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お下書房コミュの恋愛4日目 恋するサボテン野郎

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凍てついた昨晩のこと、
寒すぎて布団から出られないまま
俺はこの日記を更新していた。

急に部屋の施錠した扉がガタガタと震えた。
心臓が止まるかと思った。

恐る恐る扉に近づいて、
「なめんな、誰だ」
と問い掛けたが返事はない。

首をかしげて舌打ちし、
また布団に戻ろうとしたらまた扉が震えた。

俺は扉に叫んだ。
「いい加減に汁!ヤンさんだろ!?」
すると扉の向こうでぷっ、クスクスという笑い声。
やはり。
扉を開けた。
そこにはやはりヤンさんがいた。

ただ以前とはだいぶ雰囲気も違う。
「帰ったで」
そう言うと彼はズカズカ部屋に入ってきた。

何で違和感を感じたかというと、
ヤンさんのふっくらとした餅のような顔は変わらないが、
頭が丸刈りになっていたからである。

サボテンのようになった彼は部屋に座りこみ、
「あー外さぶっ、」
「おめー何やってきたんだよ。そんな頭して」
俺は彼にこの一週間の不在の理由について尋ねた。

彼はニヤリと笑って頭をさすり、
「寺や、寺で修業してきたんや!」
と言った。

俺は驚いて、
「寺ぁ!?何しにだよ?」
と答えた。

ヤンさんはあぐらをかきながら、
「漏れ、人を好きになってどーしたらええかわからへん。
片思いって辛いやんかー?
だから修業して心身共に鍛えよ思てな」
と言ってやはり頭をさすった。

「そうか、たいしたもんだよヤンさん!
で、効果あったか!?」
俺はヤンさんの頭をさすりながら言った。
やはり五輪刈りの頭は触ってて気持ちがいい。

「追い出されてもうてん」
ヤンさんは頬を掻いて言った。

「はぁ!?何やってんの?」
彼の頭をさする手を止め、
俺は目を丸くした。

ヤンさんは堂々とした顔つきで、
「寺に芸者呼んで遊んでたら、
住職にバレて叩き出されてもーた」
と自慢げに言った。

「がははは、さすがヤンさん!」
そこまで体を張ったネタを言われると俺も嬉しくなって、
彼の頭をぺてぃぺてぃ叩いた。

恋患い(こいわずらい)という言葉があるが、
まさにヤンさんがそれであった。

食べるものもたいして食べられず、
寝ても覚めても初めて好きになった人のことばかり
考えていたそうだ。

小さな心配で胸が張り裂けそうになる。
アタックする勇気も出ない。
考えすぎて彼は疲弊していった。

このままではいけないと思った彼は、
一週間の休暇を取って
田舎の寺に修業に出ることを決意した。

寺側もヤンさんを快く受け入れた。

頭を丸刈りにして、
彼の修業が始まった。

しかし最初から雲行きは怪しかった。

雑念や煩悩を捨てるために座禅を組む修業。
雑念や煩悩だけで生きている彼がやり通せるはずがない。

「喝っ!」

肩を木の板で叩かれた彼は、
「痛っ!何がカツや!」
と言って坊さんに飛び掛かった。

朝早く起きて寺を掃除する。
衛生感覚の麻痺したヤンさんが
まともに掃除するわけがない。

彼は雑巾で床を少しぺろんって拭いて住職の元に行き、
「終わったで」
と言う。

住職が確認しに行くと少しも床が濡れていない。
やり直しの指示。

少しぺろんと拭く。
「終わったで」
やり直し。

朝からこんな調子だった。

そのあともヤンさんは、
その寺に雇われていたアフロの俄次郎という
使用人を連れて
寺から降りてキャバレーに繰り出したり、
風呂で他の修業僧達にいきなり
冷水をかけて喧嘩したりした。

寺側もヤンさんの扱いには
ほとほと困っていたようであった。

修業を始めて一週間後の最後の夜、
彼は寺に芸者を呼んだ。

最近は宅配芸者なんてのがあるらしい。
彼は修業僧や俄次郎を一堂に集め、
芸者と酒を交わす。

そのうち大野球拳大会が始まった。

♪やあきゅ〜う〜ぅすぅるなら
♪こ〜ゆ〜具合にしやしゃんせ
♪アウトォ!?セーフゥ!?
♪あ、ヨヨイのヨイ!!

住職はあまりの騒がしさに目を覚ました。
そして声のする部屋の方に向かうと、
彼はあまりの光景に一瞬言葉が出なかった。

ヤンさんも俄次郎も修業僧達もすっぱだかになって踊る。
芸者の帯を目をランランに輝かせて引っ張るヤンさん。

「あーれー」
「まだぁ、まだや!こんなんじゃ、
漏れの痴的好奇心は満たされへんわ!」

住職の怒鳴り声。
はっとして静まる場内。
かくしてヤンさんは出発の朝を待たずして
寺を追い出されたというわけだ。

「いやー、むっちゃ寒かったで!
近くに基本的に何もないし。死んでまうわ、あんなん!」
ヤンさんは語り終えて身震いをした。

寒さに震えて朝を待ち、
始発でこっちに帰ってきてそのまま職場に向かい、
少し自分の部屋で寝て俺の部屋にやってきたわけだ。

何にせよヤンさんが戻ってきたのは嬉しい。
勝手に消えたのは腹立たしいが、
そんなことを彼に言っても聞く耳は持たないだろう。
そういう奴だ。

しかし俺はヤンさんが根本的な問題から
目をそらしていることに気付いた。

「ヤンさん・・・修業はいいが、
好きな人にどうするか決めたのか?」
俺は真剣な目で彼に聞いた。

彼が他の人を好きになることに
嫉妬心を感じなかったわけではない。

しかし恋の為に修業する決意さえするひたむきな彼の姿に、
応援してやりたいと思うのも事実であった。

ヤンさんも目をギラリとさせて身を乗り出した。
「修業してようやく決めたわ。漏れ行くで!」
そう言って彼は立ち上がり、
俺の部屋の窓を開けて
「やったるでー!!」
と叫んだ。

俺も立ち上がり、
ヤンさんの隣に立った。
彼の頭をひっぱたく。

「近所迷惑だろ馬鹿が」

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