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終末のカクテルコミュの"終末のカクテル" The Novel

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 小説版・"終末のカクテル"。
 カクテルの話をどうぞ。
 不定期連載。

コメント(2)

 それは小さなバー。
 どこにでもあるような佇まい。
 どこにでもあるような品揃え。
 なんの変哲もないショットバー。
 立ち寄りやすい場所にはあるけども、他に寄りやすい店は沢山ある。
 それでも不思議と、週末の夜には人がたくさん詰めかける。
 明かりも微かな薄暗くて狭い店内に、今夜も沢山の客。
 ぎゅう詰めの店内。
 常連達は自ら奥まったテーブルに陣取っている。
 マスターは気楽なもので、どれほど忙しかろうがお構いなし。
 マイペースそのものだ。
 つい先ほど、ツマミを買い足しにフラリと店から消えたまま戻らない。
 でも、この程度のことはいつものこと。
 残された客は苦笑してマスターの帰りを待つ。
 夜はそろそろ大台。
 時計も午前零時に向けて急ぎ足。
 長針が追い抜くか、それとも短針が逃げ切るか?
 カウベルが鳴る。
 客達の視線がドアに集まった。
 学生風の若い男。
 無人のカウンターを見て、すこし戸惑っている。
「やあ、こんばんは。マスターはちょっと席を外してるよ」
 サラリーマン風のワイシャツの男が和やかな調子で言った。
「あの、出直したほうが良いですか?」
 困ったように後ろ髪を掻く若者。
「なあに、すぐ戻ってくるよ。ほら、そこの席が空いてるから座りなよ」
 赤鼻の中年が促した。
 彼はおずおずとカウンターの末席に座った。
「はあい、いらっしゃぁい」
 ギャル風の女性が若者におしぼりを渡した。
 カウンター下のボックスから取り出したものだ。まだ熱々。
「ありがとうございます」
「あたしねぇ、別にホステスじゃないからサービス料はタダよぉ?」
「はあ」
 若者の生返事に彼女は楽しそうに笑った。
 勝手におしぼりサービスをするのが、常連の彼女の得意技だ。
 妙に手慣れているのはひょっとすると商売柄なのかもしれないが、その事に触れる者は誰もいない。
「キミは一人ぃ?」
「いえ、後から友達――いえ、彼女が来ます」
「ふぅん……別に、羨ましくなんか無いわよ?」
「動揺してる」
 ワイシャツの男がボソッと一言。
 即座に、無言で大量のピスタチオの殻が男を襲う。男は沈黙した。
「キミ、この店は初めて?」
「初めてです。知り合いに教えて貰って……あの、この店のお薦めカクテルはなんですか?」
「お薦め? うーん……チョーサンはどう思う?」
 チョーサンと呼ばれたのは、先の赤鼻の中年。
 くたびれた中間管理職を思わせる中肉中背の彼。
「この店は何でも美味しいよ。好きな物を飲めばいい。君は何が好きかね?」
「いえ、僕じゃなくて彼女に。あんまりお酒が強くない人だから……」
「そういうことか。そうだな、酒飲みの私にいわせれば……そういう時は『シャンディ・ガフ』あたりの軽いモノから始めると良い」
「シャンディ? なんですか、それは?」
「ビールにジンジャ・エールをね……あ、そうだ。前に、この店でシャンディ・ガフを頼んだ客がいてね。その時の話をしてもいいかい? マスターはあと十分くらい戻ってこないからさ……」
 そして、赤鼻の男は語り始める――


To be continued...


―――――――――――――――――――――

● シャンディ・ガフ ●
 ビールとジンジャ・エールを混ぜて作るカクテル。ビールの苦みを抑えつつ、ライトな喉越しと爽快感のある味わいが身上のカクテル。英国人が好んで飲むらしい。名前の由来は不明。

・作り方
 グラスに好みのビールを適量注ぎ、そこに好みのジンジャ・エールを適量注ぐ。強くステアすると炭酸が抜けてしまうので、ゆっくりと一度かき混ぜるだけで十分。配合比率はお好みで。こばると的オススメはビール:ジンジャエール=2:1。

・備考
 基本的に気軽なカクテルではあるものの、ビールの銘柄選びが難しいように思う。エビス等のコクの強いビールと合わせた方が良いのかもしれない。

―――――――――――――――――――――


(おまけ)

「お話の前に……チョーサンって?」
「この人ねぇ、元部長なのぉ。リストラされて部長さんからチョーサンになった」
「あー、そこ、人の話をちゃんと聞くように!」
"終末のカクテル" The Novel 1-2


 ここは小さなバー。
 すでに時は頃合い。
 カップル風の男女が、なにやら言い合いをしている。
「シャンディのほうが美味しいって」
「シャンディは甘いから。パナシェがいいわ」
「でも、この店のシャンディは美味しいからオススメだよ」
「ううん。いい。いらないって。しつこいよ?」
 カクテルの好みについて話しているようだが、傍目にはただの痴話喧嘩でしかない。
 この程度のじゃれ合いはお互いによい関係を維持するのに必要不可欠であるが、公共の場でする場合、率直に言ってただの近所迷惑である。
 マスターは心得た物で、一通り二人に言わせておきながら密かにカクテルを作る。
 泡の出る液体に、同じく泡の出る液体を二種類混ぜた。
 カニ宜しくぶくぶくやっているカップルには丁度良いのかもしれない。
 完成。
「どうぞ。本日の特製カクテルです」
 マスターが、二人に割ってはいるようにコリンズグラスを置く。
 中身は白い泡の帽子をかぶったダークアンバーの液体。
 口論は一時休戦。
 一触即発の危うい空気の中、まず女が口を付けた。
「あ……美味しい! ビールがベースで……パナシェでもシャンディでもないわね」
 女に笑顔が戻る。
 それを見て男の表情も徐々に和らいでいく。
 続けて、男もグラスに口を付ける。
「うん。ホントに美味しい。マスター、これは?」
「ビールに、ジンジャ・ビアとレモネードを混ぜてみました」
 ジンジャ・ビアとはショウガをソーダ水に漬けたもの。ピリッとした喉越しに、レモネードの酸味とビールの苦みが生きている。
「シャンディとパナシェの良いトコ取りだね。名前を付けなきゃ」
「名前は……本場に習ったらこれもパナシェでしょうし、シャンディでもありますね」
 マスターは、氷をアイスピックで砕きながら答えた。
「レモネードだけじゃないのにパナシェなの?」
「パナシェとはフランス語で混ぜるという意味だそうで。そして、そのフランスでは、レモネードを使ったパナシェも『シャンディ』と呼ぶようですね。いい加減な物です。でも、何を混ぜても、美味しければそれでいいんじゃないでしょうか?」
 笑顔のマスターに、二人も満面の微笑みを返した。


To be continued...

―――――――――――――――――――――

● パナシェ ●
 ビールに英国式レモネード(英国のレモネードは、日本のスプライトのような炭酸飲料)を混ぜて作る、シャンディと同じく、ビールの苦みを抑えたライトな飲み味のカクテル。パナシェとは、フランス語で『混ぜ合わせる』という意味。

・作り方
 ビールにレモネードを混ぜる。ステアしすぎると炭酸が抜けてしまうのでゆっくり一度かき混ぜるだけで十分。混合比率はお好みで。

・備考
 レモネード……といっても、各国でその実態が異なっているようで。
 アメリカでは、ごく標準的に無炭酸の甘いレモン水のことをレモネードと呼びますが、イギリスでは、スプライトにレモン汁を垂らしたような味わいだそうで。しかも、地域によっては炭酸飲料全般をレモネードと呼ぶところもあるそうな。コーラですらレモネードだったり。

―――――――――――――――――――――



(おまけ)

「ところで、マスター。さっきの特製パナシェはオゴリ?」
「そんなまさか。滅相もございません」
「あそう……」

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