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THE・創作活動コミュのドイツ、無賃滞在 第1章 2

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フランクフルトのエロじじい・2

 翌週、シフト交代で、私がジャックと午前シフト、サチコさんが午後シフト、という形になった。午前シフトはゆいこさんも一緒である。
 これが本気でやばい。開店朝4時。よって、私は朝3時にジャックにたたき起こされた。まじ、眠い。しかも朝は夏とはいえ、肌寒い。よたよたと小型バンに乗り込み、ジャック、ゆいこさんと共にキオスクへ。
 キオスクでは、扇風機がカタカタと音を立てて我々を待っていた。夜中、誰もいないキオスクに風を送り続けていた扇風機。気がついてはいたけど、このキオスク、そして家、扇風機が異様に多い。
「イザベラねー、なぜか扇風機が好きなんだよねー。」
ゆいこさんは言った。
「夜中とかさ、逆に電気の熱で暑くなるっつーのに、扇風機つけっぱなしで帰るんだよね。しかもこの人たち、安物買いの銭失いってヤツでさ。安いやつ買ってはすぐ壊れるから、新しいの買いなおさなきゃいけなくなるの。これも新しいやつだし。」
ここの家の扇風機はなんのために製造されたのだろう。夜に誰もいない空間に風を送り、壊れ…。

 それはそうと、寝ぼけたままに開店準備をしていると、ぼちぼち客が来始めた。主に、タクシーの運転手。
 寝ぼけてたうちは気にならなかったが、というか、気がつかなかったが、ジャックは妙にムダなボディタッチが多い。私の後ろを通る時とか。一応、触れなくても通れる程度にはスペース空けてるはずですが?それとも、フランス人もしくはドイツ人的には、触って通る方が自然なのか?
 基本的には、私は無意味に触られるのが嫌いである。ハワイで、じいさんの友達ができ、最初は普通な距離感を保っていたのが、手とか肩とかやたらと触ってくるようになり、「いや、きっと娘が恋しいんだ、じいちゃんだし。」と自分に言い聞かせていると、
「俺と付き合わないか?」
とか言い出してきやがった、という一件以来、ムダに多いボディタッチ恐怖症なんである。(大げさに言ってるね。好みのタイプなら大歓迎だしね。)
 そのムダなボディタッチを私があからさまに避けるようになった。だって、なんか腰の方に下がってきてない?勘違いですか?私勘違い多い人ですけども。でもさ、でもさ。嫌なものは嫌というのが欧米文化じゃないですか?という結論を出したわけである。
 そして、それにともない、ジャックの態度が急変した。なんか感じ悪くなった。まだ慣れないキオスクの仕事。それを、もごもごとした発音のドイツ語で命令を下す。は?何言ってんの?聞き返すと、声のボリュームは上がるけど、やっぱりもごもごした不機嫌声。なんだ、このオヤジ。
 対照的に、ボディタッチをなんてことなく受け止めるケイトさんは、大のお気に入り。
「ケイトしゃ〜ん!」
ってな感じである。ケイトさんもアパート探しを手伝ってもらってるから、邪険にはできない様子。

「あんたさ、知り合いにアパート持ってる人いるじゃん。その人のとこに連れてってあげたら?」
ある日、ゆいこさんが聞いたそうな。その知り合いとは、ジャックと同じくらいの年齢のドイツ人で、現在フリー。彼女募集中。
「いや!絶っ対だめだ!!連れてったりなんかしてみろ!!セックスするに決まってるじゃないか!!」
ゆいこさんは呆れた。
「思春期の中学生じゃないんだからさぁ。でも即そっちに頭が行くってことは、自分がしたいってことなのかな?」
それについても聞いたそうだ。
「何言ってるんだ!!俺は彼女を純粋に愛してるんだ!!!!」
妻のイザベラはどーすんだよ。

 そして、学校に連れて行ってくれることになっていた日の前日。戦闘がついに勃発した。
「明日行くかどうか分からない。」
とかジャックが言い出したのである。
「は?それじゃ明日の予定が立てられないじゃん。」
ジャックの再三の自分勝手ぶりに、私もついにキレた。
「あのさ、私、ちゃんとした仕事探したいんだよ。学校もあんた連れてく気ないんなら、自分で探すよ。だから言えよ、行くのか行かないのか!」
ジャックはしょっちゅうキレているが(イタリア人客が来た時とか)、この時もキレて言った。
「だから明日にならないと分からない!!」
おそらく、明日その時にならないと、ケイトさんが来るか分からないってことだろう。
 そんなわけで、ゆいこさんはこっちの味方についた。
「あんた先週は連れてくって言ったんでしょ?いきなり行くか行かないか分かんないってのはないんじゃないの?彼女予定が立てられなくて困ってるでしょ。」
ジャックはインターネットの世界に引きこもるという手段で対抗してきた。

 それ以来、たびたび小衝突が起きるようになった。私が朝なかなか起きないこと(仕方ないじゃんさ、低血圧だもん)、私とゆいこさんがイタリア人選手の写真を見てキャーキャー騒いでいること、イタリア人客を見てキャーキャー騒いでいること。
「あの人はさ、自分がキャーキャー言われないのが気に入らないんだよ。」
ジャック不在のキオスクで、ゆいこさんは語り始めた。
「だいたいさ、日本語勉強してるのも、そのためだもん。フランス人は結構ドライだから、フランス語読み書きしても『別に』って感じなのね。でも、日本人はさ、日本語できるガイジンいたら、『すごぉーい!!』とか言うじゃん?漢字なんて書こうもんなら、黄色い声で拍手しちゃったりするじゃん?それが目当てなわけよ、あの人は。」

 しかし。確か前に聞いた話では。
「日本語お始めたのは、娘が死んで悲しかったから、何か始めなければと思いました。スペイン語はフランス語と似ているので、あまり楽しいではなかった。それで日本語お
始めました。」
12,3年前に9歳だった娘が死んだ、ということだった。
「だから、アカネさんも、ナオコさんも、娘みたいです。みなさんもう大人なのは分かってますけど、娘みたいです。感じます。」

「ああ、それもねー、違うんだよ!娘が死んだのは、イザベラが運転中に事故で死んじゃったんだけど、その時は本当に自分を責めて、アル中みたいになっちゃったらしくてね。キオスクの酒もそのまま飲んでたり。イザベラも精神安定剤が必要な状態だったんだけど、今も飲んでるけど、『本当に頼むから、元のあんたに戻って』って言って、何とか立ち直らせたらしいんだよ。で、逆に今は、イザベラが『ドイツテレコムに振り込む金がない』とか言い出すと、『誰のせいで娘は死んだんだ!』とか言ってねー。」
は?娘の話を聞いた時、私かなり同情したんですけど。
「アレックスって息子が一階に住んでるんだけど、会った?そのアレックスをどっか引越しさせて、そこの部屋を誰かに貸したら、600ユーロは取れるだろ!とか言うんだよ。アレックスまだ学生で金ないのにさー。」
だからイザベラは夫に強い態度を取れないのだそうだ。てゆーかアレックスをもっと大事にしてやれよ、息子だろ。
 ちなみに、こんだけ冷たくあしらわれているのに、アレックスはグレず。それどころか、父の機嫌を取るのだそうだ。W杯シーズン、FIFAの関係局でバイトをしていて、そこで父のために『NAKAMURA』と書かれたユニフォーム型ケータイケースをもらってきてくれたりする。

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