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フェイト T. ハラオウンコミュの【SS】 なのはA`s After 1-3

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 1−2


 夕刻の近付きと共に、ラウンジには休憩を求める管理局員の姿がちらほらと増え始めていた。だが、広大な床面積に背の高い天井を擁するラウンジは、まだ賑わいの頂点には達していない、閑散とした状態である。

「息抜きには丁度良い具合かな」

 ラウンジの入り口に立ったユーノは、出で立ちを整えるように眼鏡の位置をを正すと、ゆっくりと足を踏み入れた。賑わい時には自らの発する声さえ掻き消されるラウンジに、彼の足音が木霊する。

“いつもの場所でね。 なのは”

 ユーノは片手で携帯端末を開き、なのはからのメッセージを再度確認する。彼らにとってのいつもの場所―――それは、ラウンジの一角にある、窓辺の席を意味していた。
 そのいつもの場所へ目を配ると、先に到着していたなのはとフェイトが席を並べて座っているのが見えた。彼女達はユーノに対して背を向けているため、彼の到着には気付いていない。

「おや……。フェイトが居るなんて、珍しい」

 なのはから誘いが掛かる場合、大抵はなのは一人でいる事が多い。彼女は本局帰りの時間潰しという名目で、しばしばユーノを呼び出しては顔を合わせていた。無限書庫に入り浸っているユーノにとって、なのはからの定期的な誘いは、時間感覚を取り戻す良い薬だった。

「やあ、なのは。フェイトも久し振りだね」

 隣り合って座り談笑していた二人は、揃って声の主に振り向いた。なのははいつも通りの底抜けな笑顔で。一方のフェイトは、ユーノが想像していた表情とはやや違い、どことなく心此処に在らずといった雰囲気を漂わせていた。

「ユーノ君は、今日もずっと無限書庫?」

「ああ。近々発表予定の論文の、参考資料を探していたんだ。朝から籠もっていたけど、結局見つからなかったよ」

 ユーノはテーブルを挟んで二人の前に座ると、大きく首を回した。一日の疲労を物語るように、コキコキと関節が鳴る。

「フェイトは新型デバイスの試験続きかな。順調かい?」

「……え。あ、うん。フェーズ2の試験は今日で終わり」

「ははは、大張り切りだね」

 久々に言葉を交わす二人を置いて、なのはが立ち上がった。

「飲み物のお代わり持ってくるね。ユーノ君は何がいい?」

「ありがとう。なのはに任せるよ」

「うー。ユーノ君はいつもそればっかりなの」

 冗談混じりに頬を膨らませると、なのはは自分とフェイトのグラスをトレーに乗せ、ラウンジの奥にあるビュッフェへと向かった。
 残された二人の会話は、そこで止まってしまう。フェイトは膝の上に両手を添えて、ユーノはテーブルに手を組んだまま。
 やはり少し様子がおかしいな―――。確かにフェイトは、なのはほど発する言葉は多くない。しかし今日のフェイトはそれにも増して、まるで蓋を閉ざした貝のようだった。

「どうかしたのかい?」

「え……。私?」

「変な詮索だったら、ごめん。だけど少し気になって」

 ユーノの問いに、フェイトは俯き加減の顔をさらに俯かせた。話すべき言葉を選んでいるのだろうか、やや落ち着き無く視線を動かしている。

「話したくなければ、いいよ。フェイトにはなのはが居るからね。聞くだけ野暮だったかな」

「…………」

 ここでフェイトが理由を話さずとも、ユーノは特に気を悪くしたりしないだろう。それは解っていた。
 一体どこから話せばいいのだろうか。彼女は思考を巡らせる。
 フェイトが抱えている、心に突き刺さった小さな棘。研究者たるユーノは、フェイトがどの様な切り口から話し始めても、それなりに適切な解釈をしてくれるだろう。しかし小さな棘は、簡単な切り口でさえ、フェイトに与えてはくれなかった。
 自分の中にあるのは、つかみ所のない不安。今のフェイトに、それを言葉に乗せて伝える事は出来なかった。気が付けば、現実に起こった結果をそのまま話し始めていた。

「じゃあ、ここ最近、模擬戦の結果が思わしくないのかい?」

「うん……」

 ユーノは腕を組み、うーんと唸った。
 模擬戦とは言え、シグナムを好敵手として捉えているフェイトが、手を抜くなどといった事はまず有り得ない。恐らくは、その時の限界に近い力で―――。
 その時の、限界。
 ユーノの頭に、閃くものがあった。

「リンカーコア、かな」

「……?」

 フェイトはユーノの言葉を今一度確かめるように、不思議そうな表情を浮かべた。

「ほえ?」

 丁度戻ってきたなのはは、二人の会話の内容がつかめず、やや困惑気味であった。グラスを並べ終えたなのはが着席したのを見計らい、ユーノはその先を続けた。

「魔導士なら当たり前だけど、二人はリンカーコアのことを知っているよね」

 当然、ユーノの予想通りの答えが返ってくる。

「じゃぁ、リンカーコアの性質や特質については、知っているかな?」

「……そこまで詳しくは」

「ユーノ君、なんだか学校の先生みたいだよ……」

 二人の反応は、先程とは正反対だった。クロノがこの場に居たならば、「管理局員として最低限の知識くらいは……」等と、小言の一つでも口にするだろう。

「あはは、ごめんごめん。じゃあ少し、リンカーコアの事について話そうか」

 ユーノは微笑し、組んでいた手を崩すと、手振りを交えてその次を続けた。

「リンカーコアは、術者の成長と共に、同じように成長していく魔力機関で……。ここでいう成長というのは、知識や技術的な成長だけじゃなく、年齢的な成長も含まれるんだ」

「じゃあ、私達のリンカーコアは、まだまだ子供ってことなの?」

「そうだね、そういう事になるかな。ただ、なのは達は潜在能力が高いから、子供とは言っても、既に大人顔負けの素養があるけどね」

 時空管理局が、なのはとフェイトの存在に気付いた、凡そ4年前。その時点で二人の魔力平均は約百五十万に達していた。現時点でその値は優に二百万を越え、魔力の制御能力及び変換効率も格段に向上している。

「なのはが言ったように、僕を含め、若年者のリンカーコアは未完成なんだ。生命体として二十歳前後で肉体や精神が成熟するように、リンカーコアもそれまではどんどん成長してゆくし、」

 ユーノは同じ体勢のまま、顔だけをフェイトに向け、その一言を強調した。

「何らかの原因で、能力を削がれたりもする」

 今回の原因はここにあるという、ユーノの確信めいた考察。能力を削がれるという言葉に、フェイトが敏感に反応した。

「ただ心配して欲しくないのは、魔法の能力が削がれる事自体は、別におかしな事ではないんだ。人の心が様々な要素で変化してゆくように、リンカーコアも様々な過程を経て完成してゆくからね。あくまで一時的なものだよ」

 誰も手を付けぬままになっていたテーブル上のグラスが、溶けて崩れた氷の音を響かせた。ユーノはグラスを手に取ると、中のレモンティーを一口、喉に流し込んだ。

「じゃあ今の私達の魔力が下がったとしても、それは一過性ってこと、なの?」

「病気みたいに、特に理由がなければ、そういう事になるね」

「やっぱりフェイトちゃん、考えすぎなの」

 無限書庫の司書として研究者生活を過ごすユーノの言葉に、まず間違いはないだろう。なのはもまた、自身も思い当たる事があったと、ユーノの考察に同意する。

「……考えすぎ、かな」

「うん、うん。にゃはは」

 膝の上にあるフェイトの手に、なのはが優しく手を添えた。小さいけれど、いつも通り暖かいなのはの手を、フェイトは少しだけ握り返す。
 胸の溜飲が下ったのか、フェイトの表情が和らいだ。年相応な、ごく普通の少女の笑顔。その様子につられて、なのはも笑顔を咲かせた。

「少しは悩みの手助けになったかな」

「ありがとう、ユーノ」

 少し顔を赤らめて礼を言うフェイトに、ユーノは「こういう所でしか役に立てないなぁ」と戯けた。

「ユーノ君ったら、ずっと無限書庫に籠もりきりだもん。クロノ君が言ってたよ?あいつは寝る時と食事の時以外、必ず無限書庫に居る引き籠もりだ、って」

「引き籠もりとは心外な……」

 久しく聞いていなかった「フェレットもどき」に代わる称号に、ユーノはがくっと頭を垂れた。
 話題は次へ次へと巡り。
 三人が雑談を続ける内に、ラウンジには人の姿が目立つようになった。時計の針は、既に六時半を打とうとしている。夕食の頃合いだった。

「もうこんな時間だ。二人は戻らなくて良いのかい?」

「あ……ほんとだ。私はそろそろ戻らないと、ごはんが。フェイトちゃんはどうする?」

「そうだね。一緒に戻ろう、なのは」

 フェイトの返事を合図に、三人はやわやわと帰り支度を始める。トレーにグラスを乗せるフェイトを、なのははちらりと横目で見ていた。優しい造形の横顔に、いつもの色が戻っている。
 うん、大丈夫。
 何時もと違う自分に、びっくりしちゃっただけだよね、フェイトちゃん。

「なのは?」

 側から漂うこそばゆい気配を感じ、フェイトはなのはに疑問符を投げ掛けた。なのはは特にそれに応えることなく、代わりにフェイトの手を引いた。

「またね!ユーノ君っ」

「わ、待ってなのは。トレーが……」

 危うくバランスを崩し掛け、フェイトは片手に持ったトレーを胸元へ引き寄せた。ユーノに別れを告げて歩き出すなのはに連れられたまま、フェイトは一度ユーノにに振り向くと、そのまま二人して人混みの中へ紛れ込んでいった。

「さてと、僕はもう一頑張りするかな」

 二人を見送り、ユーノは大きく背伸びをした。頭の中で、一時間ほど前まで続けていた作業内容を反芻する。そして―――

「……リンカーコア。暇を見つけて少し突っ込んで調べてみよう」

 作業予定の中へ、項目外の内容を一つ付け加えた。




Continued to 1-4...

コメント(3)

お褒めにあずかり光栄です( ゚∋゚)ゞ
一日中無限書庫で探し物ができるって・・・、すごい集中力ですね(´Д` )
ユーノの意外な活躍?が驚きでした( ´∀`)
フェイトの不調は今の所、リンカーコアの一時的な魔法の欠損みたいですが・・・真実は如何に(ノ∀`)
続きが気になります(*´ェ`*)

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