目・荒涼としたバー・26時』



あら、いらっしゃい。
何よ変なカオしちゃって。男前が台無しよ。
ターキーロックね、ちょっと待っててね。すぐ作るわ。
え?…えぇ、そりゃいいけどアタシなんかの話聞いても
面白くないわよ?いいの?はぁ、そうなの。
でも何だかあれね、女優にでもなった気分っていうの?
こういうのって。わかったわ、じゃあお話ししましょうか。


まず…どこから話したらいいのかしら?
え?彼のどこを好きになったか?
そうねぇ…まずは身体よね。
だって顔は…あなたもおわかりでしょ?
決して今時の女の子に受ける容姿ではないわよ。彼。
でも、身体がね…ぐっときたのよ。
ひょろっとしてて、ちょっと猫背で、色黒で。
やだ、アタシ個人的にぐっときたってことよ。
アタシねガタイのいい男って嫌いなの。
バカそうじゃない?マッチョってさ。
好みなんてそんなもんよ。個人的なモノだし。
ああ、ごめんなさいね。彼の話だったわよね。


最初は、身体。次は…声。
しっとり濡れた声っていうのかしらね、ああいう声。
直接喋る声もイイんだけど、電話越しの声がたまんないのよね。
彼と電話で話してるとね、深い海の底にいる気分になったわ。
海の底に住んでる奇妙な形の魚になって、
ゆらゆら揺れてる気分。リアルさかなごっこみたいなね。
え?知らない?ボ・ガンボス。あれよほら、
どんとのいた……はい?あぁ、ごめんなさい声の話よね。
とにかく耳元にかかる熱い息とね、低い声とね、あと……
ごめんなさい。
やっぱりこの話やめてもいいかしら?
思い出しちゃうから。色々と。
基本的には思い出は大事にしたいんだけどね、
思い出すと胸の辺りがじくじく痛むことがあってね。
ううん、比喩じゃなくて本当に。
ん?ああ、もう本題に入っちゃうのね。
えぇ、わかってたわよ。最初から。
ただの思い出話を聞きたいわけじゃないんでしょ?
それに、あなた彼によく似てるわ。


……どうして、って思われると思うの。
アタシ彼を愛してたし彼もアタシを愛してたと思うわ。
でも愛って何?って思わない?
アタシはね、悪いけど目に見えないものは
信用しないことにしてるの。だってそうじゃない。
アタシみたいなオカマの戯言なんて虚言に等しいわ。
ハデに着飾らないと街を歩けないのと一緒ね。
ええ、勿論彼にもそう言ったわよ。
そうしたら彼なんて言ったと思う?
両手を大きく広げてね、
「じゃあ好きなところを持って行くといいよ」って。
「君の思う通りに好きにしたらいい」って。
バカでしょ?でもアタシ彼のことが物凄く愛しくて愛しくて…
彼がそこにいるってことの一番の証明は、動いてる心臓じゃない?
………ねぇ目線逸らさないで。アタシの目を見て。
いい子ね。続きを話しましょうか。
こんな小さい店だけどね、きちんと料理を出すっていうのが
アタシのポリシーなの。美味しいのよ、ホントに。
包丁は使い慣れたものが手に馴染んで使い易いのよね。


…今でも目の奥に焼き付いてるわ。
彼の胸にキラキラした刃が沈んでいく様子が。
知ってる?人の身体から出たばかりの血って、
ホントに温かいのよ。
脈がアタシの手を打つ感触が、エロティックで……


ねぇ、どうして目線を逸らすの?
………アタシが怖い?
え?
あぁ……
言ったでしょ?本当に傷があるって。
彼が最期の最期にあたしにくれたの。彼とお揃いよ。
まるで大きな赤い花のコサージュ付けてるみたいじゃない?



そうね……ここにアタシがいるのは、きっと罰ね。
誰かを自分のものだけにしたいなんておこがましいこと思っちゃったから。
もうどうやってもアタシは彼の所に行けないの。
だからね、アタシがここで彼にしてあげられることはしてあげようと思って。
そうよ。ずっと待ってたの。あなたを。
ターキー、美味しかったでしょ?隠し味沢山入れたから。
大丈夫、きっともう少ししたらすぐにお兄さんに会えるわ。
もうずっと会ってないんでしょ?
ホント言うとね、彼から聞いてたの。
「僕の弟は僕と君とのことを知ってから、
一切連絡をくれなくなった」って。





……ねぇ、彼に会えたら、伝えてくれる?






2丁目のローズが「愛してる」って何度も言ってたって。




#3 終

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