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クトゥルー神話創作小説同盟コミュのアーティファクト・テーマ「剣と迷宮」

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 天馬山で大規模な地滑りが発生したのは三日前のことだった。
 付近には民家も無く、ふだん人が立ち入るような場所でもなかったため被害者はいなかった。
 市役所の人が現地を検分したところ、崩れた土砂の中から土器の破片のようなものがいくつか発見された。そこで地元の大学の考古学教授・桑山栄三郎に調査が依頼された。
 桑山教授が準備を進めていると、中央の国立大学から彼のもとへ電話があった。
「君がやるのは予備調査だけでいい。何かあったらすぐこちらに報告したまえ」
 相手は考古学会では有力者である学者だった。「予備調査だけだぞ」そう何度も念を押された。
 手柄を横取りする気だな、そう思って桑山教授は腹を立てた。こっちが三流大学だと思ってなめていやがる、と。
 何があっても知らせてなどやるものか。もし大発見があれば、必ず自分の名で発表する。マスコミに公表してしまえばこっちのものだからな。
 彼はそんな決意を胸に現場へ向かった。助手として院生の竹見京果と一ノ瀬充を連れて行った。


 一行は一ノ瀬の運転するハイエースで現場に到着した。
 落ち合った市役所の防災課員は、とくに関心もない様子で発見した土器片を引き渡すと、また地滑りの兆候があったらすぐ避難するようにと注意を与え、そそくさと帰っていった。
「縄文後期のもののようですね」
 土器片を調べて竹見京果が言った。
「うむ、べつに珍しいものでもないな」と、教授はつまらなそうに言った。
 三人は、手分けして周辺をくわしく調査することにした。
 やがて、倒れた大木がある辺りを調べていた一ノ瀬が教授を呼んだ。
「見てください。穴があるんです」
 太りぎみの体でよたよたと斜面を登ってきた桑山に、一ノ瀬が見つけた穴を指差した。
「何だ君、動物の巣穴じゃないのかね」
「いやでも、奥までずっとつづいてますよ。中は広くなってるみたいだし」
 竹見が持ってきた懐中電灯で内部を照らした。
 入口は直径三十センチほどの穴だが、奥は洞窟のような広い空間だった。それも床や壁は平らにならされていて、人の手でつくられた通路のように見えた。
「ううむ、これは……、ひょっとすると大発見かもしれんぞ」
「古墳か何かでしょうか?」
「入ってみなけりゃわからんよ。入口を大きくしたまえ」
 一ノ瀬が穴の周囲をスコップで掘り崩すと、すぐに人が通れる大きさになった。
 通路はずっと奥までつづいていた。
 教授と二人の助手は、LEDライト付のヘルメットをかぶって地中の通路へと踏み込んでいった。


「床も天井も頑丈そうで、これなら崩れる心配はなさそうだな」暗い通路を進みながら桑山教授は言った。
「しかし、どこまでつづいてるんでしょうか……」助手の一ノ瀬が言った。
 通路は曲がりくねりながら、どこまでもつづくようだった。
「君、あとで迷わんように道を憶えておいてくれよ」
「ええ、今のところ一本道ですから、迷いはしないでしょう」
 一行がさらにしばらく進むと、正方形の部屋に出た。
 奥の床に長方形の穴と、小さな机のような物があった。
 三人は近づいてライトで穴の中を照らした。
「こ、これは……!?」
「……ミイラ……ですね」
 それは、ちょうど墓穴に横たわるような形で安置された太古の屍体だった。ほとんど骨格に最小限の皮膚が貼りついているだけの状態で、ボロ布のようなものをまとっていた。そしてその屍の胸には、黒い剣が突き刺さっているのだった。
「この剣、副葬品でしょうか」と竹見。
「いや、胸に突き刺さってるように見えるけど」デジカメで撮影しながら一ノ瀬が言った。
「そうね。それに材質も、青銅とも違う黒い未知の金属のよう」
「ふむ、妙な屍体だな。高貴な者の墓でもなさそうだし。ここで殺されて、そのまま放置されたのか」と教授が考えを述べた。
「こっちには祭壇のようなものがあります」一ノ瀬がライトでテーブル状の石を照らして言った。その上には、剣と同じ黒い金属らしき材質の円盤が置かれていた。「あれは鏡かな」
「剣に鏡か、あと勾玉があれば三種の神器がそろってしまうな」
「これ、鏡とすれば凹面鏡ですね。よく見ると表面が曲面になってます。まるで盃のよう」竹見が近づいて言った。
「盃……、まさか聖杯ってことはなでしょうね」
「何を言っとるんだ君。じゃあこっちの剣はエクスカリバーか何かかね。いい加減なことは言わんでよろしい」と教授は一ノ瀬を咎めた。
「でも、キリストの墓が東北にあるって説もありますけど」
「君。オカルトはいかんよ。オカルトなど信じてると知れたら出世できんからね」
「はあ」
「ともかく、一度もどって中央に報告した方がいいんじゃないでしょうか」と竹見が提案した。
「ふん、報告などあとでいい。私が発見したのだからな。もっとよく調べてみよう。一ノ瀬君、その剣を取ってみたまえ」
「えっ、あ、はい」
 一ノ瀬は、教授の指示どうり黒い剣に手を伸ばした。「うう、意外と重い」
 ミイラ化した屍体から抜き取った剣を教授に手渡した。
「ふむ、たしかに青銅とは違う金属のようだ。鉄でもない」
 その剣は、一メートル強の長さの両刃の直剣で、刃は鈍くなっているが先端は鋭かった。柄から刃の途中までは百合の花びらのような装飾がついていた。
 教授は一通り剣を検めると、一ノ瀬に返した。
「そっちの鏡も見てみよう」
 竹見が鏡を取って教授に渡した。
 それは直径六十センチほどの円形で、表面は滑らかだが盃のような曲面になっていた。裏側はまるで縄文土器のような迷路状の彫刻が施されていた。
「うーむ、なるほど盃のようでもある。凹面鏡とすれば光を集める用途だったのかもしれん」
 教授は、円盤をもとの場所へ戻そうととした。
 その時、助手の一ノ瀬が「うわぁぁーっ!」と尋常でない叫び声を上げた。
 何事かと振り返ろうとした桑山教授は、いきなり強い力で突き飛ばされ、地面に転倒した。


「しっかりして下さい、教授」
 竹見が桑山を助け起こした。
「一体、何が起こったのかね?」
「ミ、ミイラが……、ミイラが蘇ったんです」動揺を隠さず一ノ瀬が言った。
「ミイラが、って何バカなことを言っとるんだ君は!」
 そう言って桑山が墓穴を見ると、たしかにそこに横たわっていた屍体の姿がない。
「私も見ました」と竹見も冷静な声で言う。「ミイラが起き上がり、教授にぶつかると、あの鏡を奪って逃げていったんです」
「に、逃げていったって……、どこへ?」
「通路の方へ」と竹見は指差した。
「鏡を奪ってか。で、剣は無事なのか?」
「はい、剣はぼくが持ってます」
 教授は茫然としながら一ノ瀬の手にした剣を見つめた。
「ミイラが……生き返っただと……いや、信じられん。そんなことあるわけがない」
「だって、現に……」
「ミイラだぞ、死んで何百年経ってると思うんだ」
「皮膚が、青白く再生されてるようでした」
「見間違いだ。そうだ、もともと生きた人間だったんじゃないのか。浮浪者が迷いこんで寝てたんだろう」
 桑山教授はミイラの復活という怪奇現象などあくまで認めない姿勢だった。
「はじめに見た時はたしかにミイラでしたよ。剣だって胸に刺さってたし。そうだ、デジカメの画像が……」
 一ノ瀬はカバンに放り込んでしまったデジカメをごそごそ探したが、教授は見ようともしなかった。
「そんなもん当てにならんよ。それより逃げた奴を捕まえればはっきりするだろ」
「じゃあ、追いかけますか?」
「ああ、とにかくここを出よう。その剣は君が持ってきたまえ。そっちも盗まれたら困るからな」
 一ノ瀬はカバンから荷造り用の紐を出し、背負えるように剣に結んだ。


 三人はもと来た通路へあわただしく戻っていった。
 かれらはやがて、道が左右に分かれた所に行き当った。
「道が分かれてる……」
「どっちへ行くんだね?」と教授は一ノ瀬に聞いた。
「いや、来た時は一本道だったはずなんですが……」
「迷わんようにしろと注意しただろう」
「おかしいな」
「私も気づきませんでした」と竹見も言う。
「暗かったからな見逃したんだろ」
「行きにまっすぐに見えたとしたら、こっちかな」
 一ノ瀬は左の道を選んで進むことにした。
 だが、しばらく進むと今度は道がT字になった三叉路に出た。
「ありゃりゃ、行きにはこんなところなかった。さっきの別れ道で間違ったか」
「間違ったって一ノ瀬君、どうするんだね」
「うーん、戻った方がいいかな」
「それも面倒だな、この道でも結局どこかにつながってるんじゃないかね」
「そうですか」
「私も引き返した方がいいと思います。今は確実に外に出ることを考えないと」
「うむ、竹見君までそう言うなら、まあいい引き返すか。まったく面倒だな……」教授はぶつぶつと文句を言いつづけた。
 一行はもとの道を戻って行った。しかし、どこまで進んでも先ほどの別れ道に辿り着けなかった。
「おかしいな、そろそろ着いてもいいはずなんだが」
「また道を間違ったんじゃないだろうな」
「あっ、少し先に別の道があります」
「本当だ。でも長く感じたな。ん、やっぱりおかしい、今度は十字路になってる」
「どういうことなんだ一ノ瀬君」
「これは、道が変わっているとしか……」
「そんなことがあるかね。土が崩れた跡もないし」
「道は私も確認していました。やはりこの通路が変化してるんだと思います」と竹見。
「物理的に有り得んだろ。なぜそんなことが起こる?」
「あのミイラ……、ミイラが妖術で追跡させないようにしてるんじゃないでしょうか」
「妖術って竹見君、君までオカルトか。オカルトはいかんよ。出世できんからな」
「でも他に説明のしようは……」
「だいたいあれはミイラじゃない。痩せこけた浮浪者だよ。浮浪者が金になると思って鏡を持ち逃げした、それだけの話だ」
「じゃあ、この迷路は?」
「暗がりで見落としていた道に迷い込んでしまっただけだ。歩いてりゃそのうちもとの場所に出るだろ」
 そう言うと桑山教授は先頭に立って歩き出した。
 教授は早足でずんずん進んで行き、分岐があっても迷う隙が惜しいというように適当に選んだ道を進んだ。
 何度も十字路を通過したが、それがそれぞれ違う場所なのか同じ場所に戻っているのかもよくわからなかった。
 そのうち一ノ瀬が遅れはじめた。後方から彼は声を上げた。
「ああっ、待ってください」
 一ノ瀬は、背負った剣の位置を直していた。
「何をしてるんだ、早く来たまえ」
「いえ、この剣が、背中で動いちゃって」
「そりゃ君、重心というものを考えずに吊るしてるからだ」
「はあ、重心ですか……」
「まあいい、一休みするから結びなおしたまえ」
 三人は地面に腰を下ろした。
 一ノ瀬は、剣に結んだ紐をほどいた。中心の一か所で吊るした方が背負いやすいかと考えて、手でバランスを取ってみる。するとちょうど刃の途中についた花びら型の装飾のあたりが重心になっていた。そこで紐を結んで吊るしてみると剣は水平になった。
「教授、大発見です。この飾りのところがちょうど重心になってるんです」
 一ノ瀬は吊るした剣を教授の顔の前にかざして見せた。
「ふん、そんなもの発見とは言わんよ」教授は剣を押しのけるようにして立ち上がった。「出発するぞ」
「待ってください」竹見が言った。「一ノ瀬君、そのままにして」
「えっ、何ですか竹見さん」
「その剣、そのまま動かさないで」
「ああ、こうですか」
 竹見は剣が安定するまでじっと見つめていた。静止すると彼女は剣の先端をそっと触れるように押した。
 剣はゆっくりと回転を始めたが、すぐに引き寄せられるように元の位置に戻った。
「やっぱり」
「何をやっとるんだね、竹見君」教授が聞いた。
「この剣、ずっと同じ方向を指してるんです」
「同じ方向を……、ふむ、磁性があればそういうこともあるだろうな。つまり北を指してるんだ」
「あっ、ぼく磁石持ってます」と一ノ瀬はカバンから方位磁針を取り出した。
「君ね、それを持ってるなら最初から使いたまえ」
「でも、出口の方位がわからなかったから……、ん、あれ、この剣、北を指してるわけじゃないな。少し東にずれてる。北北東ってところかな」
 あらためて、剣の指すほうを見てみると、それは十字路のうちの一つの通路の方向とぴったり重なっていた。
「こっちへ進めってことじゃないかな」と竹見。
「そんなもの当てにできるかね」
 教授は不満を述べたが、竹見はかまわず剣の指示する方向へ歩き出した。


 剣を水平に吊るした一ノ瀬と竹見が並んで歩いた。桑山はその後を遅れてついて行った。
 前方で道が左右に分かれた所で立ち止まると、竹見は観察するように剣をじっと見た。
 すると黒い剣は、音もなくすっと回転した。
「動いた。やっぱり道を教えてくれてるんですよ」一ノ瀬は教授を振り返っていった。
「君が無意識に手を動かしてるんじゃないのか。ダウジングやこっくりさんと同じ原理だ」
「いや動かしてないですよ」
「だから無意識にと言っとるんだ」
 剣はピタリと通路の一方を指し示していた。
「こっちよ」
 三人はその方向へ進んだ。
 その後も何度か別れ道に行き当ったが、毎回、剣が精確に進むべき方向を示し、一行はそれに従った。
 やがて、通路は緩やかな登り坂になり、その先に光が見えた。


「出口だ。だけどあれ、ぼくらが入ってきた穴とは違うような……」
「やれやれ、外に出られりゃこの際なんでもいいよ」
「待って」と竹見が二人を止めた。「何か聞こえる」
 そう言われ桑山と一ノ瀬も黙って耳をすました。
 すると外からは不気味な声が風に乗って聞こえてきた。
 大勢の声が重なり合って、意味の分からない言葉を合唱しているようだった。
 三人は穴のふちに身を伏せて、外の様子を窺った。
 湿った強い風が吹き荒れていた。厚い雲が空を覆ってあたりは黄昏のように暗かった。
「あれを見て」竹見が指差した。
 そこには地崩れで剥き出しになった岩があり、その上にボロ布をまとった痩せた男が立っていた。蘇ったミイラだ。再生したばかりの白い皮膚が、かえって骸骨そのもののように見えた。
 足元には、あの黒い凹面鏡が置かれ、周囲を青白い鬼火が浮遊していた。
 男は、胸の前で指を組んで、一心に呪文を唱えていた。大勢の声が聞こえたが、そこにいるのは一人だった。
 その呪文はこんな風に聞こえた。

  あーがらん あーごぐらん
  がくごぐあ ごごぐぎは
  いら たぁうのとほ ざが
  かは ほるふぁいま ぐか
  あーがらん あーごぐらん
  がたのそあ ふたぬーが!
  がたのそあ ふたぬーが!

「なんだあのお経は!?」と教授が言った。
「いや呪文じゃないですか」と一ノ瀬。
 その横で竹見が「ガタノソア!」と鋭く囁いた。
 一ノ瀬が目を向けると彼女は青褪めた顔色で、目つきが変わっていた。
「大丈夫ですか、竹見さん」
「やめさせなければ……」
「えっ?」
「その剣を貸して」
「ええっ」
 差し出された剣を竹見が掴むと、結ばれていた紐が自然と切れ落ちた。
 剣を手に立ち上がった彼女に風が吹きつけ、ショートカットの髪が逆立った。
「竹見さん……」
「おい、君」
 呼びかける声も耳に入らぬように彼女は歩き出した。
 呪文を唱えつづけているミイラに近づいていく。
「その呪文をやめよ。妖術使い!」
 剣を構えながら竹見は言った。ふだんの彼女からは想像できない大声だった。
 ミイラは構わず呪文をつづけていた。
「覚悟しろ!」
 竹見は剣の切っ先をミイラに向けると、地面を蹴って駆け出した。
 一直線に走ってミイラの心臓を串刺しにした。
「ぐあぁあああぁぁっ!」
 ミイラは叫び声をあげ膝を折った。両手を大地に着くと、その身体が崩れ始めた。
 やがて全身が灰になり、風に吹き散らされていった。
 謎の黒い金属でできていた剣と鏡も、急速に錆が浮き、ボロボロになって土に還った。
 竹見京果は、魂が抜けたように茫然とその場に立っていた。
「彼女……、巫女の家系だったな」桑山教授がぽつりと言った。


 竹見はその後、高熱を発して倒れてしまった。
 桑山と一ノ瀬はハイエースで彼女を近くの病院に運んだ。
 病室に入った頃には熱も下がり、もう快復に向かっていた。
 しかし彼女は、ミイラの呪文を聞いてから後の出来事を記憶していなかった。
 竹見を病院に残し、桑山と一ノ瀬は、天馬山の現場へととってかえした。
 だが、そこで二人は地下への入り口を発見できなかった。土が崩れて埋まってしまったらしい。
「どうやら、悪い夢を見ていたようだな」教授は言った。
 桑山は、一連の怪異を無かったことにしてしまうつもりらしかった。
 一ノ瀬は、そんなことでいいのかと思いつつも、いろいろ考えると結局、仕方がないなと思うのだった。

コメント(1)

短めですが何とか完成しました。

せっかくのお題なのでアーティファクトの由来をもっとじっくり調べるような話がよかったかな、とも思ったのですが、まあ、そういうのはまたの機会ということで。
今回はこんな感じです。

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