ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

THE・創作活動コミュのドイツ、無賃滞在 第1章 5

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 さて、ついにニコラス・ロイヤルの面接に行ってきた。前日に、ゆいこさんにさんざん相談した、持ってきた服の中で、最大限フォーマルっぽく見える服。って、全然私服なんだけども。はぁ、うまくいくかなぁ。いかなかったら、またニュース・ダイジェストと格闘だ。あとは直接乗り込むしかない。くそぅ、ドイツ語もっとやっとくんだった。
 色々考えながら時間を潰して、面接へ。この会社はハイデルが本店らしい。
 店は完全にハイデルの街並みに埋もれていた。入ると、完全日本人の世界。若い男性社員が、2階の面接室に案内してくれた。
 まだ日本が抜けきらない私は、背筋を必死に伸ばして、北川さん、という、店長が来るのを待った。5分は待っただろうか?彼が来る前に、さっきの男性社員が水を持って来てくれた。本当に暑い日で、これはまじでありがたかった。
 そして。
「どうも、はじめまして、ニコラス・ロイヤル・本店ハイデルベルク店の北川です。」
って言ったかどうかは全く覚えていないけども。もう一人、男がいた。この時自己紹介されたはずだが、何者か全く理解していなかった。後で聞いた話では、社長の丸澤氏、ということだった。
 ドイツに来てどれくらいか、とか、今後ドイツで長いこと働く気があるか、とか。接客経験に関しても聞かれたと思う。
「最初の3ヶ月はワーホリビザでの見習いって形だから、給料が月400で、本当に食べる分くらいしか出してあげられないんだけども。」
丸澤社長は言った。
「その後契約社員として残るつもりがあるなら、給料は倍の800に上がります。それでも多くはないけど、家は用意するし、光熱費もこっちが持つから。」
実際、これでもキオスクよりはましである。
「で、休みなんだけども、基本は最初の一ヵ月半は週休1.5日。一ヵ月半経って慣れてきたら、週休2日。契約社員になれば、最初の一年は20日くらいかな。ま、年齢にもよるけど。」
この、『年齢による』にはものすごくひっかかるものがあったが、あえてつっこまないでおいた。どうしても仕事が欲しかった。
 ちなみに、この面接では、北川さんはほとんど何も話さず、ずっと丸澤社長がしゃべりっぱなしだった。さんざん、
「うちの仕事はけっこうきついですよ。」
と念を押された。
 その日は、あと他に2,3人面接をし、今週末―その日は月曜か火曜辺りだったから、3,4日で結果が来る、ということだった。

 面接から帰ると、キッチンではジャックとケイトさんが何かをしていた。私が帰ってきたのを見ると、二人とも過剰に驚いていた。怪しい。
 この頃になると、ジャックは逆に、私を恐れるようになった。私がいるときはキッチンに入りたがらなくなるのだ。何もしてないですよ、念のため。

「金曜の夕方になっても電話が来なかったら、こっちから電話した方がいいよ。」
翌日、面接のことを伝えると、ゆいこさんは言った。
「けっこうあそこ、適当みたいだからさ。私が履歴書出した時もなんの連絡もなかったし。」
「分かった。5時くらいまで待った方がいいかな?」
「いや、4時。」
その週の日曜は、私の誕生日だった。落ちても受かっても、週末は絶対にフランクフルトにはいない。そう決心していた。ていうよりも、週末にひそかに引っ越そうと思っていた。イザベラがついにこう言い出したからだ。
「今月の家賃、払って欲しいんだけど。」
くどいようですが、一日5時間、週5日働いている、こっちは。時給8ユーロと仮定しても。8ユーロ×5時間×週5×4週間=800ユーロ。しかも来る前の話では月100ユーロのはずでは?しかしイザベラは家賃として150ユーロ払えという。
「フランクフルトでは150ユーロはものすごく安いほうなのよ。普通300はするわよ。それにうちはごはんもついてるし、電気代・水道代込みだし、インターネットも使い放題だし。」
それでも働いてる分の方がどう考えても多い。死んでも払いたくない。
 それで、
「じゃあ、今週末に払うから、それまで待って。」
と返事したのである。今週末に逃げることを前提にして。
 加えて、この最悪の状況から、私は日本に置いてきたオトコが恋しくなり、復讐心も手伝って、ジャック宅の家の電話からそのオトコの携帯に、プリペイドカードを使うでもなく、0033とかそんなよーな番号を最初にダイヤルするでなく、電話をかけまくったのだ。この請求書が届く前に、さっさと遠くに逃げるのが吉。ハイデルは遠いとは言えないけどさ。
 でも実際、イザベラにしてみたら、この家賃の請求も、家賃を50ユーロ引き上げたのも、まったく妥当なことなのだ。なぜって、キオスクの売り上げは彼女のもとに全く入らないから。
 でも、これにものすごい反感を感じている人がもう一人いた。サチコさんだ。
「150ってのは納得いかなくない?学校行って、他でバイトして、かなりそれでもきついのに、キオスク手伝ってるのに150?」
ちなみに、この家には、ヘレンというオランダ人も住んでいた。彼女は社会人で、キオスクを手伝う時間もなければ、手伝う気も全くない、という人物で、私は数えるほども見ていない。
 そのヘレンは、そんな調子でキオスクを全く手伝っていないし、個室に住んでる(私とサチコさんは同室)のに、同じく家賃は150なのである。これには、サチコさんも納得するはずがなかった。
「ねぇ、ヘレンも150って本当なの?ありえなくない?」
ゆいこさんの話だと、ジャック夫妻は日本人以外の人種には、強い態度に出れないのだそうだ。最悪じゃん。

 結果待ちをしている間、ちゃくちゃくと、そして密かに、荷造りをすることにした。ニコラスがだめだった時のことも考え、就活も行うことにする。
 そんなわけで、フランクにあるJALパックのカウンターにも行ってみた。
「あのぅ、今私ワーホリなんですけども、あ、お忙しいとこすみません、ワーホリでもバイトか何か、募集してないでしょうか?」
日本人の、気の強そうなおばさんが出てきた。
「うーん、うちでは今募集してないんだけど、同じJALの派遣で、空港なら募集してるかもしれないから、良かったらここに履歴書送ってみて。」
と言って、名刺をくれた。
 そして、どういう話の流れだったか全く覚えていないが、今どこに住んでいるか、という話になった。
「まぁ今はキオスクの人のとこにお世話になってるわけですけども。」
「え?ホームステイ?」
「いえ、正確にはそうではなくて。」
それで、今の状況を一から十まで説明することになってしまった。
「ええ!!??それはねー、ぼったくりですよ、ぼったくり!!絶っ対出た方がいい!!すぐにでも出た方がいい!!ちょっと待ってね。」
そのおばさんはフランクの地図を持ってきた。
「この地図はまぁ、三越のやつなんだけどね。」
地図を広げ、丸をつけた。
「まずここに日本食レストランがあるでしょ。あと、ここにも。ここにも。」
そんな調子でどんどん丸を書き込んでいく。
「レストランは仕事、大変だろうけども、だいたいいつも募集してるから。」
「ありがとうございます!でも、実は今一ヶ所結果待ちで。」
と私は言った。ニコラスの仕事内容や給料のことは特に言わなかった。言ってたら、ここから先の将来、大きく変わっていたと思う。おばさんは力強くうなずき、言った。
「もし、色々試してもどうにもならなかったら、言ってね。私、個人的に何とかするから。本当にそんなとこいない方がいい!!」
なんてすごい人だ。感謝してもし足りない。それにしてもここまで『ぼったくり』を強調されるとは。
 まだ状況が動いたわけではなかったけども、このおばさんのおかげで何となく力が湧いた。というか。崖っぷちだった状況に、命綱をつけてくれた、というか。

「就活はさ、ニコラスがだめだって分かってからの方がいいよ。」
キオスクにて。早朝、特に客も来ない時間。チョコクロワッサンとコーヒーでだらだらしながら、ゆいこさんは言った。ジャックがいなければ結構快適なんだよね、キオスク。
「やっぱそうかなぁ?なんとなくいてもたってもいられない感じなんだけど。」
「うん、でも、レストランだと、『じゃ、明日から来てください』ってこともあるよ。それでニコラス決まっちゃったら、まずいじゃん。」
そんなわけで、就活は一時休止。ドイツ語もやる気出ないし。
 ゆいこさんと私の趣味は、パニーニ、という名称の、世界のサッカー選手の写真シールを集めることになった。このパニーニ、ちゃんとコレクション用の本まである。もうW杯は終わり。キオスクに大量のパニーニと、本が残っていた。
「もう誰も買わないよ、こんなの。」
ということで、いまだに店頭に出ているパニーニを、ジャックの目を盗んで開封しまくる、という暴挙に出始めたのだ。
 パニーニは1パック5枚入りで、外からは当然、誰のシールが入っているか分からない。そこがおもしろい。
「絶対、玉田当てる!!あと中田!あとベッカム!」
「私はデル・ピエロさんだな。」
一日一体何パック開けたか分からない。一人につき10パック以上は開けてたと思う。
「給料もらってないんだから、せめてこれくらいやらせろっつーの!!」
二人とも全く罪悪感などは感じていなかった。ただ、開けすぎると後で本に貼るのが大変。

 それから数日は、ジャックとは冷戦状態で口も聞かず。イザベラとは時間的にすれ違いの生活。
 それがたまたま昼食時にイザベラと会った。キッチンにて。
「キオスクを買いたいって人から連絡があった?」
ゆいこさんがイザベラに聞いた。
 この時の私のドイツ語力は相当しょぼいものだったが、なぜかイザベラのドイツ語はよく理解できた。ゆいこさんはカタカナドイツ語だから不思議ではなかったが。
「うん、2件来た。」
「買ってくれそう?」
「まだ分かんない。」
キオスクを売る??私は驚き、耳を疑った。
「ジャックは秋頃に日本に引っ越したいんだよ。キオスク売った金で。」
「え?永久に日本に引っ越すってこと??」
「英語教師やりたいらしいんだけどねー。ま、無理だと思うけど。だから今イザさん、就活もしてるんだよ。」
イザベラが就活をしてる??夫は日本に行くけど、彼女は残るってこと??
「妻としてよく何も言わないなぁ。」
「イザさんカレシいるからかまわないんだよ。」
「はあ???」
どこまでもネタが尽きない家族だ。夫は日本人の若い娘にうつつを抜かし、妻にはちゃんとしたカレシがいる。
「前にジャックが日本に行ってた時は、カレシがキオスク手伝いに来てたよ。背が高くて優しいオトナのオトコだよ。」
イザベラにはカレシがいるから、ジャックがやりたい放題やっても特にストレスがないのだそうだ。日本に行きたいと言い出したのは、逆に願ったり叶ったりなわけである。ジャックなんてさっさと見捨ててフランスの実家に帰ればいいのにと思ってたが、そんなわけでフランクに残っていたのだ。納得。アレックスよくグレないなぁ。

「でもさ、なんで英語教師したいの、ジャックは?」
「そこなんだよ!!!」
ゆいこさんはものすごいいきおいでこの質問にのってきた。
「フランス人なんだからフランス語教えればいいと思うでしょ?それがねー、あの人、大学教授かなんかの(よく覚えてない)知り合いがいてねー。『日本人はまず英語を勉強するから、英語を教えなさい』ってその人が言ったらしいんだよ。それから、『英語を教えに日本に行く』って言い出してねー。」
もう一度言うが、ジャックの英語は大したもんではない。多分イギリス旅行は問題なくできるだろうが、教えるなんて、とんでもない。満60歳、これから英語を勉強して、英語の教え方を勉強して。でもNOVAとかEAONとか、ネイティブじゃないと雇ってくれないと思うけど。
 と、さんざんゆいこさんと批判しまくった。
「多分、キャバクラのお兄さんにつかまって、キャバ嬢にきゃーきゃー言われていい気になって、さんざんぼられて帰ってくるよ。まぁがんばって欲しいとは思うけどね。」
ゆいこさん、それはがんばって欲しいと本気で思ってるコメントではない(笑)。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

THE・創作活動 更新情報

THE・創作活動のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。