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お下書房コミュの第三工場 俺たちキャリパン!

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初日こそクタクタに疲れはしたものの、
慣れというのは恐いもので数日もすると、
夕方から朝までという不規則な労働時間と
気の遠くなるような単調な作業も
さほど苦にならなくなってきた。

俺はこの仕事で、
心を無にして働くということを学んだような気がする。

色々なパンの製造過程に携わった。
パン生地の素を機械にぶちこむ作業。
パンにのっけたり挟んだりする果物の皮をむく作業。
そしてパンを袋やケースに詰める作業。
最後に完成品が焦げてないかなどの検品作業など。

工場では大量生産のために
すべてベルトコンベアーによる流れ作業が基本だ。
パンを作る上でのすべての過程を
俺は数日で経験したと言える。

イギー、ダイチャソ、ユッケ君も
色々な現場に飛ばされているようだった。
彼らとは滅多に同じ現場に入ることはなくなったが、
俺はパン製造に携わることに充実感を感じはじめていたので、
さほど淋しさを感じることもなかった。

そしてそれぞれがパン製造の経験を積んでいった。

ある日、仕事前に俺たち四人で更衣室で
ユニフォームに着替えていると、
あの角刈り人事兄さんがやってきた。

「あのー、上の者があなたたちに
会いたいと言ってるんですけど・・・」

怯えたように言う彼の言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
一体どういうつもりなのだろう。

しかし断る理由もないので
俺たちは人事兄さんについて人事課に向かうことにした。

エレベーターを昇り、
俺たちは一人一人各部屋の前に立たされた。

ノックして「どうぞ」の声。
俺はドアを両手で開け、「失礼します」と言って入室する。
部屋には三人の面接官がいる。
向かって真ん中と左はおっさん、
右はおばちゃんだ。
三人ともやはりユニフォームを着ている。

真ん中のおっさんは人がよさそうだが、左は少し恐そうだ。
おばちゃんは何かもじもじしている。

俺は椅子の横まで進み、
「グレーテルと申します。よろしくお願いします」
と言ってお辞儀した。

真ん中おっさん「よろしく。では座って」

俺「はい、失礼いたします」

真ん中おっさん「緊張しないでいいですよ。
いつもの自分で」

俺「はい」

真ん中おっさん「では最初にこのパン工場で
働こうと思った動機などあれば」

俺「はい。えー、私はおいしいパンの製造に携わることで、
そのパンを食べる人々に幸せをかんじていただきたく、
このパン工場で働こうと思いました」

左おっさん「ありきたりだなー、オイ」

やはり。
左のおっさんが圧迫担当だ。
俺の反応を見ているのだろう。
俺は思わず苦笑いしてしまった。

真ん中のおっさん
「けっこうですね。何か具体的に話していただけますか」

俺「はい、私は子供の頃から御社のパンを好んで買いました。
とてもおいしく、
将来は自分もこのようなパンの製造に
携わりたいと思いました」

左「別にうちのパンじゃなくてもいーじゃねーかよ」

俺「いえ、たとえばそちらの茶わん蒸しパンという
ロングセラー商品、私はそれが大好きです。
他にもそちらのたまごピザパンなど、
私が大好きなパンは御社の製品ばかりでした。
同じパン業界で働くならば、
私が子供の頃から愛したパンの多くある
パン工場で働きたいと願っておりました」

左おっさん「ふーん・・・」

真ん中おっさん「うちのパンが好きなのはありがたいです。
ところでパンとごはんの違いは何だと思いますか」

俺「パンは西洋の主食、
ごはんは日本やアジアの主食というような
分け方もできるとは思います。
しかし私はそのような見方は
無意味になってくると考えております」

面接官一同「ほう」

俺「我が国を含め、国際化によって
多様な食文化を世界は共有するようになります。
私たち自身でさえ、日本人だからごはんではなく、
パンやラーメン、パスタなどを食べます。
つまり日常生活のレベルにおいてでさえ主食がパン、
ごはんという枠付けはもはやできません。
これは国際化を迎えた各国でも同じです。
パンが主食とされてきた西洋の国さえ、
ごはんやラーメンを食べるようになっています。
食生活は世界レベルで多元化していると私は考えます」

右のおばちゃん「スケールが大きい話ですね。
では食生活が多元化する中での
パンの強みは何だと思いますか」

俺「はい・・・それは柔軟性だと思います。」

右おばちゃん「柔軟性、ですか?」

俺「はい、パンはまず手軽に持ち運べ、食べられます。
おやつとしても、食事としてもです。
麺類やごはんをおやつに
考えることはできなくはないにしても、
その手軽さにおいてパンにはかないません。
それから味に対する適応力。
甘くもできますし、しょっぱくもできます。
一方、麺類やごはんにはそれができません。
そういった柔軟性がパンの強みです」

真ん中おっさん「なるほど。わかりました、以上です。
お疲れさまでした」

俺「ありがとうございました」

部屋を出ると一気に疲れが出た。
何だったんだ今の面接は。
俺を試してどうするつもりだ。

そして俺は人事兄さんに人事課での面接は
終わりだと告げられ、いつもの四人でまた現場に向かった。

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