ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

クトゥルー神話創作小説同盟コミュの路地裏の黒豹8

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
金曜日の夜

巨大な交差点で幾重にも車両が折り重なって黒煙を上げていた。
何か四足獣の様な影が十数匹、黒煙を上げる鉄くずの上に背中を丸めたようにうずくまっていた。
巨大な獣たちは額にあたる部位に縦に裂けたような眼を持ち、
その黄色く濁った小さな一つ目で彼を凝視していた。
鉄くずの麓にすらりとしたスーツ姿の男。藤井良だった。

良は優雅にネクタイを緩め、両腕の細い長方形の輝くカフスボタンを外すと首をごきりと鳴らした。
「畜生にしてはまあまあ考えたね」
端正な顔だ。
獣たちは衆人環視の中、おおっぴらに暴れる事で存在を露呈すると同時に
こちらの存在も明るみに出そうという魂胆であろう。
―――背後で何者かが操っているのか。
コロコロと喉を鳴らしてけだもの達が瓦礫の上から良に狙いを定める。
ふいにその狐のような細長い鼻面が、構造上ありえないほどに肩口まで縦にばっくりと裂けるとその中から無数の細い触手がうねりをあげて方々から次々に良を襲う。
良は反応する事もなく下痢糞をひり出すような気色悪い音を立てる触手群に渦巻かれた。
獣たちは瓦礫のにふんばり太くたくましい首をそらし良をぎりぎりと締め付け始めた。
人の形に渦をまく触手の隙間から良の双眸が垣間見えた、その両目は漆黒に染まってゆく。
黒い瞳がにじむように両目の中を塗りつぶす。良の漆黒の力が発現する。
「図に乗るなよ、犬っころがっ」
吐き捨てるようにくぐもった声が聞こえたかと思うと、
高層ビルの谷間に雲が垂れ込めて周囲を暗く暗くしていった。
と同時に腹の底に響く地鳴りのような音が辺りをつつみ、
やがて耐えられないような音になった。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ
、、、、、いや、これはただの雲ではない。
それは膨大な量の虫の群れだった。
信じられない数の虫が空を覆い尽くして雲のように垂れ込め始めていた。
いつの間にか視界を覆い尽くすほどの毛の生えた小さな蠅が周囲を埋め尽くした。
「まる飲みだ」
真っ黒な蠅の群れが獣たちに真上から降りかかる。
同時に良を包む触手がぶくぶくと音を立て始めた。
良を締めつける肉色の触手の間から何かがぼろぼろとこぼれ落ちる。
米粒ほ純白のそれはぶよぶよとした蛆の群れだった。
美しい良の皮膚の下から無尽蔵に蛆が湧き出て、
良を締め付ける肉の触手を内側から噛み千切りながらこぼれ落ちてきていたのだった。

恐怖の表情というものはすべての温かい血を持つ生き物共通の表情だ。
己より獰猛で残忍な生物に捕食される恐怖を初めて味わう獣たちは
まるで本物の「犬っころ」の様にきゃんきゃんと甲高い悲鳴をあげて
瓦礫の上やそこかしこを転げまわっていた。
表情は感情を持つ生き物の所作であり、感情を持たない蠅の複眼には一切の表情は現れない。
黄色い一つ目の獰猛な化け物が、たかが蠅と蛆に食い殺されていく。

ぶちんと音を立てて触手が良の体から千切れ落ち、
上等な仕立てのスーツはけだものの粘液でどろどろに汚れきっていたが、
良の笑顔は凄惨な晴れ晴れしさを放っていた。
「くひひひ。」
良は額に醜い血管を浮き上がらせると、黒いまなこで下品に嗤う。
目じりの笑い皴をどす黒い粘液が伝い、異様な道化模様を縁取った。
「きゃははははははは」
甲高く嗤う良の快楽は最高潮に達し、
彼がゆっくりと両手を広げると虫の群れがごうごうと周囲を旋回し
獣のすべてを跡形もなく食い尽くしていた。

群れを操る男藤井良、残忍で限りなくあちら側に近い男。
彼がなぜこちら側についているのか、その真意は誰もわからないままであった。

コメント(1)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

クトゥルー神話創作小説同盟 更新情報

クトゥルー神話創作小説同盟のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。