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☆mixi小説☆書く?読む?コミュの小説 ただ、なんとなく・・・(2話目)

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千蘭は欠伸をしていた。柵近くの騒動で応援がかけつけた後、事後処理は任せて帰れると思ったら、ライオンと犬の押さえが甘く、暴れだしたのだ。
 おかげで千蘭がまた奮闘する羽目になり、ライオンと犬が研究課に運ばれ、麻酔が効くまで付き合わされた。気付けば自分の勤務時間はとっくに過ぎ、日勤の者達が働いている。
 自分の課に戻れば、帰っても良いはずの班員が皆残っていた。藤堂が千蘭を待っていたせいで、下の者が帰るに帰れなかったのだ。
 日勤のみの課長は別として、赤い目をしながら報告書と格闘している部下を見、藤堂を睨みつけ、そのまま課長のところに報告に行った。千蘭が出した書類に課長は目を通すと、印を押した。
「最近は出動が多いな。今も行ってるぞ、3班」
「は? この時間に?」
 通常、太陽が出ている時間、滅多に出動は起こらない。
「お前たちが戻ってきて、引き継ぎが終わったのと同時にな。最近は日の出が遅いからだろう。といっても夜の者にとっては自殺行為みたいだな。ほとんど戦闘は無し。死体処理にあたっている」
「夜の者がそんなことをするでしょうか」
「俺達だって自殺くらいするだろう。向こうにもそんな奴がいるのかもしれません」
「・・・・・・」
 本当にそれだけだろうか、と疑問に思ったが、思考がそれ以上働かない。要するに眠いのだ。
 千蘭は一礼して、藤堂の元に向かった。
「処置、完了しました」
「ご苦労様」
「先に帰っていただいて良かったと申し上げたはずですが」
「こっちだって書類が溜まっているんだよ」
「せめて斎藤達は帰してよかったでしょう」
 藤堂はわざとらしく、花凛達を見た。
「ああ、帰っていいぞ」
「私も帰ります」
「お前、向こうの処置の報告は」
「向こうで作成して、先ほど課長に渡しました。早急にと思ったので。後で回ってくると思います。後の仕事は明日へ回します。それではお疲れさまでした」
 棒読みで一気にそう言い切ると、斎藤達が立ち去るのを見届けて、千蘭も自分のデスクを後にした。
「田辺」
 藤堂が班を出たところで走って追いかけてきた。千蘭は舌打ちした。
「お前、眠いか」
「はい、ものすごく。今ここで眠れるくらい」
 早口でつっけどんにそう言うと、藤堂は言葉に詰まった。
「何か?」
 あからさまに迷惑そうに千蘭が聞いた。
「・・・・・・うまいランチの店、あるんだけど」
「私、眠いと食べられないんです。今度出動が無かった翌日にでも行きましょう。花凛達や他の女の子も連れて」
 藤堂が若い女の子達にちょっかいを出しているのを言外に言うと、それでは、と鮮やかに挨拶し、藤堂が声もかけられない速さで千蘭は歩いた。
 女子更衣室に入ると、先に入っていた花凛がホットパンツをのろのろと脱いでいた。
 千蘭達は公務員だが、特殊2課だけは服装は自由だ。戦闘において各自の戦い方があるためである。特に花凛は体から発する光を武器とするため、なるべく露出の高い服を着ている。
「そんなにとろとろ着替えてたら、藤堂に襲われるよ」
 気配に気づいてなかったらしく、花凛はびくりと千蘭の方を向いた。
「ああ、副班長」
 花凛は年齢にそぐわない幼い表情で眠そうに笑った。本当だったら3時間前に帰宅できたはずだ。後で残業手当を請求するように藤堂に頼むが、徹夜、しかも出動後の3時間の残業はつらい。
「今日はごめんね、私が遅くなったばっかりにあんた達まで残業させて。どうせ、ばか班長がぐだぐだ言って帰れなかったんでしょ。先に帰れるよう、今度から電話いれるね。眠いでしょ」
「いいえ、違うんです」
 花凛は眠たそうな声で、それでも必死に言った。
「村上君達と反省してたんです」
「なんで? 今回は役目果たしたじゃない。誰も怪我してなかったし、花凛の能力を出す速度、前より増しているわよ」
「でも結局、獅子と犬、応援がくるまで押さえこめなかったでしょ。それで村上君、特に責任感じて、副班長に申し訳ないって。それで反省して皆残っていたんです」
 千蘭は驚いて、しみじみと花凛を見た。赤い目が眠いのか、潤んでいる。
「そこ、違うから。元々、私の押さえが甘かったからこうなったんでしょ。私の自業自得。あんた達が責任感じる必要ないでしょ」
「へこみます。少なくとも、班長や副班長を目指している人間にとって」
「目指してるの?」
 意外な発言に千蘭の語尾が妙な具合に上がった。
 藤堂の班―2班は6名で構成されている。
 まず班長である藤堂。何も能力は持たないが、その戦闘能力は夜の者数匹、同時に相手にできる強さを持っている。
 副班長の千蘭。重ねた経験の豊富さは役所内でも群を抜いており、それ故知識は豊富である。その上、本人も把握出来ないくらいの能力を保持しており、その力もとてつもなく強い。
 村上はこの班内で一番若い。座学であるが、現在の夜の者の知識をふんだんに蓄えており、勉強熱心だ。もちろん、この班の条件である夜の者への戦闘能力は高い。
 斎藤は対夜の者武器のエキスパートだ。実践はもちろん、メンテナンスにも精通しており、村上から知識を習得し、武器と夜の者との相性を常に研究している。
 本田は伝達係兼庶務係だ。状況把握能力は高く、指示が無くともどこに、何を伝えれば良いか冷静、的確に把握している。彼の作成する報告書は課内でもずば抜けて秀逸である。村上、斎藤には劣るが、実戦において自分の立ち回り方を分かっている。
 そして花凛。言わずとしれた能力者である。己の体から太陽と同じ成分をだすことができる。これを浴びた夜の者は怯み、時には死に至る。その力をコントロールするため、日々鍛錬しているし、ますます力は伸びている。
 千蘭からしてみれば、選りすぐりの良い部下だと思うし、私情を挟んで副班長に絡んでくる藤堂が班長で申し訳ないくらいだ。
 特に可愛がっている花凛からそんな班長、自分を目指しているという言葉が出ては驚きもする。
「なんでそんなに驚くんですか」
「驚くわよ。目指すってね、私達はそんないいものではないわよ。私は今の花凛のまま、花凛らしく成長して欲しいな。他の連中もね。班長や私みたいにひねくれてはダメよ」
 千蘭は笑ってそう言うと、花凛より早く着替えて、花凛の頭を軽く撫でて笑い、おやすみと言って、更衣室を出た。
 ようやく帰宅できる、と思っていたところで声をかけられた。
「ちいねえ」
 振り返ると花凛がいた。否、花凛と似ているが、こちらは事務職の女の子の格好である。
「メイ、花凛なら中よ」
 メイと呼ばれた女の子は、花凛と一卵性の双子の妹であり、本名は工藤明凛という。
 明凛は首を横に振ると、心配そうに更衣室を見た。
「最近、出動、多いんですか」
「うん、多い」
 明凛は無言で俯いた。姉を心配しているのだろう。明凛からしてみれば、出動の度に傷を作り、同じ家に住みながら昼夜逆転の生活をする姉が心配なのだ。
「大丈夫よ、メイ」
 花凛にしたように、明凛にも千蘭は頭を優しく撫でた。
「私と班長が花凛を守るから。絶対大丈夫。それに花凛自身も成長している」
「・・・・・・」
 数秒考えた後、明凛は何かを飲み込むように無理やり頷いた。
「眠いのにごめんなさい」
「花凛がまだ中にいるから、声をかけてあげなさい」
 おやすみ、と言って今度こそ千蘭は庁舎を出た。

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